『賢者の塔』
シールたちがメイアの街を出てから数十分後。
「さすがは元観光地。結構な数の建物があるな」
「というか、近くに来れば来るほどわかるわね。『賢者の塔』の大きさが・・・」
「というか、人が一人もいないとなんだか不気味だね・・・」
建物はあるのに自分たちの声しか聞こえてこない街。
目的地には到着しようとしていた・・・。といっても元々この街の観光地なのだ。今はシールたちに頼まれた件で封鎖されているが・・・
『賢者の塔』、それは魔法という不思議な力の可能性を広げ、魔道具というものを一般に広めた、かの有名な賢者が住んでいたとされる塔。そこに今回の件の犯人がいるとのことでシールたちはやって来た。
「ああ、しかし、どうやってあの高さの建物を建てたんだ?」
そういって『賢者の塔』を見上げるシール一行。その高さは300mとされており、未だにどうやって建てられたのかわかっていない謎に包まれた塔である。
「なあ、賢者のことは何か知らないのか?マモン」
「知ってるよ、私が勇者だった時に同じパーティを組んでたからね。」
「え?そうなのか?物語だと賢者は出てこなかったはずだが?」
「それは、あれから結構な時間が経っていることと、彼女が賢者だって知っている人が少なかったからよ。」
「そうなの?でもなんで知っている人が少なかったの?」
純粋な疑問、それをシルは尋ねる。
「それはね・・・」
そんな時だった。マモンが何かを感じ取ったのは。
「っ、シール!魔法の反応が塔から感じるわ!」
「なにっ?まさかそれが・・・」
「ええ、おそらく記憶が消える原因と思う。こんな強大な魔法、並の人間ができる魔法じゃないっ」
「マモンなんとかできるの⁈」
「ええ、やるだけやってみるっ!」
そして、マモンの周りに魔力が集まり始め、一つの魔法を作りあげる。
「[アレスト]ッ」
[アレスト]それは、魔法に全属性に適正があるようなごく一部の者しか使えない超越魔術。すなわちこの世界だとマモンぐらいしか使えない魔法である。
膨大な魔力の奔流が互いにぶつかり合う。
そして、魔力は霧散する。
「これでっ、どうっ⁉︎」
当然、魔力消費も大きいため、マモンの息が上がっている。
「どうだ?」
「なんともないみたいね」
「なにも忘れてないみたいだし。成功したんじゃない?」
「そう、みたい。もう、魔法の反応は、ないみたいだし。」
マモンは息を切らしながら魔法の反応がないか調べた。
「なら、もう大丈夫か?」
「いえ、もう一度魔法を使うかもしれないわ。先を急ごうか」
息が戻ってきたマモンは先の魔法に少し引っかかることがあった。
(あの魔法は・・・いやいや、あり得ないでしょ。でも、あの魔法は・・・)
胸がざわつくマモン。そんな心境でシールたちについていく・・・
そこからさらに数十分歩き、『賢者の塔』にたどり着いた。
「やっと着いたな。あそこから結構長かったな」
「そうね。やっぱりこの塔がでかすぎるから近く見えたのかしら」
そう言ってまた塔を見上げるマナ。
「ふいー疲れたー」
少し疲れ気味なシル。
「なにいってるの?ここからまた登るんだよ」
「あっ、そうだったぁ〜」
ここからが本番だとマモンに言われがっくりと肩を落とすシル。
「とりあえず、入るぞ」
「そうね、あの魔法が使われたら次はどうなるかわからないものね」
そう言って『賢者の塔』に入っていくシールたち。
「・・・暗いわね」
入った先は闇夜のように暗かった。
「それだったら、[電光]」
マモンが魔法を唱える。すると、周りを照らす光の玉がマモンの近くを飛んでいる。
「わっ、明るい・・・」
部屋全体がマモンの魔法によって照らされる。
「おまえ、本当になんでもできるんだな」
「そう?でも、これは初級魔法よ。まあ、術者の魔力によっては明るさが違うけどね」
「それでも、初級魔法でこの部屋全体をてらせるのか?相当な広さだが」
「いやいや、この広さの部屋全体を照らすには、相当な魔力量が無いと無理だよ!・・・こういうの見てると本当に魔王なんだって感じるよ」
そう、シールたちが今いる部屋は軽く人が三百人は入るようなエントランスだった。
その部屋を初級魔法で照らすとなると普通の人間には到底不可能なのだ。
「というか、この塔全部を調べるってなると、相当時間がかかりそうだな。」
「それは大丈夫だよ。塔の最上階にさっき魔法を撃った張本人がいるみたいだし」
「なんでそんなこと分かるの?」
「それはね、この塔全体の魔力反応を調べたけど、ここと最上階にしか反応がなかったから」
「何それ、普通魔力って分かるものじゃないと思うんだけど・・・」
シルが呆然としている。
「そうでもないよ。シルでもやり方さえ分かればできると思うよ。」
「えっ、そうなの?」
「うん、練習したら出来るんじゃないかな。教えてあげようか?」
「教えて!」
「そろそろいいか?それは後にして、先を急いだ方がいいだろ」
「ああ、ごめん。シル、あとでもいい?」
