表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ヒストリカル・ロマンス

妹が「修道院には行きたくない」と泣くので、姉は婚約者を譲って自力婚活することにした

作者: 仁司方

強くて優しいお姉ちゃんが書きたかったんです。


「お姉さま、わたくし修道院になんか入りたくありませんわ!」


 妹のリーティミアが、きらきらお目々に涙をためて訴えかけてきた。よしよしと撫でてやりながら、わたしはどうしたものかと考えてみる。


 べつだん、妹に落ち度はない。姉であるわたしのものをかたっぱしから強奪したとか、婚約者を横からかっさらおうとしたとか、そうした悪事を働いて修道院送りというわけじゃないのだ。


 単に、持参金が足りないから、財産の散逸を防ぐためであった。


 こまごま経緯を述べていると長くなってしまうからざっくりと振り返るが、わが国をここ半世紀ばかりぐっちゃぐちゃにしていた社会的動揺の余波である。


 まず革命によって国王一家が断頭台に送られ、

 つづいて内ゲバで革命政府が分裂し、

 一度は革命サイドに味方していた元王国軍の若手将校バルトポルテが事態を収拾したが、そのまま独裁官となり、

 とうとう皇帝を称するようになったバルトポルテを周辺諸王国が連合組んで潰しにかかって大戦争になり、

 戦争の天才であったバルトポルテも最後は敗れ、旧王家の遠縁が連合国の傀儡として担がれたが不人気で追放され、

 混乱に乗じて密入国してきたバルトポルテの甥が「国民主権君主制」をぶち上げて議会の過半を掌握し、とうとう「選挙制皇帝バルトポルテ三世」として賛成多数を得た。


 ――イマココである。


 そして我が家は成金(ブルジョワ)側なのだった。

 革命期はだいぶ調子こい(ブイブイいわせ)てたみたいだけど、いまや金銭(ゼニ)こそあるが下賤の身という本来のポジションに戻っている。


 貴族も貴族で、革命で没収された名こそ取り返したものの特権は戻らぬまま。農地は小作人たちのものになっているし、免税権もない。


 かくして、金銭(ゼニ)しかない成金(ブルジョワ)と、家名(ステータス)しか手元に残っていない零落貴族のあいだに、お互いに欠けたものを補おうという動機が発生するのであった。


 つまり、わたしには名ばかり貴族の婚約者がいる。向こうの目当ては持参金。婚約を決めたわが父の目当ては()である。


 もしわたしたち姉妹のほかに兄か弟がいたら、「持参金なし」の条件で没落したが家格は高い貴族のお嬢さまを迎え入れ、わたしとリーティミアはどちらも修道院行きだっただろう。

 現状は、それに比べればいくらかマシか。


 ……ことがここに至るまでのおさらいを脳内ですませたわたしに、ひとつ思いつきが降ってきた。


「ねえリーティミア、わたしの代わりに結婚する?」

「お姉さまの代わり、ですか?」

「わたし、イグナシス卿とは一回しか顔合わせてないから、好きも嫌いもないし。父さんはべつに、伯爵家の縁者って看板さえ手に入れば、結婚するのがわたしでもあなたでも構わないのよ」

「でも、わたくしが持参金を持って結婚してしまったら、お姉さまは修道院に……」


 涙の乾いた目で、リーティミアはわたしを見つめる。姉さんの心配をしてくれるのかい? かわいいやつめ。


「だいじょうぶよ、修道院には行かないわ」

「いったい、お姉さまはどうなさるのですか?」

「持参金は無用、といってくれる旦那を捕まえればいいのよ」


 にやり、とわたしは笑ってみせる。


 家柄やお金だけが恋の武器ではない。むしろ邪道な飛び道具だ。

 ……まあ、わたしも本で読んだ知識しかないですけどね。


    +++++


 案の定、父はわたしの代わりにリーティミアをイグナシス卿へ嫁がせる、という提案には反対しなかった。

 わたしが修道院へ行かず、都で自力婚活する、というと渋い顔をしやがったが。


「修道院だって無償(タダ)じゃないでしょ。寄付金払わないですむようにしてあげるっていってるのよ」

「しかしだなミゼレッタ、十七の娘が自分のほうから結婚相手を探して都をうろうろするなど……」

「いまはオペラ座で踊りながら出会いを待つのが、階級問わず常識なんだから」

「オペラ座の仮面舞踏会は、顔が見えないのをいいことに娼婦が紛れ込んでるというじゃないか。それどころか未婚の娘までも娼婦のまねごとをしているとかなんとか」


 スケベオヤジめ。そういうゴシップ記事にだけ詳しいんだから。


「わたしはリーティミアのしあわせのために動くのよ。このド田舎三流馬の骨一族も、持参金のおかげでイグナシス伯爵の縁者になれる。いまは落ちる余地がなくたって、家名に泥を塗るようなマネをするわけないでしょ。リーティミアが結婚する意味なくなるじゃないの」

