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【書籍化】TS剣闘士は異世界で何を見るか。  作者: サイリウム
故郷章

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37/86

37:初公演


<加速>五倍速



剣神祭までの常用速度、五倍速の世界に入り込む。私以外のすべてがゆっくりと動くようになり、こちらに向かってくる盗賊ちゃんたちがふざけているのかと思うほどにスローモーションに。普段の試合であればこのまま切り殺したり、速度を落として見えるようにしながら戦うんだけど、今日はちょっと違うことをやってみよう。


というわけで、さっき使ったᛁ(イサ)、氷のルーンで生成した氷柱を盗賊に向かって射出してみる。



(地味に初実戦使用……、あれ?)



手の平の少し上に生成されていた氷柱に魔力を込め、敵と接触時に起爆するように打ち出してみたのだが……。こっちもゆっくりだ。なるほどなるほど、私の魔法と言えども速度は変わらない。相変わらず私の『加速』くんは、私にしか効果を及ぼしてくれないようだ。



(うんうん、となると剣に纏わせる感じの方が映えるな。……あ、<加速>解除。)



ルーン魔術の威力を確かめるために、加速を解く。世界の鈍化が収まった瞬間、矢のように飛び出した氷柱は勢いよく盗賊のひとり、その腹部に突き刺さる。彼の体が骨の砕ける音と同時にくの字にひん曲がった時、氷に施された術式が作動。彼を中心に温度が消失し、まっしろな氷像の完成だ。これこそ現代美術、浅草に有るあの金色の物体と同じくらいイかしてるよね。



「お、ちゃんと起動した。よしよし、っと?」



仲間の一人がちょうどお亡くなりになったわけだが、盗賊たちは気にもしない。まぁお前らなんて基本金になるから集まってるだけで、仲間意識なんてないだろうからねぇ。そんなわけで先頭にいた盗賊が一人、私のすぐそばまで剣を片手に切り掛かってきたのだが……。


その脳天に、小さな黒い鉄球がめり込む。アルの支援射撃だ。



(わ、いたそ。というか殺意高いなぁ……。)



前にも言ったが、アルの強みは『眼』。単純な視力のみならず、動体視力や空間把握能力など、眼に関連する能力が極端に高い。遠距離戦は勿論、近距離でも活用できる強力な授かりものだ。しかも自身の『素質』を理解してからは、最初に会った時よりも格段に能力の向上が見られる。いつしか私の全速力も目で追えるようになるかもね……。ま、単に目がいいだけならこんなに綺麗なヘッドショットは決められないものだが、ララクラからここまでの道中。機会があれば積極的にパチンコを弾いていた彼女だ、距離がそこまでないこともあり、これぐらいわけないってコトだろう。


アルの射線に入らぬように、軽く上空へと跳び上がってみれば。その瞬間後方からまた鉄球が飛来し、哀れな死体がまた一つ出来上がる。正直、これを喜んでいいのかはわからないが、そういった倫理系のお話しは後回し。


さてさて、あんまりぼーっとしているとアルに全部持っていかれそうだし、前座はもう十分だ。観客たちの熱気を上げていこう。



「ᚺ(ハガラズ)、ᛒ(ベルカナ)」



天災のルーンで雷球を生成し、そこに魔力を注ぎ込むことで剣の形へと成形する。そこに成長のルーンを付け足すことで、形を固定。正確には電力の減衰を防止するため、大きくなり続ける要素を組み込む。……うん、安定した。即興魔法剣ってやつだね! ちょっとパチッとするが、柄の部分の出力を抑えれば十分に握れる。


最初はᚲ(カノ)、火のルーンを使おうと思ったが流石に村を焼かれた人たちの目の前で火を使うのは憚られる。『村に火をつけたお前らに火をつけてやるよ!』ってしたかったのだが、村人たちの心を守る方が重要だ。ということで天罰、天災の連想から雷。んで私の扱いやすい剣ってわけ。神の雷みたいな青色じゃなくて黄色だけど、迫力百点見栄え千点だ。


ということで。



「ちっちゃい子もいるからね、退屈する前に終わらせましょう!」








<加速>二倍速








解りやすいように速度を落とし、さらに剣が残す光のラインが解りやすいように大きく振りながら一番近くにいた盗賊の頭にそのまま魔法剣を叩き込む。私自身の練度が低いせいで『雷で焼き切り、真っ二つにする』ということはできないが、威力は十分な致死量。剣が通った場所だけ真っ黒になった盗賊の完成。うーん、いいストライプ。しかも成長のルーンを使ったおかげで魔法剣自体の威力も落ちてない、いいね!



