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If at first you don’t succeed, try, try, try again 或いはその続き


一年が過ぎた。大きな変化といえば正式な武器をもらった事と低俗な魔性や下級の悪魔を狩る仕事を任されるようになった事だ。

随分と早く悪魔を殺せるようになったと最初は歓喜のあまり殺意が漏れてまた子供達に怯えられてしまったが、彼女が言うにはまだまだであり、下級悪魔に混じって現れた中級悪魔に殺されかけまた助けられてしまった。


「戦士としてある程度の実力と下地があった上で、忌々しいでしょうけどその腕があってようやく下級悪魔を倒せるのです。聖句による奇跡もまだ1日に一回程度、実戦経験を積めるようになるのは大きな進歩ですが、上級悪魔は隔絶した化け物の中の化け物です。間違っても、今のままで飛び出して行ったりしないでくださいね?」

「ああ、そうらしいな…」


忠告を聴きながら俺は考えた。復讐が果たせるのは、マリアを救えるのはいつだろうか、もう間に合わないのではないだろうか、一年も何も出来ずにいたと思うと気が狂いそうになるが力不足で死ねばあのクソ悪魔の思い通りである。炎は消えない、熱は衰えずいまだに身を焦がすように高まっていく。


だがしかし、俺は遂に悪魔を殺せるようになったのだ。

次はもっと多く殺せるようになればいい、そしてもっと強い悪魔を殺せるようになればいい、殺して、殺して、殺しつくして、それでも足りずにきっと俺は腕すらも切るのだろう。だがそれでいい、そこまで行き着けばいい、俺が腕を切るときはその反対にはマリアを抱いている筈なのだから!





「そろそろ武器、それもちゃんとしたのを持つ時期ね!」

「おぉー」


それは一年の修行の末オドによる肉体の強化と心力を消費しての初級および下級奇跡の行使が可能になり、二十代相当の肉体も負荷に耐えうるように強化され以前よりも強靭になった年の初め頃、密かに目標にしていた左腕と同等の筋力は得られなかったが、それでも恐らく全盛期だった頃の肉体を越え、それよりも強くなったのではないかと思った頃にシスターアンリは俺にそう告げた。


「まぁ、というか人間の肉体的な強靭さとか筋力とかなんてそこらへんがいいところでしょう。左腕の悪魔筋力は文字通り悪魔の腕なんですから、そんな筋力を人のみで得られるのならば苦労しませんし」

「…やっぱりそう言うものか?」

「ええ、私も人間が窮屈でただ悪魔を殺すためだけに一時人をやめて見たのですが…ま、その話はまたいつかです。今はあなたの武器を選ばなければ!」


ぶっちゃけ今も聞けていないが、彼女の言う人外とはなんなのか、そもそも聖職者でありながらそんなことが可能なのか、色々と突っ込みたいところはあったが目先に悪魔を狩る為の手段がぶら下げられた状態でそんなことを聞けるわけも無く。俺はすっかり見慣れた風景となった工房でシスターと共に武器を探すことになった。


「剣、それも貴方が使うような片手で使える限界以上の長さでありながら片手での運用を前提とした中途半端な剣となると…実は選ぶ余地がありません、なので銃と頑丈そうな籠手を探しましょう。」


そう言って膨大な武器庫の中から俺は片手での排莢が可能でなおかつ回転排莢、出来ればやり慣れたスピンコッキングが可能な物を探し…結局部品単位で作り直す事になった。


「意外と器用ですよね〜」

「ま、記憶が亡くなる前から自分の武器は自分で管理するしかなかった。これくらいできるようになる」


そう言って俺は武器庫から頑丈なスピンコッキング可能な銃を持ち出し分解、祝福と魔術付与による強化が成され弾道安定化のための螺旋状の溝が彫られた筒、最も手に馴染んだ金属持ち手を動物の革で包んだ物などの部品を組み込み直し改造、ぶん殴ることや長期間の整備不能、砂漠や凍土などの気温変動も考慮してかなりの余裕を持たせたがそもそも素体が余裕と精密性を兼ね備えた一級品だったので組み上げでの不備は起こらなかった。