「わ、わかっとるなら、いいんだ」

「じゃあ、メリーア伯母さまにお手紙を書いてちょうだい。わたしも私信を添えるわ」

「姉貴に……?」

「都の商会支店に住み込むのが一番安く上がるでしょ」

「まあ……そうかも、しれんが」


 メリーア伯母さまは、目の前のボンクラと違って、創業者であるわたしの祖父からしっかり商才を受け継いでいる。実質的にわがクロージュ商会の主柱だ。

 先の戦争で旦那さんを亡くして未亡人生活三十年。熟年になってなお艶やかさを増す社交界の花形でもある。うわさによると現通商大臣の愛妾だとか。

 父がイグナシス伯爵との縁談を求めたのも、姉であるメリーア伯母さまに張り合うためなのだ。いやはや、しょうもないことに大枚をはたいたものである。

 そのくせこれ以上出費が増えないように姉妹の片割れは修道院に送ろうとするとか、金銭(ゼニ)と見栄のどっちが大事なんだまったく。


 だんだんむかっ腹が立ってきたが、ボンクラがおとなしく手紙をしたためはじめているので、わたしは自分を抑えた。リーティミアは修道院送りをまぬがれ、わたしは都へ行ける。いまはこれで充分としよう。


 気になる点といえば、イグナシス卿ははたしてどんな人物なのか、ってことくらいだ。顔はよかったけど、それ以上のことがわかる時間はともにすごしていない。なにせお茶一杯しか飲んでないからね。


 とんでもないクソ野郎で、修道院のほうがマシだった、と妹が泣くことにならないよう祈るしかなかった。


    +++++


「ミゼレッタ、ひさしぶりねえ!」

「メリーア伯母さま! わざわざお出迎えしていただけるなんて、とってもうれしいです!」


 汽車から降りると、あのボンクラ親父とは似ても似つかない、華麗な婦人がホームで待ってくれていた。

 五十代に乗っているとは信じられない肌のツヤとハリ。豊満なバストと対照的に締まったウェストからの張り出したヒップ。まったくたるみがないバラ色のほおと、あえてのほんのわずかなひとすじのしわが知性をたたえる目許。


 ――これが美魔女か。最後に会ってからたぶん六年くらいたってるんだけど、むしろ若返ってるような気がする。


 なによりうれしいのは、伯母さまが本心からわたしを歓迎してくれていると伝わってくることだ。旦那さんとの結婚生活が短く終わってしまったこともあり、メリーア伯母さまは女の子に恵まれなかった。だから、わたしとリーティミアはいつもかわいがってもらえる。


 わたしから見れば従兄になる、メリーア伯母さまただひとりの息子さんは、現在海を渡った先、新大陸で独立した事業を営んでいる。


 大きく柔らかな胸でわたしをひしと抱きしめてから、メリーア伯母さまはこういった。


「エミールはいい子なのに、どうして結婚してあげなかったの?」

「エミール……? イグナシス卿ですか?」


 ぶっちゃけ、わたしはイグナシス卿のファーストネームを知らなかった。紹介されたけど忘れたのかも。社交界の花形である伯母さまが、伯爵の中でも上から数えたほうが早い名門だというイグナシス卿を知っているのは不思議なことでもなかったが。


「あなたらしいわねえ。あたくし、エミールに相談されたから、ミゼレッタはとてもすばらしい女の子だって、推しに推しておいたのに。彼、どこか気に入らなかった?」


 と、メリーア伯母さまは肩をすくめた。

 そんなことがあったとは……。


「伯母さまのご厚意を無にしてしまってすみません。じつは――」


 たしかに手紙には、わたしの代わりにリーティミアがイグナシス卿と結婚し、わたしは自力婚活のために都へ出る、としか書いていない。


 ざっと事情を説明すると、伯母さまはため息をつく。


「あら、修道院だなんてひどいわ。あなたでもリーティミアでも、あたくしに預けてくれれば、かならず申しぶんのない縁談を見つけてあげたのに。ジャンも依怙地ね」

「同感です」


 まあ、ボンクラ(ジャン)なりに見栄とプライドがあるのはわかるけど。ただでさえ姉であるメリーアが商会の実質中心なのに、娘のわたしたちの結婚まで世話してもらったら、後継者の指名権も一任というわけで、三回廻ってワンと鳴いた上に腹まで見せてるようなものだ。