「ほい、盗賊のビリビリ焼きお待ち!」



その死体の腹部を思いっきり蹴っ飛ばし、後方にいた盗賊二人の体にぶち当てる。爆発四散したり、腹部だけ蹴り抜かないように注意したが、籠めた力は十分だったようで盗賊三人が空中に浮く。そこに魔法剣を投げ込めばあら不思議。死体と手に持った金属の武器を通じて電気が流れ、魔法剣に残っていた魔力が雷に変化し爆発。真っ黒こげの、『盗賊のビリビリ焼き~季節のテリーヌを添えて~』の完成だ。テリーヌがないって? そりゃ申し訳ない。あとで焼却処分するから許してちょ。……ん? 後ろから殺気。



「死ねぇぇ!!!」


「あら品がない。」



背後から飛び掛かってきた盗賊くんの攻撃を軽く避ける。刀身が変にヌメっているのを見るに、毒付きだろうか。う~ん、この子奇襲ってどうやってしたらいいのか解ってないかんじ? 奇襲ってのは気配も殺意も消して、最後まで音を出さずに攻撃すれば成功するんだよ? 確かに声を出した方が振りは速くなるし、相手をびっくりさせる効果もあるから一概に悪いとは言えないんだけどさ。そのレベルの剣術で私の前に立つの恥ずかしくないの?



「そんな悪い子にはマナーの授業だ、教育ッ!」



回避しながら、膝を彼の腹部へ。そのまま叩き込んで、内臓のみを破裂させる。瞬間彼の口から吐き出される大量の血。あら汚い。口から吐くのは辞世の句ぐらいにしておきなさいな。……あ、ヤベ。子供もいるから血を出させる攻撃はやめとこうと思ったのにやっちゃった。



「……まぁいいか。じゃあ次はちょっとコメディ寄りにしてみましょう。ᚱ(ライド)」



死にかけの盗賊を地面に叩きつけて死体にしながら、導きのルーンを刻む。その中に含まれる風の意味を強く引き出し、世界へと反映させるのだ。ちょっと体内にある魔力を多めに使いまして……。風の始まりは地面、残りの盗賊たち10名ほどの足元から強風を吹かせ、空へ。地面という踏ん張りが利かなくなった哀れな実験台たちを空中で一つに纏める。



「じゃあ纏まっているうちに、ᚨ(アンスズ)! ……あ、失敗した。なら普通にᚢ(ウルズ)。」



力のルーンを刻み、空中に浮かんでいた盗賊たちを"一つ"に纏める。そう。一点に向かって私の魔力が続く限り、もしくは魔力を流すのを止めない限り進んでいく術式だ。やっぱゴミは一つに纏めておいたほうが掃除楽だしねぇ。あ、血が出ちゃうし何か膜でも作って隠しとくか。ᛊ(ソウェイル)、太陽のルーンから光という一部分だけを引き出し塊を覆う様に光らせて置く。……ん? これもしかして深夜アニメによくある謎の白い光か? なるほど、アレはこういう風に作ってたんですねぇ。



「あとは……、ん?」



残りの数を確認しようとして、周囲を確認してみれば、アルが私を狙ってパチンコの弦を引いている。……あぁ、なるほど。そういうことね。やってみよう。


彼女に合図を送る様に、軽くウインクをする。その瞬間彼女の手が弦から離れ、私に向かって鉄球が射出される。さすがにアルほど目がいいわけではないが……、普通に加速を使わずとも目で追える速度だ。明らかに前世の人間のスペックではないが、まぁ異世界だしということで。


