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秘密の打ち合わせ

3人で応接室セットに座ると、小声で話し出した。

「何か収穫は?」

そう聞かれて私は手紙を何通か出した。

「この天気の話ばかりの手紙が沢山届いていたの。気になって最初の手紙と、最近の手紙を持ってきたわ。あと、このステッキ、やけに重いの。気になって…」


「これは!もしかして…」

そうブラウン団長は言ってから手に取り持ち手を器用に開けた。


「そんなところが開くんですか!」

私はびっくりしているが、ブラウン団長は冷静だ。

「ここに、薬や宝石。なんでも入れられる。それからこのステッキはこのスイッチを回すと、剣になる」

そう言って、唯一の飾りの細い金色の部分をそっとどかして、そこにあるネジを回すと、剣の刃が出てきた!


何この仕掛け道具みたいな物!

「殺傷能力は少ないけど、護身はできる。ただ、この剣に関しては刃を定期的に磨いているから、当たればかなりの確率で死に至る可能性の高い怪我をするね」

ブラウン団長は難しい顔をする。


「これは隠し武器だよね?ダンプド公爵の立場なら、帯刀していても問題ないはずだけど何故このような物が必要なんだ?」

私はブラウン団長の疑問の意味がわからずに無言になった。


「私達騎士団員は普段から街中を歩く時でも、帯刀している。他に高位貴族の護衛なども帯刀しているが、そういったケースの場合、本人が帯刀していても問題無いはずだ」

「はい……」

たしかにそうだと思って返事をする。

「街中を歩く時などは護衛がいるし、公務の時など1人の時間が長い場合は、身の安全のために帯刀をつけている方もいるよ。少数派だけどね」

「確かに写真で見たことあります」

「刀として利用する、又は相手への抑止力のにしたいなら刀を持ち歩けば十分だ。でも、隠し武器を持ち歩く……どんな事が想定される?」

「刀を持ち込めない場所に持っていく時……例えば、高位貴族専用の会員制クラブとか」

ベアトリスが答えた。

「あっ!自分より偉い方に会う時?」

私も答える。


「そうだろ?基本的にはどっちも必要ないよね?身の危険を感じているか、相手を害したい時以外はね……。権力を誇示するならサロンでもどこでも剣を持っていても誰も文句を言えないお立場なんだし」

ダンプド公爵への疑念が高まった。


そこへ皇太子殿下が入ってきた。

「これをご覧ください」

そう言ってステッキをお渡しする。


それから手紙をお見せした。

「この手紙……天気の話の手紙の紙は王室内でしか使われていない物だ。紙の素材が少し違うんだよ。水に晒すとわかるよ」


皇太子殿下の言葉を聞いて、ブラウン団長が、部屋に備え付けてあるお水をグラスに入れてきた。

夜会などの場合、気分が悪くなった方のために、各部屋に水差しを備え付けてあるらしい。


「では、乱暴なやり方だけど」

と言って、皇太子殿下は手紙を小さく折ってグラスに入れた。


すると、手紙の右隅から王室の紋章が浮かび上がる。

「これは!父の紋章ではない。先代が個人的に利用していた紋章だ……という事は、この手紙は先の国王陛下のプライベートな施設で書かれた事になる」

「王妃殿下はそちらに幽閉されているのでは?」

皇太子殿下とブラウン団長は険しい顔でそう言い合った。


「ただ……この字、見たことあるんだ。癖の強い字……デスタン侯爵の筆跡のようだ……」

そう呟いた後、皇太子殿下はその予想を打ち消すように首を横に振る。

「そんなわけない。私は葬儀に参列した。横たわるデスタン公爵の姿も見た」

考え込むように頭を抱える皇太子殿下に一つ、提案をしてみる事にした。


「もしも、ご存命の場合、死を偽装した事になります。デスタン公爵様の死については、オリアーナ様が何かしら知っているはずですよね。実はここに来る途中、オリアーナ様を見かけた気がしました」

私の言葉にブラウン団長は興味を示したが、今そのオリアーナを探す事はできない。


「とりあえず、今日は何事もなかった事にして帰りましょう。第一王妃が行方不明の件について、明日お話しするお時間を頂けませんか?騒ぎを起こすとしても、切り札がない」

「……わかった」

皇太子殿下は納得してくれた。


「明日でございますが、ベアトリスとシェリル嬢にもお話を聞いてもらいましょう。私と皇太子殿下、お二人で会うという事は異例の物事になりますが、2人がいるとダブルデートに見えますから」

ブラウン団長は微笑んだ。


「恩に着る」

「場所は、私に任せて頂けますか?明日の午前10時。騎士団の馬車でお迎えにあがります。ですから、この手紙を持ち、騎士団に視察に来る時の格好でお待ちください。シェリル嬢もご一緒に」

