貸切の理由
今日は複数話投稿していますので、順番を間違えないように読んでください。
こちらは4回目の投稿です
さあ、また今日から頑張らないと。
おかみさんの話では、今日が演習の日だから、今日が終わればもう普段の街に戻るだろう。
ただ、演習後に一泊する部隊が大半のため、今日が本当の稼ぎ時らしい。
身支度をして花屋へと向かう。
勤めている花屋は、市場の出入り口で人通りの多い大通り沿いにあり、賑やかな場所だ。
今日は小さな花束をいっぱい作る。
「演習が終わった軍人さんが、恋人と待ち合わせをしていてプレゼントで買ってくれたり、夜のお姉さんに渡すために買ってくれたりするから、今日は稼ぎ時だよ」
花屋のおばさんはそう言っていたが、花束を半分くらい作ったところで午後に全部売れてしまった。
「こんなに早く売れてしまうなんて珍しい」
と店主はホクホク顔だ。
「食堂の方が大変だろうから手伝いに行きます」
と言って食堂に行くと、本当に忙しそうにしていた。
「夜は貸切の予約が入ってね。料理はブュッフェスタイルでいいからって。通常の売上の3倍の値段を提示されたんだよ。しかも前払いさ!」
「すごい!じゃあ私も手伝いますよ」
「そうしてくれるかい?相手方の条件があってね。お皿を出したり、グラスを準備したりする人員は減らさないでくれって」
おかみさんの言葉に、レオン様の部隊ではない事を祈りながら手伝いをした。
カウンターに出来上がった料理を並べて行く。
ビュッフェ形式だから、グラスもどんどんと並べた。
「ああ。なんかお酒なんかは少し持ち込みたいみたいでね、グラスはそんな並べなくていいよ」
「持ち込みですか!」
「そう。持ち込み料も払ってくれたよ」
おかみさんはニヤッと笑った。
夕方、お店の前に『貸切』の看板を出してしばらくしてからだった。
数人の感じのいい男性が入ってきた。
「今日はよろしくお願いします」
男性達はそう言うと、シャンパンを並べた。
…このシャンパンの銘柄知っている。
皇太子殿下が国王陛下の公務復帰をお祝いした時のシャンパンだ……。
一瞬動揺してしまったけど、お酒はどこでも売っているから偶然だ。
そして男性達はシャンパングラスも並べた。
その時、ひとりの女性が入ってきた。
歳の頃はお母様よりもう少し上くらいかしら。
男性達は敬礼をしているので上司の奥様かな?
だんだんと人が集まってきた。
最後に入ってきたのは、なんとブラウン団長だった。
と言う事は、あの女性はブラウン団長のお母様だ!
何度もお屋敷に伺ったけど、お母様はお会いした事ないもの。
ここにいるのは遠征用の服を着た第二騎士団員で、今から始まるのは遠征の慰労会なんだわ。
ブラウン団長は私の素顔を知らないし、立食パーティーで忙しいから私の存在自体に気がつかないだろう。
そう思って、眺めているとパーティーが始まった。
基本的には皆、エールを飲むのでシャンパンを開けない。
こんなに沢山並べているのに。
楽しそうに飲んだり歌ったりしている騎士団員を眺めていると、ブラウン団長のお母様が私に気がついた。
「お嬢さん、こっちにいらっしゃい。ほら一緒に食べましょう?おかみさんもね?」
そう言ってくださったので、私達はお言葉に甘えて呼ばれるがまま席に着いた。
その時、誰かが遅れて店に入ってきた。
「お嬢さん、お名前は?」
「アンネッテです」
「あら!いい名前ね。息子の好きな人もアンネッテっていうらしいわ」
びっくりしてお母様の顔を見る。ブラウン団長の恋人はベアトリス嬢じゃなかったの?
どこのアンネッテに鞍替えしたのよ!
「まさかそんな偶然!」
そう答えると、ブラウン団長のお母様は笑った。
その視線は私の後ろを見ている。
私も、なんとなくその視線に合わせて後ろを振り返るとそこにはエルドレッド殿下がいた!
