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新しい滞在先

「恋人に昇格したからにはエルドレットと名前で呼ばれないと変ではないか?」

と先程皇太子殿下に言われた事を思い出していた。

いきなり名前で呼べとか、強引すぎる。

私は不貞腐れながら、就寝の準備を始める。


「ここは特別なお部屋ですから」

侍女は意味深な事を言って、手伝ってくれたが、いくつか気になる事を聞かれた。


「メイクは…どうされますか?」

「今から眠るのに必要ありませんわ」

「では、パヒュームやお香などは必要ですか?」

高位貴族の女性は寝る時もメイクをしたり、香水をつけたりするの?すごい世界だ…と驚くけど、自分の無知さを隠すために、にっこりと笑う。

「お気遣いありがとうございます。でも、私は自然体が一番だと思っています」


私の返事にメイド達は顔を赤らめる。

何か変なこと言った?

わからないからいいや。

「髪は艶々になりました。お休みの際のお召し物は、お好きな物をクローゼットからお選びくださいませ。では私達はこれで失礼いたします」

そう言ってメイドは優雅に部屋を後にした。


バスローブから着替えるためにクローゼットを開けて驚いた。

どれもこれもレースのヒラヒラの物ばかりだ。


一枚手に取ってみる。

お尻が隠れるくらいの長さで、これでは落ち着かない。しかも、レースというよりは網だ。

何も隠していない。

一番長いナイトドレスも、薄いオーガンジーでできていて、全く暖かくない。

どれも、ドレスの下に着ているインナーより薄い。

高位貴族って寝る時はこんなナイトドレスを着るんだ。

これならバスローブで寝るほうがいい。


私は着替えを諦めて、部屋を見て回る事にした。

部屋は、小さなアロマキャンドルがいくつか炊かれてゆらゆらと揺らいでいる。

その小さな灯りがまた調度品をきれいに照らす。

どれも最高級で素晴らしい。油絵に、ブロンズ像。


部屋にあるすべての扉も開けた。

バスルームにメイクルーム。

続き間の奥には書斎。

最後に何故か内鍵がかけてある扉があった。

ここは何かしら?

ワクワクしながら鍵を開けて中を覗いた。

そこにはまた違う趣の、沢山の本が整然と並べられた部屋になっていた。

色合いも、私の寝室の暖色系とは違い、落ち着いたシックな作りだ。


私は本に駆け寄った。経済学の本や、地質学の本。

すごい!明日もう一度ちゃんと見ようかな。


「シェリル、私の部屋で何をしている?」

その声にびっくりた!

そこには、バスローブの皇太子殿下がいたのだ。

「皇太子…殿下…?」

「エルドレットと呼べ。変態め」

「はい?わたくしが変態?」

私は目をパチパチさせた。

「夜這いか?はしたない」

まさかの展開にびっくりして後ずさる。

何が起きたの?

っていうか無防備な皇太子殿下の色気が凄くて恥ずかしくなる。


「ここは私の私室だ。まさか君が続き間に案内されていたとはな。ここと隣の来賓室は続き間になっていて、そのドアで出入りできる」

指さされたドアは私が入ってきたドアだった。


「ここに泊まった物はいないから内鍵をかけてなかったが、シェリルが夜這いをかけてくるなら鍵を掛けておくとしよう」

皇太子殿下はそう言って、私を追い払うように元の部屋に押しやった。

そして、思いっきりドアを閉めると、鍵を掛ける音がした。


「私だって知らなかったのよ!ばーか!」

閉められた扉を見て悪態をついた後、私も鍵を掛けた。

もしかして、メイド達は、私と皇太子殿下が夜お会いすると思って、こんなスケスケのナイトドレスを用意したのかしら?

あり得ないでしょ!


ベッドに寝転び枕に顔を押し付ける。

夜這いなんてかけないし。

本当の皇太子殿下ってどんな人なんだろう。あの湖で見かけた気弱な青年?

それともラーシュ小隊長のようなちょっと豪快な人のいい騎士団員?

それとも今そばにいるような不機嫌で忙しそうな殿下?

私は混乱して枕に顔を押し付けたまま、足をジタバタさせた。



その時、人の気配を感じて動きを止めた。

開けたはずのないバルコニーの窓が開いている!

「アンネッテ」

小さな声で呼ばれた。その声はユーベル伯爵!

