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The beginning 或いはその起源


うん、新作なんだ、すまない


男は奇妙な身なりだった。黒い外套がほとんど全身を覆い隠しており見えるのは足元の上等なブーツ腰に長めの剣が2本と長銃が少しはみ出ている程度、衛士は経験からあのような奇妙な格好の人物は大抵が冒険者と呼ばれる旅人であるか、上等な靴とその身を覆う外套もそれなりのものであるために放逐された高貴な血筋か、はたまた巷で噂の悪魔崇拝者と呼ばれる反社会勢力であると知っていた。少なくとも一定の収入のある商人や農民や職人のような気配や動き、装備ではないし騎士や魔法使いのような存在でもない、ある種奇妙ではあるがありふれた人種であると判断した。


眠気に負けぬよう回らぬ頭を回して、絞り込めてもいない選択肢のどれかに当てはめようと声をかけてみるまでわからないクイズに挑戦する村の衛士はそこでさらにおかしなことに気がついた。

街の灯りが、喧騒が、先ほどまで少なくともあったはずのそれが悉くなくなっている事、そしていつの間にか自分の視界が180度逆になっているということに、気がつくと同時に絶命した。



「ッチ、どうも最近こういうのが多いな」

男は目の前にいた最後の生存者らしきそれが元から死体だったことに少しイラつきながらも手配書を広げ、今まで歩いてきた道筋と自身の速度から依頼の村がここであると再確認すると剣を抜き放ち倒れた死体に突き刺す。するとどうだろうか白銀に輝く銀の剣が突き刺さるとほぼ同時に青白い炎がその体を包む。ガクガクと痙攣したように跳ねる体は燃え尽きると塵と成って消えた。


雲の切れ目から月明かりが差し男は自らよりも大きな影が自分の後ろから伸びているのに気づくと軽業師の様な身のこなしでその手足を刈り取らんとする一撃を回避する。


『グググ…悪運の強い奴…次は無い』


そこに居たのは下半身がクモ上半身が人の女性のようにも見える怪物だった。男はその胸元のたわわな物を見て口笛を吹きながら銀の剣を肩に担いで笑う。怪物はそれに気を良くしたのかウィンクなどしてみるがその顔が怒りに染まるのにそう時間はかからなかった。


男はそれを鎧に覆われた左腕一本で担いでいるがそれは人間と呼ばれる種族の持つ筋力では片手で振り回すこともできそうに無く。剣というには少し歪だった。

「胸糞は悪いがいいもん見せてもらったぜ?」

長方形のような刀身は一般的な剣に比べて分厚く重厚でその表面には『AーMENN』と荒々しくも美麗に刻まれている。長さは片手剣と両手剣の中間のような長さ、少なくとも腰に下がっている鞘から出てくるような長さでは無い、そして掲げられた剣の影は十字架の様であった。

荘厳な装飾などないがその剣に秘められた祝福は火を見るよりも明らかだ。そして異形であり魔性である怪物はそのあり様に激昂する。


『きさまぁ…よくもこの私に穢らわしい神の十字など見せたなぁ!』

「あぁ、見せるとも神など信じていなくともお前らの首を叩き斬って天に掲げ丁寧に、丹念に教会式で葬ってやるよ」


激昂し額の複眼が開くよりも早く男の外套が月明かりを隠し撃鉄の降りる音が鳴る。それと同時に炸薬が破裂し弾頭を打ち出すのは右手に持った長銃、吐き出された弾丸は聖水を内包し聖句によって強化された教会謹製の特殊銀弾、恐らくアラクネと呼ばれるであろう見た目の怪物は糸を操り受け流しを試みるが最も残虐な生物によって生み出された人殺しの技術は絶妙な回転でもって糸の壁を貫通、その額に穴が空き女の顔が上へと跳ねあげられた。


男は長銃を回しスピンコッキングによって排莢するともう一発弾が出るが今度は先ほどよりも分厚い糸の壁によって防がれる。同時に大気を震わせる魔力が行使され村の家屋から屍人と子蜘蛛が溢れた。


『グググッ!痒い痒い、痒すぎて冷静になった。よくよく考えてみれば貴様の様な人間程度我が子と傀儡に任せれば良いではないか』

「はいはい、穴の空いた頭でよく出来ましたねー」


パチパチと挑発する様な拍手に優雅に一礼までする蜘蛛女を見て男は挑発の効果がないのを察して舌打ちし剣で糸を切り払ったいつつ聖句の詠唱を始める。


「『全能者にして主なる神よ、あなたの大いなる御技でもって我が苦難を祓いたまえ!』」


男の体から浮かぶ信仰の光は儚い蛍火の様でありそれだけで男の技能が聖職者の様なものではないとわかるが、戦いながら一言一句に力を込めて詠唱する様はさながら聖騎士の様であり奇跡特有の白い光が迸ると七芒星の守護陣が顕現し下級の悪魔である屍人と女のはらわたから生まれた子蜘蛛は悉くが青白い炎に包まれ塵となった。狂った様な笑みが鳴りを潜め蜘蛛女は怒りを覚え顔を歪めたが其の男の顔は月明かりに照らされると狼狽え始めた。


