なんとか婚約解消をしたいけど。
その一週間後、迎賓館のローズガーデンでレオン・アンデル侯爵令息と、アンデル侯爵、そしてお父様と私で面会する事になった。
この一週間、婚約解消の原因を探すお父様に、手紙の返信が来ない事や、婚約者としての交流もない事を伝えた。
「そうか。私の方でも調べたが、こんな婚約者だったとは。女遊びは激しい、金遣いは荒い。
子爵として成功した直後で、格上から持ちかけられた婚約に二つ返事をしてしまった私が悪かった。
今なら絶対に婚約をしない相手だったが…アンネッテを苦しめて申し訳なかった」
お父様は実態を知って謝ってくれた。
「いいんです。もう過ぎたことです」
私は笑顔でお父様を見た。
「あの後、子爵家から侯爵家に婚約解消を言うのは難しいとダンプド公爵に相談したら、ダンプド公爵が策を練ってくれたよ。とりあえず、面会場所の迎賓館のローズガーデンに行けばいいそうだ」
当日、グラファント夫妻が来てくれた。
夫人が準備してくれた大人しいベージュのドレスを着て、銀髪を三つ編みにして、メガネを掛けた。
普段はプラチナ色にしか見えない光り輝く銀髪は、きっちり結われたせいで灰色にしか見えない。その上、メガネのせいでアクアマリン色の瞳は、ブルーというよりも灰色に見えるため、全体的に陰気な感じだ。
言われた服装の私を見た両親はびっくりしていた。
「大人しドレスに、三つ編みでは確かに野暮ったく見えるわね」
お母様は私を見てそう言った。
「普段とは別人に見えるでしょ?」
グラファント夫人はにっこり笑った。
「これでやっと婚約解消できるのね」
晴々とした気持ちで呟くと、お母様が困った顔で私をみた。
「婚約してからほとんど会ったことの無い婚約者に、悪い噂を流されて私も本当に頭にきたわ。でも相手は侯爵家。学園にも行きたくない理由を聞いて胸が痛んだのに、してあげられる事が何もなくてごめんなさい」
お母様は私の手を握って謝ってくれた。
「大丈夫よ。今日、婚約解消をするんだもの」
そう言って笑った私に向かって、
「アンネッテ嬢、相手に頭にきても本気を出してはならんぞ!アンネッテ嬢の本気に耐えられる男は、本当に鍛えている奴だけじゃ」
グラファント先生が念を押すので、私は頷いて、そして馬車で出発した。
ローズガーデンはエリアごとに区切られていて、一部分の貸切ができる。
今日のローズガーデンは貸切でいっぱいだったようで、オープンスペースのテーブルの予約になっており、そちらに通された。
私とお父様が到着してしばらくてアンデル侯爵様と、私の婚約者のレオン様が連れ立ってやってきて席に着いた。
5年ぶりのレオン様は、背が高く線の細い青年になっていた。
相変わらず、綺麗な顔をしていたが、好きでもない婚約者とのお茶会に呼ばれたのが納得できなかったのか、不機嫌さを丸出しにしていた。
「早速だが、グリーグ子爵、話というのは持参金の事だとか…」
アンデル侯爵様は話を早く終わらせたいのか単刀直入に聞いてきた。
「はい。可愛い娘を嫁がせるわけですから、やはりちゃんと交流があるのか知りたいと思いまして娘に聞いたところ…顔合わせ以降は何の交流もないと。
誕生日などはメッセージカードすら届かないと申しておりまして。そうような状態で、娘を嫁がせるのは…」
父は冷や汗をかきながらそこまでをしどろもどろで言った所で、入り口の方から数名の女性がこちらに向かってきて、レオン様の周りに立った。
「あら、レオン様!ご機嫌よう。今日も素敵なお召し物ね」
派手な巻き髪の女性がそう言ってレオン様の肩に手を置いた。
巻き髪の女性と共に立っている大きな胸の女性は、勝手に椅子を引いて座ると、アンデル侯爵様の膝に手を置いた。
「レオン様のお父様ね。はじめまして。私、侯爵様みたいな方が好みなの!」
女性達は好き勝手に話しているのでよくわからないが、この一団は先日、レオン様とパーティーで知り合ったらしい。
流行の最先端の服装と髪型の美女の集団と遊んでるなんて、レオン様はすごくモテるのね。
女性の集団は一通りレオン様に媚びた後、私を見た。
「ところで…この方は?そのメイクや髪型。フフフフ。もう少しマシにはなりませんの?レオン様、今日は皆でシャンパンパーティーの約束でしょ?ねえ、この野暮ったい人はほっといていきましょう?」
女性の誘いにレオン様は笑顔で立ち上がって、
「じゃあ、顔は合わせたし義務は果たしたから」
と言って立ち去ろうとした。
そこまであからさまに私を馬鹿にしなくてもいいのに。普段、私はこんな服装や髪型はしないもの。
でも、今日はおとなしくしていなさいと言われてたから反論はしない。