不穏な空気
「それでどうなのだ?あれから何年経ったのだ?エリゴス。」
可愛い声が大広間に響く。
「はっ、魔王様。調べたところ、貴方様が封印で眠られてから350年程経ちました。」
エリゴスと呼ばれた男が答える。
ここは魔族の国の中央にある魔王城の大広間。
「そうなのか。やはりあれから350年か・・・。あまり経っていないと思ったのだが。」
大広間には多くの魔王の従者である魔人達がひざまづいている。
そして肝心の魔王はというと・・・
「しかし、なぜこんな体なのか。これでは威厳もなにも無いでは無いか。」
魔王、もといグレモリー・マモンは見た目、12歳くらいの少女だった。
・・・まぁ、所謂、ロリババアというものだった。
だが実際魔王というだけあって、相当な強さを誇る。
グレモリー・マモン
職業…魔王
攻撃…1848(2568)
防御…1489(2106)
俊敏…2006(2850)
魔力…3867
魔法適正
•全属性有り
•火、水属性の最上級魔法の使用可能
•地、風、木、陽、隠属性の上級までの魔法の使用可能
•超越魔法の使用可能
スキル
《限界突破》
スキルlv6
熟練度506/1800
•ステータスの上昇
•魔法の威力の上昇
《魔王》
スキルlv4
熟練度1682/2000
[召喚]
•配下の召喚可能
•一気に1万の数まで
•召喚対象は固定
[威厳]
•相手を硬直する
•相手と自分の能力値の差に応じて硬直時間が変化する
《召喚術》
スキルlv3
熟練度2095/3000
•強力な生物の召喚が可能
•性能は消費した魔力量による
ただの化け物である。
「まぁいい、エリゴス。」
「はっ、何でしょうか、魔王様。」
「今はどれくらいの軍勢が集まっているのだ?」
「はい。今は魔人5万人、内2万が魔術師、5千が狂戦士、残りが剣士であります。次に魔族ですが、20万を上回るかと。なお、魔物に関しましては優に50万は超えるとのことです。」
「そうか、私が復活して1カ月でその数か。よくやったなお前たち。」
総勢80万を超える軍勢、それを一カ月くらいで集めるという。これは魔王の部下たちの優秀さが分かるというものだ。
「「「「「はっ、ありがたき幸せ。」」」」」
「して、魔王様。これから何をすれば良いのでしょうか?」
「うむ、今は私の身も完璧ではないのだ。とりあえずは、そうだな・・・もう少し軍の強化は出来そうか?エリゴス」
(というより、やることが無いんだけどね!)
「大丈夫かと。強化だけでなく数もまだ増やせるかと。」
「そうか、私の力が完全に戻ったら行動を起こすとするか。」
(当分は戻らないと思うけどね!というより私、なんでこんなことやってんだろ。)
この魔王、やる気が無いらしい。
「よろしいでしょうか。魔王様。」
一人の細身の男が手を挙げる。
「良いぞ。バラム、どうした?」
「はっ、少々気になる場所があるのですが・・・。」
(バラム、か。私、こいつ苦手なんだよね。なんか私を狂信してる節があるし。)
「ふむ、ここは確か、マーレの村だったな。ここがどうしたのだ?」
「はい、これを見てください。」
そう言ってバラムが出したのは映像を記録するための魔道具だ。
その映像を見てマモンは、
(ふ〜ん、って、なにこれ!魔物がどんどん拘束されていく!どうなってんの⁉︎)
「うん?何なのだこれは?」
「私たちもわかっていません。ただ、おそらくですが、新しいスキルの発現かと思われます。」
そこに写っていたのは、紙のように平な物体を次々に出し、魔物を拘束する人間の姿があった。
そう。つい先日、《テープの始祖》のスキルを手に入れたシールスヴェルトの姿だった。
シールスヴェルトは次々と魔物を拘束し、更にはテープで魔物をぐるぐる巻きにしたり、大きな岩をテープで持ち上げ拘束している魔物に向かって投げるなどの技を見せている。
「本当になんなのだ、これは・・・。」
さすがの魔王でも驚きを隠せないらしい。
「私たちも最初は驚きました。今もコレがなんなのかは分かっておりません。」
「そうなのか・・・、そしてバラム、コイツをどうするつもりなのだ?」
「はい、私どもでこの人間を殺そうかと。」
(マジ?)
