隣国大使の就任式
投稿に時間がかかってすいません…。
そして、当初から依頼されていたパーティーが近づく。毒見係として、隣国の大使の就任式に参加せねばいけない。
今回は伯爵以上の爵位を持った有力な貴族に招待状が送られた。
もちろん、子爵であるグリーグ家には招待状は来ない。
貴族としてのパワーバランスが如実に出る。
シェリルには招待状が届いた。
…コーラブル伯爵家って架空の伯爵家ではないの?国の行事の時に正式に招待状が来るなんて!
「ビアンカ様。コーラブル伯爵家って実在するんですか?」
「実在するわ。私の遠縁でね。ただし、後継がいなくて、もうすぐ我が家に貴族籍が戻ってくる予定なの」
「知りませんでした!架空だとばかり…」
「架空の伯爵令嬢が皇太子殿下に近づける筈ないでしょ?」
ビアンカ様はフフフと笑った。
そして、いよいよ夜会となった。
相変わらずオリアーナは戻っては来ないので、私達だけで準備をした。
今日はベアトップで、胸元が大胆にV字になっているドレスだ。ビアンカ様いわく、胸が大きくないと着れないドレスで、ダンスをする殿方の視線を釘付けにできるわ!との事だった。
毒見役から昇格しなさいと言われている……。
夜会は隣国と親交が深いダンプド公爵様の別邸で行われる。
当日、皇太子殿下がお迎えに来てくれた。
馬車に乗ると、いつものごとく仕事をしているが、今日はなんだかいつもよりもピリピリとしているように見える。
なんでかな?
私は馬車の外を眺めていると、曲がり角で歩いている人を追い抜く時、その人がオリアーナに見えた!
馬車は門を曲がってしまったので確認する事が出来ない!
あれは絶対にオリアーナだった!
でも任務中なのか相変わらずメイドの服装だった。
「どうかしたか?」
私の様子が変なので皇太子殿下が聞いてきた。
「いえ…別に…」
私はそれだけを言ってにっこり笑って誤魔化した。
この日は、なんだか様子のおかしなオリアーナの事で頭がいっぱいで何がなんだかわからないまま挨拶を終えて、夜会が始まった。
「………なのか?」
皇太子殿下の質問をちゃんと聞いてなかった。
「はい」
とりあえず返事をしたら、皇太子殿下は小さな声で、「いいと言ったんだからな」
と言って、人前で耳の上の髪の部分にキスをすると、何も言わずにダンスへと連れ出された。
頭にキスされた時点で、火が出そうなほど顔が熱くなった!
だからダンスのステップがあやふやだ。
「私に体を預けて」
そう言われて、もう頭が真っ白だ。
ダンス中、表現の一つとはいえ、私の腰に手を回して抱き止めたりと、妙に距離が近い。
ビジネスライクなダンスなら、腰に手を回しても、脇腹あたりで距離を取るはずなのに。
何曲踊ったかわからないが、終わる頃、皆が拍手喝采をしてくれた。
皇太子殿下に手を引かれて礼をすると、私はメイクルームへと駆け込んだ!
自分を落ち着かせるために、椅子に座って鏡を見た。
ダンス中に起きた事を思い出して頬を押さえる。
妙に距離は近いし、頭にキスしてくるし。しかも、皇太子殿下はダンスをしながら、指先にキスをして来たのだ。
もう!何なの?
