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【書籍化】TS剣闘士は異世界で何を見るか。  作者: サイリウム
剣闘士編

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18/86

18:アル吸い



「スゥ~~~~、はぁ~~~~。うん、なんか満たされる。」


「////////ッ!!!」



寝台の上に座り、開いた股の間にアルちゃんを座らせ両手で優しく抱きしめる。するとちょうどいいところにアルちゃんの頭があるわけで……、やっぱ顔を沈めるのにはちょうどいいんですよ! なんかアルちゃんから声にならないような声が漏れてるし、ちらっと見たお耳が真っかっかだし。うむ、とてもかわいい。かわいさだけで人間国宝級だ。



「あぁ、一生こうしていたい。」



宿舎の自室、観客たちに見つからないように闘技場から逃げてきた私たちは無事いつもの場所で休息を取っていた。普段はアルちゃんと私だけなんだけど……、今日は珍しくお客さんが来ている。人のよさそうなおじいちゃん司教様ことレトゥスさん、私が勝手にレトちゃんって呼んでいる人だ。自身の許容速度を大幅に超えた『加速』によって、全身打撲みたいな状態になっていた私を回復させるために来てもらっている。



「あ、あの! 師匠! や、やめてくださると……!」


「あ~! わたしあの気狂いと戦って精神的にも疲れちゃったなぁ! 誰かに癒してほしいんだけどなぁ!」


「にゅぅ……。」



実際、もう当分ここから出たくないぐらいには肉体的にも精神的にも疲弊している。肉体の方はレトちゃんの『回復魔法』によって何とかなるだろうが、精神面はマジで如何にもならない。明日も明後日も試合だし、どうせ今日の気狂いに勝るとも劣らない奴らばかりなんだろう。そんな相手達と戦う時に精神にダメージが残ってたら勝てるものも勝てない。故に回復が必要なのだよ愛弟子。



「で、でも司教様の前でやることじゃないと思います!」


「そう? 大丈夫だよねレトちゃん。」


「ほほ! お気になさらず。」



だってさ? 残念ながらアルちゃんに味方はいないのだよ……! それにそんなに強く抱きしめてないから抜け出そうと思えばいつでも抜け出せるでしょ? もぅ~! アルちゃんってば恥ずかしがり屋さん! あぁ~、ほんとに。お肌とか何もしなくてもすべすべだし、ふにふにしてるし……。こんな子を剣闘士になんかさせるわけにはいかないんだよなぁ……。



「にしても、すごいお部屋ですな。」


「そう?」


「えぇ、剣闘士の方々に関しては、我々教会があまり手を出せる事ではありませんでしたので……。噂ではもっと質素なお部屋かと。」


「あぁそういう。」



確かに私のお部屋かなり豪華だもんねぇ? ファンの子たちからもらった装飾品やら調度品やらが整理できずに箱に入ったまま山になってるところあるし、何故か大理石の私の像とかあるし。寝台も私とアルの分で二つ、しかもめっちゃ高級品。そもそもの部屋の大きさも一般的なご家庭の部屋より大分大きいもんねぇ。二人で暮らしている、と言っても上層の市民並みにいい暮らしはさせてもらっている。



「私が上にいるから、だね。普通の奴隷はもっと酷いよ。大部屋の雑魚寝とかが普通、私も最初は襲われないように剣持ちながら寝てたもん。あとこの部屋で自分で買ったものとかほとんどないからね? 基本ファンのみんなからの頂き物。」


「……なるほど、そうでしたか。ご自身の石像がいくつかありましたので、てっきり自分が大好きな方かと。」


「あはー! ないない! いやむしろ送り付けてくるこの熱意がすごいって言うか、正直置く場所ないから困るって言うか……。」



元の世界のさ、ダビデ像とかサモトラケのニケみたいな彫刻あるでしょ? あんなのが定期的に送られてくるのよ。とんでもない量の恋文と一緒に。彫刻家の人みたいでさ、まぁすごく芸術家気質なんだろうね。お手紙の内容もとてもポエミーだった。最初は『わぁ、すごいのが来た』って感じだったんだけど最近はもう置き場がなくて上着掛けとか、アクセサリー掛けみたいな立ち位置になって来てる。サイズがサイズだから色々困るし売るにも売れないからさ……。