 意地のつもりだったのだろう。ところがイグナシス卿も、メリーア伯母さまの掌中の人物だったわけだ。きっとこれは父のあずかり知らぬことで、知らないままのほうが本人のためだな。


「さあ、これ以上立ち話をすることもないわね、いきましょう」


 そういって、メリーア伯母さまはわたしに先立って歩きはじめた。

 袖のゆったりと膨らんだモスリンのドレスにショールを肩にかけ、羽根のついた帽子という出で立ちが、たまらなく颯爽としていてかつあでやかだ。花の都の上流婦人にとっては、昼用の、ごくふつうの外出着なんだろうけど。


 わたしは完全にお上りさんの田舎娘。いや事実そのとおりではある。しかし、見た瞬間だれにでもわかってしまうというのは面白くなかった。


 都に早く溶け込まなければ――

 伯母さまの小間使いのように斜め後方に従いながら、わたしは脱イモ計画の推進を決意した。


    +++++


 ご紹介が遅れたが、わがクロージュ商会は印刷業者である。


 祖父が事業をはじめたきっかけは、革命の機運を高めた、旧王家の放埒さ、貪欲さ、無節操さを暴露する、新聞記事の効果を爆発的に増強した、印刷機の威力を目の当たりにしたから、だったのだそうだ。

 それまでは街ひとつに一枚貼られるかどうかだった壁新聞が、角を曲がるたびに目につくほど量産されたのだ。官憲に何度破り捨てられてもすぐにまた貼り出される、無限の再生能力とともに。


 開業した祖父は、革命後に分裂していた各勢力のプロパガンダ用ビラを、代金次第で刷りまくって財をなした。

 ……武器を直接売ってた死の商人よりタチ悪かったんと違うかと思わないでもない。


 もっとも、祖父は政治的アジテーションの片棒担ぎだけをしていたわけではなく、大衆向けの読み物を手ごろなサイズと価格で売り出して、文化振興に寄与している。

 都の芸術サロン内だけで回し読みされていた小説を、多くの人が手に取れるようにしたのだ。作家から見ても、一部貴族やブルジョワだけを相手にする商売から、数多くのさまざまな階層出身の読者へ向けた、新たな地平が開かれた。

 わたしがこれまで読んだロマンス小説も、クロージュ商会の印刷物である。ビバ活版印刷。


 アジビラ製造罪で取り潰されるのが妥当だったところを生き延びることができたのも、農村の識字率向上を掲げて教育大臣に大衆向け読本をアピールしたからだ。教育の重要性が、革命以降はお上の頭がすげ変わっても一貫して認められてきたおかげである。


 商会の安定に決定的寄与をなしたのは、議会選挙の布告ポスターや投票用紙の印刷を受注できたから、だそうだが。

 それだって、一世代以上をかけた識字率の底上げという下地あってのことなのだ。


 バルトポルテ三世信任国民投票の布告ポスターや投票用紙の印刷も、クロージュ商会の仕事であった。

 ちなみに皇帝としてはふたり目なのになんで「三世」なのかというと、敗戦によって戴冠できなかったが、初代バルトポルテの息子シャール・バルトポルテは、皇太子としてバルトポルテ二世を名乗っていたからなんだとか。


 わがボンクラ親父ジャンは、政治的駆け引きをする機微や、剣より怖いペンの力のコントロールをする度胸には恵まれなかったが、手先が器用な職人で、原版師であった。

 そう、父はまるっきりの無能ではないのだ。祖父の構想を実現する、有能な手足ではあったのである。創業者の没後も事業拡大に熱心なメリーア伯母さまと違って、アイデアがないだけで。