そんな飛んでくる鉄球に合わせるように、レイピアではなく長剣を抜き、その鉄球を切る。叩き割るのではなく、軌道を変えぬように切断。



「ガッ」 「グッ」



振り抜いた瞬間、背後から苦悶の声が上がる。……うん、成功したけどちょっとずれたな。アルは脳天を狙ったのだろうけど私がミスったせいでちょうど顔の真ん中、鼻の位置に弾がぶつかっちゃった。私もまだまだだなぁ、精進しないと。


え? 何したかって? アレよアレ。銃弾真っ二つにして、その半分になった弾で背後にいる敵を殺す奴。銃弾一つで敵が二人も倒せるお得戦法。私もそれをしようとしたんだけど……、ちょっとまだ技量不足みたい。とりあえずまだ死んでないし、ᛚ(ラグズ)。水球を二つ生成して、彼らの顔に貼り付けておく。これで時間が経てば死ぬはずだ。



「……ちょっと魔力使い過ぎちゃったかも。残りは……、普通にやるか。」



さっきの風のルーンの件で、体内の魔力をつぎ込み過ぎたみたい。限界はあるけど使えば使うほど増えるらしいし、回復も休息とご飯で出来るけど使い過ぎるとめちゃ疲れる、ってのは覚えておかないといけないね。魔力はスタミナと一緒! そんなことを考えながら、ふらついているところを隙とみて切り掛かってきた盗賊をレイピアで刺し殺す。


もうそんなに数はいないし、ちょうどいい感じに例のハゲが生き残ってる。それ以外は全部もう処理しちゃおうか。あ、そうだ。ハゲに情報吐かせるのなら切った腕のとこ焼いておかないと出血多量で死んじゃうじゃん。



「ᚲ(カノ)」


「ギャアァァァァァ!」



あ、焼き過ぎた。まぁいっか死んでないし。というわけで余りは蹂躙しまーす!



「劇の終幕は静かに、綺麗に終わらせるといたしましょう。」







<加速>七倍速







解除。




全てを刺し殺し、加速を解いた瞬間にあのハゲ以外の盗賊に等しく死が訪れる。


最後に、一礼。





「お目汚し、失礼いたしました。」









 ◇◆◇◆◇










私が一礼した瞬間に、子供たちからの歓声が上がり、少し遅れて大人たちの声も聞こえてくる。劇ならこのまま幕が下りてくるのを待つだけだが、こんな野外にそんなものが下りてくるわけがない。パッと頭を上げて、そのまま村の方に向かってゆっくりと歩く。っと、興奮した子供たちがこっちの方に走ってきちゃったな。



「ᛚ(ラグズ)。」



返り血は受けていないが、何かしら汚れているだろうと思い、私がちょうど収まるぐらいの水球を目の前に生成し、内部で水流を引き起こす。この中を通り抜けることで簡単な洗浄をするってことだね。おかげさまでちょっと魔力がギリギリ、徹夜した時みたいな疲労が体を包み込んでしまったが……、魔力がなくても戦う方法は十二分にある。別にこれぐらいいいだろう。ちょっと休んでご飯でも食べたら十分回復するだろうし。



「騎士さま! すごい! すごかった!」


「ピカッてなって、ドカンってなって! すごかった!」


「あはー、楽しんでもらえたのなら良かったよ。」



アルより小さい子たちの視界に背後に転がる骸たちが入らぬように立ち回りながら、子供たちと一緒に村の中へと入っていく。アルが従者としての軽い礼をするのに会釈で返しながら、大人たちの表情を窺う。……あ~、明らかに恐怖が見えるね。まぁそりゃそうか。剣闘士のころは観客たちに"剣闘士"っていう絶対的な安全が保障されてたけど、今は違う。騎士だと勘違いされてる上に、圧倒的な力を見せつけちゃったから怖がられちゃうのも致し方ないね。


ちょいとばかし悲しいところもあるが、まだ仕事は残っている。やることをやらないと。



「さて、とりあえず襲撃は撃退したわけどあいつらがなんで戻ってきたのとか、残りの盗賊がどこにいるかとか解らないことが多い。リーダーみたいな奴を生かしてるから尋問して吐かせたいんだけど……、どっかの空き家貸してくんない?」


