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【書籍化】TS剣闘士は異世界で何を見るか。  作者: サイリウム
故郷章

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29/86

29:散財デー


「……と、このような形で牛の方を飼育させて頂いています。少々離れていますので今日はご紹介できませんが、豚とか鶏とかもやらせて頂いてるんですよ~。」


「なるほどねぇ。」


「牛さん……!」



馬車から降りて数分歩いたところにある建物、そこで出会った馬の担当をしている飼育員さんに話を聞きながら柵の外を歩いていく。少しだけアルに餌やり体験をさせてもらったせいか、柵の内側では丸々と太った牛たちが数頭ついてきている。ほらアル、触りたいのは解るけどあんまり近づき過ぎると手、持ってかれるよ。



「えッ。」


「ははは、この子たちの品種は完全な草食なので鋭い歯は持ってないから大丈夫ですよ~。まぁ確かに噛まれたら痛いと思いますが、人に慣れている子ばかりなので思いっきり噛むことは少ないかと。」


「「へぇ~。」」



二人で案内してくれる彼女の話を聞く。帝都では少ない日焼けした女性で、その服装も都市にいる人たちと比べると結構厚着だ。まぁいろんな動物を飼っている上に、魔物が結構攻めてくるらしいから自然とそうなるのかな? 最近少し余裕が出来てきたからか、もしくは劇台本のネタを探しているせいか、そういったその人が持つ文化的なところに目が行くようになってきた。



「そういえばなんですが~、ビクトリアさんは料理とかなされるんですか?」


「えぇ、人並みには。」


「あ、そうなんだ意外……。そ、そのですね! 最近帝都の方の卵とかの鶏系の商品がすごく高くなってるじゃないですか!」



彼女の言う通り、帝都で卵とかを買おうとすれば一個50ツケロ行くか行かないかぐらい。大体5ツケロぐらいあれば最低限の食事が取れることを考えればかなり高い商品だといえる。個人的に卵結構好きだし、たんぱく質とかを取るには最適だからってことで値段には目を瞑って毎日かなりの量を買っていたおかげか、お財布に無視できないダメージを与える食品だったんだけど……。



「実はあのクソゴブリンどもが鶏小屋に火をつけやがりまして……。全員血祭りにあげたのは良かったんですが、肝心の鶏ちゃんたちが全滅しちゃったんですよね。」


「えぇ……。」


「ほら、あちらの方で建築中の建物が見えるでしょう? アレが完成して軌道に乗れば、値段の方もだんだんと戻ってくると思うのでもう少しお待ちいただければ~。」



私が奴隷から解放された時には今の高騰している状態だったせいで、『この世界は元々卵とか高級品なのかなぁ?』と思っていたのだがどうやら違ったようだ。……まぁでも帝都の近くにこんなに大きな牧場があるからこそ、値段を抑えられるだろうし。アルが私のとこに来るまで食べたことなかったってことを考えるとやっぱり高級品には変わりないのかも。



「あ、そろそろですね。あちらが厩舎になります。昼過ぎにいらっしゃるとお聞きしてたので、すでにお売りできる子たちは集まってもらってます。ぜひビクトリアさんにぴったりな子を選んであげてくださいね~。」


「解りました、ありがとうございます。アル、一緒に……。」



一緒に見にいこうか、と声を掛けようとして振り返ると柵の中にいる小さい馬、幼駒に目を奪われ柵にしがみついている彼女がいた。……さっきの牛を見てた時も目を光らせていたし、彼女からすれば牧場なんて来ると思っていなかった場所だろう。故郷の村には馬なんていないって言ってたし……。



(ふふ、かーわい。)



そもそも、今回私が彼女の故郷である村に行こうとしているのは単純に親御さんに挨拶しに行くだけじゃない。アルの身柄をどうするか、って言う話にもなってくる。身柄というと言い方が誘拐みたいになってしまうが、実際私が似たようなことをしていることには変わりない。


彼女は奴隷として売られ、私の元で弟子となり、市民になった。彼女を奴隷として買うのではなく、彼女の奴隷解放資金を肩代わりする形で。アルはそのことを強く気にしているようだが、あのお金は私が壊れずにここまで来れた、そのお礼みたいなものだ。彼女という心の支え、帰ってくる理由がなければ私はどこかで壊れていただろうし、未だ闘技場で殺し合いをして、いつかあの骸たちと同じように死んでいただろう。