 どんどん延伸されていく鉄道の時刻表をそのつど改版したり、仕事はしてるんだけどね。


 都の中央駅から馬車に乗り、メリーア伯母さまがわたしを連れていったのは、クロージュ商会のオフィスのほう。工場(こうば)はすこし郊外にあるそうだ。


 これから用事があるので出かけなければならないという伯母さまは、紹介状を書いてわたしに預けると、デスクの上の呼び鈴を鳴らした。

 ノックにつづいて、十二歳くらいの子がふたり入ってくる。男の子と、女の子。似ているので、たぶんきょうだいだろう。


 女の子のほうが口を開いた。


「お呼びですか支店長」

「今朝がた話はしたと思うけど、こちらが、あたくしの姪のミゼレッタよ。――このふたり、双子の姉弟なの」


 ふたりとわたしのほうを交互に示しながらの伯母さまの紹介は、おおむねわたしの想像どおり。


「ルーネです、よろしくおねがいします」

「ポールだよ、よろしくねお姉ちゃん」

「よろしく」


 屈託なくあいさつしてくるふたりに左右の手を取られていると、メリーア伯母さまは「それじゃあ、あとは適当にやって」といってオフィスをあとにしてしまった。


「適当に、って、どうすればいいのかしら……」

「支店長からは、なにを受け取ったんですか?」


 問われるままにルーネへ紹介状を渡すと、宛名を見るだけでうなずいた。


「ドレスを仕立てるんですね。場所はわかります、行きましょう」

「……ドレス?」


 花の都の空気に合わせ、イモから脱さなければ、とはたしかに思ったけど。

 まだ伯母さまにひと言も話してないのに、と首をかしげると、


「遠慮する必要ないよミゼレッタお姉ちゃん。メリーアおばちゃんは、ぜったいに損しないときにしかお金使わないから」


 そう、わけしり顔でいったのはポールだった。

 たしかに子供から見れば「おばちゃん」なんだけど、メリーア伯母さまがおばちゃんって呼ばれるとなんか違和感すごいな。


 しかし……わたしにドレスをあつらえさせて損はしない?

 メリーア伯母さまは、わたしを嫁がせるアテが社交界にあるのかもしれないな。議員さんとか、外国の大使とかだろうか。


 渡りに船のような気もするけど、なんだろう……一から十までおんぶにだっこじゃなくて、結婚相手の殿がたくらいは自力で落としたいというか。


 ……こんなこと考えるあたり、どうやらわたしの血筋は立派にボンクラ側のようだ。(伯母さま)に甘えきることができなかった、ジャン(父さん)を笑えない。


    +++++


 ルーネとポールに連れられて、乗り合い馬車で一流テイラーの店が建ち並ぶ中心街へ出たわたしは、紹介状の宛先の高級店の数々をはしごして、身長から肩幅から腕や脚の長さから指の太さまで、徹底的に全身採寸された。


 そういえば、以前読んだロマンス小説で、ドレスを仕立ててもらう場面は読んだことあったな。あれは侯爵家のお姫さまだったから、職人をお屋敷に呼びつけてたけど。

 庶民はこっちから出向かなきゃ、そりゃ採寸なんてしてもらえないわね。というか、メリーア伯母さまの紹介状がなかったら、わたしみたいな田舎娘が都の一流テイラー訪ねても、門前払いが関の山か。


 ルーネとポールは、刷り上がったモード誌の見本を届けに、ときどきお使いをするそうだ。


 名目上は本店だから、父のところにも都支店からモード誌が連日のように送られてきてはいた。……でも、わたしはロマンス小説にしか興味なかったのよねえ。


 ヴァザルクとフローヴェルが連載してたから、『ラ・ジューナル・デ・モード』に『ヴォン・ヌーヴォー』は小説欄だけ熱心に、ほかの記事も流し読みはしてたけど。


 いわれてみれば、年がら年中枯れ葉みたいな色合いの服で通していたド田舎にも、ここ数年は、鮮やかな色彩の着こなしをした奥さま連や娘さんが増えてたような気もする。

 

 メリーア伯母さまの仕事が、都から地方へ最新モードを伝えていたわけだ。


 ……採寸してもらってから十日かからず、昼用と夜用のドレスが一式ずつ届いた。手袋とか、靴とか、帽子とかのもろもろ付属品込み。早くてびっくり。


 ファッション・プレートと呼ばれる、銅板版画に手で彩色をしたカラー絵が一枚か二枚に、評論や小説の連載記事が載っている八ページのモード誌が週刊で出ちゃうように、いまはあらゆるモノがすごいスピードで作られる時代のようだ。


 ドレスを作るのも、染色まではすませた生地が常に在庫されているからすぐにできるんだっていうし、遠からぬうちに、よくいる体型に合う仕立てであらかじめ型紙を起こした服が、注文を待つことなく作られるようになるのだろう。


 本も、手塗りじゃなく印刷自体がカラーでできるようになれば、さらに十倍百倍の勢いで作れるようになるのかな。


 そんなこと思いながらルーネに手伝ってもらってドレスを着込んだわたしを見て、メリーア伯母さまは手を()った。


「とってもすてきよミゼレッタ! あたくしの若いころにそっくり、いいえ、それ以上ね」

「ありがとうございます」


 正直、そこまでとは思えないんですけど。それとも、わたしも伯母さまみたいな美魔女に育つ素養があるんでしょうか?

