25:次の世界へ
「……行きましたね。」
「そうだねぇ。」
青い髪の彼女を神が送り出した後、ゆっくりと彼女のために茶を容器の中にそそぐ。自身の世界で学び、身に着けた技術。目の前の彼女からすれば児戯にも等しいものだろうが、それでも全身全霊をもってそれに臨む。この立場になってから何度も繰り返した行為だが、一切手は抜けない。
このお方は、神だ。
私たちに豊かさを与えてくださる神であり、苦難を与える神でもある。あの世界で起こるすべてのことが神の御意思であり、神が望んでおられることに他ならない。先ほどの青髪の彼女が過去に住んでいた世界では『神は乗り越えられる試練しかお与えにならない』という考えもあるようだが、私たちからすればそんなわけがない。神は乗り越えることのできない苦難を数多く用意なされている。決して民にとって優しいだけの神ではない。
「どうぞ。」
よく蒸らし、適温のそれを差し出す。
このお方は、自分で仰っている通り気分屋だ。自分の気に入らないことは認めないし、気に入っているものほど厚遇する。ただ厚遇と言っても私たちにとって得なことばかり起きるのではなく、それに見合った苦難も用意なされる。さらにそのさじ加減も我らの神である彼女の気分で決まる。その者の幸せと苦難に満ちた世界を眺め、楽しむのがこのお方だ。"お気に入り"以外の民に対しては義務さえ果たすのならば最低限の豊かさをお許しになるため優しい神ではあるのだが、私のように気に入られた者はとても濃い人生を送ることになる。
乗り越えるのも、諦めるのも、私たち次第。
「あの方は貴方様のお眼鏡にかなったのですか?」
「ん~?」
人間に置き換えれば神にとって私たちは羽虫の様なもの。小さく、醜く、矮小なものが作り上げたものを面白そうに眺めながら、私が淹れた茶を口に運ぶ我が神。その頬は強くつり上がっていた。
「まぁねぇ? 久しぶりに面白いのを見つけたって感じかな。……もしかしたら初めてじゃない? 一瞬でも私を殺せるかどうか見極めようとした子は。ほんとにヤる気はなかったみたいだけど、もし私が彼女に害を為そうとしたらせめて一矢報いるために観察する。ウチの子にはない思考だよねぇ。」
ひどく面白そうに笑う彼女。……私たちの世界の神はこのお方のみ。あの転生者である別世界から来た彼女のところでは多数の神が存在し多くの権能を分割しているらしいが、この世界では集約されている。それはつまりこのお方はすべてを司っているということ。善意も、悪意も。神聖さも、邪悪さも。全知全能の名は伊達ではない。普段は自身の力を抑え日々を楽しんでいらっしゃるが、解放すれば私たちが住む世界など一瞬で無かったことになる。そんなお方に、彼女は立ち向かおうとした。
私たちが信者の方々に向かって教えを説く際は、常にその神聖さを前面に出す。そして神の意に背くことや、悪いことをし続ければ先ほどまで神がお見せになっていた面とは違う要素が私たちに降りかかる、と。故にあの世界の者は常に神を信じ、その御威光に賜ろうとする。普通なら逆らうことすら考える者などいないのに、一瞬でも神殺しを考えるとは……、違う世界で生を受けたからこそ持つ思考なのだろう。
我々からすれば異物というべき人物を何故あの世界に呼び寄せたのか……。先ほど我が神は天使の手違いと仰っていたが、それを何年も放置なさるような方ではない。自分の箱庭であるあの世界を荒らされることをひどく嫌っていらしたはず。つまり、最初から全てこのお方の掌の上。
「それに、強い力を持つ者に対して縋るのではなく、もうすでにあの子は死を受け入れていた。そういう精神性はとっても好み。……なぁ今代? 私が好きなものは何かな?」
「甘いモノ、興味深いモノ、そしてバランスでございます。」
「だね。」
この方にとって私たちが住む世界などおもちゃ箱の中にあるちょっとだけお気に入りの玩具以外の何物でもない。神がいらないと思えばすぐに破棄され、面白いと思っていただければ存在し続ける。それは神の元で働く天使も同じこと、あの世界で住む多くの者は知らないが、私たちは我々の祖先が神と交わした契約によって生きることを許されている。
