備品がすごい
「それでは、アンネッテ嬢、あらため、シェリル嬢。君のための部屋がある。ついてきなさい」
副総長はそう言って、掃除用具を入れるような、古ぼけた扉を開けて、無理矢理中に入っていった。
私も後に続く。何故かオリアーナもついてきた。
狭い階段を上ると、5つの扉があった。
副総長は、その1番左側のドアの前に立つとポケットから鍵を出した。
その鍵は真新しく、複雑な形をしている。
私とオリアーナは無言でドアが開くのを待った。
ギギギギ
鈍い音を立ててドアが開いた。
扉の向こうは倉庫のようなところだった。天井が高く広い空間が広がっているが、まるで高級デパートがお引越ししてきたのかと思うほど、沢山のドレスやハイヒール、鞄やアクセサリーが展示されている。
そして壁際にはドレッサーと大きな姿見が見えた。
「ここにあるものは全てシェリル・コーラブル専用の備品だ。シェリル・コーラブルの任務は、皇太子殿下に近づき、妃候補として側に付き、密かに護衛をする事」
「え?あ?これが備品?しかも私は皇太子殿下の妃候補?」
混乱して聞き返したけど、答えてはくれなかった。
「では、オリアーナ。始めてくれ」
そう言って何かの指示書をオリアーナに渡した後、副総長は別の扉を開けて、中へと消えていった。
「かしこまりました。では、アンネッテ様、こちらにお座りください」
オリアーナはその指示書をチラリと見て、まず顔と髪にパックを始めた。顔はパックで塞がってしまったので話しかけられない。
髪のパックを洗い流して、顔のパックも外した。
髪の毛を乾かしてセットした後、メイクが始まった。
何か質問しようと口を開いたが、オリアーナに阻止される。
「動かないでください」
そう言ってメイクを続けていった。
肌は艶肌にして、リップは血色よく見えるように赤を基調とした透明感のあるグロスを付けてた。
そして、優しげな面持ちになるように垂れ目気味にメイクをして、まつ毛は長い自然なカールの付け睫毛を足した。
俗に言う、守ってあげたくなる雰囲気だ。
銀髪だった私の髪はシャンパンゴールドのストレートになっていた。
そして、ピンク色の可愛らしいデザインのドレスとハイヒールを履かされて、鏡の前に立たされた。
「……オリアーナ。これって鏡よね?これ……私?」
オリアーナは頷いた。
「特殊メイク……。すごいわ!オリアーナのメイクの腕ってすごいわね!これでは家族でも私だってわからないわ!!」
鏡の向こうにいるのは、可愛らしい女性だ。
鏡の前で、微笑んだり、一回転したりして自分に見張れていると、オリアーナが入り口の方を向いてお辞儀をした。
そこには波打つダークブラウンの髪をきっちりと結った、品のいい高齢の女性が立っていた。
「お久しぶりでございます」
オリアーナが挨拶をすると、女性は微笑んだ。
「そんなにかしこまらなくてもいいのよ?」
女性は私の前に来るとにっこり笑った。
「はじめまして。ボディガードさん。では、早速はじめましょう」
その優しげな物腰と話し方はなんとも上品で、私がお会いできるような方ではないとすぐにわかった。
オリアーナに案内され、隣の部屋に進むと、まるでサロンのような部屋になっていた。
そこには応接セットがあり、暖炉や飾り棚などの家具が配置されていた。
よく見ると、倉庫の一角を部屋として仕切っただけのようだ。
倉庫のため天井が高いので、3メートルくらいのパーテーションを置いても天井までは届かず、上を見ると部屋ではない事がわかる。
そのセットの長椅子に副総長は腰掛け、何やら書類を見ていたが、私達に気がつくと立ち上がって騎士の礼をした。
「これは、ビアンカ様。お忙しいところ、ご足労頂きましてありがとうございます」
「副総長、お久しぶりですわ。堅苦しい挨拶は不要ですよ。ところで、この方が皇太子殿下をお護りする護衛かしら?ワタクシがお願いした通りの雰囲気で、素敵ね。殿下の好み通りよ」
ビアンカ様は私を見るとにっこり微笑んだ。
「私はビアンカ。今後あなたにお願いするのはデリケートな任務なので、大変だと思うけど、期待していますよ。では、貴方のお名前を聞かせてくれないかしら?」
「はじめまして。アンネッテ・グリーグでございます」
ビアンカ様の優しげな雰囲気のせいだろうか、普段通りの挨拶をした。
「不合格」
ビアンカ様から抑揚のない声でダメ出しをされたが、笑顔はそのままだ。
私はポカンとして首を傾げた。
「不合格ですわ。まず仕草から可愛らしさが感じられません。それに貴方はアンネッテ・グリーグではなくてシェリル・コーラブルですわよね?アンネッテに戻るのは『休日』だけです。」
私は訳が分からずポッカリと口を開けた。
「そのだらしない表情は永遠に封印してくださいね。わかりましたか?」
尚も状況が飲み込めない私はオリアーナの顔を見た。
するとオリアーナは優しく微笑んだまま全く動かない。
「貴方の今からの任務はなんですか?皇太子殿下の護衛ですわよね?そのためにシェリル・コーラブルになるのです。いいですか?」
やっと状況がわかってきて、私は作り笑いを浮かべた。
「要人の警護をするには少々素朴な性格のようね。どこでどう間違ったのかしら?マナーの指導はどなたにして頂いたのかしら?」
ビアンカ様は困った顔をした。




