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執事の言う事に驚きを隠せない

その男性は私の近くまで来ると立ち止まった。

「オリ……アーナ?……」

明らかに動揺している。という事は、私がオリアーナではないと気がついたんだ!

私は、直ぐにでも戦闘体制に入れるように、脚に力を入れる。


しかし、男性はにっこり笑った。

「久しぶりだね。この便箋か!ああ、何が言いたいかわかったよ。それよりも、君の植えた木が今年やっと花をつけたんだ!せっかくだから君に見てほしい」

そう楽しそうに言って私の手を引き庭に出た。


屋敷から少し死角になる位置に来ると、私の手を離した。

「君は誰なんだ?オリアーナに何かあったのか?」

私は何も答えない。

このオジサン誰なの?たしかに、年の割に燻銀でカッコいい。

オリアーナの事を深く知る人物?


どうしたらいいか考えていると、草むらがガサガサと揺れた。

小さな声が聞こえる。

…皇太子殿下が何か言っている?

「グレアム」って聞こえる。……「こっちに来い」?

小さい声だから、よく聞こえないけど、皇太子殿下はもっと死角に入れと言ってるんだよね。

私は、このオジサマ執事の手を取り、屋敷からは死角になる位置に立った。


すると生垣からそっと皇太子殿下が出てきた。

「数年ぶりだな、グレアム」

小さな声で皇太子殿下はオジサマに話しかける。

「……エルドレット殿下!とうとう見つかってしまった……」

オジサマ執事は項垂れたが、ちょっと悲しそうな顔をしてこちらを向いた。

「では、この女性は殿下の護衛ですか。ここで立話も何ですから、このまま少し先に進みましょう。海が見える所でお話しましょう」

その言葉に、皇太子殿下は頷く。


そして、誰にも見つからないように綺麗に手入れされた庭を進む。

「これは全部レモンの木です。レモンの収穫の時期は忙しいんですよ?」

男性はそう言いながら開けた場所に案内してくれた。


「ここら辺だと、今の時期は使用人は来ません」

男性がそう言った場所は、高台の上の海が見渡せる場所だった。

「そうか。……故人であるグレアム・デスタン侯爵。君の葬儀に私は出席した。何故……?」

皇太子殿下の言葉に驚いて、オジサマを見た。

この人がオリアーナの旦那様だった人……。


「ここは私の生家なんです。私はデスタン侯爵家とは血縁がありません。母が、王宮勤めの時、とある王族にそそのかされて出来た子供なんです。ああ、王族と言っても、先先代王の弟の子。つまり、貴方の曾祖父様の弟のお子様が父になりますから、殿下とは遠い血縁くらいですね」

男性はふっと笑った。


「そんな、子供を押し付けられたのが、お人好しのデスタン侯爵夫妻。つまり私の育ての両親です。そんな私が侯爵家を継ぐのはおかしい。ただ、私が私生児である事は、誰も知りません」

私達は何も言えずに話を聞いた。


「だから、私に出来ることは、デスタン侯爵家の資産を増やして弟に譲る事。だからいい年まで、独身を貫きました。そんな時、外交先で諜報員として派遣されてきたオリアーナと知り合ったんです」

「そうだな。私の知るデスタン侯爵は、すごく女性人気が高いのに、誰にも興味を示さない人だった」

皇太子殿下はそう言ってオジサマを見た。


「あの時、オリアーナは、自立しようと必死でした。だから交換条件を出したんです。1年間、妻として務めてくれたら、貴方にまとまった資産をあげましょう。そのかわり、私を死んだ事にしてくださいと」

私はオジサマの気持ちがわからずに首を傾げた。


「君達にはわからないかもしれないが、あの時の私の目標は、円満に正当な後継者である弟に家督を譲る。それから、実の母と、母の生家を買い戻して住む。残念ながら母は認知症で私の事はわかりません。でも、その二つを叶える事だった」

オジサマは海を眺めた。


「それで、私の死を偽装してもらった。そうすれば弟に円満に資産を移せる。ここを含め、オリアーナの所有になっている物は、私が増やした資産の一部です。だから円満に家督を譲れた。今は、この屋敷の管理人であるユーリとして執事をしています。ユーリは実の母がつけた名前で、ミドルネームです」

