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テープの使い手冒険者になる

マーレの町を出て、シールたちは一番近くで一番大きな街であるメイアの街に向かうために、馬車を乗り継ぎながらゆっくりと進んでいた。

マーレからメイアまでは、急いでも二日はかかる程の距離がある。


「うーん、そろそろ着きそうだな」

背伸びをしながら、そう言うシール。

「やっとなのか、流石に疲れたなー」

少し疲れた表情で応えるマモン。

「そういえば、私たち、マーレから出たことないよね」

キラキラと輝いた表情で言うシル。

「そういえば、そうね。私たちって他の街に行く機会なんて無かったものね。」

いつも通りのマナ。


そんな四人の前にとうとう街が現れる。

「おー、これがメイアか」

「昔よりもでかくなってるよ」

勇者の頃を思い出しながら、思いにふけるマモン。


そして、メイアの門に着き、検問を受けるシールたち。

「ステータスプレートを出してください。」

「わかった」

「シールスヴェルト、グルー・マナ、ソーナ・シルズだな。大丈夫だ、通っていいぞ。」

「ありがとう」

さらっと検問を済ませ、そのまま裏路地に入るシールたち。


「もう出てきて大丈夫だぞ。」

「どう?完璧だった?」

そんなことを言いながらシールの影から出てくるマモン。

なぜ、そんなことができるのか。それは、魔法《影縫い》により、シールの影に潜んでいたのだ。


では何故隠れていたのか、それはもちろんステータスプレートの職業欄に魔王と書いてあるからである。


「聞いてはいたけれど、やっぱり便利な魔法よね」

「そうだな、それがあったら。色々なことに使えそうだな」

悪い表情でそんなことを言う、シール。

「やめてよ。私を犯罪に使うのは」

その顔を見て不安になるマモン。

「冗談だよ。そんなことするわけねぇだろ」

「ほんと?今すっっごい悪い顔してたよ。・・・まさか、本当に使う気じゃないよね」

「しないって言ってんだろ」

「そう?ならいいけど」

「それはいいから、ギルドに向かうぞ」

「はーい」

呑気な声で応えるマモン。

「って言ってもギルドは、すぐそこなんだけどね」

ギルドは街に入って一番に目につくぐらい大きい。一眼見ただけなら、城と間違えてしまうほどに。


「ほんと、大きいわね。」

「そりゃ、ギルドの大元、ギルドの中のトップがいる場所だもん」

街に着いてからずっと目を輝かせているシル。それほど楽しみだったらしい。


そして、ギルドの中に入って行く四人。そして、中にいた冒険者達の目線が四人に向く。

「なんか、すごい見られてる」

「まぁ、こんな美女たちを侍らせているからね、そりゃ視線もこっちに向くよ」

「たしかにそうね」

「それ、自分で言うのか・・・」

「あら、私たちは美人じゃないとシールさんは言うのかしら?」

「いや、そういうわけではないけど」

そんな軽口を言い合う三人。


そして、ギルドの受付に行こうとしたが、

「おい、にいちゃんいい女つれてるじゃねぇか」

いかにもな格好をしたチンピラが現れた‼︎

周りの冒険者たちからは憐れむ視線がシールたちに向く。


「ああ?どけよ」

ドスの効いた声で言うシール。

「おいおう、それはねぇよな。な?」

「そうだよなぁ。一人くらい貸してくれよ」

そう言って、マナたち三人を視姦するチンピラたち。


「うるさいわね、邪魔よ。クズ」

男たちを睨んで言うマナ。


「ああ?なんだこの女」

「強がっちゃって、可愛いー」

「この女連れて行こうぜ」


そして、男たちがマナの腕を掴もうとしたとき・・・


ドゴオォォン!!!


マナの手を掴もうとした男が吹き飛んだ。


「ガハッ!?」


そして、ギルドの壁にめり込む男。

周りの冒険者たちは驚いているのか、目を見開いてシールたちを見ている。


「なっ、なにしやがるっ!」

「俺のパーティに手を出そうとしたんだ、覚悟は出来てんだろうなぁ?!」

常人では見えない速度で動くシール。

それは男たちも然り、


スガアァァン!!