その恩をお金で解決しようとしたわけではないし、まだ恩を全て返し切れたとは思ってない。彼女が望むのであれば、せめて成人するまでは私の持つモノすべてを彼女に教えようと思っている。……でも、彼女はまだ子供で、本来なら親の庇護下にあるべき存在だ。


彼女の親御さんたちがまだアルを育てようと思っているのならば、私はすぐに手を引く。引かないといけない、月に一度くらい、ほんの少しでも会わせてくれればいい。……まぁこの血塗られた手じゃ許してもらえるか怪しいけどさ。彼女と会えなくなるかもしれないって可能性が、親御さんのところに行かない。筋を通さない理由にはなりえない。



ここまで案内してくれた職員の人を手招きし、小声で話す。



「申し訳ないんだけど、彼女の気が済むまで見せてもらってもいいですか?」


「あ、はい! 大丈夫です! 私どもとしても興味を持ってくださるのはありがたいので~。あ、よろしければお帰りの際に感想とかお聞かせ願えますか~?」


「それぐらいであればもちろん。」


「ありがとうございます! じゃあ今遊んでる子たちに集まって貰いますね~。おーい、こっちおいで~!」



彼女の声が聞こえたのか、外で遊んでいた幼駒たちが何頭かこちらに走り寄ってくる。それを見たアルが、幼駒とこちらを何度も繰り返し見ながら『こっちに来ている』ことを報告してくれる。……テンションが上がって精神年齢が下がっている。いや元の年齢にふさわしくなってるというべきか。まぁとにかくクソカワイイことは確か。口が緩んでしまうよね。



「めし? あ、お客さん来てるじゃん。さーびすさーびす!」

「おじいちゃんご飯は先週食べたでしょ~。」

「我はおやつを所望する。」







「「え?」」










 ◇◆◇◆◇










「え?」



目の前のお馬さんが、人の言葉を喋っている。しかも口をなんか無理やり動かしているというか……、彼らには悪いけど気持ち悪い形に動かしながら、喋っている。


この時の私は目の前で起きた全く理解できないことで頭が一杯一杯だったが、師匠も同じような感じだったらしい。いや確かに非常に高い知能を持つ魔物とかが独自の言語を使っていたり、人間の言葉を喋ることはあるのは知ってたよ? でもこんな見た目可愛らしい小さなお馬さんからさ……、人間の50代ぐらいの男性のハスキーボイスが出てくるとは思わないじゃんか……。



「今年の春生まれたばかりの元気な牡の幼駒ちゃんたちですよ~、かなりモフモフしてますから触り心地バツグン!」


「毎日ブラッシングしてもらってるおかげで、ふわふわや!」

「くッ! ふわふわ度で負けた! 生き恥! 馬肉にしてくだせぇ!」

「我、ちょっと固め。」



一番おじさんっぽい声の幼駒が触れ触れと寄ってくる、が正直こんな声の奴なんか可愛くない……。というかなんでお馬さんが喋ってるの……!? なんでその見た目でクソ低い声なの!? 普通もっと可愛らしい妖精さんみたいなお声じゃないの!? てか昔聖書の朗読の時に聞いた『神様と会話する馬』って本当だったってこと!? 



「あの……、なんでこの子喋ってるんです……?」


「え? ……あぁ! ご存じなかったんですね!」



おそらく彼なりのやさしさで『触れ触れ、気持ちいいぞ』と言いながら寄ってくる"ふわふわや!"の馬。見た目は確かに愛くるしいのであるが、声がもうおっさんである。ごめんなさい、気持ち悪いです。


柵から突き出していて、驚愕で停止していた腕に無理やり触らせようとしてくるその馬から逃げる。がしかし即座に標的をもう片方の手に定め突撃を敢行。しかも木の柵の合間に頭を突っ込んで頭を触らせようとしてくる。ッ! 私はこんな変な生き物の頭なんか触りたくない! さっきのモ~、ってなく優しい牛さんの感触を! 変なおじさんみたいなウマの赤ちゃんの感触で上書きされたくない!


