13の回顧録
Ⅰ
『フリーマーケット』
フリーマーケットの片隅に二人組の男女。
そして、赤ちゃんの靴、未使用、500円とダンボールに書かれた滲む文字。
Ⅱ
『恋』
降り間違えたバス停。
公園で見かけたベンチに座る彼女の横、
ゴミ箱中に見つけた、3本のバラの花束。
Ⅲ
『別れ』
二度と履けない水色のスカート。
似合うと褒めてくれた君を思い出してしまうから。
今も歪んだままのガードレール。
Ⅳ
『望郷』
一年一度のその頃に、あなたの眠る墓へ登る坂より望むセピア色の町は、
銀杏の木の葉で琥珀に染まる。
Ⅴ
『食べる、食べる…食べる』
「捨てるけど、食べる?」と憐れむような目で聞かれて、
私は倫理観を捨てた。
手は汚れてしまったけど、私は満腹になった。
Ⅵ
『親友との再会』
昨晩、親友と別れた後で、僕が黒いネクタイを外していると、
親友とその未亡人が一緒に歩いているのを見かけた。
Ⅶ
『マゾヒズム』
現代の人間、特に男は自虐的なところがある。
証拠にみんな紐で自分の首を絞めている。
Ⅷ
『廃業』
そりゃあ、昔は繁盛してたが、4年前から閑古鳥が鳴いちまって、
昨日までなんとか自転車操業で頑張ってきたが、今となっては御足がない。
Ⅸ
『慟哭』
喉が痛かった、呼吸が出来なかった。
叫び声が聞こえた。
あまりに喉が激しく痛むので気づいた。
叫んでいたのは、俺だった……
Ⅹ
『犯行』
みんながぼくを取り囲んでいる。
今日はお祝いのはずなのにお母さんの手には汚れた包丁。
それで初めて、切られたと気づいた
Ⅺ
『焚いた火』
神様の目玉はよく燃える。
うず高く積み上げられた無数の目が僕を見ている。
炎の中から見つめている。
Ⅻ
『裕福という椅子取り』
一杯のコーヒーを君は無辺際だと考えるのかい、
それとも有限だと考えるのかい?
それが資源に対する考えの根本さ。
LAST
『もしも、あの縄が切れていなければ』
あとがき
いかがでしたか?
短くとも確かな物語があなたの頭蓋の中で紡がれたと思います。