バギバキッッッ!


殴りと蹴りだけで巨漢三人組を瞬殺したシール。

その様子を見た冒険者たちは呆然としていた。中には驚きすぎて顎が外れる人までいた。


「チッ、こんな奴らがギルドにいるとはなぁ。どうなってんだ」

「そうね。ほんと、気持ち悪いわ」

ゴミを見るかのような目で目の前に転がっている巨漢三人を見るシールとマナ。

「そ、そうだねー」

苦笑いで応えるシル。


それに対しマモンは、

「これ、どうするの?ギルドの壁とか壊しちゃって。大丈夫なの?」

「「あ」」

これまた苦笑いしながらギルドの惨状を見ていた。


「やっべ、やりすぎたか」

「でも、向こうから突っかかってきたんだから大丈夫しょう。正当防衛よ」

そういいながらも少し顔色が悪くなるマナ。

「でもなぁ、やったのは俺だからなぁ。落とし前はつけるよ」

冷静になったシールは受付に行き、受付嬢に謝った。

それに対し凄い勢いで頷く受付嬢。受付嬢のヘドバンの才能が発掘された瞬間だった。


「壁を壊してしまった分どれくらい弁償すれば良い?」

「は、はい。少しお待ちください。ギルドマスターに報告をしなければならないので。そこにおかけください。」

少し体調が悪いのか、青い顔で応える受付嬢。

「そうか、わかった。」

そのシールの返事にほっとする受付嬢。どうやらシールたちが怖かったらしい。


「それにしても、ギルドマスターを呼ぶほどなのか。ほんとにやりすぎたか?」

「やりすぎたか?じゃないわよ!!どうするのよ!これから!!」

冷静になり、大声で怒るシル。

「そうね。冒険者になる前から目をつけられるのはあまり、よくないことね。」

そして、渋い顔をするマモン。

「最悪冒険者になれないかもしれないな」

「どうすんのよ!」

「まあ、なんとかなるだろう」

「呑気に言ってる場合じゃないわよ!」


そんなことを話しているうちにその人物は現れた。


「貴方達ですか、問題をおかした人たちは」


シールたちが振り向くとそこには、スーツ姿のスレンダーな美女が立っていた。


「貴方は?」


「私はこのギルドのギルドマスター、アマンダ・ゾラよ。貴方達が問題の人たちね」

凄い威圧感がある。シールでさえ少し顔が硬くなるくらいには。

「そう、だが、やはり何かペナルティはあるのか?」

そこで、アマンダはふっと微笑んで

「大丈夫よ。そもそも、そこでのびてる三人組がやったんでしょう。だから大丈夫よ。でも、少しでも悪いと思っているのなら、貴方達の強さを信じて頼みがあるの」

その言葉を聞いた冒険者達が驚いた顔をしている。

それはそうだろう、この街のギルドは全国のギルドの大元。アマンダはそこのギルドマスターなのだ。要するにギルドのトップということだ。そんな人が見た目二十歳もいかないような少年に、壁を壊した罰則を科さず、頼みごとをするのだ。それはもうちょっとした事案である。