 んー……ない気がする。


 現に、交互に伯母さまとわたしを見比べていたポールが、こういった。


「うん、ミゼレッタお姉ちゃん()きれいだよ。まあ、メリーアおばちゃんに比べると、ちょっと残念おっぱ――げふぉっ」


 ルーネが神速の左フックで、弟を床へと沈めた。


「お気になさらず、お嬢さま」


 のびたポールを引きずってソファの上へ投棄し、ルーネは涼しい顔で一礼する。


 伯母さまがわたしにドレスを作ってくれたのは、社交界へ連れて行くためだけではなかったようだ。

 わたしにいくつかポーズのリクエストを出してから満足げにうなずくと、部屋の外に控えさせていた奉公人を呼ぶ。


 父のもとで二年前まで修行していた職人で、わたしも知っている顔だった。


「ひさしぶりね。元気そうでよかったわ、フィリップ」

「ごぶさたしております、ミゼレッタお嬢さま」


 父も技巧を高く評価していた原版職人のフィリップだが、持っているのはたたんだ状態のイーゼルとスケッチ帳だった。


「フィルは絵も上手いの。あたくしも、ドレスを新調したときは、彼に絵で残してもらっているのよ」

「多芸なのね」


 メリーア伯母さまの紹介に、わたしが感心してフィリップを見ると、ルーネが横から補足をくれた。


「ちなみに支店長の絵は、ファッション・プレートの原画として売れました」

「きっと、あなたの絵も売れるわよ、ミゼレッタ」

「いやいや、わたしがモデルだなんて」

「まあ、売れるか売れないかはついでのことよ。汚したりシワがつく前に、記録として描いてもらって。つぎはあなたもいっしょにきてもらいますから。――それじゃ、頼むわよフィル」

「承知いたしました、支店長」


 多忙な伯母さまは今日もお出かけ。次回はわたしもついていかなきゃならないのか……。たいへんかも。


 ルーネが冷たい飲み物を作ってくれて、合間にひと息入れながら、前後からフィリップにドレス姿を描いてもらった。

 ファッション・プレートというのは、都へ直接やってくることのできない地方の奥さま連に最新モードの雰囲気を伝えるためのもの。主役はあくまで服飾である。


 メリーア伯母さまが認めるとおりフィリップの絵は達者で、シロウトであるわたしの目には、当代の人気モード絵師であるルイ・エンデやアンリ・ガヴァーニと遜色ないように思えた。


 ただ、ひとつ気になったのは。


 実物よりもうるわしく立つ絵の中の女性は、わたしよりも、なんだか妹のリーティミアに似ているように見えたことである。


    +++++


 ……社交界の面倒くささは、わたしの想像をはるかにしのいでいた。


 まず、昼下がりにオープンの馬車に乗って散策へ出る。ルートは都の目抜き通り。金銭(ゼニ)を惜しまずつぎこんだ服と、美貌の誇示だ。メリーア伯母さまのような熟年婦人であれば、中身のメンテナンスにも怠りないことを、それだけの時間とお金の余裕があるのだとアピールすることになる。


 名前が知られていない人間は、まず公衆の面前で顔見せをしないと招待状がもらえないわけだ。伯母さまのようにすでに花形として名の通っている人であっても、昼間の散策にずっと顔を出さないでいると、


「あの人は日中働きづめでないと夜会にも出られない」


 と陰口たたかれることになる。


 ……見栄ってのはバカバカしいねえ。たいていの貴族が零落したってのは事実だし、新興勢力だって濡れ手で粟にのし上がったばかりじゃなく、額に汗して働いたから成功したほうが多いのに。

 真っ昼間からヒマですってアピールするのが偉いって感覚は、ちょっとわからない。


 とまあ、最初の一歩から社交界へ溶け込む気がなくなっているわたしの曲がった根性とは裏腹に、メリーア伯母さまのネームバリューのおかげで複数の招待状が届いた。


 夜の外出となると、今度は箱馬車でなければならない。昼用のオープンキャビンに幌をつけてすまそうとすれば、場違いな貧乏人が背伸びしてるぞ、と笑われることになる。


 ドレスコードも打って変わって、昼間は帽子をかぶるのが絶対条件だったのが、夜会では結った髪に花や羽を差す必要がある。編み上げるだけで許されるのは、髪の美しさに揺るぎない自信があり、かつご意見番である社交界の上流婦人からも認められている女性だけだ。

 わたしの髪はどうということない、藁色をしたまさに鳥の巣なので、どうにかまとめてから、宝石つきの髪留めと花で飾ってフォローが欠かせなかった。


 わりと運動は得意なのでダンスのステップを覚えるのは苦にならなかったけど、舞踏会ってべつにおもしろくもないなあ。ロマンス小説の主人公たちは、なんでこんなものに参加したがっていたやら、よくわからなくなってきた。


 三日もすると、おいしい立食(ビュフェ)が出るのだけが楽しみになった。でも、ぴっちり採寸で仕立てられてるドレスがきつくて、あんまり食べられないんですよね!


