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39.海賊島

その島は、シンプルに「海賊島」と呼ばれていた。


どの国にも属さない、地図にも載らない小さな島だ。

だからもちろん法律なんてものは存在しない。

無法地帯ながらも海賊たちなりに不文律による自治はある。


ルールは一つだけ。

揉め事を起こさないこと。


島内で問題を起こした海賊団は袋叩きの上、出入り禁止になるそうだ。

あまりにもひどいと皆殺しにされる恐れもあると聞いてぞっとする。

それでも島はいつでも賑わっているらしい。

要は海を拠点とする荒くれモノたちの楽園だ。


ボロボロになった船を堂々と港に停めて、島の中心部へ向かう。

みな顔見知りが多いらしく、目的地に着くまでにあちこちで声がかかった。

女性からの声掛けも多かった。

綺麗で派手な女性ばかりで、親し気に寄ってきて船員達もまんざらではなさそうだ。

女性たちは他の海賊団の船員もいれば、この島で海賊たちの相手をするために働いている女性もいる。

みんな胸が大きくてスタイル抜群の美人ばかりだ。

女としてのなけなしの自信は、一歩進むごとに打ち砕かれていく。

もはや笑うしかない。


造船所で船の修理を依頼し、宿を取ってからみんなで街へ繰り出す。

買い出しを軽く済ませ、適当に店を冷やかしてから夕飯時に酒場へと入った。


私たちが店内に足を踏み入れた瞬間、鋭い視線が一斉に集まった。

そのまま睨みを利かせる輩もいたが、大抵はウィルの海賊団だとわかると態度をやわらげた。

馴染みの客ばかりなのだろう。


もちろん店の外も中もガラの悪い人種しかいない。

そんな中で私の存在はかなり浮くらしい。

派手でも肉感的でもなく、見た目は貧相で平凡だから場違い感がすごいのだろう。

アルやテオが不躾な視線から私を守るように、さりげなくガードしてくれるのがありがたかった。


椅子もテーブルも乱雑に並べられていて、立ち飲みをしている人も多い。

みんな自由気ままに、飲みたいように飲んでいるらしい。


飲み始めるなり、魅力的な女性が次から次へとウィルに群がっていく。

モテるのは分かり切っていたけど、実際目の当たりにするとしんどいことこの上ない。

それでも気にしないように飲んで食べていると、大ボス的な貫禄を感じるド派手な美女が他の女性たちを蹴散らし親し気に話しかけきた。


「はぁいウィル。久しぶりじゃない」

「ようラナ。相変わらずいい女だ」

「ありがと。あんたは男前に磨きがかかったわ」


当然のようにお互いの腰に手を回して、密着する。


なんて絵になるんだろう。


嫉妬も忘れてぽやっと魅入ってしまう。

私の視線に気付いたのか、ラナと呼ばれた美女がこちらをちらりと見た。


「……あら、新入り?」

「ああ。レーナだ」

「あ、初めましてあの、」

「ガキんちょじゃない。ていうか女? なんでこんなの乗せてるの」


急に話題を振られて慌てて挨拶するが、ラナと呼ばれた女性が嫌そうな顔で遮った。


しかめっ面さえ美しいってどういうことだ。


貴族のように、お金のかかった作られた美しさではない。

原石をそのまま切り出したような、抜き身のナイフのような、野生の美しさだ。

色黒の肌はツヤツヤと輝いて、形のいい大きな胸の谷間を惜しげもなく晒している。

露出の多い服は着る人によっては下品に見えるだろうに、それは彼女の攻撃的なまでの美しさによく似合っていた。


「性処理係? その割にぺったんこだけど」

「そのくらいにしておけ。こいつはそういうんじゃねぇの」

「じゃあどういうのよ……てかなんかこの子ずっとぼんやりしてるけどちょっと足らない子なの?」

「……ハッ、すみません見惚れてました」


怪訝な顔で問われて慌てて謝る。

じろじろ見すぎて不快な思いをさせていたら申し訳ない。

ラナが片眉を上げて沈黙したあと、ウィルを見上げて私を指さしながら首を傾げた。


「……変な子ね?」

「ぶくくっ……そう、変なんだわ」


確信を持った疑問符に、ウィルが肩を震わせ笑う。

確かに挙動不審だったな、と自覚してそそくさと居住まいを正した。


「ごめんなさい、あんまり綺麗だからつい」

「いやまぁいいけどさ……」

「おいラナ、あんま深く考えんな。レーナも深く考えてねぇから」

「その通りだけどウィルに言われるのは腹が立つわ」

「なんでだよ事実ならいいだろが」

「……レーナ、牽制されてたの気付いてる?」

「え!?」


アルが半笑いで言った言葉に耳を疑う。

私に牽制? なんの? 

驚いて目を瞬くと、ラナが噴き出した。


「あはは! 気に入った。あんたこっち来な」


ドカッとその辺の椅子に腰を下ろしながらラナが手招きする。

戸惑いながら近寄ると、なみなみとビールを注いだジョッキを渡され隣の椅子に座るよう促された。


「飲みな」

「は、はい!」

「おい手加減しろよ」

「あんたは黙ってな」

「いただきます!」


乾杯してジョッキを煽る。

急激なアルコールの摂取により頭がくらりとした。

けれどラナの生命力溢れる迫力に押され、いつものようにちびちび飲むという選択肢はなかった。


美女を肴に飲むビールは、この世のものとは思えないほどに美味しかった。


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