婚約が無くなる!
その時、私達の側を上品なマダムの一団が通りかかった。
その中の1人の女性が話しかけてきた。
「まぁ、アンデル侯爵様。ご機嫌よう。グリーグ子爵様もご一緒なのね」
マダムの一団はこちらに向かって順番に挨拶をしてくれたので、アンデル侯爵様が挨拶をした後、お父様も挨拶をした。
次はレオン様の番なのに一向に挨拶をしないので、マナー違反かもしれないけど、レオン様の順番を飛ばして挨拶をした。
「まぁ!可愛らしいお嬢さんね。…ところでこの派手な女性の一団はどこからいらっしゃったのかしら?」
この一団のリーダーらしき女性がお取り巻き達の間から顔を出して話しかけてきた。
その方のあまりのオーラにレオン様とそれを取り囲む女性達も動きが止まった。
「これはダンプド公爵夫人!今日はご婦人達でお茶会ですか?」
アンデル侯爵様は立ち上がって貴族の礼をした。
「いえ、主人達も後で参りますわ。男性はポロを楽しみに行きましたから」
アンデル侯爵様の顔は、心なしか引き攣った。
「そう…ですか。…次回は是非、お誘いいただければと」
そう低い感情を押し殺した声で言った。
お父様の話だと、ダンプド公爵様は権力者らしい。
権力の傘に入りたい貴族はなんとか繋がりを持とうと必死になるものらしい。例外に漏れずアンデル侯爵様もそう考えているようだ。
「そうそう、グリーグ子爵。この前奥様に偶然お会いしたの。可愛らしい方ね。是非、奥様をサロンに招待させてちょうだい。今度招待状を送りますわ」
ダンプド公爵夫人はコロコロと笑った。
その言葉にアンデル侯爵様は、ワナワナと震えている。
「ありがとうございます。妻もさぞ喜ぶでしょう」
お父様の返事に被せるようにして、
「ダンプド公爵夫人、もしよろしかったら我妻にも招待状をいただけませんか?」
とアンデル侯爵様が言った。
すると、ダンプド公爵夫人の顔から笑顔が消えた。
「ご子息様は、今、婚約者のグリーグ子爵令嬢の前で他の女性に囲まれてますが、どのような教育をなさっているのかしら?少なくとも私達の価値観とは違いますわね。
そのような教育方針のアンデル侯爵夫人とはお話が合わないと思いますわ。
婚約者を蔑ろにして遊び回っているとはね?」
ダンプド公爵夫人が非難すると、お取り巻きのマダム達が口々に噂話を始めた。
「ああ!アンデル侯爵家のレオン様の素行の悪さは有名ですわ。知り合いが王立学園の理事の1人ですけど、何度注意しても器物破損をして大変だとか」
「チャリティーパーティーでもいつも騒いでますわね」
ダンプド公爵夫人のお取り巻きの女性達は眉を顰めてレオン様を見た。
レオン様は突然現れたマダム達から辛辣な言葉を浴びせられてワナワナと震えている。
アンデル侯爵は反論を我慢しているが、レオン様は我慢できなかったようで、
「私を侮辱しないで頂きたい。こんなにみっともない女性と結婚しろと言われている私に同情はないのですか?しかも爵位は子爵家だ。私は侯爵家なのですよ?」
と大きな声で私を侮辱した。
マダム達は、あっと驚いた顔をした。
その中で1人冷静な女性が一歩前に出た。
「では、アンデル侯爵子息は…グリーグ子爵令嬢とは結婚したくないということですわね?私達が証人となりますから、さっさと婚約破棄してはいかがかしら?
そうしたら、好きな女性と婚約を結べるわ」
急転直下で婚約破棄の話が始まった!
私は余計な事を言わないように、じっとしている。
「そんなつもりで我が息子は言ったわけではない!」
慌ててアンデル侯爵様は否定したが、その言葉を聞いていない様子のレオン様は満面の笑顔に変わった。
そして、
「アンネッテ・グリーグ!この場を持って婚約を破棄する」
レオン様は大きな声で婚約破棄を言った。
すると婚約破棄をしてはどうかと言った女性が、
「誰が、誰との婚約を破棄するか、言わなきゃいけないわ。それに、今この場にいる全員に聞こえるようにね」
とアドバイスをした。
「私レオン・アンデルはアンネッテ・グリーグとの婚約を破棄する!」
レオン様は嬉しそうに先ほどよりも大きな声で宣言をした。