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【書籍化】TS剣闘士は異世界で何を見るか。  作者: サイリウム
故郷章

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36/86

36:やると決めたら、やる。





「奴らだ! 奴らが戻って来たッ!」



息を切らしながら叫ぶ彼は、どこからどう見ても子供で。本来なら元気に野を走り回っているような年齢、そんな子が、"奴ら"。彼の顔色やその言い方から考えるに、盗賊が戻って来てしまったのだろう。理由は何にせよ、それは明らかに死の宣告だった。


ここまで来る間にお爺さんから聞いたが、生き残ったのは女子供に老人のみ。まともに戦えるような人間は彼らを逃がすために皆死に、同じ墓の中へ。その上手元にはまともな物資は残っておらず、先ほど見た何かの廃材で作ったであろう槍のことを考えれば、とても戦いに使えそうなものではない。せいぜい子供のお遊びに使えればいいレベル。戦うために必要な人手も、武器もない。


そんな状況だが、ここから逃げ出すという手はもう取れない。前回は逃げる時間を稼いでくれる大人たちがいたが、もう皆死んでしまった。残された手段は少しでも生き残る時間を延ばす逃走か、0に等しい可能性を信じて戦いに身を投じるかのみ。……そう、私がいなければ。




視線が、集まるのを感じる。




まともな戦力として考えられるのは、たまたまアルを連れて帰ってきた騎士の私だけ。実際に騎士かどうかなんて残された彼らには関係がない。鎧を着て、武器を持ち、馬に乗ってやって来た存在。彼らにとっての希望であり、唯一の望み。彼らにとっての特権階級とは、その力を以て民を守るモノ。騎士なんかその最たるものだ。タイミングよく現れた私が敵を華麗に殲滅する姿でも思い浮かべているのだろう。


……正直、それぐらい別にいい。見られるのは慣れてるし、人殺しなど今更私にとっては些事だ。この背に積み重なった骸の数が"少し"増えるだけ。しかも相手は盗賊。剣闘士みたいに逃げることが許されず死ぬしかない様な相手ではなく、悪事を働き自身の私腹を肥やすために人を殺した者たちだ。彼らの境遇がどんなものであれ、悪人は悪人。圧し掛かる骸の重さはあまり変わらないだろう。



けれど。



こちらをじっと見つめるアルに、目を向ける。


彼女の家族には及ばないが、長い時を一緒に過ごして来た。言葉にされずとも彼女が何を訴えているのか簡単にわかる。




『私も、戦わせてほしい。』




……私は、どうすればいいのだろうか。



親を殺され、姉妹を連れていかれた。盗賊に連れていかれた女の行く先など子供でも分かる。そんな状況に置かれながら、感情を収め私の指示を仰ぐ彼女。その冷静さというか、自制心を褒めればいいのか。それともその感情を吐き出させるために、爆発してしまう前に、背中を押せばいいのか。


盗賊程度私からすれば何でもない。いくら強かろうと、盗賊は盗賊。アルに傷一つ付けずに実戦訓練をさせてあげるくらいわけない。もちろん一人ですべてを消し飛ばすなど簡単に出来てしまう。けれど、できるかできないかが問題ではない。アルの心の問題であり、彼女に私と同じように骸を背負わせるかということだ。



「……とりあえず、相手を見よう。伝令くん? 案内頼めるかな?」


「は、はい!」



伝えに来てくれた子にそう告げ、ゆっくりと立ち上がる。アルはずっと、私のことを見続けている。その腰に下げられた剣の、柄をしっかりと握りながら。彼女の覚悟は、すでに固まってしまっている。



「アル、ついて来なさい。」


「かしこまりました。」



その胸の中にある感情を隠すためか、それとも先ほどまで泣いていた母を気遣う気持ちが強いのか、いつもの彼女ではなく、"従者"の彼女としての言葉が帰ってくる。


……この世界に於いて人殺しなど、どこにでも転がっている話題だ。確かに一生武器を握らずに過ごす者もいるだろう、だけど前世と比べればどこにでも死の危険が転がっていて、治安なんか天と地の差がある。すぐ隣にいる人間が自身の財産を狙って襲い掛かってくるかもしれない。町の中はまだ治安維持のための兵士がいるが、外に出てしまえば魔物のように盗賊が襲い掛かってくることは珍しくない。