 メリーア伯母さまは、ダンスより食べ歩きがメインと化している、わたしの脱線婚活をとくに咎めようとはしなかった。それどころか、仕立屋を商会支店に呼んで、あたらしいドレスを作るようにと勧めてくれた。

 今度は、イメージ画をフィリップに描かせて、デザインの時点からわたしの意見を採り入れてみなさいという。


 どうやら、以前のファッション・プレートが売れたらしい。


「ミゼレッタ、あなたはまだ充分以上に若いわ。しばらくは好きにしていて構わないわよ。ドレス代も滞在費も、あなた自身で賄えるようだし」

「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます。……むしろ、婚活するより、伯母さまのお仕事教えてもらうほうがいいかも、って自分で思うんですけど」

「あたくしは未亡人のオールドマダムだから許されているのよ。五年くらいはのびのびしていていいけど、やっぱり一度は結婚しないとね。……あなたに時代が追いつくのは、まだまだ先よ」


 そういうものですか。

 ……五年か。といっても、五年たったら、わたしはメリーア伯母さまが旦那さんと死に別れた歳になってしまう。

 伯母さまはそれから三十年、社会の激動を乗り越えつつ、息子さんを独立まで育て上げながら商会の都支店を守り、創業者である祖父の死後は、実質クロージュ商会の中心として細腕をふるってきた。


 真似できるかなあ、わたしに。


    +++++


 あたらしいドレスのデザインを考える中、めずらしくルーネとポールが席を外すタイミングがあったので、わたしはフィリップに思いきって訊いてみた。


「ねえフィリップ、あなた、リーティミアといい仲だったの?」

「い、いきなり、なぜそんなことをおっしゃるんですか、ミゼレッタお嬢さま……」


 デッサンをしていたフィリップは、木炭を取り落としてしどろもどろになる。動揺しすぎでしょ。


「だって、あなたの絵は、いつもわたしじゃなくてリーティミアに似てるんだもの」


 フィリップのスケッチ帳を取り上げて、帽子のデザインを考えていたときの頭部のアップの絵を開き、わたしの顔と並べてみせると、彼の額に汗が浮かんだ。どうやら、自分では気づいてなかったらしい。


「僕は……ミゼレッタお嬢さまに感謝しています、本当に。ご自分の婚約者を譲ってまで、リーティミアお嬢さまを修道院行きの運命から救い出してくださった」

「いやいやちょっと待とうよ。リーティミアがほかの男と結婚することになるんだけど、それはいいの?」

「修道院に閉じこめられるよりは、ずっとしあわせじゃないですか」


 ……うん? フィリップくんの価値観、わたしには少々難しいぞ?


「フィリップ、あなたはリーティミアが好きなんでしょ?」

「だった、です。社主のご令嬢に、そんな大それたこと、お伝えなんてしていません」

「いやいや、ここまで上手に、しかも二年前じゃなくって、いまのリーティミアの絵が描けちゃうって、確実に現在進行形でしょ。それに、うちだって庶民だよ。あなたの腕は父も買ってたし、断らなかったと思うんだけどなあ。持参金よこせとかいう気もないでしょ?」


 わたしが指を折りながら述べ立てると、フィリップの顔に苦悩が刻まれはじめた。秘めたる想いを伝えないまま、修行を終えて都支店での勤務が決まるのに従ってリーティミアの前を去ったことに、いまさら後悔がつのってきたか。


