それぞれの気持ち
「勇者、だと。嘘だろ・・・」
シールは驚きを隠せない。
「いいえ、これは事実。これを見たら信じてくれるかな」
「なにを、する気だ?」
そして、マモンは宙から一本の美しい剣を取り出した。
「それは、まさか聖剣、か?」
「そう、これは聖剣。この剣は本当の持ち主にしか抜けないの」
そう言ってマモンは聖剣を抜いてみせる。そして、剣は淡い光を纏い始めた。まるで、剣に命が宿っているかのように。
「本物、か?・・・この光は、伝承通りだ。ということは本物なのか?」
本物を見たことが無いため、はっきりと断定は出来ないが、シールは過去に聖剣についての研究もしていたために、聖剣がどういうものかは分かる。
「ええ、本物よ。・・・これで信じてくれた?」
「ある程度は・・・だが何故そんなことになった?元勇者が魔王なんて、意味がわからないぞ。」
未だ信じきれないシール。当然といえば当然なのだ、世界を守るはずの勇者が魔王に生まれ変わりました。など誰が聞いても信じれないのだ。だが、状況的に彼女が元勇者の魔王ということは事実なのだ。だから気になったのだ、何故魔王になったのかを
「それは、よくわからない。でも、おそらくだけど魔人達が魔王を復活しようとして、失敗したのだと思う。」
「待て、失敗して何故勇者のおまえが魔王になる?」
「それはね、私が過去に魔王と戦った時に、私は魔王は不死身だと知り、封印しようとした。でも、封印するには魔力が足りなかったの。だから自分を犠牲にして魔王を封印した。その時に私の魂が何故か一緒に封印されたの。そして、魔人達は今回、魔王を復活させようとした。でも、失敗した。魔王を復活するには魔力が足りなかったの。そして、復活するのに必要な魔力が魔王に比べ、少ない私が魔王として召喚された。それが私の推測。これ以上はわからないわ。」
シールは呆然とする。それはそうだろう、伝承と違うところがいくつもあったのだから。
「ちょっと?今の話聞いてた?」
「あぁ、大丈夫だ。聞いてた。」
「そう?ならいいんだけどね。それで信用はしてくれるの?」
「最後に一ついいか?」
「まぁ、いいけど」
「なんであの魔人はこの村を襲った?アイツはおまえの部下だろう。なら何故おまえの部下がこの村を襲う?」
「それは、ごめんなさい。最初は私はやめろと言ったの。でも、バラムは勝手に行動した。」
「それは、無責任だろう。アイツのせいで村の多くの人は苦しんだ。シルがいなかったらこの村のほとんどが死んでいた。なのに、あの魔人が自分勝手に動いた。だから許してくれだと?ふざけるな‼︎」
シールは冷静になり、沸々と怒りが込み上げて、怒鳴り上げる。
「っ、それは・・・本当に申し訳ないと思っている。でも」
「でもじゃねぇよ‼︎俺を育ててくれた人が傷ついたんだぞ!幼馴染だって‼︎死んだんだぞ・・・」
悲痛な顔をしながら、怒鳴るシール。まるでマモンに八つ当たりするかのように。
「・・・」
「すまん。俺も分かってるんだ。本当はおまえに非がないことは。でも、そうじゃなきゃ誰にこの感情をぶつければいいのかわかんねぇんだ。」
「大丈夫。それで貴方の怒りが収まるのであれば、私は貴方の怒りを受け止めるわ。それほどのことを私はしてしまったのだから。」
「すまん。」
二人をただ月明かりが照らし、その場は静寂に包まれる。
まるで、今の二人の感情を表すかのように・・・
(不安、悔しい?何故?私は何故そんな顔をしていたの?)