だから、前世と比べるととても身近で、誰にでも経験出来てしまう。


この世界で生まれ育った彼女も、そうなのだろう。そも私が剣闘士として戦っていた時、私の殺した相手のことは、彼女も見ていた。最初。私の元へ来てすぐのころは、"死"という概念への恐怖や、血への本能的な恐怖のせいか。呼吸を荒くし、涙を流していた彼女だったが、今では何もないように、受け止めてしまっている。


アルのことだ。その根っこ、精神の強さは十二分にある。殺した時の感触は覚えてしまうだろうが、乗り越えること自体は出来てしまうだろう。そして、私よりも背負う骸たちの重さは、だいぶ軽く感じてしまうだろう。完全な憶測だが、私が持つ価値観と、アルたちこの世界の者たちが持つ価値観の違いはひどく大きい。




やっぱり、彼女からその機会を。『復讐』の機会を奪ってしまうことは、私の我儘なのだろうか。失ったものは帰って来ない、だからこそ残された人が前に進むための糧がいる。彼女が"人を殺す"という方法で、骸を背負う方法で次に進めるのならば。私は……。




「ビクトリア様。……いえ、師匠。」



先導する伝令の子に付いて行く途中、私の顔から何を考えているのか解ってしまったのだろう。アルが、話しかけてくる。



「戦わせて、ください。」


「……それは、何のために? 貴方の心の中にある、恨みや怒りを解消するため?」



恨みや怒りを剣に乗せて戦う人はいる。何人も見てきた。剣闘士だったころ、私に親しい人が殺されたのが理由で、私を殺しに来た人がいた。たくさん、ね。その人たちの顔は、忘れたくても忘れられない。みんながみんな、感情に支配された顔。アルの顔を見れば、彼女が違うことはすぐにわかる。



「……少しは、いえ。強く、その気持ちはあります。けど、それ以上にここにいる人を、守れなかった人を、守りたい。そう、思います。」


「そっか。」



なら、これ以上は……。彼女を戦わせない方法を探すのは、理由を付けて止めようとすることは。私の我儘で、エゴになってしまう。すでにもう、彼女の心は決まってしまっている。ならば、せめて……。この背負うモノが軽くなる様に。



「アル。」


「はい。」


「まだ貴方は未熟、実戦で剣を握らせてもいいレベルには達してない。だから……。後方からの援助だけなら、許す。」



初めて人を切り殺したときの感覚は、一生残る。数え切れない人を殺して来た私でも、一番最初の肉を断つ感触は、人を殺したという感触は、忘れたくても忘れられない。アレは、一生知らなくてもいい。知るべきではない。人を切り殺す感触と、遠距離から攻撃して殺す。そんなの比べたら格段に遠距離の方がいい。


アルの気持ちと、私の気持ち。私の方が強く出てしまっているが、これ以上は譲りたくない。アルには、『あなたを人殺しにはしたくない』と伝えている。だからこそ剣闘士の世界から連れ出したのだ。私の気持ちは、彼女に伝わっている、はずだ。


そして、もし。この選択で今後アルが被害を受けてしまうのならば、人を殺したことがないせいで彼女が不幸になるならば。この時に経験しなかったせいで、未来のどこかで彼女に危機が訪れるのならば。……これを選ばせた私が、そのすべてを引き受けよう。



「わかり、ました。」


「……ごめんね。」









 ◇◆◇◆◇








それまでの思考をすべて捨て、脳を戦闘時のものに移していく。戦いにおいてそれ以外のことを持ち込むのは必ず隙に繋がる、相手が何であろうと、蹂躙できる相手だろうと油断はしない。久しぶりにはなるが……、剣闘士として、戦わせてもらおう。




「ひー、ふー、みー……。結構な数がいるけど、聞いてたよりは少ないね。」




燃え残った外壁、丸太を地面に突き刺したものに身を隠しながら、外の様子を窺う。未だ盗賊はこちらに到着していないが、着いた瞬間に略奪。いや残党狩りへと移行するだろう。



(肝心の数は、30弱。それはいいんだけど、意外なのは……。思ったより装備が整ってる。)



野盗が持っていそうな簡単な防具。誰かから奪ったものをそのまま使い古している、という様子ではなく。比較的新しく、革装備であるが上半身全てを覆う装備をしている者が多い。見る限り革のランクは最低限度のものだが、それでも上半身全てを守ろうとすると結構な資金が必要になる。