師匠に教わったフェイントの使い方を活用しながら避けていくが、相手に諦める様子は見えない。むしろ遊んでもらっていると勘違いしたのか速度が増してきている。さらに一人称が"我"の変なプレッシャーを放つ馬も遊んでもらえると思ったのか近づいて来たッ! 二対一! 圧倒的に私の不利!


どうにかして触らないようにする私と、触らせようとしてくる幼駒の攻防が始まった裏で、師匠たちの会話は進む。



「お馬さんたちにも結構種類がいましてね、ウチが扱っている種は"聖馬種"ってやつなんです~。聖書にある神が初めて名付けた馬の子孫たちで、普通のお馬さんよりも長生きで強く、速いです。言葉も普通に解しますのでお世話も結構ラクチンな子たちですね~。ただ他の馬と違って自我が強いせいで食べ物の好き嫌いだとか、普通の馬房じゃ満足しなかったりとデメリットもあります~。」


「そのせいで俺たちお高め、喋らない奴の何倍くらいやっけ?」

「我、答え知る。三倍。赤くはない。」

「ちなみに神が名付けた名前は『オマエガウマ』……、センスないよね、神様。」




【は?????】



最後に発言した、さっきまで自分のことを『馬肉にしろ!』と叫びながら地面を転がっていた幼駒の隣に、轟音と共に雷が落ちる。その地点が真っ黒になるほど焼け焦げ、対象となった幼駒が悲鳴を上げて地面を転がる。あと数センチ右にずれて居ればあの子も天に召されていただろう。神のセンスを侮辱したのだ、シカタナイね!


ちなみに信者の間で私たちの神様のネーミングセンスが終わっていることは周知の事実だ。聖書にも『我が神は"これがいい!"と思って名付けていることが多いのでとりあえず拍手しておきました。』という描写が残っている。つまり奴は触れてはならない領域に足を踏み入れてしまったということ……!



【次はないからな。】




「……まぁあんな感じで、彼はまだ許されましたけど、たまに粛清される子もいます~。でもご安心ください! 今回ご覧いただく子たちは三歳馬以上の子たちで、ある意味"選別"された子たちですので粛清の心配はございません!」


「あ~、うん。そうなのね。……こわ。」



雷が落ちた瞬間に、そちらの方を向いた幼駒たちの隙を突いて柵自体から離れる。ふッ! そもそも先ほどの攻防は柵を挟んでいたから起きていた事! こちらから離れてしまえば、飛び越えてこない限り……。ッ! その構えは! 跳躍! 馬は跳躍力もあることを忘れていた!私の背丈ほどある柵でもこいつらにとっては少し高い障害物でしかないというのか! 柵がなければ私を守るモノがなくなってしまう! く、来るなッ!



「し、師匠! もう私大丈夫ですッ!」


「そう? なら待たせるのも悪いし、行くとしますか。ボーイズ、ウチの子と遊んでくれてありがとね。」



急いで師匠の後ろに隠れたおかげか、それとも終わりの挨拶をしてくれたのが功を期したのか、あのすごい声の幼駒たちが去っていく。た、助かった。……ん? アレでも私。家で師匠に……。








『お馬さん! お馬さん買うんですか!』


『うん。移動に使えるだろうし、何するにも使えるだろうしね。帝都で馬車引いてもらったり、冒険するときに乗ったり……まぁ色々。ヘンリ様から勧められたのもあるし、買ってもいいかな、って。』


『な、なら! 私がお世話します! 私、動物好きなんです! やりたい、やりたいです!』


『そう? ならお願いしようかな。』








ヤバい! ヤバいです! 私お世話するって言っちゃいました! 『さすがに全部任せるのは重労働だし、たまに手伝ってもらう形かな? 最悪どっかの厩舎でお世話頼むのもありだろうし。』って師匠言ってましたけど、私あんな声出す生き物触りたくないです! 口の動きとかすごく気持ち悪かったし! 馬のお口で無理やり話そうとするからあぁなるんです! 見る側の気持ちも考えてくださいよォ!