この方の娯楽となり続けるのが、私たちの仕事。
人も、魔物も、あの世界に生きるすべての存在がこのお方の子であり、神が持つ世界に住まわせて頂いている駒の一つ。私たち教会が善意を、魔物や悪魔と言った化け物たちが悪意を司る。魔の者たちが世に混沌をもたらし、私たちが静寂をもたらす。どちらが多くなりすぎてもいけない。どちらかに傾けば、調和は崩れ神の好む世界ではなくなる。
故に、我々は……。
「……ねぇ今代、さっきからずっと思ってたんだけどさ。私を読者から叩かれそうな感じに仕立て上げるのやめてくれる? 絶対さ、『あ、やっぱコイツ神なんですねぇ。価値観が人間と根本的に違う奴。』とか言われるのヤなんだけど。せっかくここまでいい感じに好感度稼いでるんだよ? このまま『わぁ、とってもいい神様。しゅき♡』のままで行こうよそこは!」
「おっと、失礼いたしました。私、こういった神のお姿が大好きな口でして……。」
「自分の性癖を信仰する神に押し付けるとか……、オマエ頭おかしいんか?」
「まぁ! お褒め頂き感謝の極みでございます! この老骨にお言葉が染み渡っていきますわ! それに、私が生きることをお許しになられたのは貴方様ですし、聖女に任命してくださったのも貴方様なわけですから……、こういうのがお好きなんでしょう?」
「ウン、大好きさ☆」
我らが神は、非日常を望む。
故に魅入られてしまった彼女の人生はこれから大変なものになるだろうが……
「頑張ってくださいね。」
「う~ん、どんなイベントなら楽しんでくれるかなぁ……。あ、そうだ今代。あの子絶対面白いことしてくれると思うからさ、録画しといて。」
……いや、ほんとうに。頑張ってくださいね、私の時も結構アレでしたし。
あと我が神? 私録画のやり方解らないので任せないで頂けますでしょうか。お婆ちゃんに全く知らない文明の利器を任せるのは悪手だと思うのですが……。
◇◆◇◆◇
朧げだけど、意識が戻ってくる。
天国みたいなところから、帰ってきたのは闘技場の通路。光の加減的に剣闘士用の通路、その舞台へと続くすぐのところだろうか。どうやら大きめの木の板に寝かされ、この場で処置を開始してもらったみたいだ。まだ目が慣れきっていないせいか、明暗ぐらいしか解らんけど普通に背中が痛い。固めの木の上で寝かせたな……。
元々死んだ体に叩き込むということらしいし、多分魂みたいな奴がまだ馴染んでいないのだろう。触覚は戻ってきているが視覚と聴覚が帰ってくるにはもう少し時間が掛かりそうだ。でも、何となくだが。私の隣でおそらくアルがずっと神に祈ってるような声、その反対にレトゥスさんが回復魔法で何とかしようとしてくれているような気がする。それにそれ以外の気配も感じる、私が知る人たちがここにいるのだろう。
(……。)
感覚が戻ってくるまで、少し待つ。
おそらく体自体は治っているのだろうが、私がソレに慣れるまで時間が掛かりそうなことが感覚的に解る。腕などを動かすこと自体はできるのだろうが、それをしてしまうと魂が完全に馴染む前に固定されて全部消えてしまうような気がする。ほら昔のゲームとかでセーブ中にカセットを抜いたらデータ吹き飛ぶ奴。そんな感じ。
「……ッ!」
「……、……ぁ……、……。」
アルちゃんの悲鳴のような声と、レトゥスさんの落ち着かせるような声。そこに後悔というか、自分にはもうどうしようもないというか、そんな感情が乗せられているように聞こえる。まぁ腕の中身が全部ドロドロになってたら、もう魔法でもどうにもならないってことなんだろう。もしくは彼の持つ魔法ではどうにもならないとか。明らかに元に戻せない傷だよねぇ……、脳もなんかえらいことになってたみたいだし。魔法と現代医療の差とかは根本的に違うものだから比べるようなものじゃないだろうけど、前世の医療技術でも無理そうだしね。それを元通りにしちゃうってのはさすが神って奴だろうか。