そんなことを思いながら貰った像たちを眺めていると、レトちゃんの手を介して送られていた回復魔法の光が掻き消える。



「こんなものですかな。ビクトリア殿、体の調子はいかかでしょう?」


「……うん、大丈夫そう。」



軽く両手を握ってみるが、特に異常なところはなさそうだ。体の節々で感じていた痛みももうない。



「治療の方はこれで以上となります、ご理解なさっているとは思いますが十分な食事と睡眠を忘れずに。」


「りょーかい、わざわざありがとね。」



長時間抱きしめ続けていたせいか、ゆでだこになったアルちゃんを無理やり立たせて私も寝台から降り立つ。レトちゃんは司教だし普段のお仕事もあるだろう、それにこの人の性格的に理由を付けてすぐ帰りそうだ。お見送りぐらいちゃんとやらなきゃ女が廃る、って奴よ。



「宿舎の出入り口まで送るよ。ほらアル? いくよ?」



おん? どうしたアルちゃん? 師匠に匂い嗅がれ過ぎて恥ずかしい? お嫁にいけない? ちゃんと毎日洗ってるから大丈夫でしょう? いい匂いだったからそんな恥ずかしがらない。どーんとしときなさいどーんと。あと多分私がお婿さんぶん殴っちゃうから、一生お嫁に行かなくていいからね? ずっとウチの子でいて。 ……ありゃ腰抜けちゃった? ならレトちゃん送ってくるからちょっと待っててね。



「……可愛らしいことですな。」


「でしょ? ……あ、あげないからね? 『アルちゃんが欲しければ私を倒してからにしろ!』ってやつ。」



まぁほんとにその時、アルちゃんが"この人と結婚する"とか言いながら誰か連れてきたら……。強さはもちろん身分とか経済力とか色々見るだろうなぁ、ずっと傍にいてほしい気持ちはあるけど幸せになって欲しいのは確かだし。私よりも"そっち"の方がいいのなら……、やば。ちょっと泣きそうになってきた。とりあえず私に勝てるぐらいの強さがなきゃ許してあげないんだからね!


そんな私の様子を見てなんと言えばいいのか困り、苦笑を浮かべる司教と共に宿舎の道を歩く。ちょっと視線をずらせば、同じオーナーを持つウチの後輩たちの姿が見える。剣神祭の時期ってこともあり、出場する剣闘士以外は暇な時期だ。ウチの宿舎にいる奴らも思い思いの時間を過ごしている。休みを謳歌する者もいれば鍛錬につぎ込む者も、性別種族問わずみんなが好きなことをしている。もうちょっと奥を覗けばタクパルが弟子以外の子たちの指導とかもやってるみたいだ。あいつ変に真面目だからねぇ……、どっかで潰れなきゃいいけど。



「来た時にも思いましたが……、ここは明るいのですね。」


「……まぁね。オーナーがオーナーだし、雰囲気いいでしょ。」



前にも言ったが、ウチのオーナーは守銭奴だ。剣闘士の価値を完全に金に変換して物事を考えてる奴、だから無理は基本させないしこっちの要望は結構通りやすい。長期間金を稼ぎ続けることができるように管理し、育成していくって感じだ。まぁ管理って言ってもそんな大したことはしてないんだけど。


簡単に言えば、頑張って結果が出たらその分生活環境とか食事とかのグレード上げてあげるよ~、ってやつだ。金の卵を産む鶏である私やタクパルみたいな存在が生まれやすい土壌を維持してる感じね。普通のとこじゃどんだけ試合に勝とうが評価なんかしてくれないし、最悪意味の分からない使い方をして殺されるとかザラ。


一応法で試合勝利時の賞金の取り分とか決まってるんだけど、『奴隷の財産は主人のもの』なので他のとこじゃ実質0、というオーナーもいる。一応最初は配分してくれるんだけど、宿舎内の施設利用料とかをクソ高くしたり、毎日の食事の代金として搾り取ったりとか。宿舎って言ってるけど法的な名前はただの"倉庫"だからねぇ。その内部でどんな法外な取引が行われていようが、倉庫内で勝手に金が動いているって言う判定にしかならない。マジで人権クソ喰らえ~! って感じだし、実際先代オーナーの時はそうだった。


