このピンチを乗り切らないと!
本日2回目の投稿です。
私の位置から見えるのは、剣を持ってホールに戻った事に気づかない招待客の姿だった。
なんで私がアンネッテだって知ってるのよ!!!
でも怒るポイントはそこじゃない。
何かが始まる!
まずい!
どう考えたって隣国の大使の就任式に剣を持って現れる皇太子なんて、いい事があるはずない。
なんとか紐を解かないと!
でも私を縛る紐は、罪人を縛る方法で結んであり。解けるはずがない。
さっき私達に声をかけようとしたのは、巡回の騎士団員だったはず。
何故今戻ってこないのよ!
短剣は太もも。
どうする?足を上げる?
いやいやいや。私はこう見えてもレディだ。そんなはしたない真似できない……って言ってられる?
ダメだ!
そんな自尊心との戦いをしている場合ではない。縄を切らなきゃ。
私は意を決して大きく足を上げると、転落防止柵に足をかけた。
手首を柵にくくりつけられているため、動くのは手首から下だけ。
でも、柵が高すぎて、180度足を上げたところで手は太ももに届かない!
なんとか剣を取ろうと、足を上げたまま動かして角度を変えたりする。
でも届かない。
そうやって1人奮闘しているところに一組の若いカップルがやってきた。
薄暗いところに私がいるのを見て、女性が悲鳴をあげそうになるのを堪えている。
「助けて!腕を縛られているの!」
私は切羽詰まって叫ぶ。
太ももの短剣で紐を切ってほしい!
女性は怖がって足をすくめるが、男性は私の手が縛られているのに気がついたようだ。
「あの女性を助けるから待ってて!」
男性はそう言って、自身の内ポケットから短剣を出すと、私に近づいた。
そして、紐を切ってくれた。
私は安堵して、今まで縛られていた手すりに両手で捕まると、足を下ろした。
男性は何を誤解しているのか、私にジャケットをかけてくれた。
女性は泣きそうになりながら近づいてきて私の背中を撫でる。
「私はベアトリスよ。可哀想に。もう大丈夫よ」
女性は優しく声をかけてくれる。
男性は、私に近づかずに少し離れて見守ってくれていた。が私はそれどころではない。
行かなきゃ!
皇太子殿下を止めなきゃ!
「ジャケットをありがとうございます」
私は動きやすくなるために、今貸して頂いたジャケットを脱ごうとした。
「ダメだ!それを着たまますぐに帰った方がいい」
男性は即座にそう言う。
女性を見ると、悲しそうに首を横に振った。
そして意を決したように、優しい声を出した。
「言いにくいけれど、今あなたのドレスは人前に出れる状態ではないわ。貴方が暴れた時かしら、背中のボタンが取れて胸が見えそうなの」
その事実を聞いて私は胸元を押さえる!
恥ずかしくて顔が赤くなる。
「君に乱暴を働こうとした輩をすぐに見つける!言いにくいかもしれないけど、逃したらまた同じ事をするかもしれないから教えてほしい」
男性は、私が怖がると思っているのか、少し離れた位置で膝を付き優しく話しかけてくれた。
「…レディをこんな場所で自分の意のままのしようとして足を上げさせて…!!なんて奴だ!なんとしても捕まえないと」
男性は怒りで震えている。
「助けて頂いてありがとうございました。申し訳ありませんがしばらくジャケットをお借りします。そして、私をこんな目に合わせた(ここに縛り付けて放置しようとした)犯人(皇太子殿下)をなんとしても捕まえます」
「こんな野蛮な事をする奴、レディにはては手に負えないわ。ね?彼に任せてくれないかしら」
女性は優しく私に話しかけてくれるが、私は首を横に振る。
「でも、一刻を争うので…失礼します。このお礼は必ず」
私は騎士の礼をするとホールに向かって走り出した。
「待ちなさい!」
男性の声が追いかけてきたけど、私は振り返らずにホールに飛び込んだ。
談笑する人の間を皇太子殿下を探して走る。
見つからない!
辺りを見回すけど、あの後ろ姿は見えない。
どこ?