この言葉に皇太子殿下は頷いた。


「かしこまりました。ではよろしくお願いします」

私の返事を聞いて、ブラウン団長は真顔に戻った。

「では、皇太子殿下。その剣とステッキを私にお貸しください。今、警備に当たっている部下を呼びますから。ご心配なく」


そう言って1人立ち上がると、控室の扉を開けて、近くにいる騎士団員を呼んだ。

「そこの君、私は第二騎士団団長のブラウンだ。内密に警備主任を呼んできてくれたまえ」

入り口の扉付近まで来た騎士団員にそう告げると、言われた騎士団員はどこかに行ってしまった。


それから、しばらくして第一騎士団の第三部隊隊長がやってきた。


皇太子殿下とブラウン団長が居るのを見て騎士の礼をする。

「これは皇太子殿下、今宵も万事抜かりなく警備を行なっております故、ご心配には及びませんが何かございましたでしょうか?」


皇太子殿下は何も答えずに代わりに、ブラウン団長が答える。

「殿下が先程、庭の茂みにこの二つが隠されているのを発見された。この場で騒ぎを起こすのは得策ではないので、たまたま近くにいた私に声をかけられた」

それを聞いて第三部隊隊長は無言で頷く。


「それ故、大事にはせずに内密に持ち帰るように。また、明日、皇太子殿下がお忍びで武器をご覧になりに来る。何卒、処分などしないように」

「かしこまりました。では、そのようにいたします」

そう言ってブラウン隊長から武器を受け取ると、第三部隊隊長はそっと部屋を出て行った。


「これで安全に騎士団に武器が運ばれます。では明日、お迎えに上がりますのでよろしくお願いします」

ブラウン団長はそう言って騎士の礼をすると、ベアトリスと共に、パーティーへと戻って行った。


「私達は一旦、帰りましょう?」

皇太子殿下への提案はあっさり受け入れられた。

「そうだな」

そう言うと、来た時と変わらない笑顔を見せてエスコートしてくれた。


帰りの馬車の中では、無言になってしまった。

「さっきは悪かった」

「えっ?」

「バルコニーの事だ。どうやら君は何も知らないようだね。私の側にいるのはダンプド公爵からの命令だろ?」

「……はい。皇太子殿下の護衛があまりにも少ないから、私が派遣されました」


「君が、湖に来た日。私も湖に居たんだよ。人影が見えたから、隠れて観察していた。君は、馬から降りれなくて四苦八苦していたね」

「ええ。そうです」

恥ずかしいけど事実だ。

「焚き火の火を一人で消していたのも見ていたよ。あれはわざとやったんだ。君の人間性を見るために。何も知らないお嬢様、もしくはわかっていても我関せずの人は放置するよね」

「はい」

「危ないと気づいたお嬢様なら誰かを呼んでくる。でも君は自分で消したね。だから君を観察していたんだ。犬だけを近づかさせたり、気弱なフリして魚を焼く君に近づいたりして」

私は返事が出来ずに、じっと皇太子殿下の目を見た。


「君は敵か味方かわからない。でも、騎士団員としての素養はある。だから近づいたんだ。そして、あの市場で君がアンネッテだと気がついた」

尚も皇太子殿下は話を続ける。

「君は基本的にいい人だ。犬に優しいし、使用人として近づいた私にも優しかった。だから、今は君を信じてみる」

「……はい!ありがとうございます!」

「明日、迎えの馬車を寄越す」

そう言って皇太子殿下は素気なく外を見た。


ビアンカ様の屋敷まで送ってもらい、着替えて就寝の準備をした。

ベアトリスにお借りしたショールは明日返すために、綺麗にしてもらえるように侍女にお願いをしていると、ビアンカ様がお戻りになった。


「まぁ!シェリル。戻っていたのね?よかったわ」

ビアンカ様のご主人であるシモンズ侯爵様は、外務省の担当大臣なのでほとんどお屋敷には戻られない。

だから、行事にはご一緒に参加しても、お屋敷に戻られるのはビアンカ様お一人だった。


「お先に戻らせて頂きました」

「よかったわ!先程、夜会で『お一人でバルコニーに立つ女性がスカートの中を見せて誘ってくる』って話を殿方がしていてね、一人でいる若い女性を素行の悪い殿方達が探していたんですよ」

その話を聞いて冷や汗が出てきた。

「暗がりで女性の特徴はわからないけど、胸元をチラつかせながら、大胆にバルコニーに片足をかけてスカートを捲るんですって!皇太子殿下が早々にお帰りになっていたから、もしやシェリルが一人で夜会に居たらどうしようかと心配になったのよ」


それは、皇太子殿下に縛られて、太腿の短剣を取ろうとして悶えていた私だ……。

「…ご心配頂いて申し訳ありませんが。私も皇太子殿下と共に退場致しましたので大丈夫ですわ」

私は動揺を押し殺して笑顔を作る。


「明日ですが、10時に皇太子殿下の所に伺う約束をしました。それで、場所のお迎えが来るそうなので、今日はもうお休みさせて頂きます」

「まあまあ!それはよかったわ!すぐ休みなさい」


ビアンカ様は嬉しそうにおやすみの挨拶をしてくれた。


私はすぐに部屋に戻ると、武器の隠し方を考えながら眠りについた。

……私は男性を誘っていたわけではないわ!

そう思いながら、気がついたら朝だった。

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