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護国のメシア  作者: 袋石ワカシ
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第5話 王都突入



 第5話


 

 明け方、2人の使者がクロロワ・サルヴァドのもとに西から駆けてきた。

 クロロワ、身支度をするために早く起きていたのですぐさま使者は目通りが許された。


 「前置きなどは要らない。要件を率直に話せ」


 服の襟を整えながらクロロワは上段の華美ではなく程よく飾られた椅子に腰かけた。


 「これを読んでいただいたほうが早いかと」


 使者は一通の書状をクロロワに手渡した。

 クロロワは書状を受け取ると一読しわずかに難しい顔を見せたがその書状を閉じた。

 

 「内容は理解した。微力ながらこのクロロワがセルシオを助力しよう。お前たちの主君にそう伝えておけ」


 クロロワはその部屋を出ると廊下に出た。


 「ウォルトン、弟の面倒をみに行く。騎兵2000を準備しておいてくれ」

 「弟の面倒がみれて嬉しそうですな」

 「……やはりお前にはわかってしまうか」


 ウォルトンとクロロワは、クロロワがレーヴェン王国のサルヴァド公爵家に養子として入る前から付き合いだ。

 アルバーン王国にいたころは教育係として、そして今は副官である。


 「はい…長い付き合いですからなぁ、出陣の支度をしておきます。それと王都に文を」

 「頼んだ」


 レーヴェン王国の宰相なり国王なりにサルヴァド公爵家であってもレーヴェン王国に恭順の意を示しているので一応の了承は求めなければならないのだ。

 王都からの返信が来る前に準備の終わり次第先遣隊として騎兵を出撃させるが。







 セルシオが麾下の軍勢を引き連れて屋敷のあるリッツェンを出立してから3日後の夜を王城から約2里あまり離れたところで迎えていた。

 夜といっても深夜だ。

 あたりには明かりひとつない。

 配下の隠密部隊をもって周囲に潜む敵の諜報部隊は駆逐していたのでここまで移動してきたことは無論伝わっていないだろう。

 昨日、陽が沈んでからこの場所に野営するべく陣を敷いた。

 およそ、6時間余りの大休止をとったからか兵たちはいまだに士気が高く疲労をうかがうことはない。

 野営地のの中央部にある大きな垂れ幕で囲まれた中には各部隊の指揮官や参謀、セルシオらが作戦の最終確認を行っている。


 「作戦の概要を説明する」


 セルシオの言に場に集まった主要人物たちが首肯した。


 「至極簡単な内容ではあるが、実行に移すことは難しい。作戦としては各指揮官の実力に頼らざるを得ない下策でしかないが他に良い策を思いつかない。ハルトマン!」


 セルシオのわきに控えていたハルトマンが机の上に王城周辺の地図を広げた。


 「敵は報告によればルヴァイン王朝軍七万五千にクライン公爵麾下の6000余だ。その内訳は騎兵も10000騎に弓箭兵10000余、残りは歩兵といったところだ。ただ歩兵の中にはパイク兵がいる」


 その場に集まった人の中が渋面を浮かべる。


 「そこでだ、真正面から戦うのは愚の骨頂であるから目的を変えた。当初は援軍として戦うつもりでいたが、目的を王族、貴族諸侯らの救援とする。そうすれば、王城に突入して身柄の確保を行ってから退却するだけで済む。正面切って戦うよりかは犠牲は少なくなるはずだ」


 地図を食い入るように見ていた銃兵隊の指揮官モリソンが疑問を口にした。


 「我らは突入前と突入後の最低二回は先頭をしなければなりませんが……城門前でもたついては後背を突かれます。そのあたりは大丈夫なのでしょうか?」


 後背を突かれれば多勢に無勢だ、簡単に敗走することになるだろう。


 「その点にはぬかりはない。信用のおける者に頼んである」

 

 わかりました、とモリソンは下がった。


 「作戦の流れを説明するとまず南門のあたりにいる、敵の歩兵に対し奇襲攻撃をかける。銃兵を先頭に立てて前進し、しかる後に騎兵突撃を行い残った敵兵を歩兵をもって狩る。城の一部はすでに敵の手中にあるのでそこにいる敵の寝首をかいて王宮を目指す。王族や貴族らの身柄を確保した後に敵の配置の一番手薄な北門より敵を突き破って退却する。輜重隊は我らがこの陣を発った後は、カントレの廃城に向かえ、以上だ。何か質問はあるか?」


 セルシオがあたりを見回すが向けられる目は信頼の目だ。


 「諸君らの武運を祈る。これより作戦開始だ」

 

 指揮官らがそれぞれに拳を突き合わせた。

 これは、サルヴァド公爵家に伝わる互いの健闘を祈る戦闘前の儀式的なものだ。

 数十分後、歩兵隊、銃兵隊がまず先に準備を整えて隊列をなし行軍していく。

 足の早い、騎馬隊は後から出るのだ。

 さらに数十分がたち


 「騎兵隊、行軍はじめ!!」


 騎兵隊隊長の指揮のもと、ゆっくりと進み始める。

 セルシオはちょうど隊列の真ん中のあたりにおりハルトマンも轡を並べている。

 寒さで指先がじんじんとするが戦闘を前に高揚した気分の兵士にとってそんなことは気にならない。

 そしてしばしの行軍ののち、先行していた歩兵隊と銃兵隊に追いつく。


 「陣形構築!!」


 セルシオの一声で銃兵を先頭に立て次に騎兵を並べた打撃力に優れる横隊が完成した。

 