窓際に人影が見え、そしてベッドに近づいてきた。

やはりユーベル伯爵だ。


「どうやってここに?」

私の質問にユーベル伯爵はにっこり笑う。

「城はいざという時のために沢山の隠し通路があるんだよ、アンネッテ」

そう言いながら、私のベッドに腰掛けた。

「オリアーナの邪魔はしちゃダメだよ」

そう言いながら私の頭に軽くキスをして、頬にもキスをした。

冷たい唇が頬に当たる。

そしてあっという間にバルコニーの窓から出て行った。

急いでベッドから起き上がり、後を追うがマジックよのうにユーベル伯爵は消えていた。

ここは5階。

下を見たけれど、ユーベル伯爵は居なかった。


幻を見たのかもしれない。

疲れてるのかな?

でも何でユーベル伯爵?……考えるのは疲れるからもう寝よう。

そう思って目を閉じると朝になっていた。

いつもの通り快眠だ。どこにいてもよく眠れるのは私の長所だと思っている。

まずは、昨日、間違えて開けた続き間の内鍵がちゃんとかかっているかを確認する。

よし、大丈夫。


そうこうしているうちにメイドが朝の支度を手伝ってくれた。

皆、部屋に入ってくる時、ちらりと内鍵を見て、そして私が昨日と同じバスローブのままである事を見て、ちょっとホッとしている。


私は皇太子殿下の毒見係をしているだけなのに。

なんかみんな誤解しているよね。

あっ!恋人役に昇格したからか……。

この役、ちょっと大変かもしれない。


今日は予定通りなら、ダブルデートだ。

昨日急遽滞在する事になったのに、何故か私用の新しいドレスが準備されており、それに着替えてダイニングに案内される。


朝は少し機嫌のいい皇太子殿下と二人で食事をして、馬車でブラウン団長の屋敷に向かった。

皇太子殿下の護衛は馬で馬車の周囲を護衛しながら進む。


そしてブラウン団長とベアトリスを乗せると、王都の中心部へと向かい、ブラウン団長は一軒のカフェの前で降りるよう指示した。


「こちらは、ご存じの通り前国王陛下がお忍びで訪れたカフェです」

ブラウン団長はそう言うとドアを開けてくれた。

「懐かしいな。たしかにお祖父様と訪れた事がある」

店内を見回すと、いくつかの古い絵画や子供の絵があった。


「あれは私の絵だ」

皇太子殿下が子供の頃、書いた絵を見ながら奥へと案内される。

ブラウン団長は予約をしてあったようだが、それはオープンスペースで私たちが丸見えだ。

ガラス張りのパーテーションで仕切られた席だった。


「子供の頃にも確かにこの席に座ったよ」

皇太子殿下はベルベットの椅子をそっと撫でた。

「このお店は、先代国王陛下の御用達だった事を誇りに感じているようですね。店内がクラッシックで素晴らしい」

予約したブラウン団長も楽しそうにしている。


私はいつも通り毒見をしてから皇太子殿下がそれを食べるが、普通のお客さんはそんな事知らないので、仲睦まじいカップルだと思われて少しザワザワする。


「今日はみんなで前国王陛下ゆかりの地を回ってみませんか?」

ブラウン団長が提案すると、ベアトリスは楽しそうに賛成した。

なるほど。公衆の面前で、さも今思いついたかのように提案してくれたんだ。

本当は馬車の中で打ち合わせをした内容だけど、このように私達の周りにいる全く関係ない人に聞こえるように提案してくるとは思っていなかった。


お茶を飲み終えてから、4人でゆっくり歩きながらゆかりのお店を回る。

暇な観衆はぞろぞろと後をついてくる。これもブラウン団長の狙いだったようだ。


焼き菓子店に香水店や、万年筆店。

帽子屋にテーラー。寄るたびに、買い物をした袋が増えていく。

全部の袋を持ったブラウン団長は次々とお店を案内してくれた。

護衛の騎士団員は当たり前だが何も持たない。今日は、侍従を伴わないので、その役割をブラウン団長がする。


あくまでダブルデートを演出して、暇な観衆達がゾロゾロとついてくるように仕向けるのが目的だから、皇太子殿下は甘い笑顔で、腕を差し出してエスコートしてくれる。

今日はやけに馴れ馴れしく接するように強要してくるのは、役職が恋人になったからなのかしら?


「シェリル疲れてない?」

「はい。皇太子殿下」

そう返事をすると、私の唇に指を当てる。

また歓声が上がる。

「違う。エルドレットと呼ぶんだよ。じゃあ何か飲み物でも」

と言って、ジュースを買うと、毒見を私がしてから皇太子殿下に渡す。

私が口を付けたカップをもらって飲むので、仲良くシェアしているように見えているようだ。

気がついたらゴシップ紙の記者達もいる。

明日からゴシップ紙で色々と書かれるんだろうな……。



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