……正直あの人というか、神? 信じていいのかよくわからんのよね。基本的に神と人間って絶対に価値観とかそう言うの違うはずなのよ。個体としてできることが違い過ぎるし、相手は全能っぽい神だ。甘いモノ好きだったり、しんどいのかめんどいなのかは忘れたが意図的に力をセーブしているところを見るにちょっと人間臭い神だなぁ……、と思ったけどそれが演技だとか、ブラフだとかって言う可能性は捨てきれない。まるっきり全部信じられるような性格だったらよかったんだろうけどね、こんなクソみたいな世界で生き残っちゃったわけだし、そも前世の記憶にあるギリシャの神々の知識が明らかに邪魔してくる。
いや一神教なところとか色々違うけどさ、前世の古代ローマって下半神で著名なゼウス様の最盛期なわけよ。古代的な考え方をもって血祭りだいすき! NTR最高! とかやってる人なわけで……。この世界も人間が古代よりの価値観だったり、街並みとか完全にローマだしさぁ……。『楽しかったよ、ビクトリアちゃんとのお友達ごっこ!』とか『最後に殺すといったな、アレは嘘だ。』とか『やめな……さい!』でトマトにされそうで怖いんだよね……。
ま、どうあがいても勝てる相手じゃないし。恩恵を与えてくれるならありがたくいただいて、余計なことは考えないのが一番賢いんだろうけどね。
「……頭の……、おそらく……、ですか。」
「……師匠。」
ようやくだけど、私の耳が言葉を拾い始める。
声色で判別するのではなく、確実に単語が。彼女の私を呼ぶ声が、聞こえた。
うん、そうだね。今は余計なことを考えてる場合じゃなかった。
ゆっくりとだけど、口を動かす。
「…………あ……。」
「師匠ッ!」
視界も、音も、元に戻ってきた。私の眼には思わず私に触れようとして、手を止める彼女の姿が見える。いまの私の腕は元通りなのだろうが、闘技場で倒れて、ここへ連れてこられるまではほぼ死んでいた様なものだ。……つまり、彼女は私の手がどうなっていたのかを見ている。人は水が入った革の袋みたいなことを言われたりするだろうけど、実際にそうなった奴の手なんか触りたくないだろう。その理由が、なんであれ。
「……ア……、ル。」
「……ッ! はい、はいッ! ここに!」
……うん、腕は普通に動かせそうだ。
ゆっくりと動かしながら、その顔に触れる。ふふ、そんなに泣くんじゃないよ。私がこれから死ぬみたいじゃないか。まぁ実際は死んでたわけなんだけど。……言葉を重ねても、最期の言葉みたいになっちゃうか。なら、行動で示さないと。
私は泣いている顔より、笑っている顔の方が好きだしね。
「師匠、し……むぎゅ。」
何か言おうとしたその口を。頬を、親指と人差し指で摘まむ。
「あひるぐち。」
「ひ、ひひょう!?」
少しまだ早いかもしれないが、無理矢理体を起こし彼女の腰に手を回す。あとは遠心力をいかして回り、立ち上がりながらお姫様抱っこ。あぁ、すごくびっくりしてる。ほら、お師匠様はこんなに元気ですよ~。ちょっと無理してるけどこれぐらい平気平気。
「ほらほら、ずっと曇り空だったら気分も晴れないでしょう? 笑顔はマストじゃなかったっけ?」
「し、師匠。腕はッ!」
「治った!」
液状化してたらいくら軽いあなたでも持ち上げられないでしょ? 神サマに治してもらったとはいえないし……、何かよくわからんけど治った、ってことで。正直かの赤髪の海賊みたく『安いもんだ。』しても良かったけど、これから色々あるだろうしね。両方の腕を使って、キミが一人で歩けるようになるまで手助けするよ。
「……あ、そうそう。忘れるところだった。」
「ただいま、アル。」
「ッ! おかえりなさいッ!」
◇◆◇◆◇
それからの話をしよう。
まぁつまらない話もあるからダイジェスト気味に、って感じで行かせてもらう。そこまで大きな山場があったわけでもないし、あまり人に見せたくない個人的なシーンもあったからね。もうプライバシーなんかクソ喰らえだった奴隷じゃなくて、立派な市民だし。そこら辺の配慮をしてもらってもバチは当たらないはずだ。……ま、次からは全部曝け出すからさ。我慢してね?