「あ、あの! 飼育員さん!」


「はい、どうされました?」


「お、女の! 女の子のお馬さんの声はどんな感じですか!」


「あぁ、普通な感じですよ。私の様な声です。」




「ッ! 師匠!」


「お、おう?」


「お願いしますからね!!!」








 ◇◆◇◆◇





その後のことは少々長くなったので割愛させていただく。


アルに念押しされた後、厩舎に入った後は十数頭の中からウチで買うことになる馬を選ぶ作業に入った。まぁお仕事をお願いするわけだが、平時はおそらくペットみたいな扱いになるだろう。今後私がどのような道を歩むか解らないため、そう言ったところも気にしながら選ぶことにした。


でもまぁ思ったより簡単にというか、スムーズに進んだよね。


アルのご希望に合わせて買うのは牝馬、しかもその馬と直接意思疎通できるわけだから『この子は性格的に合わなそうだな』とか『あぁこの子は戦場に出たいタイプなのか』ってのが簡単にわかる。気分は正にバイト先の面接官、って感じかな。結構高い買い物ではあるので慎重には決めたけども。


剣神祭に勝ったおかげで人気も絶頂だし、グッズとかの売れ行きもいつか下がるだろうけど順調ではある。でも湯水のようにお金を使えるほど儲けているってわけではない。いや儲けてはいるけど消費も結構しているというべきかな? 私やアルの体を保つための食事に、未だこの世界じゃ貴族向けの嗜好品でしかない美容系の製品や化粧道具、もう戦う必要性はなくなったとはいえ装備の手入れは必要だし、"ビクトリア"としてふさわしい服を纏わないといけない。


しかも最近追加で家も買っちゃったしね……。厄介なファンが来ても困るってことでかなり治安の良い場所の家を買って、一つ一つが万を超えるクソ高い魔道具で防犯。あ、魔道具と言えばアルの身を守る為に色々買ったし、私も暗殺対策に毒とかの耐性を付与する装飾品タイプの魔道具を買ったから……。


うん、その上馬も買ってるからかなりの浪費になってるかも。いやでも不必要なものではないし……。そも私の根幹にある価値観は前世のままだからこれでも足りないというか、もういっそのことスマホとかPCが欲しいというか。簡単な調べものにも、帳簿付けるのにも、前世の世界じゃまるっきり文明に頼ってたんだなぁということを再確認してしまってるんだよね……。



「師匠?」


「おっとごめん、ぼーっとしてた。」



馬上のアルに声を掛けられ、思考が戻ってくる。いくら今乗ってる子が賢くても落馬したらシャレにならないからね。気を付けないと。



『そうそう。私のお母様から聞いたのだけど、実際落馬で亡くなる方多いらしいのよ。』


『気を付けるのに損はないですね~。』


「はいはい、気を付けますよ、っと。」



ということで買ったのは二頭の牝馬。ちょうど今は二人の背に乗せてもらいながら帝都に向かって帰っている途中だ。乗馬の経験なんか全くなかったんだけど、馬が賢いおかげである程度何とかなってる。前世じゃ乗馬どころか馬と関わる機会すらなかったから彼女たちのすごさの比較とかはできないんだけど……、まぁバイクの自動運転? みたいな感じだ。


ちょっと高飛車なお姉さま、って感じの話し方をしている子が『ルベス』で、のんびりな感じの話し方をしている方が『コピア』。話を聞いている感じ、彼女たちが求めるものなら用意できそうだったし、誰を乗せるかとかのこだわりもないみたいだった。仕事もちゃんとしてくれるってことだからおいでませ、って感じ。まぁ性格とかが合わなかったときは違う子を試したり、返品とかもできるってことだからお試し期間なのかな? ちなみにお値段の方は二人合わせて600万ちょっと。



「はぁ~、別に使いつぶすつもりはないけどさ。せめて値段に見合うぐらいは働いてよね?」


『えぇもちろん、と言いたいところだけど仕事がなければ返せるものも返せないわ。値段に見合った仕事を用意してくださいな。』


『頑張りますよ~。』



"コぺス"の方にうなだれながら、そんなことをつぶやくと二人からそんな答えが返ってくる。まぁそりゃそうなんだけどさ……。ちなみに600万ってのはこの子たちが繁殖に入った後のことも加味されての値段だ。奴隷と同じようにこの子たちが子供を産んだ場合、その子供の持ち主は私になる。だから牝馬ってのは高くなるんですねぇ。



「ま、そこら辺はアルの帰郷の時に頑張ってもらうとして……。私も仕事頑張らないとなぁ。」







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