「何故だ?」
「この人間はおそらくですが、生かしておくと私たちの魔王様の計画の邪魔になるかと思われます。ですので今の内に潰しておいて損は無いかと。」
「ふむ・・・そうか、わかった。だがバラム、今の私は不完全な身である。今は戦いを避けたいのだ。わかるな?」
「ですが!奴は危険です!今殺すべきかと!」
「おそらくだが、バラム。おまえが行っても死ぬだけだと思うが?」
「なっ、貴女様は私が人間に負けるとでも言うのですか!」
(こいつなんでこんな絡んでくるの?めんどくさい。)
「あぁ、だからそう言っているだろう。人間を舐めすぎない方がいいぞバラム。」
この魔王は内心と表面の差がすごいらしい。
「っ、そう、ですか。」
「落ち着いたか?とりあえずさっき言った通り、今は軍の強化だけでよい。そしたら行動を起こそう。よいな?」
「「「「「はっ」」」」」
「・・・はっ」
バラムは遅れて返事をする。
魔人たちがぞろぞろと大広間から出て行く。
そして魔王は・・・
「ふぃ〜、つーかーれーたー。」
先程までの威厳はどこへ行ったのやら、見た目相応の顔になる。
「やっぱり慣れないな、魔王っていうのは。」
「にしても、あの能力すごそうだったな。あれ、どれくらい強いんだろ。でも、バラムじゃ彼には勝てないと思うけどね」
バラムは魔王軍の中でも強い方の魔人ではあるが、先程まで大広間にいた中では弱いのだ。
「というより、どうしようこの状況。」
そう言ってマモンは一本の剣を取り出す。魔王には似つかわしくない綺麗な剣だった。その剣はマモンが持つと神々しい光を放つ。まるでマモンを主人だと言っているように・・・
「彼なら、この状況をなんとかできるのかな。不思議な力を持つ彼なら」
先程バラムに渡された魔道具の映像を見ながらそんなことを言うマモン。
「なんて、そんなことあるわけ無いか。そんなこと考えてても仕方ないよね。とりあえず寝よう・・・」
そして、世界で恐れられる魔王は今日も一日眠るのだった・・・。
世界最恐の魔王が眠ろうとしている時、
(何故?何故⁇何故⁈何故あのお方は私の実力ではあんな人間ごときに勝てないと仰ったのだ⁈)
バラムは分からなかった。何故マモンがバラムではシールに勝てないと言ったのかを、
(やっと、やっと、やっとやっとやっとやっとォ‼︎‼︎あの、あの魔王様に‼︎あの魔王様に仕えることができたというのに!)
そう、バラムは魔王の部下であり、魔王の狂信者だった。
そしてバラムは一つの結論に至る。
(ふふっ、フハハハハハハハッ!そうか!これは魔王様の試練なのだ‼︎魔王様が満足する結果を出してこいという試練ッ‼︎やはりあのお方は素晴らしい!)
バラムの思考は自分の都合のいい方向にマモンの言ったことを歪めていく。
(ハァハァ、そのためにも一刻も早くヤツを殺らねば。)
「ミリー、あの謎の存在を殺しに行くぞ、今すぐに人を集めろ。」
「良いのですか?魔王様は今は戦うことを避けているのでは?」
「いや、それは建前だろう。これはおそらく私たちへの試練なのだ。」
「そう、ですか。わかりました。今すぐ準備をします。」
怪訝な表情ながらも小柄な女性が応え、すぐに仕事にかかり人を集める。
「今回の目標はコイツだ。」
シールスヴェルトを倒すのに集まったのは、魔人が10名、魔族が50名、あとは大量の魔物である。
「コイツは謎の物体を飛ばし、魔物たちを拘束する。この攻撃には気を付けろ!良いな。」
「「「「「はっ」」」」」
「よし、この仕事はなんとしても成し遂げろ!」
「「「「「オォッ」」」」」
そうして魔王軍の軍勢が集まり、シールスヴェルトのもとへと向かう。
ただ一人の魔人が、不気味な笑みを浮かべながら。
数日後
「魔王様ッ‼︎」
大広間にエリゴスが慌てて入ってくる。
「どうしたのだ、エリゴス。そんなに慌てて。」
「報告します!バラムがマーレの村に侵攻を始めたとのこと‼︎」
「は?それは本当か?」
「はい、ミリーから聞き出しました!」
(何を考えているんだ⁈やはりあの時に釘を刺しておくべきだったか⁉︎)
「どうしますか?魔王様」
「大丈夫だ、私が出る。そしてバラムには罰を受けてもらう。」
「そんな!魔王様が出ることではありません‼︎私が奴を止めます!」
「いい、私が出る。異論は認めん。」
「っ、分かり、ました。」
そしてマモンは急いでマーレの村に向かった。
(アイツ!面倒ごとを増やしやがって!もう、疲れた・・・)
それはマモンの心の叫びだった。