試合が終わった後は、簡単なパフォーマンスをやった。
内容はちょっとアレだけど、実態はこの国の最高権力者である皇帝陛下が主催して、わざわざ見に来ている試合だ。まだ動かしにくい体を無理やり仕事させながら軽い剣舞をやって、それが終わったら跪いて皇帝陛下からのお言葉を賜り、閉会の宣言。その後は晴れてこの気が狂った人殺し大会はおしまい。ついでに私の剣闘士としての試合もこれでおしまい、ってわけだ。
その後はそそくさと控室に戻って撤退の準備。観客たちというか私の熱心なファンが一斉に駆け込んでくるのは解ってたから急いで荷造りをしていく。アルだけじゃなくドロちゃんとかレトちゃんも動員して、鎧とか剣とかそういうのを箱詰めしてフード被って裏口から馬車で撤退。さすがに復活した後だったし、精神的な疲労も残ってたから演技する余裕はない。ファンの子たちには悪いけどサービスはナシだ。
馬車の中では基本的にドロちゃんやレトちゃんへの感謝の言葉とか、世間話とかをしてた。大体今後どうするかだとか、時間が出来たら遊びに来てね? とかそう言うの。社交辞令とかに近い感じだったけど、この縁はとても大事なものだし、色々落ち着いたら遊びに行かせてもらうことにする。
宿舎に着いた後は馬車の中で彼らと別れ、二人で中に入る。
待っていたのは同じ主人を持つ奴隷仲間からの歓声だった。
まぁ私が帰って来たということはそういうことだからね。声が上がる理由は解ってたけど。声をあげてくれるぐらいの関係性を築けていたってのは単純に驚いた。私やったのってお前らが死なないように準備運動代わりに叩き潰してたぐらいだよ? そんなにいい先輩じゃなかったのに……、一抜けしちゃうわけだし、なんか罪悪感みたいなのを感じちゃったよね。
そんな感じで祝いの言葉を貰い、タクパルとかからも簡単な言葉を貰った後は疲れてる、ってことですぐに部屋に入らせてもらった。一言そう伝えたらタクちゃんが他の奴らを纏めて離してくれた感じ。やっぱコイツいい奴だよね。そんな彼に礼を言いたかったんだけど、実は結構参ってたのも確か。肉体的にはそんなにだったけど、あの日は色々あり過ぎて精神がね……。
それはまぁ、彼女も同じだったわけで。
誰の眼もなくなった時、アルはすぐ私に引っ付いて来た。
今生きて彼女の傍にいることは出来てるけど、一度死んでしまったこと、彼女を不安にさせてしまったことは確か。そのまま彼女に抱き着いて、寝台の上に連行。私はまだここにいる、貴女の傍にいる、そう伝えるように抱きしめながら彼女に謝罪の言葉を伝えた。……許してもらった後は、まぁ色々。今後の話とかそういうのをしてたよね。全く生産性がない会話だったけど、とても楽しかったことは覚えている。
その後は普通に晩御飯だったんだけど、先に言っておくがはしゃぎ過ぎた。
私が剣神祭に勝って帰って来ただけで大騒ぎな上に、いつの間にか私が奴隷から抜け出すってのも広まってたからもう大騒ぎ。多分オーナーの元で働いてるあのポワポワ奴隷ちゃんの口から洩れたんだろうけど、大変なお祭り騒ぎをしようとしていた。私も私でそういうのは大好きだからさ、食材とか酒を買わせるために若い子たちに結構な額握らせて市場に走らせたりもしたのよ。
あとは私名義で保管してもらってた食品とかも全部開放したし、食堂のおばちゃんたちに袖の下渡して色々作ってもらったりと無茶苦茶やった。優勝したおかげでグッズとかそういうのが飛ぶように売れるのは目に見えてたからね。自分とアルを買い直す金は残してたけどそれ以外はもう使い切ってやろうってレベルで散財した。(ちなみにだけどここで騒いだ時に使った金額はオーナーが経費で落としてくれた。そ、そんなことしても加速20倍の斬撃しか出ないからねッ!)
流石に未成年に酒を飲ますまでは行かなかったけど、まぁ前世含めて飲んだことのない高い酒もあったし、見たことないような食材を使った料理とか、奴隷じゃ一生かかっても食えないようなものまであってねぇ……。まぁ飲み過ぎた。
「かっこよかった師匠どこ……? ここ?」
雰囲気に呑まれて酔ったのか、ジュースと間違えて酒を飲んでしまったのか解らないが、ぐでぐでになりながらも酒を呷っていた私を見て失望し、元の師匠を探して塩の瓶の中を覗き込むアルがいたらしいけど……、飲み過ぎて全部忘れた。無念。
あと聞いた話によるとレトちゃんとかドロとかオーナーまでも参加してたって聞いたんだけどほんと? マジで覚えてないんだけど……。なんか絶対へんなこと言ってる気がする。
とまぁそんなことがあって次の日、普通にオーナーのところにお邪魔してアルと私の奴隷契約を破棄してきた。文面だけ見れば結構大事のように思えるが、実際は簡単な手続きだけ。前々から契約の話はしてたからねぇ~。クッソ重い硬貨の山をウチの金庫から引き出して、オーナーが用意した馬車と護衛にそれを突っ込んで商会の方まで移動。
剣神祭で手に入れた賞金、その私の取り分と持ってきた分でちょうど満額2.1億ツケロ。両耳揃えて支払っておしまい!
