40.嫉妬
ラナは見た目の迫力で気圧されるが、実際に話してみると気のいい姉御肌な女性だった。
前世でいうところの自称サバサバではなく、本当にカラッとしていて気持ちがいい。
豪快に笑い、飲み、食べ、私にも分け隔てなく接してくれる。
「いやぁさっきはごめんね。ウィルの船っていい男が多いだろ。下心満載で取り入ろうとする女が多くてさ。しょっちゅうトラブル起きるんだわ」
「ああ……なんかわかります。実際みなさん目がギラギ、いえ、輝いてらっしゃる」
「肉食獣の目だよね。その気持ちはわかるんだけどさ。一応この辺のまとめ役やってる身としてはトラブルの芽は先に摘んじまいたいわけ」
あっという間に一杯目を空にして、おかわりを頼むまでもなく二杯目が届く。
店員もラナには一目置いているようだ。
「確かにそういう方たちから見たら、私の存在ってかなりまずいですね?」
「そ。今まで女乗せたことない船なのに、こんなかわいこちゃん連れてたらさ」
「こんな貧相でも敵視されるもんですかね」
「あははごめんて。胸はないけどスタイルいいと思ってるよ」
「いえいいんですウィルにもしょっちゅう言われてるので」
「ウィルに? 貧相だって?」
「あとガキだとか色気ないとか」
「へーえ」
ビールを飲みながら、ラナがちらりとウィルを見る。
「ふーん……」
「なんだよ」
「べぇっつに」
その視線に気づいたウィルがうるさそうに顔を歪めた。
ラナは白けた顔でジョッキを呷った。
「ま、なんにしてもさ。あんたかわいいんだから恨まれるのは確実だね。見てごらん周りの女たちを」
言われて店内を見回す。
ラナがいるせいで近寄ってこれないのか、遠巻きにうちの海賊団を気にしている女性たちの目が、刺すように私を見ている。その数はかなり多い。
ウィル目当てももちろんいるだろうし、ラナのいう通りウィル以外もみな魅力的だ。それぞれのファンが、みんな私を敵視しているらしい。
「なるほど……」
「ね。女ってこわいよね」
大して怖くもなさそうにラナが微笑む。その笑みの美しさにぽうっとしてしまう。
「でもみんなラナさんは睨まないですね」
「怖いんだろ。何人か返り討ちにしてるから」
「こわいっていうか敵わないってわかってるんですよ」
「うん?」
「ラナさんすごく綺麗だもん……いい匂いするし……抱きしめたい……」
うっとり呟くように言うと、きょとんとした後でラナがケラケラと笑いだした。
「ちょっとウィル。この子あたしがもらっていい?」
「ダメに決まってんだろ馬鹿。これはうちの」
「でもかわいんだもん。新しい扉開いちゃいそう」
「なんだそりゃ」
「ねぇレーナ。お姉さんといいことしない?」
「はい……私で良ければ是非……」
蠱惑的な笑みを浮かべ、細い指が私の顎をくすぐる。
すっかり魅了されて、アルコールの回ったふわふわした頭で頷いた。
「ばか、おまえまで新しい扉開くな」
「はっ」
わしっと頭を掴まれ、焦ったようなウィルの声に現実に戻される。
「あぶない……完全に魅了されてました今」
「おめぇは童貞男子か」
「いや違いますけど」
「知ってるわ」
ウィルに小突かれやり返す。
ラナはそのやりとりを楽しそうに眺めている。
「随分ガキっぽくなっちゃってまぁ」
「あ? 誰の話だ」
「あんただよアホ。ほら、レーナもっと飲みな」
「はい! いただきます!」
「おいあんま飲ますなって」
「いいだろ別に。うるさい男だね。父親かっての」
「保護者だっての」
「保護者が必要な歳でもないだろうに」
「ぷはぁ、おいしっ」
「いーい飲みっぷりだねぇ」
「うわ飲みすぎだばか一気すんな!」
わいわいと騒ぐうちに、ラナとはすっかり打ち解けられた。
自惚れでなければかなり気に入ってもらえたように思える。
それがなんだか特別なことに思えて、酔いも手伝い幸せに満ちた笑みが浮かぶ。
「はぁ楽しかった。ありがとレーナ。あたしあんた大好き」
「わたしも……すきです……」
「あとそんな丁寧に喋んなくていいよ、呼び捨てで構わないし」
「はぁい」
にっこり微笑まれてまた見惚れて、上手く回らない頭でふわふわと答える。
五杯目を飲み終わる頃には、私もすっかりラナを好きになっていた。
「おらレーナ飲みすぎだ。宿戻るぞ」
へべれけに酔っている私の腕を引いてウィルが立ち上がる。
いつの間にやらみんなは好き好きに馴染みの海賊やお姉さんたちのところで飲んでいるというのに、保護者様は律儀に私についていてくれたらしい。
「じゃあねレーナ。出航までにまた飲もう」
「ふぁい……」
「飲ますなっつの」
「はいはい」
苦笑しながら言って、ラナはまだ飲み足りないのか追加のお酒を注文した。
「ウィル、あとでね」
「ああ」
意味深に短く言って、それからひらひらと私に手を振る。
本当に魅力的で、綺麗で、大好きだ。
「さようなら、ラナさん。また一緒に飲んでくださいね」
今夜ウィルはこの人と寝るのだろう。
嫉妬と羨望を隠して、笑顔で別れを告げた。