重さや標準も問題なく。込められる弾数は十四発、短銃と同じ程度の炸薬量の強化銀弾と高威力の炸裂聖水弾やさらに強力な強化聖銀徹甲弾も込められる口径となっている。


「いい…素晴らしいな」

「よかったよかった。正直言って銃は詳しくないからね、君がそこそこの知識を持っててよかったよ」


彼女は興味なさげに基本動作の確認をし暴発の心配がないか確認する俺を見つつ次の品、籠手を探す。彼女は奇跡の行使力が高く。心力にも余裕があるため遠距離や中距離において攻撃手段に悩む必要はないだろうが、俺は一年の修練でようやく下位奇跡を1日1回どうにか使えるようになったのだ。弾という制限はあれどインスタントに放てる遠距離攻撃手段と言うのは近接がメインの俺にとって命に関わる事もある問題だ。

一頻り確認した後、俺も彼女を追って籠手の領域へ行く。


「ま、これも選ぶってよりはほぼ同じ物の中から重さや厚さが好みのやつを見つけるだけだから、剣と同じようものだね」

「俺の場合腕との兼ね合いもあるからな…」


悪魔の腕、俺の左腕はあの悪魔に植え付けられた物であり今の所暴走などはしてないが人外の膂力を持ち、悪魔と同質ゆえに悪魔へ物理攻撃の加えられる代物だ。実際これを活かすのは難しい、俺が剣を振る時の腕が左であると言うのと結局両手に武器を持って戦う為だが…この腕は再生力が高く人の腕よりも頑丈だ。強固な籠手で固めれば剣での防御が間に合わなくとも腕で胴への攻撃を防げる。それにこの腕は目立つ。赤黒く筋張ってはいるものの骨と筋だけで人の腕と同じほどの太さであり一目見て邪悪である。隠す為にも籠手出来れば肩まで覆いたいところだ。


「んじゃここら辺ですね!」

「これだな」

「早いね」


俺が選んだのは重さと引き換えに圧倒的な装甲を持つ重装鎧のような籠手、腕のあたりから手の甲にかけて装甲が追加されているあたり俺と同じように左手を盾のように使う前提の物なのだろう。装備しても重さがほぼ感じられないのは流石は人外の筋力である。


「じゃ、最後だね、アレは此処じゃなくて私の自室にあるから上がろうか」

「わかった」


この時、もう少しよく考えておけばこの後のことを想定できたのかもしれない、彼女の部屋にわざわざ彼女が使わない武器がある。その意味をもう少し深く考えるべきだった。



彼女の自室はあまり物がない、だが唯一一般的な家具以外で目を引くものがあるとすれば…それは部屋の奥に立てかけれた棺桶だろう。

彼女は錠前で閉じされたその棺桶を鍵で開ける。その一歩手前で俺に忠告をしてきた。


「今更ですけど、実は今から渡す剣呪われてます。」

「…ほう?」

「ええ、呪いは単純です。と言うか使い方さえ誤らなければ対悪魔、対化け物というカテゴリ内最強の『聖剣』にも匹敵するほどの力を秘めています。」


俺はこちらに背を向けたままの彼女のその言葉に少したじろいだ。なにせ自分でも自覚しているが俺はまだ悪魔狩りの業を修めたとは言えないし、強力な武器は自分の技量を鈍らせ慢心を生む。そんなことがわからない彼女ではないとわかっているが故にその呪いとやらの内容がひどく気がかりだ。

だがそれ以上に、何故だろうか、彼女は其の剣に何か思い入れがあるように見える。それこそ渡したくないようにも感じられたし、早く渡したいと思っているようにも感じた。


彼女は続けた。


「この武器はかつてこの教団における最大にして始まりの地である丘にあった十字架をベースに聖銀と聖人による祝福を受け、この国の大教会に鎮座していた由緒正しい十字架でした。」


振り向かず。少しずつ棺桶の蓋をずらしていく。それはひどく重いようで石造りの床が蓋の重さで陥没するほどだ。


「この剣がこう成り果てるまで十三人が死にました。どれもがこの剣を使ったわけでは無いですけど、少なくとも剣に関わって死にました。」


そこにあったのは血でくすんではいる物の俺が見たことのあるどんな十字架よりも神聖だったが、其の剣に狂気的な信仰というべき執念、執着がある事にはすぐ気がついた。


それは手だった。正確には手首だが朽ち果て骨となっていて尚剣の柄を掴んでいた。


「ハッキリと言いましょう。これは悪魔を殺すために使用者の人間性を削り取り其の果てに悪魔を殺す悪魔を作り出す魔剣です。」


其の不気味さ、其の神聖さ、其の異様、其の在り方、悪魔を殺す為に悪魔に成り果てる聖なる魔剣、ああなるほど、彼女が俺に見せたくないわけだ、彼女が俺に持たせたく無い訳だ。

