毒を飲む
今日は一気に複数話投稿していきますので、順番を間違えないように読んでください。
こちらは1回目の投稿です
決行の前夜、いつものように打ち合わせのために皇太子殿下の部屋を訪れた。
「アン、本当に明日は大丈夫か?」
「もちろん。むしろ、下手な演技でバレないか心配です」
私がおどけて見せると、エルドレッド殿下は私をぎゅっと抱きしめた。
「このお礼は必ずする」
真剣な声の殿下に少し驚いてしまった。
「あの毒は1リットルくらい飲まないと死には至りませんから大丈夫です」
「でも、アンが苦しむ」
「いいえ!国王陛下に護衛を差し向けるためには必要な事ですから覚悟を決めます。では、おやすみなさい」
私はそう言って自室に戻った。
明日はいよいよ毒を飲まないといけない。
次の日、私は清々しい気持ちで目が覚めた。
選んだ毒は1日は寝込む。その間に、国王陛下の護衛を抜かりなく強化するというシナリオだ。
今日着るドレスは、皇太子殿下と一緒にこれ見よがしにドレスショップを馬車で回って決めた。
もしも、デザインした物を作ってもらったら、もしもの時に疑われる。
その可能性を排除するためだ。
にしても、宝石まで買ったのはやり過ぎだと思うが殿下は楽しそうだった。
念には念を入れて、いくつもの可能性を考慮して決めた。
私は、皇太子殿下が用意してくれた毒を袖に隠して、仮面をつけて参加する。
今回の晩餐会は招待客は1000人。そのため給仕は沢山いて、晩餐会にも関わらず、席順は決まっていない。
いわばお祭りみたいな物だ。
お祭りなので、席は2人1組で、クジで決まる。
良い席には良い料理を。
末席にはそれなりの料理を。
しかも、仮面をつけて参加するので、最後まで王族がどこにいるかわからない事もしばしばだ。
たから、毒見は、全ての鍋の料理を毒見する。
一品目、前菜。
テリーヌは、皇太子殿下が自分の皿から一口食べさせてくれた。
これからご自身も食べる。本当に毒が入っていては困るので念には念を入れて。
お祭りだからマナーはうるさくない。
それに1000人もいればマナーなんて誰も見てやしない。
二品目、スープ。
私は袖からサラッと毒を入れる。
そして一口食べて……。
「ゔあぁぁぁ!」
あまりの不味さに悶絶して倒れた。
そこまでは覚えているが、気がつくと、王室の私の部屋だった。
「シェリル!ああ気がついた!」
皇太子殿下が心配そうに私を覗き込んでいた。
その後ろには、薬師がいる。
「神経毒ですね。目覚めてよかったです。あの後、胃の洗浄をして、解毒剤を飲んで頂きました。よほど飲まされた毒が不味かったんでしょう。弱毒性の割には悶え方が凄かったですよ」
と医師に、恥ずかしい報告まで受けた。
毒は弱かったけど、悶え方が異常だったと。
「しばらく、食後にはこの薬を飲んで過ごしてください。毒は弱かったし、口に入れたのも少量でしたから、もう回復してると言ってもいいでしょう。食事制限はありませんよ」
そう言って医師は部屋を後にした。
「君達も下がっていいよ。何か有れば呼ぶから」
と皇太子殿下はメイド達も下げさせた。
2人きりになると、皇太子殿下は気を許したように笑顔を見せた。
「よかった……。わかってはいても、苦しむ様を見ているのは辛かった。回復してくれてよかった」
なんか捨てられた犬みたいな顔してる。
フフフ私は思わず笑ってしまった。
「何がおかしいんだ」
「なんでもありません。ところで国王陛下の護衛の件は上手くいったのですか?」
「ああ。アンのお陰でね」
「私が倒れた後はどうなりました?」
「予想通り、一旦は解散したよ。来年は、厳重に毒見をするそうだ。やはり弱毒性の毒だから暗殺未遂とまではならずに愉快犯の犯行となった。まあ当然だが、捜査しても犯人は出ないだろう」
国王陛下の警備が厳重になったのはよかった。
私は安堵して微笑むと、皇太子殿下も微笑みかけてくれた。
その笑顔を見ながら目を瞑る。
「ゆっくり休むといいよ」
そんな声が聞こえた気がした。
「なっ!なんだあれは?」
そんな声が聞こえた気がして目が覚めた。
皇太子殿下は私が眠った後、部屋を探検したらしい。
そしてアレを見てしまったのだろう。
「エルドレッドでんかぁ。見ちゃいました?」
私の声に、赤面した殿下が戻ってきた。
「ああ……アレはなんだ?」
皇太子殿下が指差したのは部屋の一角にあるクロークだ。
