策略は慎重に
オリアーナはブラウン団長のお屋敷にいるはずなので、どこにも寄り道をせずに向かった。
ブラウン団長の屋敷に着くと、すぐにブラウン団長自らが開けてくれた。
「お帰りなさいませ」
ブラウン団長はそういうと、皇太子殿下の着替えのため、別室へと向かった。
私もシェリルの服装に戻るために着替えをする。
そして、サロンに向かうと、オリアーナがいた。私を見ても無視だ。
私が広域課に所属している事は、ブラウン団長とベアトリス嬢は知らない。
確かに、今まで皆に説明した話は、私の一方的な物言いだから、オリアーナから話しかけなければ、私達が知り合いだとは悟られない。
程なくして皇太子殿下も、元の殿下の服装で戻ってきた。
「オリアーナ。私は先程、グレアムに会ってきた。君の事を心配していたよ。私としては、何故、誰かいるように偽装工作をしているのか知りたい」
「それはお伝えできませんが、皇太子殿下がおっしゃっている第一王妃の失踪の件とは無関係です。私は王妃様が行方不明とは知りませんでした」
「そうか……。では、元の屋敷に送って行くよ。無理矢理連れ出して悪かった……。グレアムは元気そうだった。会えてよかったよ」
「そうですか。それならよかったです」
その後、オリアーナには元いたお屋敷に戻ってもらった。
「後日、ブラウンにはまた手伝ってもらいたいので追って連絡する」
「かしこまりました」
「……今日、気になる事を言われた。本人が軟禁されている事に気づいてないのではないかと。そこに住んでいて、人払いされた時のみ父の見舞いに行く。それは可能か?」
「そうですね。確かに不可能とは言い切れませんね。少し調べてみます」
「ここまで巻き込んでしまってすまない。よろしく頼む」
皇太子殿下の口から『すまない』なんて言葉が出てきたので、ブラウン団長は慌てた。
王族は何があっても謝らないものだと教えられているはずだから。
「私が好んで色々と調べているだけですからお気になさらずにお願いします。今後の連絡はベアトリスからシェリル嬢宛に手紙を送ります。私から皇太子殿下に送っては勘繰られてしまかもしれませんから」
「そうだな。シェリルは今、王城に私の客人としている。なので王城に送ってくれればよい」
「そうさせて頂きます」
「では、私たちは行く」
私と皇太子殿下は何事もなかったかのようにブラウン団長の屋敷を後にした。
馬車の中で気になっていた事を質問した。
「国王陛下の毒は特定できたのですか?」
「嫌。まだだ」
「もしも、先ほどの話ですが、内通者がいたとしたら。国王陛下に毒を盛り続けているのではないですか?」
「その仮定の通りだとして。私はどうしたらいいと思う?」
「私が毒味ができたらいいのですが、そうもいかないでしょう。だから、皇太子殿下が毒味を買って出ればいかがですか?すると、必然的に私が口にして、皇太子殿下が食べたものだけが、国王陛下の口に入ります」
「エルドレッドと呼べと言っているだろ」
私の提案に対して、皇太子殿下は考え込んだ。
「確かに。毒を探すにはそれしかないかもしれない」
「それでも、服薬の水や、そのほかに私達の知らない時間に何か口に入れているのかもしれません。ここは第一騎士団を動かしてでも24時間監視すべきでは?」
エルドレッド殿下の声は真剣だった。
「どんな理由をつけて第一騎士団を動かす?」
「……エルドレッド殿下のお食事に毒を盛りましょう。そうすれば私は毒見で倒れます。それはつまり。正規の毒見の後に毒が盛られた事になる」
「成程。すると、父上にも同じ事が言えると大義名分がつけられると」
「ええ。2ヶ所から探った方がいいのではないでしょうか?」
私はいい案を思いついたとばかりにガッツポーズをしたが、エルドレッド殿下の声はそれを否定するものだった。
「アンに毒を盛るなど私には出来ない」
「エルドレッド殿下は気にしないでください。そうでもしないと、国王陛下のお口に入れるものを監視はできないでしょう?」