(畑を含めて村を焼き、人手を確保するのではなく殺して楽しむ。よほど余裕のある組織か、後ろに何かいるか。)



「あいつら、あいつらですじゃ。顔は解りませんが、先日この村を襲った者たちと同じです!」


「そう……。」



村を守る為か、頼りない槍を持ったお爺さんが私にそう伝えてくれる。……まぁ背後に何がいようと関係はない。この国の法では『盗賊に人権はない』とされている。ま、都市外に限るが。自分の目の届かないところにいる奴の権利なんか貴族ぐらいじゃないと守るにはコストが掛かり過ぎるし、盗賊なんか少ない方が国にとってもいい。


だから私がここで奴らを"処理"しても何の問題もない。その後ろ盾が皇帝レベルでない限り、私のバックの方が強い。そして皇帝ならばこんな事する必要はない。村を滅ぼしたければ、皇帝の一声ですべてが決まるからだ。



「アル、弾は使い過ぎないように。それと私のことは気にせず、好きなようにやりなさい。」


「あれで全部じゃないからですね、解りました。」


「それと……、弓持ちもいるけど。気にしなくていいよ。」



矢筒を持った盗賊も何人か見えるが……、正直矢よりも私の方が速い。撃たせる前に消してもいいし、途中でつかんで投げ返してあげてもいい。アルに剣を握らせないと決めた以上、遠距離攻撃は全てカットすることにしよう。他の村人もいることだし。



「さて……。」



アルへの指示を終わらせた後。集まって来ていた村人たちの方へ向き直る。おそらくだけど、ここに生き残った全員が集まっている。女子供に老人、逃げようにも逃げられず、かといって生まれ育った村も捨てれずに残った人たちだ。他の村や町に移動しようとしてもたどり着くことができるかも怪しい。だからもう残るしかない、逃げ惑いながら死ぬぐらいなら、ひとかけらの希望に掛けて戦うしかない。


不安と死の恐怖に染まった目をしているが、皆がそれでも生きることを諦めていない。



「お爺ちゃん、ここにいるので全員かな?」


「はい、そうですじゃ。……如何様にも申しつけください。これでも昔は兵士として男爵様の軍団にお供していた身です。息子たちの、孫たちの無念。ここで晴らしてやります。」


「そう、なら……。ここで見てなさい。」



アルを後方に下げているのに、村人たちを戦わせるわけがない。というか私一人でどうにかなるのに、戦わせる理由がない。お爺ちゃんを含めた何人かは死ぬ覚悟決めてるっぽいけど、それはもう捨てちゃいなさいな。必要なのは生きる覚悟だけ。



「その覚悟は素晴らしいと思うけど、貴方たちが逃げる時間を稼いだ人たちは。誰も死んでほしいなんて思っていないでしょう? なら生き残ることだけ考えなさい。それに……、はっきり言うと、足手まとい。だからゆっくりここで、劇を鑑賞するつもりで眺めてなさいな。」



外壁から身を乗り出し、盗賊たちの視界に身をさらす。



「さぁ、試合開始といこうか。」





















さて、どう戦おうか。観客はアルの故郷の村人さんたち。やるからには派手で、一生忘れられない演劇にしよう。子供もいるし、あんまりトラウマにならないように血飛沫少なめで、ルーンを使って煌びやかに、踊る様に魅せるとしよう。あと私のストレス発散。



「やぁ、盗賊のみんな。ご機嫌如何かな? 一応聞いておくが……、何の用かね。」



私が出てきたことで一斉に足を止めた奴らに向かってそう問いかける。もちろん、一歩一歩ゆっくりと距離を詰めながら。外套は羽織っているが、ミスリルの鎧は完全に露出させているし、フードも降ろしている。明らかに私が村人でも冒険者でもなく、村人たちと同じように騎士にでも見えているのだろう。


ま、村人しかいないと思っていたところに急に騎士が出てきたら誰でもびっくりするよねぇ。おそらくこの集団のリーダーなのだろう。周りよりも比較的良い装備を身に着けたつるぴかりんの男が声を張り上げる。



「はん! そんなの決まってるだろうが! 後ろにいる奴らを捕まえて売りさばくのよ、老人どもは金に成んねぇから捨てるしかねぇが子供は売れるからよう。いい小遣い稼ぎよ。」


「へぇ……、それで? 本音は?」


「へッ! 騎士様は頭がよろしいようで。……ウチの頭が誰一人残すなってご命令でね。足が付く前に全部焼き払えってさ! まぁそれにしても俺ァ運が良いねぇ……。」



そう言いながら、懐から何かを取りだすハゲ。何? 育毛剤?



