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不注意と火の粉

本日4回目の投稿となります

オリアーナの話では、この森に入れるのは森の周りに荘園を所有する貴族自身か、そこの使用人だと言っていた。

きっとどこかの使用人ね。ここに入れるということは高位貴族の使用人に間違いない。

今後、公の場で会ったら困るから下手に嘘はつけない。


かと言って今、一人だとバレるのもお嬢様の立場としては良くない。

私のターゲットはあくまで皇太子殿下で、そのために単独行動をしているんだもの。


男性に気を取られて、少し火に近づきすぎたのかもしれない。

その時、風が吹いて火の粉が飛んできた。

「熱っ!」

姿勢を低くしていたせいか、右手の手首の上の方の内側に火の粉が当たった。


「大丈夫?すぐに手当をした方がいい!急いで!」

そう言って男性は軟膏を差し出してくれた。


「女性の手をむやみやたらに触るものではないと知っているけど、傷口を見せてほしい!跡が残るといけないから」

男性の切羽詰まった声で、私は思わず男性に右手を見せた。


「よかった!跡が残るようなものではないね。多分水脹れにもならないから、この軟膏を塗っておくと数日で治るよ」

男性はそう言って、素早く軟膏を塗ってくれた。


「驚かせてごめん。僕のせいだね…。誰かが魚をとって、火をおこしているのが見えて。その後、人影が見えないから様子を見に来たんだ」

男性は更に肩を落とした。


この男性は親切心から様子を見に来たのは間違いではないらしい。

腰に剣も刺さってないし、普通の格好だ。

狩が目的でもなさそうだから、森の管理人の親族なのか、それとと今日、たまたま森に来ただけだろう。


私は男性に話しかけた。

「はじめまして。私の不注意でごめんなさい。この魚は……えっと、一緒に来た騎士団所属の護衛が持ってきてくれて、火もおこしてくれたの」


あながち嘘ではない。

だって私は騎士団所属だ。


「騎士団所属の人だとなんでもできるんだね!数日前に僕も魚釣りをしてみたけど、何にも釣れなかったよ」


先日ボートに乗っていた人はこの人だったのね!


その時、先日の犬が男性の後ろから勢いよく飛び出してきて、尻尾を振りながら、私の横に来た。

そしてランチボックスの周りを楽しそうにウロウロした。


「先日の蒸し鶏を覚えていたのね。」

私は笑顔で犬に話しかけた。


この犬にまた会いたいと思っていたから、サンドイッチに蒸し鶏を挟んでもらっていたし、サラダにも蒸し鶏を入れてもらっていた。



私はランチボックスを開けると、サンドイッチから蒸し鶏をを抜いた。


「伏せ」

犬は私の声に従い、尻尾を振りながら伏せをしたので、犬の前に蒸し鶏を置いた。

犬は美味しそうに食べている。

サラダに入っている蒸し鶏も犬の前に置いてあげた。



その時、パチパチパチパチと魚の油の焦げる音がした。


ちょうど魚が食べ頃になってきた。

いい匂いが漂って、口の中に唾液が溜まってきた。

早く食べたい……。


グルルルルルル


男性から大きなお腹の音が聞こえた。


「もしかしてお腹が空いているの?」

私の質問に男性は無言で頷いた。


「私の護衛はまだ戻らないから、よかったらどうぞ」

私の言葉に男性は馬を降りて手綱を手放した。

馬はゆっくりとどこかに行ってしまった!


「本当にいいの?ありがとう!」

男性に魚の串を渡すと、男性は地面に座った。

先程の犬は、鶏肉を食べ終えて男性の横に寄り添うように伏せをして座った。


「貴方の犬なの?」

男性は頷いた。

「先日、通りかかった村で、世話をされずに外に繋がれていたから、譲ってもらったんだ。引退した牧羊犬だから、やっぱり賢いし人懐っこくて可愛いでしょ?」

そう言って犬を見た。


「それよりも馬を繋がなくてよかったのかしら?」

私の質問に男性はフッと笑った。


「大丈夫、どこかに行っても指笛で戻ってくるから」

そう答えて、美味しそうにゆっくりと魚を食べ始めた。


その様子を見て、私も我慢ができなくなった。

魚を手に取ると一口かじってみた。


「美味しい!!」

思わず声が出てしまった。

あまりにも美味しくて、一本目を勢いよく食べると、2本目にも手を伸ばした。


そんな私を見て男性は楽しそうに笑った。


「お魚を食べると喉が乾くでしょ?紅茶でよければ召し上がってください」

数日前の焚き火の後を消火してから、紅茶のタンブラーを2つ持ち歩いているので、その一つを渡した。


「これもらっていいの?」

男性は驚いた声を出した。


「気にしなくていいわ。それよりも、貴方はきっとどこかの貴族の使用人よね?お願いだから貴方の雇い主に今日見た事を黙っておいてほしいの」

マントで顔や姿が見えないとはいえ、お嬢様としてはかなりおかしな行動だ。


でも。この事を誰かに話されたら計画は丸潰れだ。

そんな私の焦りを知らない男性は笑顔で頷いた。


「確かに、貴族のお嬢様が一人で魚を焼いて食べていたって噂になったら困るものね」

楽しそうに男性は笑った。

「まぁ…そうだけど…もうすぐ護衛が戻るもの」

私は一人ではないと強調した。


「こうやって楽しむなら変装して、使用人のような格好で森に入ればいいのに。ドレスでは大変そうだ」

そう言いながら男性は尚も楽しそうに笑っている。


このお嬢様スタイルが変装だから脱げない事や、ドレスのまま全てをこなしたとは言えないので、私はごまかす為に満面の笑みを浮かべた。

でも、男性に見えるのはきっと口元だけだろうけど。


そして、話を逸らすために、お魚を食べながらこの森についての質問をした。

どんな動物が多いとか、この森の四季の移り変わりの様子とか。


私の質問に男性は詳しく教えてくれた。

話を聞いていて、夏に蛍が飛ぶようすや、秋の紅葉を見てみたいと言うと、楽しそうにこの森のいい所を教えてくれた。



「君って面白い人だね。使用人がこんなふうに口を聞いても怒らないし、動物にも優しい」

男性はそう言いながら犬を見た。


「まるで子供の頃読んだ小説「クリス王子・騎士となる」のシーンみたいだ。他国との戦争に敗れて自国に戻る時に、ボロボロになった主人公の騎士が、森で出会った領主の娘に魚を分けてもらうんだ」

男性は聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。


その小説は私も知っている。

すごくたくさん読んだわ。主人公の王子様が騎士になり、他国に侵略戦争を仕掛けられて、仲間と協力しながら国を取り戻す話よね。

私も好きな小説だった。でもその事は口にせずに黙っていた。


この後、下手に会話を広げて素性を探られるのは困るから、残りの3本の魚を男性に持ち帰ってもらう事にして、火を消す事にした。


「こんなにもらっていいの?君の護衛が釣ったんでしょ?」

男性は驚いて私を見た。


「貴族令嬢が、他家の使用人と相引きしていたって噂になるのが1番困るの」


「僕と君を見てそう思う奴なんていないよ。現に偶然出会っただけだし」


「確かにそうね。でも焚き火を囲んでいるのを見られたら、見た方は誤解するわ。

だから、お互いなるべく早くここを離れた方がいいわ」

この状態をもしも皇太子殿下に見られたら、計画は終わってしまう…。


男性は私の言わんとする事が分かったようで、

「……そうだね。お互いに困った事になるね。」

そう言って、勢い良く紅茶を飲み干した。


「魚のお礼に僕が火を消すから」

そう言うと、男性は指笛を吹いた。

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