文官様の来訪
アンデル侯爵とレオン様が帰った後、オリアーナは二階の隅っこにいる私達の方を向いた。
「グリーグ子爵様、これに懲りて安易な約束や契約はしないようにお願いします。
もしも、またこういった事があって、何かしらの解決が必要になった場合には、どんな処分が下るか私にはわかりません。
勿論、どなたからの処分か、はもう言わなくてもおわかりですね」
先程と同様に抑揚のない声で言った。
これは絶対に本当の事だ!脅しなんかじゃない!
この侍女はダンプド公爵様の意向を代弁したんだ。
そう感じて隣にいるお父様を見ると、オリアーナの殺気にやられていた……。
「お父様?恐怖で漏らさないでくださいね、お手洗いに行ってからエントランスに来てください」
私の言葉に対してお父様は震えるように頷いた。
そんなお父様とは対照的にお母様はウキウキしていた。
「オリアーナちゃん!素敵!」
お母様はそう言うと、勢いよく階段を降りて行った。
私と弟もその後に続いた。
オリアーナは階段から降りてきた私達をサロンまで誘導すると、手際良くお茶を入れてくれた。
「はじめて我が家に来たのに、お茶がどこにあるかよくわかったわね!さすがオリアーナちゃん」
「お褒めに預かり光栄です」
オリアーナは無表情で礼をした。
「さっきの話だけど……私にお見合いの話が?」
私はちょっと不安になって聞いた。
「いえ。ございません。嘘も方便です」
オリアーナはサラッと答えた。
「さすがダンプド公爵様からの紹介の方です!」
弟は尊敬の眼差しでオリアーナを見た。
この出来事から、我が家は全員、オリアーナの言うことは『絶対』になった。
当然と言えば当然……。
そして、この日を境に、お父様は安易な約束をしないで帰ってくるようになった。
お父様はすごい恐怖を感じたようだ。
面白い事に、お母様の切り札は「オリアーナちゃんに言うわ」になった。
数日後、先触が来て、訪ねてきたのは面接をしてくれた文官様だった。
「アンネッテ嬢、実は急遽、追加の試験をする事になった。この結果次第では、後方支援部隊への配属になって事務担当になるかもしれない」
「……試験内容とは?」
私が聞くと、文官様は何やら紙を出した。
「これにはオリアーナの協力も必要だ。オリアーナもよく聞いてくれ」
と言って長い長い説明が始まった。
内容を聞いて、どんどん私の表情は曇っていったが、オリアーナは相変わらず無表情だ。
むしろ説明している文官様が私達に気を遣って、その都度確認しながら話を進めてくれる。
「何故、これが試験なのですか?」
説明が終わった後、怪訝そうに聞いてしまった。
試験とは思えない内容だったので疑ってしまい、良くない態度だったと思うけど、文官様は気にしていなかった。
「来ればわかるよ。試験官は私だ。当日は、ローズガーデンの時と同様の変装で来る事。私は仕事着ではない服装で行く。では、試験は明後日」
そう言って文官様は帰って行った。
追加の試験の事を考えていたら、あっという間に当日になった。
ご丁寧に、服装まで指定のようでドレスとハイヒールが届いた。
しかも、ドレスには『備品のため、後で返却が必要です』とメッセージカードがついていた。
届いたドレスは、ライトブルーのプリンセスラインのドレスだった。
ウエストから裾にかけて幾重にもレースが重ねられており、可愛らしいドレスだ。
デザインからしてハイブランドのものだと思う。
「すごい素敵なドレスね!でも…備品だから貰えないのよね」
このドレスに着替えて、ブルーのハイヒールを履いた。本当に上品で素敵なドレス!
お値段によっては後で買取ができないか聞いてみよう。
今日は文官様に指定された通り、銀髪の髪を三つ編みに結い、メガネをかけて、地味な顔立ちに見えるメイクをオリアーナがしてくれた。
そして、前回と同じローズガーデンに向かい、前回と同じテーブルに座った。
何故、文官様は前回と同じ場所にするのかしら?
今日のローズガーデンは、前回とは違い、着飾ったたくさんの女性が、一番奥にある貸切のお庭に入るために列を作っていた?
パーティーでも開催するのかしら?
貸切のお庭はまだ開場していないようで女性達は楽しそうに談笑していた。
その時、私の斜め後ろから1人の男性が近づいてきた。
文官様であろうと振り返ると、そこに立っていたのはレオン様だった。




