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奇妙な生配信

作者: 岸亜里沙
掲載日:2021/06/03

この前の深夜、俺はある動画サイトで、不可思議な生配信がスタートしたのを見つけた。

唐突に男が映ったかと思うと、「彼」は驚くべき事を語り出したのだ。


「こんばんは、皆さん。突然で信じてもらえないかもしれませんが、実は私は命を狙われています。嘘かと思うかもしれませんが、本当なんです。警察にも相談しましたが、取りつく島もありません。恐怖で夜も眠れません。なので、私は皆さんを頼りました。このような状況では見ず知らずの他人が一番信頼出来るのです。これから私の暮らしをここで24時間365日、生配信します。何事もないように見守っていてほしいのです」


そう言い終わると、画面が6分割され、「彼」の家かと思われる各部屋が映し出された。

そして「彼」は何を喋るでもなく、普通にソファに腰掛け、テレビを見始めた様子。

俺は興味を持ち、暫くこの生配信を見ていたが、どこも怪異的ではなく、平凡な男の普通の日常を淡々と見せられているだけで、退屈極まりない。

俺はものの数分で、見るのを止めた。


それから3日後、俺はふと「彼」の事が気になり、また配信をチェックしようと思った。

まだあの生配信は続いているのか?

「彼」はまだ生きているのか?

サイトにアクセスすると、生配信は続いていた。

ちょうど「彼」はチャット機能を使い、視聴者たちと会話をしていたようだ。

俺は試しに、「彼」に質問を送ってみる事にした。


▶️君は誰だい?

俺の質問に「彼」が生配信を通して答える。


「名前は言えない。ここが何処なのかも」


▶️誰に命を狙われている?


「分からない。だけど確かに狙われているんだ。そうじゃなきゃこんなクレイジーな真似はしないよ」


▶️家からは出ないのかい?


「金の蓄えはあるし、食事も今はデリバリーで済ませてる。一歩も外には出てないよ。だからこの場所こそ、私の唯一の聖域なんだ」


▶️いつまでこの生配信を続ける?


「私がもう安全だと思うまで続ける」


▶️生活を、自分自身を曝す事に恐怖は無いの?


「...」

最後の質問にだけ「彼」は何も答えなかったが、俺は「彼」の生配信を通して「彼」の日常を観察する事にした。


生配信開始から4日目。

この日の「彼」は睡眠がメインだったようだ。

寝起きでボサボサの髪を掻きながら、カメラに向かって話しかけていた。

「いやー、今日はかなり寝てましたね。でも皆さんが見守ってくださってますし、安心です。ただ一つ心配なのは寝てる間にこの配信が途絶えてしまう事です。私はその隙に殺されてしまうかもしれませんから」


生配信開始から5日目。

この日の「彼」はレビュアーだった。

「今日は一日映画三昧といきたいと思います。まず最初は1997年の『ファニーゲーム』という作品です。これは映画史上屈指の鬱エンドな映画ですね」

観賞が終わるとまた次の映画、次の映画と、延々と様々な映画を見ていたようだ。

『ファニーゲーム』に始まり、『セブン』『ミスト』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『隣人は静かに笑う』といったバッドエンドの映画ばかりをチョイスし、レビューしていた。

俺の趣味ではない映画ばかりだったので、何となくしか覚えていないが。


生配信開始から6日目。

サイトにアクセスすると、そこには青ざめた「彼」がカメラの前に立っていた。

「皆さん、いよいよ私は殺されるのかもしれません。見てください。先程、こんな手紙が届きました」

カメラに向かい、今日届いたという手紙を見せてきた。

俺は一瞬戦慄した。

真っ赤な紙に、真っ黒な墨で「I see you」とだけ書かれていたのだ。

あまりにも不気味な内容だったので、俺は「彼」にメッセージを送ってみる事にした。


▶️警察に通報したらどう?

「彼」はメッセージに気づいたのか、すぐに返事を返してきた。


「無駄だよ。警察はこんな事じゃ動かない」


▶️これからどうするつもり?


聖域(ここ)に居ることが今は一番安全だから、聖域(ここ)で過ごそうと思う。セキュリティは万全だからね。殺れるもんなら殺ってみろって強気な気持ちでいないと、心が押し潰されそうだよ」

そう言い終わると、「彼」は家の中そわそわと移動しては落ち着きのない様子を見せていた。

内心、恐怖で仕方がないのだろう。

この日はこれ以上の事は何もなかった。


生配信開始から1週間。

「彼」はリビングの真ん中で正座をしていた。

昨夜から一睡も出来ていないらしい。

食事も喉を通らず、若干窶れているように見える。


「もう限界です」


ぽつりと呟くと「彼」は急に立ち上がり、椅子に上ると太いロープを天井の柱に括り付け始めた。


「私は自ら死を選びます。誰かに殺されるよりマシです。私を見守っていてくださった皆さんには感謝しています。人は生き方を選べるのですから、死に方も選んでもいいのではないでしょうか。ありがとう。さようなら」


そう言い終わると「彼」はゆっくりと首にロープを掛けた。

俺はただ呆然とその配信を見ていただけだった。

次の瞬間、「彼」がガタッと椅子を蹴飛ばすと、「彼」の体が宙吊りになった映像が映し出された。

暫くの間、ゆらゆらと横揺れをしてたが、少しするとピタリと止まった。

すると突然、生配信も途切れてしまった。

俺はハッと我に返り、急いで警察へ通報した。

だが「彼」も言っていたが、こんな通報を警察が真に受けるかは眉唾だな。



その数日後に「彼」の首吊り遺体が発見されたというニュースを耳にして、俺はショックを隠せなかった。

大がかりなヤラセであってほしかったが、そうではなかった。

俺は「彼」が自殺する瞬間を目撃したのだ。

そして何より「彼」の生活を覗けなくなったのが妙に寂しい。


だがそのニュースで分からない事が一つあった。

「彼」が死亡したのは、生配信が開始される数日前だったというのだ。

そんなはずは無い。

もしそうなら、あの配信は一体...。

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