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広域課は婚活課だった…

グラファント夫人とオリアーナが常に側に居て、気の抜けない状態が続いたお陰で、かなりご令嬢らしくなってきた。


今までのマナーの内容を振り返ると、制服組として皇太子妃候補のご令嬢の警備にあたる事に重きが置かれていたんだと思う。


だから、ご令嬢の側近や、友人という立場の人間のマナーとしては粗雑だった。

でも今は、それなりにそれなりな感じになっていると思う。

仮名を『アンネッテ・コーラブル』に替えてもらった翌日だった。


「さすがに、新人職員を騎士団庁舎で誰も見たことがないなんてなったらまずいわ。明日、広域課として、オリアーナと一緒に備品管理に行ってきなさい」

ビアンカ様の指示に従い、数日ぶりに自分に戻ってみようと思ったけど、自分本来の癖がわからなくなってしまった。


とりあえず、三つ編みにした地毛そっくりの銀髪のカツラをつけて、メガネをかけると騎士団の制服を着た。


エントランスでオリアーナを待っていると、騎士団の制服を着た栗色の長い髪の凛とした美しい女性が立っていた。

「今からは、オリアーナじゃなくて、『上官』と呼ぶ事。タメ口も無しです」


もしやこれが本当のオリアーナ?

いつも見ているメイドの時は気配を消し気味で目立たない髪型とメイクだけど、普通にしていると凛とした美人だ。

年は多分、私より少し上くらいかしら?


「はい」

私は敬礼をすると、上官であるオリアーナの後に続き、馬車に乗り込んだ。


そして、騎士団庁舎に到着すると、補給品の倉庫を開けた。

お隣の倉庫は、救護班の倉庫で、備品の整理をしていた。


倉庫の扉を開け放ち、テントなどの数を数えていると、ちょうど出入りする同期の救護班の女性と目が合った。

「あら!グリーグ子爵令嬢!いいなぁ、グリーグ子爵令嬢は婚活課配属でしょ?」


「婚活課?」


「広域課の事よ。別名、婚活課。今までここに配属された若い貴族令嬢は高位貴族の男性と結婚して退職していくのよ。だから、婚活課。みんなの憧れの部署よ。私たち、第一希望は広域課だったのよ」

救護班の子達が、羨ましそうに私を見た。


「ほら、貴族令嬢としてはなんとか同格かそれ以上の爵位の方に嫁ぎたいじゃない?」

そう言われたが私はピンとこなかったので曖昧に笑った。


私自身、12歳から侯爵令息であるレオン様と婚約していたけど、全く幸せじゃなかった。 

唯一、良かったのがレオン様のウソを信じた人達と距離を取りグラファント先生のところに通った事だ。


そんな私の様子に気がつく事なく、みんなは自分の思い描く憧れる恋愛の話を始めた。


貴族の子女が通う学園では、やはり恋愛の話題が中心で、より良い条件の方にどうにかして嫁ぎたいというのが本音らしい事をこの時初めて知った。


そんな時代錯誤な、婚活課って!

の夢は第一騎士団に配属になることのみ。

そして、女性の要人警護のスペシャリスト集団を作りたいとおもっている。

婚約が思い出したくない黒歴史なので、もうしなくてもいい。


「噂だと現在の王弟殿下妃は昔、広域課で働いていてその後恋愛結婚らしいわ。他にも高位貴族に嫁いだ方は何名か広域課に勤めていたらしいの。最近だと、グリーグ子爵令嬢の前に新人で配属されていたオリアーナ様がデスタン侯爵家にお輿入れされたのは有名な話よ。その後の話も含めてね」


…オリアーナは侯爵夫人?そんな事知らずに好き勝手振る舞ってきた。


背中から変な汗が流れてきた。

そんな私に気づく事なく、救護班の子達は、

「もしも、素敵な独身の方に出会ったら私達にも紹介してね。じゃあまたね」

そう言って手を振り、次の仕事へと向かっていった。


彼女達の背中を見送っていると、

「整理は終わりましたよ」

とオリアーナの声がした。


侯爵夫人にどんな顔を向ければいいの?

ゆっくり振り返ると、オリアーナはニッコリ笑った。


「私達はチームだから私の爵位なんて何も気にする事ないわ。それでは、まだまだレッスンが待っているから帰りましょう」


さっきの話、聞かれていたよね。

あんなに大きな声だったもの…。

オリアーナの言葉にホッとしだけど、この後いつもと同じ過酷な行儀見習いが待っている…。

もう少しだけ違う事を考えていたいけど戻らなきゃ。


「はい上官。グラファント夫人がお待ちですものね」

私はそう返事をして持っていた備品を片付けると倉庫から出た。


「アンネッテ。先ほどから思っていたけど、軍人みたいに大股で歩くし、動きはカクカクしているし不自然よ?じゃあ、報告があるから先に行くわね」

オリアーナはクスクス笑いながら倉庫の鍵をポケットから出して鍵を掛けると、先に行ってしまった。


指摘された私は可笑しさと恥ずかしさで一人で笑っていると、

「なんだか楽しそうだね」

と話しかけられた。

声がした方を見ると、ユーベル副団長だった。


「ユーベル副団長、お久しぶりです」

私は、なんとか平静を装った。


「グリーグ子爵令嬢も元気そうだね。任務の準備は大変だと思うけど頑張って。それじゃあまたね」

伯爵は手を振ると、演習場の方に向かっていった。

以前見た時と同じように爽やかに去っていった。


私も戻らなきゃ……。

変な歩き方のまま広域課に向かい、あの大きな部屋でシェリルへと戻り、以前と同じように細い通路を伝って東門側へと抜けて、馬車に乗った。


「オリアーナ様」

そう言うと、オリアーナは辺な顔をした。


「アンネッテ。気持ち悪いからやめて。普段通り話してほしいわ」


「わかりました。今日一日、アンネッテ・グリーグに戻ってみて思ったんですけど。仮名も『アンネッテ』のままだと、元の自分との区別がつかなくなってそれはそれで混乱するので、『シェリル・コーラブル』を使用したいです。私、頑張りますのでよろしくお願いします」

私はオリアーナにお願いをすると、オリアーナはフッと笑った。


「そうね。同じ名前だと、公私の区別がつかなくなるでしょ?努力しようと思ってくれてよかったわ。広域課として大切な事よ」

その返事を聞きながら、でも…皇太子殿下を振り向かせることは無理じゃないかなぁとは思っていた。

……絶対に口には出せない……。

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