1-4. 未知との遭遇
ひょんなことから、人魚の祠で釣りをすることになったご一行。
僕は巨大ルアーをエサに付け、優と父は釣りで余った小魚をエサに付け、深淵に竿を垂らす。
山田のおじさんは、船の操縦席に座っていつでも逃げ出せるように準備している。
「人魚様が竿に掛かっちゃったら、どうするの?」
「その時はその時考えよう。」
優の心配に父は脳死で返答する。
「エビが飛び跳ねてきたら、即エンジン掛けてここから逃げ出すぞ…いいな!!」
山田のおじさんは釣りに参加せず、操縦席でいつでも逃げ出せる準備をしている。
しばらくして、僕の竿に反応が来る。
何やらコツコツ…コツコツと餌を何かで突ついているのを感じる。
竿は同じリズムで引いて戻って引いて戻って…。
「やったぞ!誠!夜食は巨大エビ料理だ!」
「エビが来たら竿を捨てろよ誠!いいな!!いいな!??」
外野がうるさい。
僕は集中し、かつてない大物との駆け引きに手が震える。
息を整えようとしたその時、竿を手にする僕は何かにグイッと一瞬引っ張られた。
それはまるで赤子を相手取るように、僕は船の鉄柵に顔をぶつけながら一回転し、浅瀬に落ちる。
竿を手から離す猶予もないまま、僕は二回目に引っ張られた瞬間、真っ暗な深淵に引きずり込まれた。
かすかに見える水面の光が、僕の血液を赤く照らす。
僕は息ができないまま、手に持つ竿を捨てる。
死に物狂いで光が差す水面に向かって、腕を回すがどこまでも落ちていく。
上手く腕が回らない。息が苦しい。
僕は意識が離れていくのを感じながら、体がゆっくりと反転する。
反転した視界には、僕の視界で端から端まで映る大きなエビが僕にハサミを開いて、僕の落下を待っている。
う……やっぱり本当だったのか…。エビなんて大っ嫌いだ。
僕は今からこのエビにめっちゃめちゃにされる事を想像し、笑う。
エビのハサミが僕と触れ合うまで後少しの所、左から水流が僕に当たり振り向く…。
人魚様…?
その瞬間、物凄い速度で僕に迫ってくる何者かに体をハグされながら、水面まで進み、浅瀬に浮かせられる。
浅瀬に出されてからは、腰に手を当てられたのを感じた。
「ゴホッッ!ゴホッ!!ゴホッ!!」
僕は肺に入った水が大量に吐きながら、声に出す。
「人魚様ですか!?人魚様が助けてくれたのですか!?」
僕は振り向いて死にそうな声で叫ぶが、そこには誰もいない。
そしてなぜか、父さん・優・山田のおじさんを乗せた船もどこにもいない。
「逃げちゃったのか…まあしょうがないか…。」
僕は落ちた深淵を眺め、血が止まらない顔をそっちのけで人魚様に感謝する。
「ありがとうございました。救ってもらった命。いつでも人魚さまの為に捧げます。より深い信仰を持てました。」
涙が止まらない。10年程しか生きてないけど、僕は一生人魚様を信仰できると思える。
10分ほど泣いて感謝していたら、洞窟から船がやって来る。
「誠!?生きていたのか!!良かった!!泣」
父さんは港へ戻り、元宮司達を呼んで僕を救出するつもりだったらしい。
「父さん!!僕!エビに食べられそうになったんだけど、人魚様に命を救ってもらったんだ!」
「…え!?まあ、とにかくお前が無事で良かったよ…泣ごめんな…父さんがバカだから…泣」
父さんは僕を抱きしめて、心から喜んでくれた。
僕を抱きしめて喜ぶ父さんの隙間で僕は後ろにいる元宮司達の軽蔑した目でこちらを見るのを感じた。
僕はその後、船で家に帰る途中、そのまま眠りコケてしまう。
ガヤガヤする声で起こされ、目を開けると寝室だった。
ガヤガヤする声が何かとカーテンを開けると、父さんが沢山の人に囲まれて連れて行かれるのを見て、僕は寝ぼけが一気に冴える。
「号外!号外!禁忌だー!禁忌を犯した者が出たぞー!」
号外の紙を空に撒きながら、走っていく新聞屋。
僕は血の気を引きながら状況を理解して、今にも連れて行かれる父さんの元へ寝ぼけながら走っていく。
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