 「これより敵陣100間前まで前進」


 突撃態勢のまま、足音も静かに移動していく。

 そして、100間前。


 「突撃用意!!」


 銃兵が弾込めを行う。

 騎兵がランスを小脇に抱えた。

 歩兵が剣を鞘から抜く。

 馬が身震いをして白い息を吐いた。

 その場にある者、誰もがセルシオからの突撃指示を待った。

 そしてセルシオが大きく手を振り上げおろそうとしたときだ、突如として西門側から喚声が響いてきた。

 今か今かと突撃を待っていた将兵が、一斉にその方向を見やる。


 「ハルトマン、何事だ!?味方の突出があるとは聞いていない」

 「私も聞いておりませんな」


 セルシオは落ち着くためにしばしの間、黙想をした。

 

 「完全な奇襲とはならなかったが、予定通りに奇襲を敢行する。総員、突撃!!」


 最前列にいた銃兵と弓兵が敵前50間において膝をついて銃を構えた。

 すわ、何事ぞ!?とばかりに起きてきた敵に対し


 「斉射ーっ!!撃てぇ!!」


 ズダダダーン― 落雷のような轟音とともに800余の鉛球を放つ。

 その轟音で慌てふてめく敵陣に800余の火箭が殺到。

 さらには、ヒュンっと風切り音をたてながら矢が降り注ぐ。


 「うぐあぁぁぁぁぁぁ」

 「ぎゃぁぁぁぁっ!! 熱いっ」


 敵陣は阿鼻叫喚の坩堝と化す。


 「第二射、てぇっ!!」


 ズダダダーン― 容赦なく二度目の斉射が行われた。

 敵陣で立っていた兵士たちが見えざる巨大な拳に叩かれたかのように倒れ伏していく。


 「そろそろ、頃合いだな。騎兵突撃に移行せよ」

 

 夜闇にはあまりにも似合わない突撃喇叭が吹き鳴らされる。

 弓兵と銃兵が左右に退き空いたところをランスを構えて騎兵が走り抜けていく。

 収拾のつかない敵は散々に食い破られた。


 「歩兵隊、残った敵を駆逐しろ」


 槍兵を先頭に立てて騎兵隊の突撃した後に残った敵を狩っていく。

 セルシオも自らの槍を縦横無尽に振るいながら南門を目指した。

 南門周辺にいた敵の歩兵5000余はあっという間に砕け散りその屍だけを野に晒した。

 







 南門の前に騎兵隊が到達したころ、城門が内側より開け放たれた。

 そして時間をかけることなくセルシオ麾下の部隊が入城していく。


 「セルシオ閣下、お待ちしておりました」


 馬上のセルシオに対し声をかけてくるものがいた。

 

 「リッフェンか、大儀であった」

 「お褒めに預かり恐悦至極、この後はセルシオ閣下とともにするようにとのエドワード公爵閣下の仰せです」


 リッフェンはセルシオの父であるエドワードの副官である。


 「戦況は? 西門が開門されるとは聞いていないが……」

 「はい、西門は北方貴族の部隊によって内側から開かれ多くの敵が流入して来ております」


 内応か……おそらくはクライン公爵家に与する者どもの仕業であるはず。


 「わかった、よろしく頼む。ひとまず王宮に向かう」


 あたりを見回すと周囲から聞こえる怒号をもとに容易に戦況を把握することができた。

 そして、西門方向から一隊がこちらに向かって駆けて来るのがみえた。


 「そこにいるのは何処の部隊なりや!?」


 誰何してくる一隊の旗印を見やれば北方貴族の中のひとつ、オルグス伯爵家のものであった。


 「我らは」


 ハルトマンが大音声で答えようとするがそれを止める。


 「名乗るほどの相手じゃない」

 「御意」


 オルグス伯爵家はクライン公爵の腰巾着のような者だ、それに西門の方向から来たことを考えれば敵に相違ない。

 であるならば、話は早い。


 「オルグスは王家に反する逆臣だ、実弾演習の良き的だと思え!!銃兵、討ち方用意!! モリソン、あとは任せた」

 「はっ!! 構えぇぇぇっ!! 撃てぇ!!」


 ズダダダーン ― 

 多数の閃光がオルグス伯爵家の一隊に吸い込まれていく。

 その内の数発が、馬上にいたオルグス伯爵を貫き彼は多量の血を噴き上げながら落馬していった。

 

 「オルグス勢は、銃兵に任せて我らは王宮へ急ぐ!!」

 「おおおぉぉぅっ!!」


 銃兵に200余りの騎兵と同じく200の槍兵をつけてセルシオは王宮へと急ぐ。

 

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