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ストリートピアノ

作者: 野良

 これは私が、アキラさんとお付き合いを始めたときのお話し。私はその日、アキラさんのおうちに遊びに行った。


 久しぶりにお互いお休みで会うことができたので、家でのんびりテレビを見て過ごしていた。


 テレビでは歌番組が流れていて、今流行りの曲が多数流れていた。


 私はふと気付いた。曲を聴きながら、アキラさんの右手が動いているのを。


「アキラさん……絶対音感があるんですか?」


「ああ。言ってなかったっけ?」アキラさんがこちらを見て微笑む。メガネの奥の瞳が優しかった。「この曲、ピアノで弾くと面白そうなんだよな」


 アキラさんはダイニングバーでピアノを弾いている。ピアノを弾くのが好きで、仕事以外でもよくピアノを弾いている。


 以前家電販売店で見かけた時は、女の子からリクエストされてドラえもんの歌を弾いていた。


 アキラさんは大人なのに、ピアノを弾く姿は子どものように無邪気だ。そんなギャップも、彼を好きになった理由のひとつ。


 私はふと思いついて、アキラさんに言った。


「これから、ピアノを弾きに行きません?」


 彼は首を傾げた。



 1時間後、私たちは駅のホームに来ていた。そこにはストリートピアノといって、誰でも弾けるピアノがあるのだ。


「……これ、弾いていいのか?」アキラさんが言った。


「いいんですよ。いつも弾いてるお店のピアノよりは音は良くないかもしれないけど……」


「いや、充分だよ」そう言って、アキラさんはピアノを撫でた。「こんな駅の中にすごいな。誰がチューニングしてんだろ」


 そしてアキラさんは座った。まずは指慣らしの曲を弾いた。


「これって、何曲くらい弾いていいんだ?」彼は言った。


「えーと、看板にはあまり長時間弾かないでくださいって書いてあるから……10分くらいですかね」


「じゃあ2曲くらいか」


 そして、アキラさんは曲を弾き始めた。さっきテレビで聴いた、流行りの曲。


 始めに右手だけでメロディを弾く。何度も繰り返していくうちに、今度は左手も加わる。早いテンポの曲なのに、そして楽譜もないのに、軽やかに弾いていく。そして、本人はとても楽しそうだ。


 曲が終わる。いつのまにか足を止めて聴いていた人がいたようだ。まばらな拍手が聞こえた。


「カンナ」アキラさんが私の名を呼ぶ。「次、何が聴きたい?」


「えっ……?アキラさんが弾きたいものでいいですよ」


「そう?」


 そうやって弾き始めたのは、この前一緒に見に行った、映画の主題歌だった。


 弾き終わるとさっきよりギャラリーが増えていたようで、拍手が大きく聞こえた。アキラさんは立ち上がり、お店の時のようにお辞儀をした。



「今日は、ありがとうございました」私は言った。


 帰り道、私たちは手を繋いで歩いていた。もう夕暮れ時だった。


「いや、お礼を言うのは俺の方だ」


「でも、最後に映画の曲を弾いてくれたでしょう?嬉しかったですよ」


「そうか……俺も楽しかった」


 そう言って彼は、私の頭を撫でた。




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