騎士団の配属先
ここで否定をすると根掘り葉掘り関係を聞かれるだろう。
それが面倒なので私は曖昧に笑って自己紹介をしようとした。
しかし、私が声を出す前に彼女達は話を続けた。
「それより、グリーグ子爵令嬢は騎士団員なのね。私達は救護班なの。私達は、実技の試験は無くて筆記試験なのよ。
騎士団員の採用試験ってすごく高度な武術が必要よね?うちの兄が騎士団の練修生でそう言っていたわ。グリーグ子爵令嬢、凄いわね!」
救護班!だから制服が違うんだ!
今の話を聞いて謎が解けた。
「そんな!私は運が良かったんです」
そう答えた時、館内に大きな声が響いた。
「入団式は10分後から開始だ。全員、指定の席に着席するように」
アナウンスが流れると、それまでザワザワしていた会場がシンと静まり返った。
「ねぇ、グリーグ子爵令嬢のお隣の席、空席よね。欠席なんてあるのかしら?」
救護班採用の1人が言った。
「練修生の兄が言っていたんだけど、今年、1人だけ辞退者がいたんだって噂を聞いたらしいわ。その人じゃないかしら?席に書かれた番号を見ると、グリーグ子爵令嬢と一緒に試験を受けているはずよね?どんな人だった?」
ラパロ伯爵令嬢に聞かれたけど、試験の時は受験者の事は全く見てなくて、男性だった事しかわからない。
「ごめんなさい。ちょっとわからないわ」
私の言葉に、
「そうよね、他の人なんて見てる余裕ないから覚えているはずないわよね。噂だと、ブルーのドレスを着た派手なご令嬢だったらしいわ。」
その言葉を聞いて息を呑んだ。
それって私の事かもしれない…。
「聞いた話だと、試験の時、皆、戦闘時に防御できるような装備や服装だったのに、1人だけ夜会のようなドレスでやってきたらしいわ。派手なメイクにドレスを纏ったプラチナ色の髪の女性らしいわよ。第一試験から最終試験まであっというまに通過していなくなったらしいわ」
初めて聞く話に皆驚いたので、ラパロ伯爵令嬢は嬉しそうに私達を見た。
「さすが、ラパロ伯爵令嬢は情報通ですね!」
「本当に。いつも知らない話を教えてくださいますわ」
私は何も言うことができずに微笑んだが、私が辞退した事になっている…。しかも、試験の時は防具をつけるのが当たり前だとか、知らない事が多かったのでそれにもびっくりしていた。
しばらくすると、順番に来賓が入場された。
来賓席には沢山の高位貴族ではないかと思われる出立ちの方が着席した。
いよいよ始まるのね。
その後、騎士団総長が入場した後、2名の側近を従えた皇太子殿下が会場の来賓席にいらっしゃった。
その時、周囲の空気がピンと引き締まった。
それくらい皇太子殿下の纏う空気は格別だ。
恐れ多くて、そちらの方をあまり見れないからどんなお顔の方かはわからないが、きっと凄い方なんだろう。
周囲の空気に流されて、緊張していたらあっという間に入団式は終わった。
次に、第一騎士団の団長が皆の前に立った。
「それでは、今から所属の部署長が名前を呼んでいく。呼ばれたものは立ち上がり、誘導係の所に向かうように。
では、私の部署である第一騎士団に配属になる者から発表する」
第一騎士団!それは騎士団の花形!騎士団の顔!
もしかして名前を呼ばれるかもしれない!
お願い!私の名前を呼んで!
ドキドキして聞いていたけど、私の名前は呼ばれなかった。
それから順番に第六騎士団まで名前を呼ばれたけど、その中にも私の名前はなかった。
呼ばれた人は立ち上がって誘導係の所に向かい、同期同士でハイタッチをしている。
そして、王都以外の勤務地所属になる新入団員の名前が発表された。
ここまでが、騎士としての正規の採用枠だ。
残念ながら私の名前がなかった。
少し落胆したけど、でもまだわからない。
次に、騎士団の練修生が発表された。
もう少し訓練が必要だが、落選させるには惜しい人材が所属する部署だと聞いている。
沢山の名前が呼ばれた。
ここで呼ばれるのかと思ったけど、違った。
その後、救護員や、厩舎勤務員などが発表されたが、私の名前は無かった。
一体いつ呼ばれるんだろう?周りを見渡すと、もう誰も椅子には座ってなかった。
後は私しかいない。
「広域管理、アンネッテ・グリーグ」
最後に私の名前が呼ばれたが、誘導係が誰だかわからない。
しかも、会場内の現役騎士団員から失笑の声が漏れてくる。
そんな笑いの対象となる部署なの?
焦る気持ちを誤魔化しながら、どこに行けばいいのかキョロキョロしていた。
「以上、本年度の採用者への説明会は終了」
誘導員が見つけられない私に誰も声をかけてくれないまま、館内アナウンスが流れた。
他の皆は誘導員に連れられて移動が始まった。
余計に焦って辺りを見回すと、出入り口付近に、私に向かって手を振る、背の腰の曲がった白髪頭のお爺ちゃんが見えた。
私はその人の所に向かった。
「はじめまして、アンネッテ嬢」
目の前のおじいちゃんは、腰が曲がっているためよく分からないがきっと昔は背が高かったんだろうとと感じ取れた。
そのおじいちゃんは騎士団の制服の上から、ニットのベストを羽織り、手には紙袋を持っている。
その時、出口に向かって歩いていた新入騎士団員がお爺ちゃんにぶつかると、普通によろけた。
危ない!
そう思って、私は咄嗟にお爺ちゃんの二の腕を掴んだ。
そんな事気にする様子もなく、ニコニコと笑ってこちらを見ている。
「とりあえず行きましょうかね」
お爺ちゃんはそう言うと、ゆっくりと出口から出た。
私もその後に続く。




