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護国のメシア  作者: 袋石ワカシ
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第6話  捲土重来を期す



  第6話





 王宮は火の海となっていた。

 王宮にいた王族や貴族たちの生存は到底、望めないだろう。

 

 「何たることか……」


 ハルトマンは言葉を失っている。

 すでに王宮への城門は、開け放たれており多数のルヴァイン王朝軍が押し入ってきている。

 

 王宮の隣にある離宮の方をみると、戦旗が立ち上っている。

 王家の紋章の入ったものやマルサリス侯爵家の紋章、そしてサルヴァド公爵家の紋章の入ったものもあった。


 「閣下っ!!」


 どうやらハルトマンも見つけたらしく同じ方向を見ていた。

 父上があそこで戦っておられるのか。

 もしかしたら、王宮にいた王族や貴族も生存しているかもしれない。


 「行くぞ」


 騎兵を先頭に離宮へと急ぐ。

 既に離宮にも5000余りの敵がとりついており、劣勢となっていた。

 とりついていた敵もこちらに気づいたらしく迎撃態勢をとり始める。

 敵の中から、ひときわ大きな男が出てきて大音声をあげる。


 「我こそは、ダルガハーン・ザンマなり!! 貴様らの大将と一騎打ちがしたい!!」


 迎撃体制構築までの時間稼ぎか……。

 こちらにはそれに応じる義理はない。


 「すまないが、我らは時間が惜しい。押し通る!!」

 

 そのままの勢いで、ダルガハーンを押しつぶした。

 そして、迎撃もままならない敵に食らいつく。

 槍に突かれるもの、馬蹄に踏みにじられるもの。


 「ぎゃあぁぁぁ!?」

 「ごふッ」


 あたりは悲鳴に満ちた。

 短時間のうちに敵は、敗走し始めた。

 

 「怪我をしたものは今のうちに治療をすませよ」


 損害は軽微だが、それでも手傷を負ったものはいる。

 離宮にこもって戦っていた味方も同じように治療を行っていた。


 「ハルトマン、父上のもとへ行ってくる。何かあったら指揮は任せた」

 「御意に」


 離宮にこもっていた者たちの傷つきようはセルシオの軍勢の比ではなかった。

 傷を負っていないものが少ない。


 「うっ……」


 痛みに耐えかねて漏れる声がいたるところで聞こえる。

 しばらく歩くと人だかりが見えた。

 その人だかりは多くの者がサルヴァド公爵家の者たちだった。

 もしや、父上か…? 最悪の可能性が頭をよぎったが

 「どうかしたのか?」


 何人かが振り向く。


 「セルシオ様っ!?」


 誰かがそう声をあげ、人だかりが左右に分かれた。

 そこにいたのは、最悪の予想は裏切らなくて……。


 「父上っ!?」


 上半身の武具がとられ、脇腹にある患部には包帯が巻かれていたがそれも血で赤く染まっていた。

 脇腹以外にも肩や腕にも傷があるらしく包帯が巻いてある。


 「……セルシオか…」


 喋るのもやっとといった様子で口を開く。


 「すまない、こんな姿になってしまった……うっ…年をわきまえずに戦うものではないな……」

 「父上、お気を確かに!!」


 息が少しばかり弱くなっている。

 手を取るが脈もひどく弱々しい。


 「…っ……セルシ…オ、父の最後の願いを聞いてくれ…姫殿下を…ぐぁっ……地下通路から…逃がした……姫殿下を…お守り…っあ…いたせ……それと」


 別れ言葉など口にしないください…このままじゃ本当に…。


 「父上、まだ死にはしません!! 生きてください」



 そんな祈りにも似た言葉は届かなくて……。


 「……私の…息子に、生まれてきてくれて……ぐっ……よかった……王家…を…しかと頼ん…だ…、……」


 最後に優しそうな笑顔を見せて――息が止まった。


 「父上っ!? 父上っ……」


 こみあげてくる何かを止める。

 それの正体を知っているから…人前では見せたくないから…。

 まわりを見渡せば、多くの者がむせび泣いていた。

 エドワード・サルヴァドは名君であった。

 信義に厚く、領民を大切にし、公明正大で清廉潔白であった。

 

 「俺もしっかりしなくては…」


 父上という柱を失った今、俺がしっかりしなくては…サルヴァド家は…いや、王家がこの国が……。


 






 「皆の者っ、聞けっ!!」


 サルヴァド公爵家の者以外にもその場にいた多くの者がセルシオに視線を向ける。


 「我らは、これより王城より撤退する。まずは父上の遺言通り、王女殿下をお救いする。明日の王国の未来を守るのだ!! そしていつの日にか、必ずここに戻ってきて王家を復活させよう。捲土重来を期す!!」



 戦いによる疲労や公爵の死に悲嘆に暮れていた兵士たちは、その言葉に立ち上がった。


 「おおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」


 しぼみかけた闘魂を奮い立たせ、兵士たちは雄たけびとも歓声ともつかぬ声をあげた。

 セルシオ・サルヴァド、それはこの国の唯一の―――希望かもしれない。

 

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