俺はその剣の刀身に映る自分の姿を見てそしてその瞳に映るこの十字を見て、なんて素敵なんだと思ってしまった。そう思って柄を握った。骨となった手首は自らその手を離し朽ち果て俺に俺の未来を想像するにかたくない悪寒を与えてきたがもうダメだ。


「あぁ…やはり、やはりこうなってしまったのですね…」


記憶が弾ける。過去魔剣と言うものに出会った俺はその刀身の輝きに何の意味も見出せなかったが仲間の一人がそれをうっとりと見つめていたのを思い出した。

ようやくわかった。理解した。認識した。


『汝、悪魔を殺すべし、神の地に降り立ったあらゆる魔性を絶滅させるべし』


その甘美な響きは頭に張り付き、こびりつき、俺の一部となった。そう思うと刀身が青白い炎と共に輝きくすんでいた筈の銀の輝きを取り戻した。見えなかったがその刀身には激しく、しかし美麗にこう書かれていた。


『AーMENN』

「amen!」


そうあれかし、そうあるべしと叫ぶと剣はその輝きを収めた。


「…クククッ」「ク!クハハハ!」

俺は遂にようやく力を手に入れた。少なくともかの悪魔に届きうるような一振りと出会った。狂乱だ。歓喜だ、狂喜だ。そして俺はそれら全ての感情のままに、剣を棺桶に戻した。


「ふぅ…」

「え…?」


彼女は呆然としている。


「この剣に触れて、それを手放す?え?大丈夫ですか?」

「大丈夫、正気だしこの剣に魅入られ自分も魅入っているのを感じるがその程度だ。」


正直言えば日々何か思うたびに沸く殺意を押し殺し、押し殺して尚燃え上がる熱に耐えていなければ剣を片手に飛び出していただろう。確かにこの剣は素晴らしい、切れ味も良さそうだし重さも重心もまるで自分のために作ってもらったかのような心地だった。あの囁きもいい、何も考えず獣のように俺を悪魔へと変えてくれるだろう。だが、だがしかし!


「今はまだ悪魔を殺せるだけで悪魔を殺す悪魔には成り果てられない、せいぜい踊るだけ踊って死ぬだけだ。犬死だ。」

「…」


俺はまだ悪魔を追い立て、その心ごと魂を鏖殺できる様な、この剣にふさわしい悪魔を殺す悪魔になりきれていない、力も努力も何もかもが一切合切足りていない!


「使うだろうがまだ飲まれてやるわけには行かない、俺は悪魔を殺し、その更に上の存在である筈の怪物を殺しつせなければならない、だから今はこいつを使う。使ってやられるのはもっと先だ。」


俺はそう言って剣を取り、背負う。今度は囁きも、何も感じなかった。そうしているとシスターは突然笑って、涙を流した。俺は狼狽えたが彼女が俺の体をペタペタ触りながら「平気だ…平気だ…」と呟き俺の方を見上げて


「…何も言わずに抱き締めてください」


言っておくがマリアの成長した様な、と最初に表現したが彼女は立派に魅力的な美女である。普段の言動や修練の時、気の抜けた時のどうしようもない感じが少し残念な感じだが、彼女は十分に女性的で魅力的なのだ。俺は彼女の言うままに抱き寄せ、どうしたもんかと悶々としているうちに彼女が泣き疲れて寝てしまったのを見てやはり娘に似ていると思った。

…その夜こっそりと処理をしたのは内緒だ。



まぁ、兎も角、武器を手に入れた俺はシスターと共に人間の足で一時間ほど歩いた先にある街へと行き、冒険者として登録し直して、教会へと足を運んだ。そこで一悶着あったりしたが、俺は無事シスターの監督下で悪魔を狩ることの出来る身分『教会騎士見習い』となり、その先で出会ったのだ。


中級悪魔、下級悪魔を超越し別の物ではないかと思うほどに強いその怪物に


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