「うん、いいよ」
「じゃ、行きましょう。さっさとクエストを終わらせるわよ」
なんとも緊張感の無いまま進むシールたち。
そして、二十階ほど登ってきた四人。
「結構登ってきたのにまだあるのね」
「まあ、もうちょっとだよ。」
「はぁはぁ、結構疲れたんだけど」
「あとちょっとだから頑張ってよ」
そしてまた先へ進むシールたち。
そんな中、シールはずっと難しい顔をしていた。
「どうしたのシール。さっきから難しい顔して」
「いや、ずっと気になってたんだが、元からこんなにも暗いものなのか?仮にも元観光地だろ」
「さあ?今回の犯人が全部取っ払ったんでしょ」
「――シル!止まって‼︎」
マモンが急に切羽詰まった様子でシルを止めようとするが、時すでに遅し。
カチッ
「え?」
何かを押した音がシルの足元から聞こえた。
「犯人はこれのために暗くしてたみたいね・・・」
「そういうこと、ね」
ゴゴゴと上から音が近づいている。
「これは、ヤバイな」
そして、階段の上から通路にギリギリ入るくらいの大きさの鉄球が転がってきた。
「逃げろッ‼︎」
四人はすぐに切り返して、階段を勢いよく降りる。
「なんだよっ、この古典的なトラップはぁぁぁ‼︎」
「どうするの!これぇぇっ‼︎」
「マモンッ、どうにか出来ないか⁉︎」
「無理よ!あれ鉄球よ⁉︎そうそう破壊でき無いわよ!」
「クッソォォ!」
そんなことを言いながら、鉄球から逃げる四人。
そして、マナが急に方向を変え、鉄球の方に向かって、魔法を唱える。
「[射出]ッ[射出][射出]ォォ‼︎」
グルーが鉄球に向かって飛び出し、グルーは鉄球に当たり、固まっていく。
そして・・・
「止まった、の?」
走っていたシルが音がしなくなったことに気がつき、後ろを振り向くと・・・
「すごいわね・・・あの速度の鉄球を止めれるなんて」
鉄球は見事に停止していた。
「はぁはぁ、死ぬかと思った・・・」
「すごいな、マナ。お前のスキルが相当な強さだって改めて知らされたよ」
「そうね、あの速度の鉄球をあれだけで止められるとはね」
「なんだか、私がしょぼく感じるなぁ」
止まった鉄球を見てがっくりと肩を落とすシル。
シルのスキルは能力に対して結構地味なだけで相当な強さなのだが。
「何言ってるんだか、何気にお前のスキルが一番おかしいと思うが?」
シール、もっともな感想である。
「そうだね。蘇生魔法を使えるのは今の世界にはいないと思うよ」
「そうなの?でも、過去にはいたんじゃないの?」
「いたのはいたけど、一人だけよ。彼女は天才だった」
「それは、誰なの?」
「・・・それは、聖女よ。彼女も一緒にパーティを組んでたわ」
三人は驚いた様子だった。
「聖女も一緒のパーティだったの?」
「うん、彼女はその名に相応しい優しい人だった」
「そうだったの・・・」
「私が知る限り、彼女が唯一[エリクサー]を使える人だったわ。そして、シルが二人目」
「まあ、蘇生魔法なんて代物、使える人が多くいたら、もっと話題になってるしな」
「まあ、そういうこと。とりあえず先を進みましょ」
「そうね。でも、進むって言っても道は鉄球でふさがれてるんだけど」
「どうするか、これ」
「詰んだ?」
先に進もうにも鉄球でふさがれており、どうしようもなくなったその時だった
「ーー待って。そこに空洞があるわ。」
マモンが壁を指差して言う。
「え?なんでそんなこと分かるの」
「いえ、さっき魔力が分かるって言ったじゃない。それを応用すれば空間の把握も可能なのよ」
「すごいわね。本当に訳がわからないわ」
「それはいいから。そこから最上階まで行けるはずよ」
「わかった。行くぞ二人とも」
そしてまた進み出す四人。
そのまま何も無く、最上階までたどり着いたシールたち。
「ゼェ、ハァ・・・しんどっ!」
息を切らしながらも登りきったシル。
「なあ、マモン、賢者はっ、毎日こんな階段をっ、登ってたのかっ?」
さすがのシールも肩で息をするしかない。
なんだかんだで普通の建物だと五十階くらい登ってきたらそりゃ息も切れるというものだ。
「いや、彼女は魔法があったから・・・」
「魔法でも、この距離はっ、無理でしょう」
「いえ、彼女には転移魔法があったから・・・」
「転移、魔法、だと・・・」
シールに大ダメージ!そして、シルとマナにも大ダメージ!
「流石、賢者ね。伝記どおりだわ」
「魔法ってそんなこともできるんだね・・・」
「魔法については彼女の右に出る者はいないと思う。おそらく今の私でも・・・ね」
「そ、そんなにか」
現魔王を超える魔法能力。それを聞いた三人は顔を引き攣っている。
「でも彼女は魔法以外は全く駄目だった。ほんと、懐かしい」
マモンの顔が微笑みに変わる。
その表情を見てシールたちも微笑みに変わる。
「そろそろ入ろうか」
「そうね、行きましょう」
そして、最後の扉を開け、そこにいたのは。
「来てしまったのね。私の魔法を打ち消した者」
二十歳ほどの黒のローブを着た女性だった。