でも、残念ながら普通のクロークではない。
ガラス張りのクロークだ。
そこにセクシーでヒラヒラなナイトドレスがこれ見よがしに何枚も飾ってある。
まるで、これを着ろというように。
「ある日、お出かけから戻ったらああなってました。これを着て誘惑しろというビアンカ様からの指示かと思います」
「諜報員とはそこまで求められるのか?」
「そんなはずありません。私が選ばれた時、『皇太子妃候補がいなくなった』と仰っていたので、ビアンカ様の中では私は皇太子妃候補なのでしょう」
「参ったな……」
「本当に参りましたね」
そう言って2人で笑った。
この後、私の様子を見るメイドと交代して、皇太子殿下は自室へと戻っていった。
次の日、体調も回復して元通りの生活に戻れた。
ビアンカ様やグラファント夫人からは毒見係としてよくやったとお褒めの手紙が届いたし、ベアトリスからは心配する手紙が届いた。
自作自演で心が痛んだけど、心配してくれたお礼の手紙を出した。
この日の夜、一旦相談事が無くなったので、皇太子殿下の部屋へと向かわなかったらノックの音がしてドアが開いた。
続き間の鍵は、気がつくと閉めなくなっていたのだ。
「アン。体調はどうだ?」
「もう大丈夫です」
「上手く行ったお祝いをしないか?」
そう呼ばれて皇太子殿下の部屋に行くと、豪華なフルーツやチーズ、生ハムなどが載ったプレートとシャンパンが置いてあった。
「回復祝いをしたいと言って用意させたんだ」
と少し恥ずかしそうに言う殿下がいた。
「フフフ。ありがとうございます。エルドレッド殿下」
「もう、2人でいる時はエルでいいではないか?友達だろ?それに敬語もやめよう」
「わかったわ。エル」
この日、初めて、友達として話をした。
小さい頃好きだった小説や、今興味がある事など。たくさんたくさん、話をした。
それから1週間ほどして、国王陛下への毒味や見張りを強化した結果、薬がすり替えられている事がわかった。
犯人を捕まえて、これから詳しい話を聞くそうだ。
……多分、穏便には行かないだろうな。
ここから糸口が掴めそうだと期待を寄せたが、第一王妃失踪については、なかなか進展がない。
その上、薬をすり替えていた人物は、「薬の業者が変わった」と聞かされていただけだった。
しかも、「安全を期して定期的に業者を変えている」とも聞かされていた。
残念ながら、誰が業者を手配しているのかは全くわからなかった。
その理由は、指示は皇太子殿下から出ている事になっていたのだ。
ご丁寧に、筆跡を真似た指示書が出てきた。
「これでは、エルドレッド殿下が黒幕だと思われかねませんね」
と言うと、殿下は項垂れていた。
この日を境に、国王陛下は少しずつ体調が良くなっていった。3年間も寝たきりだったので、体力は衰えてはいたが、幸いにも意識ははっきりしており、起き上がれる日も増えてきた。
国王陛下の回復は喜ばしい事だが、第一王妃の手がかりは未だない。
そのため、私とエルドレッド殿下は、ブラウン団長からもらう、情報を元にいろいろな施設に足を運んだが、今のところ第一王妃の発見には至っていない。
今は、ブラウン団長という心強い味方が出来たので、殿下はラーシュさんに変装するのをやめた。
ラーシュさんは騎士団を休職している形を取ったようだ。
「なんで変装を止めるんですか?」
「二重生活をしていたのは、一人で色々と調べていたからだ。今はブラウンや、アンがいる。一人で動かなくても良くなったし、父上を支えたい」
「そうですよね。国王陛下に会いに行ったり、お支えする時間は大切ですものね」
「それに、こうやって毎晩、アンと話ができる。一人で頭を巡らせているときよりも、いい考えが浮かぶし、話す事によってストレス解消にもなる」
その返事を聞いて、フフフと笑った。
いつのまにか毎日、殿下の部屋で1時間くらい一緒に過ごすのが日課になっている。
最近では、同じ部屋に居ても、お互いに本を持ち寄り黙々と読書をする日もある。
ラーシュ隊長への変装をやめた殿下は、地毛をもとの髪色に戻して、ウィッグを被るのをやめた。
短い地毛を黒色からハチミツ色に戻し、公務の時はオールバックにする様になった。
そんな殿下をじっと見る。
「どうした?何かあるのか?」
「なんでもないです。国王陛下が少しずつ良くなってきたので、エルも元気になってきましたね」
「そうだな。あとは母上が見つかれば……」




