婚約者との思い出
何故そんな相手と婚約する事になったのか……。
あれは10歳の時だった。
グリーグ子爵である父が事業に成功して、我が家は突然お金持ちになった。
私が12歳の時、父は婚約者を勝手に決めてきたのだ。
「アンネッテ!お前の婚約者が決まった!」
父は大喜びだった。
その相手は格上の侯爵家の次男、レオン・アンデル様だった。
子爵家から嫁げるなんて夢のようだ、なんて言いながら父は嬉しそうにしていた。
それからすぐに、レオン様にお会いした。
アンデル侯爵家での顔合わせが決まった。
子爵家では縁を結ぶのが難しい侯爵家!
お父様に連れられて伺ったタウンハウスの庭園にいらっしゃったのは美しすぎるレオン様だった。
初めてお会いしたレオン様は風になびくミルクティー色の髪と新緑のような淡いグリーンの瞳で、一目見て恋に落ちてしまった。
でも、この天使のような外見とは正反対の悪魔のような性格に私は悩まされた。
小さい頃からぽっちゃり…を通り越して太っていた私を見たレオン様は、
「太った灰色の髪の女なんて、着飾った泥だよ」
と言い放ち。
私に『着飾った泥』とあだ名をつけて、初めて参加したデビュタント前の子女が集まる場で私を無視した上に、
「あの『着飾った泥』は太っていて我儘な遠縁の子爵令嬢だから相手にしないように」
と触れ回った。
そのせいで私は人前に出るのが嫌になり、いつも一人で閉じこもってお菓子を食べていた。
そんなある日、窓の外を眺めていたら、屋敷の前の通りで大男が暴れており、それを小柄な女性騎士が拘束してどこかに連れて行ってしまった。
その騎士様は凛としてカッコよくて私の憧れの人になった。
あの女性騎士様のようになりたい。
だから、私はお父様にお願いをした。
「お父様、私、体が重くて。太り過ぎかしら?こんな体では、将来レオン様と社交界に出た時に動き回れずにレオン様にハジをかかせてしまうかもしれません。
それに、レオン様は侯爵家ですからやっぱり自分の身は自分で守れないと。だから、護身術を習わせてください」
私は最もらしい理由を言った。
「わかった。ではいい先生をお願いする」
お父様は、私の希望を聞いてくれてたまたま領地内に住んでいたグラファント先生というお爺ちゃん先生の所に通うことになった。
グラファント先生の教えを請うために王都から、領地内に引っ越ししたけど私は王都に友人はいないし、王都の学校にも通うつもりはなかった。
騎士になりたいと言ったら絶対に反対されるから、まずは護身術から習って色々と教えてもらおうと考えた。
グラファント先生の最初の授業の時には正直に、
「私はどうしても騎士になりたい」
と言ったら、グラファント先生は楽しそうに笑った。
「じゃあ、グリーグ子爵令嬢の本気をみせてもらおうかのぉ。
まず、この屋敷の裏に、小さなと塔がある。高さは低いが、地下深くに作ってある。塔の地下の扉と、最上階の扉を50往復すること。
それができたら本気だと認めて訓練を始める」
私はなんとしても訓練を受けたくて頑張った。
しかし、運動不足の私は5往復したところで倒れてしまった。
そんな私を見たグラファント先生は騎士になるのを諦めるように言った。
でも諦めきれない私は、グラファント先生の護身術の授業を受けながら日夜訓練に励むようになり、半年後、私の決意を認めてもらった。
そして、そこから騎士としての訓練が始まった。
訓練はかなり辛いものだったが、諦めないと決めていたのでなんとか頑張った。
太っていた私は、年を重ねるごとに細くなっていった。
領地にこもってから、私の悪い噂しか知らない人達とは距離を取るために学園通うことを拒否し、お茶会などの社交もしなかった。
どうせ陰口を言われるのはわかっている。
学園に通うのを拒否した私に、グラファント先生の奥様が家庭教師として勉強を教えてくれた。
12歳から5年間はグリーグ子爵領での勉強だったけど、昨年、グラファント先生が王都でどこかの顧問として再雇用されたようで、最後の1年間は王都で学んでいた。
そして18歳になった私は、グラファント先生からお墨付きをもらい騎士の試験を受けることにしたのだ。
もちろん、家族には内緒だ。
絶対に反対されるから。
受験資格は18歳から25歳まで。
試験を受けるのは大抵、学園を卒業する年齢の18歳か、または大学部を卒業する22歳が多いと先生は言っていた。
ちなみに、レオン様は19歳で大学部の1年生だから多分、今回の試験にはいないだろう。
居たとしても、6年会っていない婚約者の顔はわからないだろうと思って試験を受けたのだ。