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誰にも出会わない?

本日3回目の投稿です。


そして、何の成果もないまま湖に通って9日が過ぎた。 


気持ちは焦るけど、あれ以来、犬も人も見ない。

本当に静かな湖だ。


ただ散歩のようなふりをして人を探すのも限界がある。それに私はボートに乗りたくてウズウズしていた。


あと5日しかここには来れない。

誰かが見張っているわけではないのだから、ボートに乗ってもきっとわからないはずだ。


これはビアンカ様に教えて頂いたシェリルという女性像とは大きく違うけど、アンネッテとしての好奇心を抑えるのは難しい。


私は意を決して、係留してあるボートに乗ると、オールを漕ぎ出した。

初めてのオールは上手くいかず、なかなか進まない。


長い時間かけて湖の中ほどまで漕ぎ出すと、私はいつも持っているサンドイッチのパンを細かくちぎって湖へと投げた。


すると水面に魚が泳いできて、それを啄む。

私は編み物用の毛糸の先にサンドイッチのキュウリをくくりつけて湖の中に入れてみた。


初めての魚釣りだ!


長い時間、毛糸を垂らしていたけど何も釣れなかった。

初めてのボートと、何も釣れない魚釣りはワクワクして楽しかった。

ワクワクしたけど、でもやっぱり魚は釣りたい。


魚を待ちながら、小舟の上でせっせと編み物をして、夕方、とうとう完成した。




次の日、残り4日になった。

この日も天気が良くて、日差しが気持ちよかった。


もう数日しかないのだから、思いっきり馬を走らせたい!


監視の目が無いことをいい事に、私はスカートを翻して馬に跨ると、思いっきり走らせた。

横乗りとは違って安定感もある。本来なら乗馬用のズボンを履いて馬に跨るけど、どうせ誰も来ないんだもの。


細い道を抜けて、木々の間を通り、湖の周りを3周した。

風を切るって気持ちいい!


馬を降りて日陰に入ると、誰もいない事を確認して、スカートを捲り、護身用に持っているナイフを太腿から外した。


そして、服が汚れないように持ってきたマントを羽織った。このマントは、日焼け対策のマントが欲しいと言って持ってきた物だ。

それから周りの木の枝を切った。


「お嬢様のお食事ってなんであんなに低カロリーなのかしら?」

私は独り言を言いながら乾いた下草を集めていく。


荘園の中では行儀見習いとして滞在しているお嬢様を装っているので、お食事の量が基本的に少ない。

そしてヘルシーな野菜中心だ。

だからお腹が空いている。


「お腹空いたぁぁ。10日以上続くと辛いわ」

見る物全てが美味しそうに見えて来る。


私はここ数日、一生懸命に編んで昨日完成した網を見に行く事にした。

あの後、湖へと流れ込む川に落として沈めておいたのだ。

しかも、誰にも見つからないように、網から続く紐の端は石の下に隠しておいた。


網から続く紐は…あった!


初めての網を引き揚げると、魚が6匹かかっていた!


やったー!!!


グラファント先生との訓練には、騎士団に入団して山籠りをした場合の訓練もあったから魚を捕獲する網の構造は知っていた。


訓練の時に教わった通り、魚をきれいに洗って、先ほど切り落とした枝に魚を刺した。

それから、荘園の家事室からこっそり拝借した塩を振り、同じく拝借した古くなった火打ち石を出して、先程集めた枯れ枝や、枯れ草に火を付ける事にした。


騎士になるなら野営もあるからと、火のおこし方や、魚の捕まえ方は実践経験済みだ。


火をおこした後、火を取り囲むようにして魚の串を地面に刺した。

これで遠火でじっくり焼けるわ。


焚き火や魚のにおいが服につかないように、マントのフードを被って風上に座った。

マントを頭まで被ったから、髪の毛にも臭いがつかないはずだ。



火の番をしながら、ご機嫌で本を読んでいると、馬の足音がした。


まずい!荘園の使用人にもしも見つかったら言い訳ができない。

荘園では可愛らしいお嬢様であるシェリルの皮を被っているもの。


今の私はシェリルの皮を脱ぎ捨てたアンネッテそのものだ。


使用人に見つかってもダメだけど、オリアーナやビアンカ様でもまずい。


全く言い訳の余地がないこの状況で冷や汗が出てきた。

目の前には焚き火と魚がある……。


どうしよう…。


ガサガサガサガサ

という草むらを進む音がして、木の間から馬が見えた。


馬の乗り手は、ボサボサの真っ黒な髪に、黒縁のメガネをかけた質素な格好をした男性だった。

後髪は、そんなに長くないが、前髪がかなり長いようで、分厚いレンズの眼鏡が半分くらい隠れている。

体つきはしっかりしているし、質素に見えても生地のいい服を着ているので、森に不法侵入している人ではないと推測された。


「あっ……こんにちは。煙が見えたから火事かと思ったけど、人がいたんだね」

男性は、自信なさげな声で話しかけてきた。


私は警戒したまま、何も答えない。

男性はそんな私の様子に気がつかないのか尚も話を続けた。


「焚き火で魚を焼いているんだね!凄いなぁ!」

興奮気味に言ってから私を見て驚いた顔をした。


「君が……捕ってきたの?…そんなわけないか……。」

最後の方はしょんぼりとした小さな声になった。


なんだかしょんぼりとした男性だ。


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