その時、先程のジャケットを貸してくれた男性が私に追いついた。
「私も探すから特徴を。急ぐんだろ?」
もう時間がないのは確かだ。背に腹は変えられない。
私は唾を飲んだ。
「……皇太子殿下を……探してください。……見ればわかりますが、剣を持っています……。何をしようとしているのか検討がつきません」
「わかった。すぐに見つけるよ」
私の頭をポンと叩くと、男性も人混みに入っていく。
沢山の人の間を縫って探し回る。
いない。
本当にどこにいるの?
もしやターゲットを見つけて暗がりの庭園へと連れ出してしまった?
気持ちばかりが焦って、見つけられない苛立ちを隠せない。
その時、遠くに皇太子殿下の後ろ姿が見えた!
私はそちらに向かって走る。
もう、数十メートル!
そう思って背中を追いかけると、皇太子殿下は剣の柄に手をかけた。
まずい!ターゲットが見つかったのかも!
間に合わない!
「皇太子殿下、お久しぶりでございます。第二騎士団団長のアレックス・ブラウンです」
私より先に、あの男性が皇太子殿下の肩に手をかけた。
突然のことで皇太子殿下は一瞬怯んだのが見て取れる。
「最近、我が第二騎士団に警護を任せては頂いておりませんね。皇太子殿下の次回の外遊に帯同させては頂けませんか?」
そう言ってジャケットを貸してくれた男性は皇太子殿下に声を掛けて引きとめ、やや強引に横の控室へと誘導した。
私もその部屋へと入ると、程なくして第二騎士団団長と一緒にいたベアトリスも後を追って部屋に入ってきた。
「……アン……シェリル…。どうやって……」
皇太子殿下は怒りを押し殺すような目でこちらを見た。
「シェリル嬢がバルコニーに拘束されているのに気がついて私が解放しました。さあ。何が起きているのですか?教えてください」
ブラウン第二騎士団団長が皇太子殿下に詰め寄る。
「参ったな。なんの事だ?」
「とぼけないでください!この剣はなんですか?」
ブラウン団長は低い声で尚も話す。
「しかも、これは汎用品です。一体どこで手に入れて、これから何をするつもりなのですか?」
「仕方ない。……3年前から、国王陛下は病で伏せっている。公表されていないが、私の母、第一王妃は行方不明だ。証拠はないが、父は毒をもられたのではないかと。そして母は幽閉された、、もしくはもう……この世には……」
皇太子殿下は、ソファーに深く座った。
確かに、この国は法治国家だから、国王陛下がご病気を患っていても国は動く。
だから、表面上は問題がない。今、水面下で何が起きているのか全く見えてこない。
「その黒幕がダンプド公爵ではないかと思う。それで証拠を探して郊外の別荘に使用人として潜り込んだり、招待客として行ってみたりもした。証拠がないか探すために。動きやすいように、騎士団員に潜入していた。でも、1人では限界が来ていた。だから直接聞こうかと……」
「脅すつもりだったんですか?皇太子殿下のお立場ならよくわかっていると思いますが、我が国は法治国家だ。例え皇太子殿下でも、公衆の面前で剣で脅したとなると、ただではすみません」
ブラウン団長は嗜めるように皇太子殿下に言う。
私とベアトリスは黙って2人の話を聞いていた。
「……わかりました。私は皇太子殿下が頭がおかしくなってこんな事をしたわけではないと信じます。だから、私の提案を聞いて頂けますか?」
「提案とは?」
「そこにいる、シェリル嬢?は騎士の心得がありますね?」
「はい」
私の返事を聞いてブラウン団長は微笑んだ。
「そこにいるベアトリスは、まだ駆け出しですが女優です。つまり、演技をしていても顔に出ません」
「私の計画は……」
その話を聞きながら、ベアトリスは私にショールを貸してくれた。
「これを羽織って胸のところで結びなさい。そしたら胸は隠れて見えないわ」
「ありがとう!」
5分後。私達は部屋を出た。
ベアトリスは会場に戻り、私と皇太子殿下とブラウン団長はそれぞれ別行動だ。
私は庭に出て辺りを見回す。
「あの木なら登れるわ!」
大きな木を見つけてスルスルと登ると、運良く2階の窓が少しだけ開いている。
あれならなんとかなる!
