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毎年会う度に可愛くなっていく従姉妹と18回目に会ったら……

作者: 墨江夢

 俺・三隅洋(みすみよう)には、三隅美織(みおり)という従姉妹がいる。

 二人ともじいちゃんっ子であることや、同い年という理由から、俺と美織はとても仲の良い従姉妹同士だ。


 美織と初めて会ったのがいつなのかは、残念ながら覚えていない。

 父さん曰く俺が1歳の頃、祖父の家に遊びに行った時に初めて会ったそうなのだが……当然のことながら、そんな小さい頃の記憶なんてある筈もなく。


 朧げだが記憶として残っているのは、5歳くらいの頃からだろうか? 二人で近くの公園で暗くなるまで遊んでいたら、両親からめちゃくちゃ怒られたのを覚えている。


 俺が都内に住んでいる一方、美織は地方在住だ。

 新幹線を使っても片道4時間はかかるので、頻繁に会うことも出来ない。

 美織と会えるのは、年にたったの一回だけ。夏休みに、祖父の家に行く時だけだ。


「一年ぶりね、洋! 元気にしてた?」


 SNSでのやり取りはあるものの、実際に会うのは去年の夏以来。……気のせいだろうか? 今年の美織は、一年前の彼女よりずっと魅力的な気がする。


 顔つきは少女から徐々に大人の女性へと変わっているし、体の発育も顕著になっている。喋り方や立ち振る舞いも、どことなく違っているような。

 要するに、一言で表すならば、美織は可愛くなったのだ。


 一昨年よりも去年の方が。去年よりも今年の方が。だからきっと、今年よりも来年の方が。

 会う度に、美織は決まって可愛くなっている。


 前年比大幅プラスだ。自己ベスト更新だ。

 新幹線に乗りながら、そんなことを考えて。俺は18回目となる美織との邂逅に臨んだ。





 車窓から去年の夏以来の景色を眺めて、俺はふとこれまでの夏の思い出を想起する。


 あれはそう、7歳の頃のことだった。

 俺と美織は祖父に連れられて、山に虫捕りに来ていた。


 夏の山は、昆虫たちの宝庫と言える。

 セミやトンボやその他諸々、様々な昆虫が至る所に生息している。


 今でこそ「虫なんて怖い!」と言い自室に蜘蛛が出るだけで一目散に逃げ出す情けない俺だが、当時は率先して昆虫を捕まえていた。若気の至りというものなのだろう。


「それじゃあ、洋! どっちが沢山の虫を捕まえられるか、勝負よ!」

「良いよ! まぁ、勝つのは僕に決まっているけどね! なんたって僕は、クラスの昆虫博士なんだから!」

「言ってなさい。……因みに特別ルールとして、ヘラクレスオオカブトを捕まえたらその時点で勝ちだから」

「わかってるよ。絶対見つけてやるもんね」


「日本の山に野生のヘラクレスオオカブトなんて生息しているか!」と、当時の無知な自分にツッコんでやりたい。


 朝10時から始めた虫捕り勝負は、お昼までの2時間を制限時間とした。

 2時間後に、祖父の待つ山の麓に集合することになっている。


 トンボはすぐ逃げてハードルが高いので、俺はセミやバッタを主に捕まえることにした。

 この山のことは、あまり知らない。だけど昆虫のことなら、それなりに詳しいつもりだ。

 俺は昆虫たちのいそうな場所を見つけては、次々と捕まえていった。


 あっという間に2時間は過ぎ去り、12時の30秒前に、俺は祖父のもとに戻ってきた。


「おかえり、洋」

「ただいま、爺ちゃん。……あれ? 美織は?」


 集合時間直前だから、てっきり美織は既に戻っていると思ったのに……彼女の姿は、どこにもなかった。


「いや、まだ戻ってきとらんよ」

「戻ってきてないって……もうお昼になるじゃんか」


 集合時間に間に合わなければ、どんなに沢山の虫を捕まえていても失格だ。勿論、万が一ヘラクレスオオカブトを捕まえていたとしても。


 12時が過ぎた。

 一応ロスタイムとして5分待っていたが、それでも美織は現れない。

 

 ……これは、流石におかしいぞ。

 俺も爺ちゃんも、そう思い始めていた。


「洋はここに残っておれ。儂は美織を探してくる」


 俺を置いて美織を探しに行こうとする爺ちゃん。でも……そんなの耐えられなかった。


「待って! 僕も美織を探しに行く! 美織が心配だ!」

「……そうだな。わかった。でも絶対に、儂のそばから離れるなよ?」


 結論を言えば、美織は集合場所近くの木の上にいた。

 カブトムシを採ろうと木に登ったは良いものの、降りられなくなってしまったらしい。

 何はともあれ、怪我がなくて良かった。


 木から降ろして貰った美織は、大泣きしながら俺に抱きついてくる。


「えーーーん! 怖かったよーーー!」

「えーと……よしよし」


 俺は安心させるように、美織を抱き締め返す。

 

 思い返してみると、この時だったのかもしれない。

 美織のことをただの従姉妹ではなく、一人の女の子として見るようになったのは。





 14歳の夏。

 俺と美織の関係に、大きな変化が訪れた。


 中学2年生になり、俺たちは子供から大人への転換期に差し掛かる。

 虫捕りに興じていたあの頃とは、もう違う。

 例えば少しずつ成長し始めた美織の体に、つい視線がいってしまったり。だって思春期ですもの。


 お互い他意もなく繋いでいた手も、今では多少の下心が生じてしまう。

 大人になるにつれて、好きになるにつれて、美織との距離が遠ざかっていくように感じた。


 夜。

 俺が和室に寝転びながらゲームをしていると、いきなり美織が入ってきた。


「あら、ここにいたの」

「入る前に一声かけろ。着替えていたらどうするんだ?」

「今更あなたの裸を見たところで、なんとも思わないわよ」


 こっちはなんともなくないんだよ。恥ずかしいんだよ。

 俺は仕返しとばかりに、

 