 二年前だとリーティミアは十四、たしかにちょっとだけ早いというか、ギリギリ適齢期というか、微妙なところではあるが。


「ですが、リーティミアお嬢さまは、イグナシス伯爵と……」

「いや、たぶん間に合うでしょ。正式な婚約者の変更、すませてないもの。いちおう、イグナシス卿の婚約者はまだわたし」

「……そうだったんですか」


 フィリップの目に、わずかな希望の光が射した。

 いい顔するじゃん。舞踏会で踊った殿がたの中に、ひとりくらいこんな面構えの男がいればね。

 ……あいや、いなかったおかげで、フィリップに崖っぷちから復活の可能性が出てきたのか。


「よし、いくかフィル」

「……どちらへ?」

「実家よ実家。わたしはイグナシス卿を回収して、きみはリーティミアと結婚するの」


 わたしはソファから立ち上がって、汽車の切符を手配するにはどうすればいいんだったか思いだそうとしたけど、そこでドアがばたんと開いた。


「途中からですが、お話うかがわせていただきました!」

「ルーネ?!」


 まさか聞き耳立てていたとは思わず、わたしはびっくり仰天し、


「ど、どこから……?」


 と、フィリップは顔を赤くする。


「修道院に閉じこめられるよりは、くらいからかな。フィル兄ちゃんは純情だなあ」


 ポールがそういって悪そうに笑った。

 ……まあ、こっちはそろって田舎者だからね。十二歳といっても都生まれの都育ちな、ルーネとポールのほうがおませさんかもしれない。


「このさい、聞いてたなら話早いわ。中央駅に行って、切符を二枚取ってくれない? わたしたちは準備したらすぐ行くから」

「そのお手間は、不要かと思われます」

「……なんで?」


 わたしが真顔で首をかしげると、ルーネはもったいつけたりせずに答えを教えてくれた。


「さきほど、イグナシス卿とリーティミアお嬢さまが、都中央駅へ到着されたと連絡があったからです」

「急だったから、メリーアおばちゃんに知らせないといけなくってさ」


 そっか、だからいつもわたしについてくれてるルーネたちがいなかったのか。


 ……それにしても、事前の連絡もなしにイグナシス卿と妹がやってきた理由はなんだろう?


 イグナシス卿がリーティミアと意気投合して、いますぐ結婚したいから正式にわたしとの婚約を解除したい、とかだったりして。


 わたしはそんなにショックじゃないけど、浮かびかけた瞬間に突き落とし直されたら、フィリップの心に深い傷が残るね……。


    +++++


「お姉さま!」


 とりあえずルーネに案内を頼んで、商会の馬車で中央駅に向かったわたしだったが、コンコースで待っていたリーティミアが勢いよく飛びついてきた。


「リーティミア、よかった、元気そうね」

「お姉さま、ますますおきれいになりましたわ」

「ありがと。リーティミアは相変わらずかわいいよ」


 まだ二ヶ月はたってないけど、なんだかすごくひさしぶりな気がする。


 左腕にリーティミアを取りつかせたまま、わたしは遅ればせながらイグナシス卿のほうを振り向いた。


「ミゼレッタ嬢、突然押しかけてすまない。リーティミア嬢まで連れて」

「とんでもない。というか、イグナシス卿はもともと都のかたじゃないですか。わたしに断りなんか必要ないですよ」

「折り入って話があるんだ。どこか、落ち着ける場所はないかな」

「はい、馬車待たせてますから。テュレイリ庭園でいいですか」

「もうすっかり都に馴れているね」


 わたしが社交界の昼の散策スポットをあげると、イグナシス卿は微笑んで肩をすくめた。なぜか、元気のない笑みに見えたが。


 ……しかしまあ、駅での立ち話で、婚約取り交わしの顔合わせをしたときよりも多く会話したんじゃないかしら。


 中央駅からクロージュ商会のオフィスまでの、ちょうど中間くらいにテュレイリ庭園は位置している。

 リーティミアとルーネを馬車に残して、わたしはイグナシス卿と庭園を並んで歩きはじめた。社交界の上流婦人は原則屋外を自分の足で歩かない。数少ない例外が、テュレイリ庭園での散歩である。


 そこかしこでどこぞのご婦人がたが会話の花を咲かせていたり、身分の高そうな熟年の奥さまが、愛人であろう青年と連れだって歩いたりしている。


「私は、あなたに嫌われてしまったのかと、ずっと気が気でなかったんだ、ミゼレッタ嬢」

「ええと……父は正直に話さなかったと思いますけど、妹からはお聞きになりましたよね?」


 イグナシス卿の第一声はずいぶんと寂しげな響きだったので、わたしはあえて声高く問い返した。

 家格と持参金のバーター取引、一度、お茶を一杯飲むあいだだけ顔を合わせた婚約者が、妹と交代になった程度で、そんなにしおれる必要あるだろうか?


「リーティミア嬢は、顔を合わせるなり、まず私に謝ってきた。それから、お姉さまがとても優しくて、なにごとも自分の意志で決め、自分の足で立つ強い人だと、ずっと話をしてくれた」

「なんか、すみません……」

「私は、リーティミア嬢から話を聞けば聞くほど、あなたが、マダム・エシュレムからうかがったとおりの女性だということを確信するようになったんだ」

「マダム・エシュレム……ああ、伯母のメリーアのことですか?」

「あなたの伯母さまもすばらしいかただ。マダム・エシュレムのご託宣を疑う男は、都の社交界にはいないよ。その彼女が、自分の若いころに一番似ているのはミゼレッタ嬢だと断言し、妹のリーティミア嬢も、お姉さまより優しくて強い女性を知らないという」

「えー……あの、伯母も妹も、ちょっと大げさです」


 わたしはそんなにたいそうな人間じゃないよ! 舞踏会は踊るより立食(ビュフェ)つまみに行くところだって認識してたり、一度しか会ってない婚約者なら、べつに姉妹が入れ替わっても問題ないよねって勝手に判断したりする、雑な人間ですよ!