「頼みか・・・どんなことをしたらいい?ただ、やるかどうかは聞いてから決めるが、それでいいか」

そんな相手に怯むことなく、対等に話すシール。肝が据わっているとしか言えない。もしくは相手の立場をよく分かっていないのか。

「そうね、詳しい話は人のいないところで行いましょう」

「わかった」


そして、アマンダについて行くシールたち。そんな中シルはずっとあわあわとしていた。

「何をさっきからそわそわしているんだシル」

「そりゃ慌てるわよ!相手はギルドのトップよ!なんでそんなに冷静なわけ!?」

「そんなこと言ったってなぁ、アマンダさんがああ言ってくれてるわけだし、何も慌てることはないだろう」

「それでも慌てるわよ!なんで冒険者になるためにギルドに来たのに、そのギルドのトップの願いをきいてるのよ!!」

その言葉に反応するアマンダ。


「え?貴方達、まだ冒険者になっていないの?」

「そうですよ!私たち、まだ冒険者じゃないんです!なのになんでギルドマスターの願いなんて聞くことになってんのよー!!」

その言葉にざわつくギルド職員。

「え?・・・それ、ほんと、なの?」

「ああ、冒険者になってないし、なんなら初めてギルドに来たぞ。」

「「「「「はああぁぁぁぁ!?」」」」」

驚くアマンダとギルド職員たち。そして困惑するシールたち。

「え?俺らなんかやばいこと言いました?」

ギルド職員たちの反応を見て、何か悪いことでも言ったのかと心配になるシール。

その様子を見て、互いに目を合わせ、最後にアマンダの方を向くギルド職員たち。

「そ、そうね。ごめんなさい。少し取り乱してしまったわ。いい?貴方達が叩きのめした相手はAランクの冒険者よ。しかも、その中でも上位の」


Aランク。それは実質、ギルドに加入している冒険者のトップ。世界にいる冒険者の数は100万を優に超える。それに対しAランクは五十人いるかいないかくらい、あの三人組はそんな中でも序列五位ほどの実力者である。


「は?あれがAランク?いやいやいや、無い無い、あれでAランクだったら俺らなんか何ランクなんだよ」

うんうんと頷くマナたち。その言葉に溜息をつくアマンダ。

「はぁ、残念だけど事実なのよこれが。『暴虐』これが彼らの二つ名よ。聞いたことあるでしょう」

「『暴虐』・・・確か、クエストを受注し、そのクエスト中に出会った魔物を片っ端から、暴虐の限りを尽くし殺すという男三人組のパーティーよね。それがあのクズ三人・・・信じ難いわね」