「逆の立場でも、同じことが言えるのかよ? 俺に裸を見られてもなんとも思わないのかよ?」

「……死ね変態」


 なんとも思わないと言ったのはお前じゃねーか。理不尽すぎる。


「……それで、何の用だよ? 俺を探しているみたいな口振りだったけど?」

「……あぁ、そうそう。天体観測、一緒に行かない? あなた星が好きだったでしょ?」


 爺ちゃんの家は田舎なだけあって、星が綺麗に見える。

 東京では見られない星空を眺めることも、年に一度の楽しみになっていた。


「わかった。……キリのいいところまで終わらせたらな」

「は?」

「ごめんなさい、すぐに準備します」


 俺はゲーム機を即座にスリープモードにして、外出の支度を始めた。

 

 暦の上では真夏とはいえ、田舎の夜はそこまで暑く感じられない。というより、都会が暑すぎるだけなのかもしれないが。


 天体観測をする場所は、毎年決まっている。爺ちゃんの家から歩いて20分程の展望台だ。


「毎年のことだけど、もうちょっと近くに展望台があったら良いんだけどな。流石に疲れた」

「何情けないこと言ってるのよ。日頃運動しないツケが回ってきたのね」


 確かに運動していないけどね。だけど俺、望遠鏡担いでいるんですよ。その辺を考慮して貰いたい。


 展望台に着いた俺たちは、早速星空を眺める。今夜の星空も、例年と変わらず綺麗だった。


 先に望遠鏡を覗いた(俺に運ばせたくせに、だ)美織が、俺の服の裾を引っ張る。


「ねぇねぇ! オリオン座が見えるわよ」

「いや、見えるわけないだろ」


 オリオン座は冬の星座だ。真夏に見えるわけがない。


「本当に見えるんだって! 騙されたと思って、覗いてみませんよ!」

「……わかったよ」


 あり得ないとわかっていながらも、もし本当なら世紀の大発見だと思い望遠鏡を覗いてみる。するとそこには……


「……オリオン座なんて、見えないじゃねーか」


 つまりはものの見事に騙されたというわけだ。


 ……ったく。いつまで経っても子供みたいな悪戯をしやがって。俺たちはもう、中学生なんだぞ?


 一言文句を言ってやらないと気が済まない。しかし俺が望遠鏡から離れる前に、美織は耳元でこう囁いてきた。


「……好き」


 バッと美織の顔を見ると、暗がりの中でもはっきりとわかるくらい頬を赤らめている。

 その表情は、満点の星空よりも綺麗に思えて。


 こうして俺たちは、従姉妹から恋人同士になった。





 ――現在。

 祖父の自宅に到着した俺たち家族は、祖父と美織の家族と挨拶を交わす。

 ……美織の奴、今年も一段と可愛くなっているな。こんな素敵な女の子が俺の彼女なんだと思うと、なんだか誇らしくなってくる。


 俺と美織は母さんに頼まれて、夕食の買い出しに行くことになった。

 近所のスーパーへ向かう道中、周囲に知り合いはいない。

 それを良いことに、俺たちは手を繋いだ。


「洋の手、また大きくなってるわね。頼もしさが増したわ」

「お前こそ、大きくなったんじゃないか?」

「……どこ見て言ってるのよ? エッチ」

「ごめんごめん。……去年よりも魅力が増したって、伝えたくてさ」

「……そっか」


 悪態をついていたのが一転、俺に褒められて美織は照れていた。


「私たち、付き合って何年になるっけ?」

「お前に告白されたのが中2の時だから……4年になるのか」

「4年、か。遠距離恋愛の割に、結構続いている方だよね」

「それについては同意する。……美織はこの4年間、告白されたこととかないのか?」


 美織みたいに可愛い女の子なら、同級生どころか先輩後輩、他校の男子生徒から告白されることもあるだろう。

 その中には、俺なんかよりずっとカッコ良い男もいるわけで。それでも俺と付き合ってくれているのが、不思議で仕方なかった。


「沢山あるわよ。OKしたことは、一度もないけど」

「みんな美織の眼鏡にかなわなかったわけか」

「うーん。というより、洋のことが好きすぎるだけかしら」


 ……っ。この女は、そういうことを恥ずかしげもなく言う奴なんだよな。

 まぁ、嬉しいんだけど。


「……あっ、オリオン座」


 空を見上げながら、美織は言う。


「またその嘘かよ。オリオン座は夏には見えない。まだ昼だから、そもそも星が見えない」

「そんなことないって。ほら、騙されたと思って見てみなさいよ」

「……わかったよ」


 俺は渋々空を見上げる。オリオン座なんて、ありはしない。


「ったく。もう18歳なんだから、こんなくだらない嘘はーー!」」


 美織の方を向いた途端、彼女がいきなり俺にキスをしてきた。


「美織……」

「そう。私たちは、もう18歳なのよ。結婚出来る年齢なのよ。だから……私を洋のお嫁さんにして下さい」


 話を聞くと、美織は東京の大学を受験するらしい。

 もしこっちの大学に通うことになったら、その時は年に一回ではなく、毎日のように彼女と過ごすことにしよう。

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