今のオーナーは一応人間扱い、とまでは行かないけど生物としては見てくれるからねぇ。私レベルなスター選手相手には普通に会話してくれるし、入ったばっかりのペーペーでも"物"扱いはほとんどしてない。オーナーからしてみれば『やる気や意欲の力って思ったより大きいッぴ! だからそれを削ぐのは全く経済的じゃないッぴ! あとビクトリアとかタクパルの成功例があるから間違ってないッぴ!』とか言うんだろうなぁ……。



「あ、あと根本的に"剣闘士に興味がない"ってのもあるかも。娯楽としてじゃなくて商業として見てるからそこらへんしっかりしてるよね。品質管理ってやつさ。」


「……どこもそうだとよいのですが。」



まぁ興味がないせいでマジで戦いのこととか全く解らないらしいし、興行で市民たちが何に熱狂してるのか解らんって言ってた。試合とか全く見ないで結果だけ聞いておくような人だしねぇ? だからこそ剣神祭で闘技場に来ていたことはほんとに驚いたわけなんだけど。


実際、彼が剣闘士とかへの理解が深ければこのお祭りへの参加をもっと強く反対したのかもしれない。あの時は結構あっさり話が通ったけど、もっとこじれることも覚悟してたからねぇ。彼が背中を押してくれたのも、私の試合の結果だけ見ていたからで、これまでの実績である『不敗』という記録への信頼だろうし。……ま、ここら辺は終わった話だ。優勝してアルちゃんがお酒飲めるようになったころに笑い話にしてやろう。オーナーがずっと『ッぴ!』っていう語尾だったってこと。


……やば、想像したらめっちゃ楽しそうじゃんか。生き残る理由がもう一つ増えたな! そん時はもう奴隷じゃないしあいつに私を拘束する権利なんかねぇ! 好き放題弄ってやろ!



「……お? あれは……。」



そんなことを考えながら緩む頬を押さえていると、宿舎の出入り口の方から走ってくる人影が見える。



「ビ、ビクトリア様!」


「あ、オーナーのお付きの。」


「第二試合! 結果出ました!」







 ◇◆◇◆◇






「こう、みゅみゅーんってなって、ビジュって投げたらアバー! って感じで! あとゴゴゴゴ! ってなった後にズシャー! って感じで爆発したんですけど、そこをみょみょん! と避けてざざざ、ってしたら勝ってたんです! 私剣闘士さんの試合初めて見たんですけど、とってもすごかったです!」







「………………ごめん、もっかいお願いしていい?」



オーナーお付きの奴隷、私たちみたいに剣闘士として働くのではなくオーナーの本業のお手伝いや雑用を担当する奴隷。まぁ部署違いの同僚って感じ? その子がオーナーの代わりに情報収集してくれてたみたいなんだけど……、おいオーナー! 明らかに人選ミスだろお前! なんで不思議ちゃん雇ってんの! お前そういう趣味やったんかッ!



「あ、はい! 最初からですね!」



オーナーの隠れたご趣味を推察しながらもう一度彼女の説明を聞く。……が、案の定全く解らない。一生懸命ジェスチャーなんかを踏まえて頑張ってくれているのは解るけど全然わからん。なんやお前、なんであの守銭奴のご主人に買ってもらえたんや? あの人意味の伝わらない説明とか解説歯ぎしりしながら聞くタイプやで? クソ嫌いな人やで?


……いやマジでなんで?



「……って感じです!」


「あ、うん。どうもありがとう。なんか。こう……、紙の資料とかある?」


「あ、はい! こちらです!」



ドロちゃんとさっき会話したせいか、それとも意味不明過ぎて脳がバグったのかはわからないがとりあえず紙の資料を要求してみればすぐに出てきた。この前オーナーから渡された資料の最新版だ。



え~、と。今日の試合は……、あ。この子? この子勝ったの? 頑張って書いた? ……前のも?


