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護国のメシア  作者: 袋石ワカシ
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第4話  急報受く







 シャルル・マルサリスは自領には戻らず、王都にとどまる道を選び守将として王城に入った。

 動員できる兵力のほとんどを自領から王城へと呼び出し、その数は王城を守る諸侯の守将の中では最も多く、800余りである。

 貴族諸侯はこの期に及んでもわが身の可愛さに損害を負うのを嫌い多くても500余りしか連れていない。

 マルサリス家は、国境での戦いでも兵力を動員していたため(すべてではない)その数は多くはない。

 

 「……なんだ…これだけしか集まっていないのか……」


 シャルルは、自身の守る北門の城壁の上を歩きながら愚痴をこぼした。

 すでに王国領内の全ての貴族に参集せよとの命は下っているが、参集した貴族諸侯の部隊は少なく中には当主さえ参陣せず代理の者に援兵を連れてこさせている家もあるくらいだ。

 王国に諸侯多しといえども集まった兵は2万にすぎない。

 しかも、内訳で見れば10000弱は王家の兵だ。

 

 「恩義ある王家に忠義を尽くす貴族は王国内にはいないのか!!」


 憤慨するシャルルを副官の男がなだめる。


 「シャルル様、他の家の兵もおりますればそのような発言はお控え下さい」


 シャルルはそう言われてはっと我に返りそれ以上何も言わなくなった。

 

 「シャルル殿の言うことは確かにその通りだ」


 そこに声をかける者がいた。

 年は還暦を前にしたくらいか、禿頭まではいかないが薄くなり始めた髪を持ち華美ではないがつくりのしっかりとした衣を纏う長身の男だ。

 シャルルと副官の男が驚いたように振り向く。

 

 「公爵様!?」


 その男はエドワード・サルヴァド公爵というアルバーン王国四大公爵の1人であった。

 サルヴァド公爵家は王国東方に領地をもつ家柄で元はサルヴァド大公国という国を営む家柄であったがアルバーン王国と東の隣国レーヴェン王国がサルヴァド大公国領地をめぐって争った折に国を二分し争いを終結させ、その勢力下にはいり大公国は消えた。

 

 「改まらなくてもよい。シャルル殿、そなたの父上のこと誠に残念であった。王国貴族がサグツォーム殿のような立派な御仁ばかりであればこのような事態にはならんのだがな…」


 サルヴァド公爵はサグツォームの散ったレットェルブ砦の方向を見ながらそう言った。


 「お心遣い、感謝いたします」

 

 シャルルは、薄い笑みを浮かべてそう答えた。


 「夜は冷える。風邪などひかぬようにな」


 サルヴァド公爵は、すれ違いざまにそう告げるとともまわりの者を連れ城壁の上から姿を消した。

 斜陽だった太陽は気が付けば地平線の向こうに沈もうとしていた。






 1人の密偵がサルヴァド公爵家次期党首セルシオ・サルヴァドに目通りを願った。

 

 「急ぎの報告というのは?」

 「殿下は、クライン公爵領においてクライン公爵の軍勢と王朝軍が戦闘になったという話は聞いておられますか?」


 その話は先程聞いたばかりであった。


 「あぁ、クライン公爵が大敗を喫したという報告は上がっている」


 大敗を喫したというだけで戦いの全貌は明らかではないが。


 「やはりそう伝わっておりましたか。それは真っ赤なウソでございます」

 「というと?」


 情報封鎖が行われてるということなのか?


 「真相を申し上げますと、公爵の軍勢は王朝軍を邀撃するべく居城を出陣し、付近の平原において王朝軍と対陣しました。しかし、戦闘の後には血の一滴も残されてはいませんでした」


 戦いは、起きていないということなのだろうか……。


 「それは、つまり……」

 「お察しの通りです」


 内応していたということか…。


 「このこと、父上には?」


 セルシオの父、エドワードは王城に駐留している。

 

 「残念ながらそれはかないませんでした。敵の暗躍部隊の重囲から逃れるのが手いっぱいでして……」


 おそらく他の諸侯には公爵が負けたという風に情報がが伝わっているのだろう。

 情報封鎖とはそれほどまでに厳しく行われているのだ。


 「そうか……苦労を掛けた。存分に休んでくれ。褒美は後ほどとらせる」

 「ありがたき幸せ」


 そうか、父上に知らせねばな。

 

 「ハルトマン!! 王城におられる父上とレーヴェンにいる姉上に文を書く!!」


 父上の元には、夜のうちに届くだろう。

 レーヴェンに所領を持つ姉上の元にも夜通し駆ければ朝には届けられるだろう。

 挨拶などを除いて、要求だけを書いた文をしたためる。

 

 「これを伝令の者へ渡してくれ。そして出陣の支度を」

 「はっ!!」


 忠実な壮年の副官は即座に退室していく。

 






 東の大地が白んで来た。

 サルヴァド公爵家の屋敷から少しあまり離れた街道沿いの草原に騎兵2000、歩兵3000、銃兵800、弓兵800、輜重隊500余りが集まっていた。

 銃兵は、最近新設された兵科であり、装備が非常に高価なのと十分に装備を集めることができないのとで他の諸侯ではまだ編成されてない兵科で王国軍(王家直属部隊)ですらわずかに1000名程度しかいない。

 弾薬もまた高価であるため十分な訓練を積ませるのも難しい。

 遠く遥か東方の国では一回の戦闘に約3000もの銃兵が投入されたという噂があるが噂とは誇張されるもの、信憑性は高くない。

 サルヴァド公爵家ではアルバーン王国の南、ルヴァイン王朝支配領のさらに南にあるエルヴェック海の向こうの国から銃と弾薬を少しづつ輸入してきた。

 無論、海の向こうの国からなのとルヴァイン王朝支配領を通るわけにはいかないのとで海路を使って輸入している。

 すでに銃の方はサルヴァド公爵家の自領で生産を始めているが玉薬の方はいまだに輸入に頼る一方だ。

 東の地平線から顔を出した太陽の光で銃身がきらめく。


 「全軍、王都を守備するために前進せよ。王国の興廃は我らに賭かっている!!」


 凛とした大気の中に響いたその声は


 「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」


 やがて草原を鯨波のように轟いた。

 メルディス歴343年冬、セルシオ初陣となる戦いが始まる。

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