幹から枝に移り、折れるギリギリのところまで窓に近づく。
そして、枝から窓に飛び移った。
体を丸めてなんとか滑り込む!
飛び込んだ部屋はどうもサロンのようだ。
2階は立ち入り禁止で封鎖されているからこうでもしないと入れなかった。
私は扉に耳を付けて足音を確認すると、そっとサロンを出る。
目指すはプライベートルーム。
大体は日当たりが良いけど、直射日光の当たらない位置よね。
足音を立てないようにそっと歩いて一つ一つ、部屋を覗く。
何箇所か扉を開けた後、次に開けた部屋が書斎だった。
お父様を思い出して、手紙をどこに仕舞うか、書類はどこに置くか…。
そう考えながら、引き出しやキャビネットをそっと探す。
金庫は無いようだ。
探すのは、国王陛下に毒を盛った可能性を示す物と、第一王妃の行方を示す物…。
手紙にさっと目を通していくと、なんだか違和感を覚える物ばかりだった。殆どの手紙が、天気の話が中心で、他の事はあまり書いてない。
こんなの頻繁に送る内容の手紙かなぁ。
少し稚拙すぎやしないかしら?
差出人は同じだし、内容もいつもほぼ同じ。
これって…暗号?
同じ内容の手紙を送る意味ないもの。
簡単な暗号なら座学で習った。試しに一枚、解読しようとしたけど、どうやら違うみたい。
うーん。
わからないから、とりあえず、この「ユーリ」という方が最初に送った手紙と、最新の手紙を取る。
それから、いくつか気になる手紙を手に取ると、そっと部屋を出ようとして、で入り口にあるステッキが気になった。
ダンプド公爵様にしては素朴なデザインだ。
持ち手は何かしらの彫刻が施されていたり、馬などの彫り物がついていたりとお洒落なはずなのに、今目の前にあるのはデザインやお洒落な物とは程遠い。
持ち上げると、すごく重い!
なんだか気になってこのステッキも持っていく事にする。
足音を立てないように下に降りる階段に向かう。確か南側の階段から降りるように言われた。
南側の階段を降りていくと音楽が漏れ聞こえてくる。
一旦足を止めて、下をそっと覗いた。
2階に人が侵入しないように警備員が立っている。
しかし、その警備員に熱心に話しかけている人がいる。
ベアトリスだ!
「フフフ。私、このお屋敷の歴史についてもっと聞きたいわ!三分でいいわ、お時間をいただけない?」
「いえ。持ち場を離れる事ができませんので」
「そうなの?だったら、ここで飲みながら話を伺うわ。ほら!貴方の分のワインも頂いてきたの」
ベアトリスが楽しそうにおねだりしている声が聞こえる。
ここからはまだ姿は見えない。
「乾杯!」
ベアトリスは警備員にグラスを持たせて乾杯したようだ。
予定通りなら、警備員のグラスにはアルコール度数45%の強い物が入っているはず。
「ほら飲んで!」
ベアトリスは笑っているけど、舌をつけただけでヒリヒリする飲み物だ。
その時、ドサッという音が聞こえた。
多分、第二騎士団団長が警備員の首などの急所を殴って気絶させた。
警備員は目覚めた時、綺麗なお嬢様に強い酒を勧められて、そして気を失ったと思うだろう。
実際は、物理的に気を失うようにしたのに。
「あら、そちらにいらっしゃるのは第二騎士団団長様?この方気を失ってしまったの。誰か呼んでくるから、もしよかったらここを見張っていてくださらない?」
合図の言葉が聞こえたから、私は階段を降りていく。
ブラウン団長は私を見ると、すぐに隣のサロンに入るように指差す。
私は頷いて、優雅に歩きながらサロンへと入る。
しばらくしてベアトリスが来た。
ドアの向こうからブラウン団長の声が聞こえる。
「君は確か騎士団に所属しているね?ここの警備員が、酒を飲んで酔って倒れているから誰か読んできてくれたまえ。それでは私は行くよ」
と言って、サロンに入ってきた。
なんだか不定期更新ですいません。なんとか仕上げていきますので最後までお付き合いください。