『き…貴様ぁ…其の印は!其の顔はぁ!』


男は口を三日月の様に歪めて笑う。


「ああ、そうだよどうやら最近ようやく名前と顔と特徴が一致したらしくてね、一躍有名人って奴だよ」

『悪魔狩りの悪魔!』


其の言葉を聞くが早いか言うが早いか、蜘蛛女の体が真っ二つになり其の断面から青白い炎が噴き出したかと思うと塵へと還った。


「…其の呼び名は嫌いなんだ。」


朝日に目を細めながら男は漸く目の前となった王都、ここからはまだ遠いために其の中心である城の威容は見えないが国の威信を示す様な白亜の壁が朝日に照らされ白く見える。

それと同時に彼にとっては吉兆であり凶兆である強力な悪魔の気配を感じ悪寒と期待を混ぜた表情は痛みに耐える顔へとすぐに変わった。


「…マリア、必ず助ける」


朝日に照らされる彼はジョージ、苗字もなく。生まれも育ちも平凡な彼が何故に悪魔を狩るのか、其の因果は彼の記憶では5年ほど前から始まった物だった。





「×××!助けて!×××!」

「う…っぐぁぁ!マリアァァァ!」

『クククっ、良い顔だ。良い絶望だ。貴様の様な活きのいい人間を待っていた!』


意識を失う前の最後の記憶は引きちぎられた腕の記憶と養い子であるマリアの泣き顔、そしてねじれ角を持ち赤黒い炎の化身の様な、傲慢さと恐怖の化身とでもいう様な邪悪にして強大な悪魔がその力の奔流でもって空気を震わせながら笑っている。と言うものだった。

あたりも地獄の様な有様で、村だったであろう其処は血と臓物に彩られた悪魔崇拝者共の根城になっており其処に生きた人間というのは俺とマリア以外の誰もいなかった。何かを奪われ、何か得体の知れないものを植え付けられ、そして焼きごての様な激しい痛みに気を失い意識を失った。


次に目が覚めたとき、と言うべきか個人的にはまるで実感がないながら記録を見ている様な気分だったが、俺は教会で拘束され、過激な思想を持ち地上におけるあらゆる魔の存在を許さない聖騎士やエクソシストいわゆる悪魔払いに激しく尋問されながらも、教会に保護され治療された様な、意識を失った後俺が見た物はそんな感じのものだった。


『あれは人の形をした悪魔です!教区長!一刻も早く処刑すべきです!』

『なにを言うか!彼はしっかりと人間だ。少なくともアレは彼自身の望むものではないだろう。身元もしっかりして教会への礼拝や孤児院への寄付、何より今回の事件で我々の初動が遅れたために養い子、何より記憶と名前までも奪われているのだぞ!そんな者を処刑などと…貴様らの方がよほどではないか!』


教会

この国においてほぼ唯一の宗教であり同じ唯一神を崇める教会だが、彼らの言い争いが表す通り巨大な組織としては当たり前だが一枚岩ではない、過激派と穏健派と名は付いているがその思想や考え方はまるで同じ宗教ではないかの様な違いを見せている。

過激派と呼ばれる集団は聖騎士やエクソシストが中心で唯一神を奉じる最良の手段として魔の滅却、そして人間至上主義的な主張を行なっておりその多くが貴族などとつながりがある事から非常に強い権力を持っている。

一方穏健派は現実主義的であり事実主義者だ。唯一神を奉じるために唯一神の産み出した世界に存在する遍く者を愛し、許し、導くことこそが真の信仰であると信じている。その集団の中には科学者や魔法使いそして市井から叩き上げられてきた人物が多く存在し、勢力の総数的にはこちらの方が圧倒的である。



『ああ、×××さん、こんなになってしまって…』

『マリアちゃんも彼も苦労しながら幸せに暮らそうとしていたのに…悪魔崇拝者共めぇ…』


俺の記憶が無いと言うのとこの時過度な痛みや記憶を奪われたショックなどから廃人となっていた俺は口もきけず体も動かせ無かったが意識だけはあった。正確には目や耳は動いていたが心というのがめっきり死んでいたのだと思う。見舞いに来てくれる顔も知らぬ知り合いが俺とマリアという人物にために泣いていたり怒っていたりするのをただただ見るだけの日々が少し続いた。


だが、どうにも運が悪いようで過激派のボンボンどもが今回の事件で悪魔を殺せずむざむざ危険な上級悪魔を逃したと言う事実を歪めるため、スケープゴート、もとい少しでも成果を上げたという見せしめのために俺を処刑するため身柄を確保され、拘束具のまま地下牢に押し込められた。

しかも不定期なの確定

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