「かしこまりました。気絶しているようですし……、私めが縛って運んでおきますじゃ。騎士様はそれまでお休みください。」



私の問いに、さっきのお爺ちゃんが答えてくれる。生き残ってた人たちの代表で、従軍経験があるせいか反応が早い。と言っても気絶させたとはいえ、あのハゲがいつ起きるかは誰も解らない。逃げられるのも困るし、私も傍にいた方が良いだろう。



「そう? でも危ないから一応ついてくよ。あ、あと。悪いんだけどあそこに転がっている奴らの処理任せてもいいかな? ハゲ以外、息の根は止めてるからこっちは危なくないよ。」


「かしこまりました。では皆! 先ほどまでの作業を止めて盗賊たちの処理を行ってくれ! 使えそうな武器や防具は資材置き場に集めておくのじゃ! それとレイン、子供たちの面倒を中で見てもらえるか?」


「……あ。わ、解りました。」



ずっとアルの方を見つめて、何かに思い悩んでいる様な顔をしていた彼女にお爺ちゃんがそう問いかける。少し反応が遅れた彼女だったが、子供達でもできる作業を進めておくと言い、私の周りではしゃぎまわっていた子たちを連れて村の中央へと入っていった。それを眺めていると、アルがこちらに近づいて来る。



「お疲れさまでした、ビクトリア様。」


「うん、ありがと。アルも頑張ったね。」


「ありがとうございます。……それで、お願い事があるのですが。」



他の人間の目があるせいか、"従者"としての振る舞いを崩さないアル。そんな彼女が先ほど投げ渡した魔道具をこちらに手渡ししながら、そう問いかけてくる。その振舞いに少し、いやかなり寂しさを感じるが仕方ない。あ、でも最初に。悪いけど尋問には参加させないよ? 口を割らすために普段はしないようなこともすると思うから。



「解ってます……。ただ、姉たちのことを……。聞き出してもらえませんか?」



彼女の姉と妹、この二人は死体が残っていなかったということから連れ去られたのではないかと考えられている。この二人以外にも何人かが消息不明らしいし、まだ生きていて売られる前なら早めに助け出した方がいい。前世の世界じゃどうだったかは覚えてないが、この世界ではそれが盗品だろうが何だろうが、誰かに販売された時点でその所有権は買った人間に移る。貴族などが関わればまた話は別だが、この国の法や機関はそこまで民に優しくはない。


ま、背後関係を追うのに限界があるってのもあるだろうけど。まぁとにかく人間だろうが、何だろうが売られた瞬間におしまいってわけだ。奴隷商にでも売られる前に早く救出したい気持ちは解る。



「聞くつもりだったけど……、私たちが助けに行くかは話が別だよ。明らかに盗賊が手に入れることができないモノや、この村を襲った時の人数を考えるに何か"後ろ"がいる。ただの盗賊だけならいいんだけど、ね?」



もしその後ろが貴族で、そいつらが証拠隠滅のために私たちに襲い掛かって来た場合、非常に対応に困る。例の『異形』レベルの貴族が相手なら確実にアルを守れるとは言い切れないし、中途半端な力を持っていた場合無傷での無力化ってのが難しくなってくる。私一人なら全てひき殺して高飛び、ってのもできるんだがアルがいる時点でそんなのは無理。


ヘンリエッタ様という強大な後ろ盾があるとはいえ、彼女でも庇い切れない場合や、政治的判断で切り捨てられる可能性も考えると逃げるのが一番だ。今生き残っている村人たちを引き連れて撤退、帝都辺りで適当な大きな土地を借りてそこに住んでもらうってのが一番簡単な解決策だ。アルの姉妹や捕まった人たちを見捨てて、というかなり胸糞悪い終わり方になってしまうが。



「それでも、お願いします。」


「……りょーかい。」



そう言いながら、捕虜を縛る為の縄を持ってきたお爺ちゃんの方に向けて歩き始める。


別に、今まで積み上げてきたものを全て投げ打つぐらいなんとでもなる。今まで積み上げてきた、ってことは全部壊されてももう一度積み上げることができる、ってことだからだ。どんなことをするとしても、後味が悪くならないように。いつも通り楽しく行きましょう。








ま、こんな悪いことを画策しちゃったイケナイ子には……、地獄を見てもらうことになるだろうけど♡








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