その言葉を聞いて皇太子殿下はあの手紙を出した。


「では、この天気の話ばかりの手紙は……。」

皇太子殿下の言葉を聞いてオジサマは手紙を手に取った。


「オリアーナだけで偽装は無理だから、交友の深いダンプド公爵にも偽装を手伝ってもらったんですよ。それから手紙のやりとりを続けていますが、誰かに見られても大丈夫な内容になっていまして。……オリアーナに何かあったのですか?」

オジサマは心配そうに聞いてきた。


「嫌。何もない。ずっと前から母上が行方不明なんだ。オリアーナが何か知っているのかと。そう勘繰ったのは、王都のオリアーナ所有の屋敷で、病気の女性を罹っていると言う偽装工作をしていた。でも実際は誰もいなかった」

皇太子殿下の言葉にオジシマは考え込む。


「だから、アリーナを意のままに動かせるダンプド公爵のこの手紙を見つけて、ここまで来たんですね。検討違いですよ」

「そうだったようだ。そもそも、母上が消えた辺りから、ダンプド公爵周辺が慌ただしくなって。それで犯人ではないかと目星をつけたんだ」


「私が犯人なら、第一王妃を王都にある王宮に程近い建物に移動してもらって、贅を尽くしてもらいますね。命を狙われないために、とかなんとか理由をつけて。そして、誰もいない時をわざと作り出して、国王陛下のお見舞いに行ったりして。そうしたら本人は攫われていると気がつかない」

オジサマの言葉に、皇太子殿下はハッとした。


「成程。本人が気がついていない!盲点だった」

「いえ。皇太子殿下、お会いできてよかったです。私が勉強を教えていた時とは見違えました」

「私も、グレアムに会えてよかった」

「……こんな事を聞くのも変な話ですが。オリアーナにいい人は見つかりましたか?私達は契約結婚、いわゆる白い結婚ですから。早く、いい人が見つかってくれれば」


2人の男性は私を見た。何か知ってると思っているのかな?

「オリアーナ様の部下として日は浅いですが過ごさせていただいてますけど。特定の方はいらっしゃらない様子ですが、あの美貌と資産のせいで、再婚をしてはどうかというお見合いの案内はよく来るようです」

私の言葉にオジシマはちょっと笑顔を見せた。

「そうか。君が部下という事は、まだ広域課にいるんだね。……風が出てきたようだ。そろそろ戻ろう。君達も帰った方がいい」

そう言って、オジサマは、正門を通らずに敷地から出られる道を教えてくれた。


私達は馬に二人乗りをして、その敷地から出る。

教えてもらった道は木々の間を抜けていく林道だった。

私は前に乗り、皇太子殿下が後ろから支えてくれている。


しばらく無言が続いた。


「シェリル。ありがとう」

皇太子殿下が突然、そんな事を言い出した。

「いえ、お気になさらず。これも護衛の仕事? だと思う事にします」

その返事に、フフフと笑う。


「君が、あの噂の『根暗で人を妬む、金の力を使って婚約者を決めた性格の悪い鼠色の女アンネッテ』なのか?」

「??? なんですかそれ?」

「レオンとやらが流していた君の噂だよ」

「へぇー。初めて知りました。私は誰とも交流を持っていないから」

「そうなのか。確かに君は学園にも通っていないという話だったな」

「ええ。だから友達ゼロなんです。私の近しい人は領民しかいません」


「成程。では、手始めに呼び名を決めよう。君の本名はアンネッテだから、誰もいない時は、アンと呼ぼうかな」

「アンですか!私、領民に囲まれて生活していたので、皆アンネッテ様としか読んでくれなくて。初めて家族以外の人にそう呼ばれます」

思わず声が弾んでしまった。

なんだか、友達ができたようで嬉しい。……実際にはエルドレッド殿下だから、友達ではないのだけど。

でも、私を対等に扱ってくれる殿下といるのは心地がいい。


敷地を抜けて、皇太子殿下が乗ってきた馬を森から出すと、またそれぞれで馬に乗り直した。

「早く戻って、オリアーナ様を解放しましょう」

「ああ。そうしよう」

馬を急がせる。

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