「いくら考えても答えが出ないわね」
マナは自分の部屋でそんな独り言を言う。もう、外は夜が明けて、明るくなっていた。
(いえ、答えが出ないんじゃなくて、ただ気づきたくないだけなのかもしれない。)
(今までも、気づかないふりをしていたのかもしれない。)
マナはただ毎日が幸せで楽しく生きてきたのだ。親が亡くなってから・・・
そして、マナの心のわだかまりが解けていく
(でも、それはたぶん、逃げだったのかもね。)
(幸せに生きるっていうのを理由にして逃げていただけ。自分のこの感情に気づきたくないから・・・)
マナは親が死んだと聞いた時に子どもながらにこう思ったのだ。親の分も幸せに生きよう、と。
(そろそろ向き合う、べきなのかも)
だからマナは今までも、黒い感情を押し殺してきた。親に幸せに生きると誓ったから。
ただ、今回は、
(今回は逃げてはいけないのよ。大切な親友に嫉妬していたのだから。)
今回は逃げてはいけないことに気づいた。受け入れようと決意した。
(だから向き合って、けじめをつけましょう。そして・・・)
マナは部屋を飛び出して行った。
そして、世界はマナに一つのモノを与えた。
「ん、ふあぁあ。・・・もう朝か。」
シルは起きた。
そんな時だった。
コンコン
「ん?誰だろ。こんな時間に」
そして、ドアを開けたらそこには、
「シル、今大丈夫?」
マナが立っていた。
「どうしたの?こんな時間に」
「いや、話したいことがあって来たの。」
「話したいこと?」
「これからの私たちについてよ。」
シルは真剣な表情で自分のことを見つめるマナの強い眼差しに気づいた。
「っ、これからの私たち?」
「そう、これからの私たち。」
「それは、どういうこと?」
シルは嫌な予感がしていた。
「それはね、私、シールとずっと一緒にいたい。だから、シールに好きって伝えようと思うの。・・・シル、あなたはどうなの?」
「え・・・」
シルは固まった。
嫌な予感はしていた。なんとなくマナを見ていて、そんな気はしていた。だが、その話が今来るとは思わなかった。
「シールに言われたの。今の私は不安そうにしてるって、悔しそうだって。だから昨日、帰ってからずっと考えたの。そして、わかったの。なんで私が不安そうにしてて、悔しがってるのか。今までこんな感情は押し殺してきたから、気づくのに時間がかかってしまったけど。一晩考えてやっとわかったの。」
シルは息を呑んだ。
「私、あなたに嫉妬してたんだって気づいたの。」
「・・・なんで?」
「それは、シールと同じようにスキルを手に入れて、同じ位置に立っているシルが羨ましかったから。そして、そのまま二人で何処か遠くへ行ってしまう気がしたから不安になった、シルに嫉妬した。ただ、それだけ。」
「・・・そう、なの」
「そう、だから・・・シル、あなたはどうするの?どう思ってるの?」
マナはじっとシルを見る。正直今のシルには現実を受け止めることで精一杯だった。だが、
(そんなことを言われたら、私も言うしかないじゃない。)
「私も。私もね、マナと一緒の気持ち。」
一つ一つ慎重に
「シールとはずっと一緒にいたい。」
自分の伝えたいことを簡潔に
「だから、私はシールのことが大好き。」
シルは一番の親友であり、恋敵に宣戦布告する。
「そう。なら、勝負をしましょうか、シル。」
「受けて立つ。負けないよ」
「それは、こっちの台詞よ」
「じゃあ、行こうか。」
「ええ。行きましょう。」
そして、二人は歩き出す。これからの幸せを手に入れるために・・・
「ああ、そうだ。言い忘れてたけど私もスキルを手に入れたから」
「・・・ぇ、嘘でしょ?」
「嘘じゃないわ。本当よ。さっき発現したの」
「・・うそん」
シルは頭を抱えたまま・・・
そして、
「着いたわね。」
「着いたね。」
二人はシールの家の前に着いた。
「入ろうか。」
「そうね。シール、私よ。入るわね」
そう言ってドアを開ける。だが、そこには誰もいなかった。
「あれ、いないね。」
「まだ寝てるのかしら。」
「そうなのかな」
そして、シールの寝室の前に移動し、
「シール?まだ寝てるの?開けるわよ」
寝室のドアを開ける二人。
そこには・・・
「もう、食べられにゃい。ムフフ」
「zzz」
シールとシールに抱きつく見た目十歳くらいのただの幼女がいた。
「ぅうん?誰だ?」
「「おはよう。シール」」
「ああ、マナとシルか。おは、よう…。」
シールは声がした方を向いた。が、しかし、そこには今にも堪忍袋の緒が切れそうな二人の顔があった。
そして、シールはこの時思った。
(ああ。ここで俺は死ぬんだな)と・・・。