魔法で縛られていた契約がなくなり、二人の首にうっすらと光っていた赤いリングが霧散すれば無事私たちは人間という立場を手に入れたことになる。さすがの私も首元からあの忌々しい証が消えたわけだし、ちょっと気分が上がっちゃったよね。
その後はオーナーが用意してくれたらしい市民の服、前世のローマでよくあった肩にかける上着みたいな奴ね? それに着替えてヘンリエッタ様が用意して、オーナーに渡してくれていたらしい書類。市民権を獲得するのに必要なソレをもってお役所に出発。
ほんとは滅茶苦茶たらいまわしにされたり、袖の下を滅茶苦茶要求されるみたいなんだけどヘンリ様の御威光のおかげで全部ナッシング。お役所仕事とは思えないほどの速度で手続きが進んで、無事市民としての権利を獲得。その場で今年を含めた10年分の人頭税を払ってGet Wild退勤した。(爆破してはない。)
まぁそれからは色々あって……。
オーナーのお耳にこちょこちょして『剣神祭後に恩赦として解放したってことにしてグッズとか売れば売り上げ以上に商会の名も上がるんじゃね?』って告げ口したり、サインとか私の姿絵を描いた物品が速攻で品切れして嬉しい悲鳴を上げてる担当者の人の悲鳴を聞いたり、試合後初めての握手会開こうとしたら倍率がヤバくなって日程を増やしたり、まぁ大変だった。
お仕事の裏でヘンリエッタ様にちゃんとお礼しに行ったり、帝都で住むのに必要な家を探したり、頼まれてた劇の脚本を作ったりとか……、いろんなことをしていた。もちろん腕が鈍らないように訓練とか、アルちゃんの指導も忘れてない。
「ほらほら、腰が入ってないよ!」
「ぅぐぅッ! ……な、なんでまだ私。剣握ってるんですか?」
「いざっていう時に戦える力がないとどうなるか解らないでしょ、ほら休憩してないで打ち込んで!」
木刀で打ち込んでくる彼女の攻撃を軽くさばいていく。
剣闘士としての未来を彼女から無くしてあげることはできたけど、まだまだこの世界は危険なことばかり。前世の日本みたいに滅茶苦茶安全で治安維持のために警察が頑張ってくれてる様な社会じゃないからねぇ……、ここは。闘技場で戦ったことあるから解るけど、普通に人間の身体能力を優に超える魔物とかいるし、魔物以外でも人間の悪意ってのがいつ降りかかってくるか解らない世界だ。
教会の人たちは善であることを定められているけど、そのしわ寄せなのかそれ以外。特に貴族とかがえらいことになってるのは周知の事実。ヘンリエッタ様っていう大きな後ろ盾はあるけど、どこにでもそんなの関係なしに襲ってくるおバカはいるからね。
だから十分に自衛できる能力ってのは大事だよねぇ、ってこと。
この子は魔法の才があるわけだし、ヘンリエッタ様にお願いして先生を付けてもらう予定だから、いずれその能力を伸ばしていくことになる。でもそれが近接能力を鍛えない理由にはならない。古来より遠距離キャラは近づかれると弱いのだ。それを知りながら対策しないのは愚かの極みなのだ。
「だからアルちゃんを厳しく指導する必要があったんですねぇ。」
「ちょわッ!」
「お、今の避けるか。成長してるねぇ……、じゃあお代わり入りまぁ~す!」
「む、むりれふ!」
こんな感じで私たちは日々を過ごしている。まぁずっとお家で訓練してるわけでもないし。アルちゃんの地元に行ったり、冒険者に成ったり、貴族の厄介事に首を突っ込んだりと、色んな事があったんだけど……。
それは次の話にしておこう。
じゃ、その時まで。
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