厳かに厳粛な
友希が連れてこられたのはファミレス……なんてありきたりな所ではなく、現在、友希の目の前には大きな日本家屋があった。もう一度いう、大きな日本家屋があった。
二丁目の大きな日本家屋といったら、城ノ内組親族が住んでいると噂のお屋敷だ。
「ちょ……ちょっと待って下さい、辿華さん!ここって……」
「さんなんてつけないでくださいよ~。他人行儀みたいじゃないですか!」
(他人行儀もなにも他人だと思うのですが……)
友希は心の中でそっと毒づく。
初対面なため、あまり分からないが彼女はかなりフレンドリーに見える。いい意味でも、悪い意味でも芯が強そうだ。
「いえ、ですからあのここって……」
「敬語もやめてくださいよ~。そのうち近い関係になるんですから!」
この人はわざとやっているのであろうか。わざと質問に答えないのだろうか。一応、もう一度友希は同じ質問をしようとする。
「ですから、ここってもしかして……」
「敬語はやめてくださいって~。いずれ私より上の立場になるんですから!」
おい。
「わざとですか?」
「なにがです?」
分かっててやってるだろこの人。友希はそんな事を思いながら辿華をじとりと見る。当の辿華は全く気にする様子もなく、屋敷の大きな門を押し開けた。
「ちょ」
「さぁ、遠慮せず入って下さい!ここで詳しい話をします。人に聞かれたら不味いですから~」
焦る友希に目もくれず、辿華は屋敷の中に入っていった。辿華が消えたことにより、門の外にはゴツい男達と友希だけ。
男達は「とっとと入れや」という感情を醸し出しており、このままでは命すら危ういと察知した友希はしぶしぶ辿華の後を追った。
* * * * *
この日本家屋は思っていたよりも広く、後を追っているうちに友希は完全に辿華を見失った。とどのつまりこの魔の巣窟で迷子になったことを意味する。
(どうする?ここがもし城ノ内組親族が住んでいる屋敷だとすると、ヤクザに見つかったら揶揄抜きで殺されるのでは?辿華さんはいないし、一体どうしたら……)
「おい。」
不意に凛とした声がかけられた。
おそるおそる振り替えるとそこには、濡れ羽色の美しい髪をハーフアップにまとめ、高級そうな深紅の着物を身に纏った、辿華と同じくらいの少女がいた。辿華とは異なり物言いがきつそうなつり上がった眦は厳かな雰囲気を感じさせるとびきりの美人だった。その姿はまさに、高嶺の華。
唖然とし、固まっている友希に対して、少女は不機嫌そうに顔をしかめてもう一度口を開く。
「おい。聞こえぬのか。貴様、妾の屋敷になにか用か?」
その声は威厳を感じさせ、聞くものを畏縮させるような声だった。そして、微かに苛立ちも含まれていた。
「あの……その……辿華さんとはぐれてしまって……」
「辿華?彼奴に呼ばれたのか?」
「ええまぁはい……そんなところです……」
しどろもどろになりながらも言葉を紡ぐ友希。少女はジロリとこちらを睨みつけた後、くるりと踵をかえした。
「あの……」
「着いてこい。貴様の話が真実か確かめに行く。それともなにか?真実ではないと?」
「いえ!本当です、けど……」
「ならばよかろう、着いてこい。」
先程よりも激しく睨まれ、慌てて肯定の言葉を述べる。
少女はそんな友希を一瞥し有無を言わせない口調ですたすたと音もなく奥へと進む。そんな少女にやや小走りの状態で着いていく。
長く続く廊下の三つ目の角からいきなり、辿華が走りながら飛び出てきた。辿華はこちらに気付いて、こちらに近付く。そして、少女に向かって恭しく頭を下げた。
「辿華。此奴、お主が呼んだというのは真か?」
「真です~。しかしながら、彼は怪しい者ではありませんよ雲雀様。彼が名取友希です!」
「な……こんなのがあの名取友希か!?」
雲雀のとてつもなく驚いた様子に、俺はこういう業界で有名人なのだろうか。と、友希はひたすらに思った。
「とりあえず、立ち話もなんなので、部屋へ移動しましょう!」
辿華の一声で一番奥の部屋へと進む。
そこは広く、まるで時代劇の世界へ迷い混んだようだった。部屋の上座の方に雲雀が座り、その向かい側に友希が座る。辿華は部屋の襖をぴっしりと閉め、雲雀の隣に座った。
駄々っ広い部屋には、三人しか居なく、厳粛な雰囲気が漂っていた。
「では、全員そろってますので、お話を始めましょうか!」
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