メイクルームからなんとか戻ると、ビアンカ様が待ち構えていた。
「皇太子殿下といるシェリルを見てね、大使のご子息がデートに誘いたいと言い出したのよ。だから、皇太子殿下はあんなにシェリルにベタベタしたみたいだわ。でもね、シェリルなら大丈夫よね?」
「はい。大丈夫ですわ」
私はにっこり笑って見せた後、皇太子殿下の元に向かった。
自分の役割を思い出さなきゃ。
私の任務は皇太子殿下をお護りすること。役割を放棄するわけにはいかない。
毒はどこに仕込まれているかわからない。
だから、私がいないと飲み物すら口にしないはずだ。
そう思って皇太子殿下の所に向かうと、やはり何も飲んだ様子はなく、談笑していた。
私の横を通る給仕からグラスを二つ受け取る。
その給仕からグラスを受け取った人が何事もなくワインを飲んでいるのを確認して、私も一口飲む。
大丈夫、毒はない。
それからにっこり笑って皇太子殿下の所に行った。
場の空気を読めない無邪気な様子で、話に入る。
「皆様、素敵な夜ですわね。あら?皇太子殿下、お飲み物はいかがですか?美味しゅうございますわ」
差し出したグラスを受け取ってもらった後、私は一口飲んだ。
「そうだな。私も頂くとしよう」
私の様子を確認してから、皇太子殿下がグラスに口をつけた。
「フフフ。お話のお邪魔をしてしまいましたわ。では、わたくしバルコニーで涼んできます。皆様、ごきげんよう」
「では、私も一緒に一度涼んでくる。また話を聞かせてほしい」
と言って何故か一緒にバルコニーに出てきた。
この建物のバルコニーの柵はちょうど胸の下くらいまでの高さで、そこに手を置きながら先に進む。
柵は鉄製のデザインで、明るい日中はここに椅子を置いて庭を眺めながらティータイムができるよに設計してあるとダンプド公爵が他の招待客に説明しているのを先程立ち聞きしてしまっていた。
柵は確かにデザイン性に富んでいる。階段を5段ほど降りると庭に出られるので、転落防止のためではなく、デザインとして柵が設けられているのがわかる。
高すぎず、低すぎないこの位置から、お茶をしながら外を眺める時は素敵だろうなと思った。
ホールの中が見えるけど、少し影になる位置で皇太子殿下は立ち止まり、私の手を掴み先に進まないように少し力を込めて優しく握られる。
「ダンスは苦手?」
皇太子殿下はそう言って私を見る。
「…リズム感がないので」
私は苦笑いをした。
「そろそろ本当の事を言ってくれてもいいのでは?」
「……本当の事?」
私は突然言われた事が何を指しているかわからない。
「君はどこまで知っているの?」
本当にわからずに困惑した顔をすると、皇太子殿下は私の後ろに立ち、そして無理矢理に私の体を自分の方に向けた。
私の背中に鉄製のバルコニーの手すりが押し当てられ、スカートが、柵からはみ出てヒラヒラと風にたなびく。
強い眼差しから逃れる事ができずに、私は誤魔化すようににっこりと笑う。
「シェリル。わかっているんだよ。君が何を企んでいるのか」
「…?企みでございますか?」
それは私がアンネッテで、皇太子殿下の護衛をしている事がバレてるのかしら?
「……君の目的はなんだ?誰を……まずい!見つかった」
そう言うと。向かい合って立つ私を抱きしめて、首筋を露出させるように髪をかき上げてきた!
「今、ホールには戻れないから我慢して」
耳元で囁かれて、頬が赤くなる。
皇太子殿下の手で、私の首元がホールから漏れている光に照らされている。
足音が近づいてくるにつれて、皇太子殿下の顔も私に近づく……。
私は恥ずかしさで硬直して周りを気にする余裕がない。
「皇太……子殿下……!失礼しました」
声をかけようとした誰かが走り去って行った。
「よかった。でも、時間がない。君が敵が味方かわからない。だから、申し訳ないけどしばらくここに居て」
「え?」
と答えるより先に、細い紐でバルコニーの手摺に両手を縛り付けられている事に気がついた。
いつの間に!!!
皇太子殿下は バルコニーから薄暗い庭園に降り、茂みの中から、長い剣を取り出した!
「皇太子殿下!何をする気!!」
「ごめんね。…偽りのご令嬢アンネッテ」
そう言って私の頬にキスをすると、ホールへと戻っていく。




