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12.初仕事の出来は上々

大量の野菜たちが、テオの手によりハイスピードで丸裸にされていく。

その手際の良さに感心してしまう。


「そんなに手早く下ごしらえができるなら、料理もお上手でしょうに」

「テオは味付けセンスが壊滅的にないんだよね」

「そういうこと」


苦笑しながら言うアランに、テオが涼しい顔で頷く。

人には向き不向きがあるらしい。


アラン曰く、テオに任せると見たこともない調味料やらハーブやら買い込んできて、手当たり次第に実験を始めるのだそうだ。

確かにそれはちょっと、と呆れながら自分の仕事に取り掛かった。

少ない調味料と最低限の調理器具で、なんとか工夫しつつ人並みの食事に仕上げていく。

アランは横で細々と手伝いながら、私の作業工程にいちいち歓声を上げて「手品みたいだ」なんてはしゃいでくれるから、まるで一流シェフにでもなった気分だ。


「随分と手慣れてるね」

「ね! お嬢様なのにすごい!」

「ええとまぁ、趣味でちょっとお手伝いさんと作ったりしてたもので」


テオの訝しむような声が、アランの圧倒的無邪気さに紛れる。

スルーしてしまおうとも思ったが、変に怪しまれて警戒されても面倒だと思い適当な嘘をついた。さすがに前世ではよく料理してたんです、なんて言えない。

テオは微妙な表情をしたあとで、「まぁいいか」と笑った。


「言いたくない過去は誰にでもあるよね」


あっけらかんと言って、本当にもう気にした様子もなく硬い肉を切り始めた。

嘘はバレているが、追及する気もないらしい。

アランを見ると、ニコッと笑うだけで何も言わなかった。

ウィルもそうだが、この船の人たちは人の事情を深く探る趣味はないらしい。

宮廷内では、財政事情や性事情なんかを会う人会う人に根掘り葉掘り聞かれるのが普通だったから、なんだか新鮮だった。


「うん、こんなもんかな」

「うわぁ、美味しそう!」

「久しぶりにまともな食事だな」


ようやく二十人分の食事を作り終え、アランとテオが嬉しそうに言う。

改まった態度で深々と料理への礼を言われ、大したものは作れなかったのにと恐縮してしまう。それでも二人は大袈裟なくらいに私を褒めてくれた。

照れて赤くなった頬を押さえながら、後片付けや食事の準備に取り掛かる。

三人で分担しながら料理を取り分けて配っていると、一仕事終えた様子の船員たちがドヤドヤと食堂に入ってきた。

美味そうだの良い匂いだの歓声を上げながら、各々の席について私に手を振るのにぎこちなく返していく。

なんとか引きつり笑顔を貼り付けている私に、船員たちは妙に癒された顔をしていた。

やっぱり完全に珍獣扱いだ。

面白がられている。


働いたあとだからか、熱気のようなものが食堂内に充満する。

確かにむさ苦しいことこの上ない光景だ。

女子力が低くとも、女性の一人も混ぜたくなる気持ちも分からなくはない。


最後に入ってきたウィルが、すぐに私を見つけてニッと笑う。ちゃんと働いているのを確認したのだろう。

真っ直ぐに近寄ってきて、船長の席に置こうとしていた皿を見て「ほう」と感心した声を上げた。


「案外まともじゃねぇか」

「どんなひどい物を想像してたんです」


意外そうな態度にムッとすると、「悪い悪い」と笑って雑な仕草で頭にぽんと手を置いた。


「アランとテオは役に立ったか」

「はい。お心遣い感謝します」

「なんだ他人行儀だな」

「えぇまぁ他人なので」


皿をテーブルに置きながら素直に答えるとウィルは面食らった顔をして、周囲が面白そうに茶々を入れる。

ウィルはうるさそうに手で払って黙らせた。

一応上司にあたる人だからと最低限の丁寧口調で話してはいるが、人攫いには変わりない。どう接すればいいのかいまいちスタンスを決めかねているが、他の船員たちのようにフレンドリーな対応は今すぐにはとても出来そうになかった。


「ま、それもそうだな」


何か文句を言われるかとも思ったが、あっさり納得される。

犯罪者としての自覚があるのだろうか。


「会ったばっかだもんな……これからじっくり仲良くなろうなぁ」


ニヤッと笑って言われて思わず後ずさる。けれど狭い食堂なので、すぐにテーブルに阻まれた。

随分とタチの悪い顔だ。身の危険を感じて体が竦むような。

けれど、どこか抗えないものを感じさせる危うい魅力を伴うものでもあった。


「うわ船長やーらしい」

「スケベおやじの顔してんじゃん」

「お嬢さん完全に引いちゃってるよ」

「あいつああいう顔させたら最高に気持ち悪くなるな」

「だれか警察突き出してこいよ」

「はっは、お前らあとで覚えとけよ」


カラッと雰囲気を変えて船長が私から視線を逸らした。

悪質な冗談にまんまと怯ませられたのが悔しい。

経験豊富な高位貴族の奥様方ならば、喜んでこの危険な男の胸に飛び込んでいっただろうか。


そう思うと、なんとなく腹立たしい気持ちになった。

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