「わかった。では、いつ行う?」
「早ければ早い方が」
「申し訳ない。苦しませる事になる」
殿下は私の手を心配そうに握ったので、私は笑顔を見せた。
「君は強いな」
「ええ。エルドレッド殿下の護衛ですから。そのかわり、回復したら美味しいものを、沢山食べさせてくださいね」
「たったその程度でいいのか?」
「その程度ではありません。私の家は裕福だったとはいえ所詮は子爵家。だから、お口に入れるものがどれも豪華でびっくりしてます」
皇太子殿下は笑った。
「アンと私とで行う事だから、誰にも迷惑はかけないようにしよう。間違っても冤罪で誰かが罰せられないように気をつけよう」
「もちろんです。正規の毒見係の後、お料理に誰でも近づける場合ってどんな時ですか?」
皇太子殿下と2人で色々なケースを想定して計画を立てる事にした。
こういう事は、急いで行って杜撰な結果に終わるのが一番最悪だ。
この話は紙に残せないし、人に聞かれないようにしないといけない。
そのため、夜、あの続きドアを開けて皇太子殿下の部屋で相談する事になった。
「何か摘みながら話せるように、食べ物を用意しておく」
エルドレッド殿下の言葉に私は目を輝かせた。
「おつまみですか!王城のおつまみって何かなー」
「おいおい、食べ物に気を取られない」
夜、就寝の準備をしてくれる侍女にそれとなく聞いてみる。
「あの。もう少し生地の分厚いナイトドレスってありませんか?ここにご準備頂いたものはどれも……あのヒラヒラであまり暖かくないというか。何というか。着替えた後ではバルコニーから外を見るのもちょっと」
私の言いたい事が伝わったかどうかはわからないけど、鏡越しににっこり笑った。
「かしこまりました。明日からご準備いたします」
明日からなのね……。今晩欲しかったのに!
「ええ。よろしくお願いします」
そう伝えると、メイド達は部屋を後にした。
今晩、どうしてもナイトドレスが欲しかったのにー!
でも、無いものは仕方がない。
バスローブのまま内鍵を開けてドアをノックすると、エルドレッド殿下が開けてくれた。
ズボンタイプのナイトガウンを着ており、ちゃんと部屋に迎え入れる準備をしてくれていたようだ。
やはり、先日見た通り、沢山の本が置かれており、普段から勉強熱心なのがわかる。
「アン、バスローブ以外の物を着たらどうだ?」
「それがあったら苦労はしないわ」
と答えると、皇太子殿下は不思議そうな顔をした。
「つまり、これしか着るものがないのよ」
私はこれ以上この話題に触れないように、テーブルの上を見た。
「あら!ドライフルーツや、干し肉。美味しそう!」
「だろ?私の好きな物ばかりだが、アンの好みの物を聞けばよかったと後で後悔したよ」
皇太子殿下はおどけて見せたので、私はクスッと笑う。
「そうね。子供の頃、お腹が空いて夜調理場でヤギのチーズをこっそり食べたのが美味しすぎて忘れられないわ」
そう言って私もクスッと笑う。
「座って食べながら話そう」
皇太子殿下の横の席に座ると、ホットワインを出してくれた。
「アルコールは抑えてあるよ。酔ってしまったら相談ができない」
私達はこの後、毒の調達方法、解毒剤は常備されているか。
誰かが犯人に仕立て上げられないか。
など、色々なケースを想定した。
相談は2時間くらいかかり、それが終わると私は自室へ戻った。
このような相談が数日繰り返された結果、気を失うくらい苦いけど、弱毒性の毒を選ぶ事に決まった。
この頃になってくると、私が毒見をしないと皇太子殿下は何も口をつけない事が周知の事実となった。
王室の料理人には、私が手をつけた同じ皿からでないと食べない事も印象付けた。
これで、何があっても私と皇太子殿下の食事を別に作る事はあり得ないだろう。
肝心の毒は、ラーシュとして任務についた時に、皇太子殿下がこっそり買ってきてくれた。
そして、次の晩餐会のスープに入れる事が決まった。