膝をついて私と視線を合わせた。
「アンネッテ・グリーグ嬢。愛しています。どうか私と結婚してください!」
そう言って差し出されたのは昼間私が作った花束だった。
びっくりして固まっていると、エルドレッド殿下は緊張した顔をしてじっと私を見た。
「アンのいない日常は本当に辛くてつまらなくて……。広域課や、ブラウン団長の力を借りてアンを見つけた。でも、解決しなければいけない問題が山積みで、アンに会いに来れなかった」
その真剣な眼差しに押されて私は花束を受け取ってしまった。
「まず、母上を見つけ出した。やはり暗殺に怯えて姿を消していたが、なんと王城の掃除婦になってずっと城に住んでいたんだ!」
そう言われてびっくりして向かいに座るご婦人を見た。
「私は貴方の先輩なのよ?」
と言ってウインクする姿は、可愛らしいオバサマだった。
「それから、黒幕を突き止めた。第二王妃と結託していたのは法務大臣のエンリケ公爵だった。信用していたから本当に裏切られた気分だよ」
皇太子殿下の声は張り詰めていた。
「私はアン以外を妻に迎えるつもりは無いので、皇太子を辞退して、単なる王子の一人になった。今は皇太子不在だ。もうアンがいない生活は考えられない。アンを愛してるんだ。だからお願いだ。私と結婚してほしい」
「……はい……」
私の返事を聞いて、エルドレッド殿下は私を抱き寄せてキスをした。
そして、大きなダイヤモンドの指輪を左手の薬指にはめてくれた。
その瞬間、歓声が上がった。
「アンの作る花束を誰にも渡したくなくて、昼間ここのみんなに買いに行ってもらったんだ……」
そう言って店内を花で満たした。
「エル!いいの?私は子爵家で」
と言うと、エルドレッド殿下のお母様が口を開いた。
「大丈夫よ?私も子爵令嬢だったから」
第一王妃は私を見てフフフと笑った。
おかみさんだけがイマイチ状況が掴めていないようだ。
「アンネには心に決めた人がいたんだけど、喧嘩か何かでここに身を然寄せていたんだね」
と私を見て言った後に、第一王妃を見た。
「貴方の息子さんがプロポーズしたのかい?男前だねえ」
と感心していて、ここにいるのが誰なのかわかっていないおかみさんに対して、みんな当然だよねと言う空気になっていた。
「みんな!アンネッテ嬢が、第一王子のプロポーズを受けたぞ!」
ブラウン団長の言葉で、沢山あったシャンパンが開けられて、そのシャンパンで乾杯をした。
なんとこれは王室専用のシャンパンだったらしい。
半年ぶりのお酒に少し顔を赤らめてしまった。
この後、みんなで踊ったり歌ったりして終わった。
酔っ払ってしまった私を第一王妃様が、下宿先に連れて帰ってくださったようだ。
エルドレッド殿下が送ったのでは大家さんが「何かあったのでは」と心配するかもしれないとの配慮からそうしてくれたらしい。
いつも、色々な気をつかってくれる。
朝起きると大家さんのおばあちゃんが笑っていた。
「昨日、お母さんが連れて帰ってくれたよ。また朝来るってさ。すごい美人なお母さんだね?あの新聞で見る王妃様に似てたねー」
と言っていたので笑いそうになったけど、我慢した。
「そうでしょ?似てるでしょ?」
私はそう答えてから指輪を見せた。
「ねぇ、大家さん。昨日、プロポーズを受けたの」
おばあちゃんは指輪を見て驚いていた。
「あらまぁ!なんと大きなイミテーションダイヤ。こんなに大きい本物なんてありゃしないよう。見栄っ張りだねぇ。でも、よかったね」
そう言って抱きしめてくれた。
確かに本物には見えない大きさだわ。
大家さんに抱きしめられながら左手を確認する。
そこに玄関の呼び鈴の音がした。
「はーい」
開けると、そこには王族の格好をしたエルドレッド殿下と、第一王妃が立っていた。
後ろには第二騎士団が控えている。
あまりの出来事におばあちゃんは固まった。
「アンネッテの大家さんですか?今までありがとうございました」
エルドレッド殿下はそう言って王族の礼をした。
「このままお世話になった方々に挨拶をして、アンネッテを連れて帰りたいのですがよろしいですか?」
おばあちゃんがその勢いに押されて、
「はい」
と返事をすると、エルドレッド殿下はにっこりと微笑んだ。