 そんなこちらの心の叫びが聞こえるわけはなく、とうとうイグナシス卿はわたしの三歩前へ回り込むと、服が汚れるのも構わず片ひざをついて、左手を胸に、右手をこちらへ差し出す。


「ミゼレッタ嬢、どうか、この私と結婚してください」

「……妹がお気に召さないとか、なにか粗相をしたとか、そういうことではないんですね?」

「リーティミア嬢もすてきなレディだ。でも、私たちの気が合ったのは、ミゼレッタ嬢はすばらしい、という点においてだよ。もちろん、彼女が修道院に送られることがないように、私からもクロージュ卿にかけあわせてもらう」

「それでしたら、妹の結婚相手によさそうな人がうちの商会の都支店にいるんで、彼もいっしょに一度父のところへ行きませんか。リーティミアが修道院に入らないですむなら、わたしは結婚相手ってだれでもよかったんで」


 むしろ婚活する気もほとんどなくなりかけてた。


「ははは……なるほど、私はマダム・エシュレムのご託宣を、まだ軽く考えていたようだ。それがあなたの本領ということなんだね、ミゼレッタ嬢。だが、私はもうあなた以外考えられない。どうか――」


 イグナシス卿のこの従順な態度に、なにか裏はあるのだろうか。

 立派な家名もお金がなければ立ち行かない、背に腹は代えられぬという悲しき事情か。でもそれなら、リーティミアとそのまま結婚したって構わなかったはずだ。

 あるいは、イグナシス卿が真に恋い焦がれているのは、社交界の花形マダム・エシュレムで、わたしは浅漬けの代用か。……まあ、メリーア伯母さまと張り合えるとは思ってないから、これはべつに気にしないでいいや。


「イグナシス卿――いえ、エミール、ちょっと遠回りになりましたけど、あらためてよろしくおねがいします」


 にこりとうなずいて、わたしはエミールの手に自分の手を重ねた。


    +++++


 クロージュ商会は、これまでも実質的に中央機能を担っていた都のオフィスへ、正式に本店を移した。


 エミールと結婚したわたしは、ルーネとポールを助手に、メリーア伯母さまから仕事を習いながら、ときどきモード誌の注文に応じてファッション・プレートのモデルをやっている。


 フィリップは父から旧本店を任され、引きつづき派手さはないが堅実な仕事で信用を得ている。

 思ったとおりというか、父はリーティミアとフィリップの結婚にはべつだん反対しなかった。むしろ、後継者が確保できてほっとしているようにも見えた。

 どうしてわたしたちのうちのどちらかの相手に、弟子の職人の中から婿を選ぶ、という発想をしなかったのかは、まだ問い詰めていない。


 エミールは、イグナシス伯家が年間に必要とする金額を計算して、持参金を一括で受け取るのではなく、クロージュ商会の部分オーナーとなることで配当金をもらってやりくりをする、という方法を考えてくれた。

 おかげで、持参金のために商会の資産を売却せずにすんだ。定期的な支払いが必要になったけど、一括の持参金に比べれば、毎年の事業収益で捻出できる額。長い目で見れば、イグナシス伯家、クロージュ商会双方の利益になるだろう。


 毎日忙しいながらも楽しいし、月に一度は汽車でリーティミアに会いに実家へ戻っている。都の喧騒が苦手なようで、わたしにしょっちゅう会いたがるわりに、リーティミアは向こうからはこないけど。


 べつにだれでもよかったって一度はいったものの、いまのわたしは、結婚生活五年で未亡人になるのは嫌だな、と思う程度にエミールを愛しています。



    おしまい



講談社学術文庫 鹿島茂著『怪帝ナポレオン三世 第二帝政全史』 ISBN9784062920179


中公文庫 鹿島茂著『明日は舞踏会』ISBN9784122036185


以上2冊を参考としましたが、歴史や文物の組み合わせを任意で進めたり戻したり改変したりしてチャンポンしてるのであくまで異世界です。


『明日は舞踏会』は、カラーの図版は美麗だし読み物として面白いし、特に書き手のかたへめっちゃオススメです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 現実と物語の時代背景を良い塩梅で混ぜている所。これが本当のラノベだよなーと思いました。 [一言] 主人公のさばさば感がとても好みです。そして主人公だけでなく登場人物全て好感が持てました。お…
[良い点] これこそ本物のサバサバ女子だなあ! [気になる点] 恋愛結婚ではないとしても、お相手の内情やら何やらが描写されていないのが残念。一人称小説とはいえ。 あとおばちゃんの意味深な行動もネタバラ…
[良い点] 誰もが幸せになる素晴らしいお話でした(*´∀`*)ノ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