……あぁ、なるほど。口頭説明だけ壊滅的なタイプか。了解。ちなみに計算は……、できる? そりゃすごい。奴隷商館で頑張って覚えたの? そぉ~、うんうん。これからも頑張ってねぇ。



話を聞いているうちに理解したが、この子天然だが仕事はできるタイプみたいだ。まぁそうでなきゃオーナー買わないよね。文字の読み書きも計算も、前にも言ったがこの世界じゃそれだけで食べていけるスキルだ。そもそも何かを"学ぶ"ってことが全然馴染みのない行動だからね。いざ奴隷商館とかで学ぶってなっても全くできずに挫折してしまうとかもよくある話みたい。



「うん、了解。わざわざありがとう。……それで? 次何かオーナーから言われてたりするの?」


「はい! ドロ様がこちらに来た時ビクトリア様のお部屋までご案内するようにと!」


「あ、そう? じゃあお願いね。」





















一言二言話して、ついでにレトちゃんのお見送りも代わってもらい自室に戻る。


ちょっとドロちゃんが来るまで資料を吟味させてもらうとしよう。多分あの子に聞いても時間の無駄になっちゃうだろうし、これを読み込む方が有意義だ。多分オーナーも簡単な受け答えだけさせて、あとは資料作成とかやらせてるんだろうね、あの子が作ったらしいコレ、見やすいし。



「アル、こっちおいで。」


「あ、はーい!」



ほらこっち座り? もう他人いないから恥ずかしくないでしょ? ほれほれ。




「……、ちょっとだけですからね!」



もちろん、ほら一緒に読みましょうか。


さて、次の対戦相手の剣闘士は……。うん、やっぱ珍しい女の剣闘士だね。


ウチの宿舎にも何人かいるのは知ってるけど、"化け物"に上がってくるまで残れているのは単純にすごい。私が言ったらダメな話かもしれんけど、一芸特化じゃこの世界生き残れないからねぇ。人間族の女ってどうしても男に筋力とか体格で負けるからさ、生き残るには何かしらの特技がないとダメなのよ。だから女の剣闘士ってのは一芸を極めた奴が多い。


だけどそれじゃあ"化け物"、剣神祭でここまで残れるほどの実力にはなれない。今日の私の試合見てたら解るだろうけど、一芸特化タイプって何か対策取られると終わるのよね。今日は上手く行ったから生き残ったけど、もし私が剣技とかそう言うのを修めてなかったらすぐ死んでいただろう。一の矢、二の矢が必要ってわけだ。


まぁつまり、次の相手は……。何かしらの一芸を極めながら、他にも侮れない武器を持っている。ってことだ。



「んで、その一芸が何なのかというと……。」



スキル『裂穴』、空間に裂けたような穴を生成することができるスキル。なおその穴はスキル使用者視界内のどこにでも生成することができ、穴同士は繋がっている。早い話、空間系の転移スキルだ。二つの穴を作ってそこをつなげる感じ。



「『現在最高12、6セットの穴の同時生成を確認しており、投げナイフとレイピアを利用した戦闘を行っている。穴のサイズは同時に生成した穴の数と関係があるようで、使用者が通り抜けることができる穴は1つずつでしか生成できないと考えられる。』、ね。」


「え、それって人の体の中に穴を作れば終わりなんじゃ……。」


「『物体や生物の内部には生成できない可能性が高い』、だって。」



アルの言うとおりそれをされるともう勝ち目がなくなっちゃうわけだが、その心配は一応しなくていいみたい。過去の試合の情報とかも調べてくれたみたいだけど、そういう勝ち方をしている試合はなかったそうだ。……だけど、相手の体ギリギリに穴を生成して瞬殺とかはあったみたい。



「……どうせ私対策はしてくるだろうし、最初からギア上げてやるしかないか。」


「対策、ですか?」



そう言えばアルには話してなかったか。今日の相手なんか私の速さに若干対応しているような動きしてたでしょ? 多分というか絶対私対策に自身の動体視力とか速度とかのバフが掛かる装備してきてたのよ。一回戦ならまだしももう次準決勝だからね、さすがに相手が用意してないっていうことは考えられないよなぁ、って。



「まぁそれでも私の方が速いのは変わりないんだけど、こっちの攻撃に反応してくるぐらいはするだろうね。」



今日のあの気狂いでも、私の五倍の速度と同じスピードで動いていたわけではない。装備によるバフもそこまで大きくはないのだろう。でも、あいつは自身の技術と能力で私を確実に殺しに来ていた。圧倒的な速度の差が、まだ何とかできる速度になったってことだろう。



「それに投げナイフか……、最悪毒とかも使ってきそうだな。苦手だけど盾でも使うか?」






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