「ではアンネッテの帰宅の準備をさせて頂きます」
と言うと、その後ろからオリアーナと数人のメイドが出てきて私と一緒に部屋に入った。
私がオリアーナに簡単なヘアパックを施されて服を着替えさせられて、メイクをされている15分で部屋は片付いてしまった。
「あの、クローゼットの奥の靴と鞄は今使ってもいいですか?」
と聞くと、オリアーナが靴を見てすぐにメーカーがわかったようだ。鞄は渋々了承してもらった。
15分後、部屋から出てきた私を見て大家さんのお婆ちゃんは驚いていた。
「アンネ!美人だとは思っていたけど、本当に……私は言葉が出ないよ。おめでとう、幸せになってね」
「ありがとう!本当にありがとう。どこの誰だかわからない私を住まわせてくれて」
おばあちゃんとハグをして別れた。
それから花屋さんに馬車で向かった。
「その鞄の猫、大切にしてくれてたんだね」
「ええ。私にとって大切な思い出だから」
皇太子殿下は流石に靴には気が付かなかったけど、これはあの毒を飲んだ日に履いていた皇太子殿下と選んで買った靴だった。
これも私にとっては大切な思い出だ。
大通りに、豪華な馬車が2台と騎士団の馬車が数台停まったので何事かという雰囲気になったが花屋さんに入った。
「いらっしゃいませ。まだ開店準備が終わってなくて……ってアンネかい?どうしたのさ、その格好」
「おばさん、突然申し訳ないんだけど、私プロポーズされてね。突然、戻らないといけなくなったの。だから突然やめてしまうのだけど、ごめんなさい」
と言って指輪を見せたら、びっくりされた。
高いドレスと指輪を見て、どこかの成金のおぼっちゃまと結婚すると思ったようだ。
「お金持ちを捕まえたのかい?あんた美人だからね。いいよ、元々一人でやっていた店だしね。あんたの幸せを願っているよ」
そして、おばさんは外に出てびっくりしていた。
馬車を護衛しているのは王国の騎士団員だからだ。
私はおばさんに手を振った。
おばさんも手を振りかえしてくれた。
最後に見えたのはいつもの常連さん達が、何事か?とおばさんに質問しようとしている様子だった。
最後にもう一度食堂に来た。
中に入って行くと、おかみさんは開店準備をしていた。
給仕のお仕事の人はまだ来ていない様子だ。
「おかみさん」
「アンネ!誰かわからなかったよ。どうしたんだい?」
「昨日、気がついたかもしれないけど……。私戻らなきゃいけないの。だから突然店を辞めることになってしまうのだけど」
「いいよ。そんな事。相手の騎士団員はきっと地位の高い方なんだろうねぇ。将来はどこかの領主様にでもなるとか?そしたらアンネは領主夫人だねえ」
と言って笑った。やっぱりおかみさんは気がついてない。
その時、皇太子殿下が王族の服装で店内に入ってきた。
そこで初めて、昨日私にプロポーズした相手が王族だと気がついたらしい。
おかみさんは口を押さえてびっくりしている!
「まさか!昨日プロポーズしていたのは……」
「いつか近いうちにこっそり来るから大騒ぎしないでね」
私が言うとおかみさんはうんうんと頷いた。
「アンネ!あんたすごい人の所に嫁ぐんだね。絶対に幸せになるんだよ」
と言って抱きしめてくれた。
おかみさんと別れて馬車に乗る。
「みんないい人達だね」
エルドレッド殿下は言った。
「この街でよかったわ」
私はそう返事をした。
エルドレッド殿下と私は2人で馬車に乗り、後続の馬車には第一王妃とオリアーナを含め3名の侍女が乗っている。
侍女達は王妃様が快適に過ごせるようにするために、オリアーナは王妃様の護衛のようだ。
王妃様はプロポーズを断った私を見てみたくてついてきたらしい。
2度目のプロポーズが大規模演習の時だったのは、騎士団員を大々的に動かし、自らも王都から出る方法はこれしかないという判断だったようだ。
演習の会議に参加するという大義名分を掲げて出てきたらしいのだ。
第一騎士団は相変わらず国王陛下の周辺の警備にあたっているので、ブラウン団長率いる第二騎士団を動かせたのも功を奏したらしい。
なかなか投稿ができない日々が続いて不定期更新になっていた分を一気に投稿しました。
すいません