「お貴族様なら見たことあるだろう? 魔封じの魔道具。かなり高い上国が買い上げるせいで市場に流れない貴重もんだが……、お前らみたいな魔法に頼り切った奴を殺すにはちょうどいい品だ。あぁ~、思い出すと笑えて来るねぇ! そこの村の領主の、あいつが魔法を使えず慌てているところ。」



楽しそうに笑いながら、魔道具のスイッチらしきものを入れる彼。その瞬間、魔道具の機構の一つであろう真っ赤な目が光始め、私の体内で流れていたはずの魔力が止まる。あらら、これは困った。ルーンは空気中に流れる魔力を使ってもできるけど、まだ私はそこまで習熟してないし……。見た目がいいから使おうと思ってたのに。



「……へぇ。」


「俺は運が良いからよ、あの時たまたま領主サマの息子を捕まえたのさ。あ~、あの顔は忘れられそうにないぜ、助けるわけがないのに自分から武器を捨てて、俺らに袋叩きにされて。目の前で息子を殺してやった時はもぅ、笑いが止まらなかったぜ! 反抗しようにも何にもできなぁ~い!」



なるほど。魔封じね。確か周囲の人間が魔法使えなくなる奴。クソ強い魔物の目玉かなんかを使ってて、その危険性から国が独占してた奴だっけ? ……まぁそれを使うのは別にいいんだけど、なんでお前みたいな盗賊如きが持ってんの?



「つまり、その哀れな男爵様と同じように私も殺すつもり、ってわけ?」


「おうおう! 解ってんじゃねぇか。だが俺らもそこまで悪くねぇ、どうだ? そのお綺麗な体で俺たちの相手をしてくれるって言うなら……、殺さないでやるぜ?」



そんなことを言いながら下種な笑みを浮かべるハゲちゃびん。周りにいる盗賊たちも同様に笑っているし、救えない廃棄物のようだ。まぁ確かに魔力を封じられれば貴族は基本何もできなくなる。身体強化とかも魔力でやってる人多いみたいだからね。単純な力量で勝負しようとしても、""圧倒的な実力差""がない限りは数の暴力で押されて終わりだ。


う~ん、でも。せっかく派手にやろうとしてたのに、ルーンを潰されるのは痛いなぁ。それにその魔道具、明らかにいるであろう彼らの後ろを調べるためにもヘンリエッタ様に届けた方がいいだろうし。初撃はいつも通りやるか。



(では、"お手を拝借"。)












<加速>十倍速。














「あ、ごめん。違うこと考えて聞き逃したんだけどさ? なんて?」




私の手に握られているのは、先ほどまで魔道具が握られていた彼の腕。根元から、バッサリだ。ちょっと体が痛むけど、必要経費必要経費。いや~、やっぱまだ七倍が限度かなぁ。成長してはいるんだけどね?




「は?   ッグゥゥウウ!!!」




ワンテンポ遅れて、彼の右腕から血が噴き出しそれと同時に苦悶の声が上がる。うんうん、文字通り腕を借りちゃったけどコレくっつくかな? まぁくっつかなくてもいいんだけど。情報吐かせる用に何人か残すけど、それも含めて最終的に殺すんだから。



「っと、忘れないうちに。」



彼から奪い取った魔道具の電源を切り、後方にいる村人たちの方へと投げ渡す。……電源じゃないな。まぁいいや、スイッチってことで。とりあえずさっきまで感じていた体内の魔力の違和感は消えたし、これで自由にルーンが使えるんじゃない? ᛁ(イサ)……、うん。使えるね。よしよし、これでいいショーが出来そうだ。



「テ、テメェら! 距離だ! 距離を詰めろ! 数で押せぇ!」


「うんうん、元気なのはいいことだね。じゃ、ちょっとは楽しませて、よ!」








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