やはり信じられないらしいマナ。それに呆れるアマンダ。

「ほんと、貴方達何者なの?意味がわからないわ」

頭を抱えるアマンダ。


そんなことを言われてもシールたちも意味が分からないのだ。Aランク冒険者は魔王とまではいかないかもしれないが、魔人くらいは倒せるものだと思っていたのだから。

「そんなこと言われてもなぁ。そうだ、ステータスプレート見るか?」

そして、懐からステータスプレートを取り出すシール。それに続きシルとマナも差し出す。

「そうね、そうさせてもらおうかしら。あら?貴方は?」

ステータスプレートを受け取り、そんな疑問を言うアマンダ。

そんなアマンダの矛先は、もちろんマモンである。

「あぁ、マモンは色々な事情があって見せたく無いんだと。だから、勘弁してくれ」

「そう?まぁいいわ。とりあえず貴方達のを見せてもらうわね」

シールの言葉から色々と察してくれたらしい。


そして、シールたちのステータスプレートを確認するアマンダ。


「シールスヴェルトでいいのね?そして、グルー・マナにソーナ・シルズ。そして貴方は?名前だけでも教えてくれないかしら」

「私の名前はグレモリー・マモンよ」

「そう。で、貴方達あのマーレの町出身なのね。あの魔人達の襲撃があった」

「ああ、それであっている」

「そう。・・・まさか、貴方があの魔人達の襲撃を退けた少年かしら?」

「どう呼ばれているのかは知らないが、おそらくそれは俺だろう」

その言葉を聞いて周りにいたギルド職員たちが驚いた顔をする。

「そう。でも何故?それほどの強さがありながら、何故今まで冒険者にならなかったの?」

「あー、それは・・・最近、スキルが発現したんだよ」

「スキル、ね・・・ならあの三人を倒したのも貴方のスキルのおかげということ?」

「まあ、そんなところ、かな」

正確にはスキルの副産物だが…

「そう・・・ということは戦闘スキルということになるのね。それなら、まあ、納得出来なくもないわ。・・・まさか、貴方達全員スキル持ちなんてことないでしょうね?」

アマンダは問うてしまった。アマンダにとって頭を抱えることとなる質問を、

「ええ、そうよ」

「そ、そうです・・・」

「そうね」

三人同時に応える。

そしてアマンダは固まった。後ろからは「嘘だろ」とかいう声が聞こえる。

「アマンダさん?大丈夫ですか?」

心配そうな顔で聞くシル。そして再起動するアマンダ。

「ごめんなさい。また取り乱してしまったわね。でも、最後に聞かせて。貴方達のスキルの系統は何?」

またも聞いてしまったアマンダ。怖いもの見たさゆえの質問である。

「私たち全員が戦闘スキルよ。」

そしてついにアマンダは本格的に頭を抱える。


そりゃそうだろう。スキルは発現する方が珍しいのだ。発現したとしても生活系スキルの使えないものが大半なのだ。そもそもスキルには三つの種類がある。一つはシールたちの持つ戦闘系スキル。シルのスキルもこれに分類される。また一つは剣や防具、魔道具などを作ることのできる生産職スキル。最後は大半は使えない日常系スキル。そして、スキルが発現する割合は百人に一人ほどで、更に戦闘系スキルともなるとスキル持ちの千人中一人いるかいないかくらいだ。それをこの四人は持っているのだから驚くのもむりはないことだ。


「アマンダさん、大丈夫か?」

「え、ええ。大丈夫よ。もう、気にしないことにしたから。・・・とりあえず、貴方達にはまず冒険者になってもらわないといけないわね。もう、Aランクでいいでしょう。・・・と、ついたわ。さ、入って」

そう言ってシールたちを部屋に入れるアマンダ。

「そこにかけて頂戴。少し待ってね」

そう言って机から書類を出すアマンダ。

「とりあえずマモンさん以外の三人を冒険者として認めるわ。マモンさんに関しては、さすがにステータスプレートを見せてもらえないと冒険者登録は出来ないわ」

そう言って書類にハンコを押すアマンダ。

「ああ、それはわかっている」

「そう。・・・どうぞ。これが貴方達のギルドカードよ。あとは血を垂らすと完成よ」

「ああ、ありがとう」

そして、それぞれ血を垂らすシールたち。


「それで?頼みってのはなんなんだ?」

登録が終わり、先の話に戻すシール。

「そうだったわね。貴方達に頼みごとがあったんだったわね。貴方達の話を聞いて忘れかけていたわ。…それで頼みなのだけれど。賢者の塔に調査に行ってもらいたいのよ」

「賢者の塔?何故だ?」

「最近、賢者の塔で大規模な魔法が確認されたの。それについての調査に行って欲しいの」

「それだけか?それなら、そこらの冒険者に頼めばいいだろう」

「それがそうもいかないのよ。もうすでに何人もの冒険者を送っているのだけれど、帰ってきた冒険者全員が調査中の記憶を失っているのよ」

「記憶を?どういうことだ」

「こちらの予想では魔法の類だと思われるわ」

「こんな魔法があるのか・・・それで?報酬はどれくらいだ?」

「受けてくれるのね?」

「いや、報酬次第だな」

意外にもがめついシール。

「そう。なら、百万ミィスでどう?」

「「ひゃ、百万ミィス!?」」

マナとシルが驚いている。

驚愕の金額。これだけあれば相当な豪邸が建てられるだろう。

「本気か?なら、受けよう」

「ちょ、本気で言ってるの!?ギルドがそんだけ出すということはそれだけ危険なクエストということよ!?」

「そうね、何か嫌な予感がするわね。やめておいた方がいいんじゃないかしら」

「それはそうかもしれないが、別に大丈夫だろう。このメンバーならなんとかなると思うがな」

危ないと言うマナとシルに対し、能天気なシール。


「それで?受けてくれるの?」

「ああ、大丈夫だ。そのクエスト、受けるよ」

「そう?なら頼むわ。私達は報酬を用意して待っているわ」

シールたちがこのクエストを成功すると思って疑わないアマンダ。

「ああ、そうしてくれ。それじゃ行ってくるよ」

そしてすぐに準備して賢者の塔に行こうとするシール。

「え、本気で行くの?ほんとに?」

「はぁ・・・仕方ないわ。シールが決めたことなら、私達もついて行くしかないわ。諦めなさいシル」

「うー。わかったわ、行くわよ!行けばいいんでしょ!!」

渋々ながらもシールについて行くシル。


そして全員が出て行って。

「彼等は、本当に何者なのかしら。・・・それはまぁ、これから知っていけばいいことね。とりあえず仕事をしましょう。といっても、さっきので凄い疲れたわ・・・」


賢者の塔に向かうシールたち、そこには何があるのか。誰がいるのか。それは誰にも分からない・・・


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