ブリュンヒルトの驚愕
グラード村の裏手に新しく出来た城、ヴァル・ヴァルハラ城。
俺にとっては穴に埋まりたくなる名前だが、その威容は素晴らしいの一言だ。
白銀のミスリルの壁面に黒い屋根、窓枠や格子、雨樋、外側の柱などは赤みがかった金色のオリハルコン製だ。
その城の正門からは、真白い石畳の道が真っ直ぐに伸びている。水路を渡る橋も真白い石造りだ。
後は、周囲を城壁で囲み、村を少しずつ城下町へと改造していけば良い。
頑張れば城下町完成まで1週間掛からない可能性もある。
だが、今は楽しい街作りが出来ないかもしれない。
Sランク冒険者、ブリュンヒルトのせいだ。
「お願いです、弟子にしてください!」
「嫌だ」
ブリュンヒルトは魔法剣士を名乗っていたが、魔術が使える剣士というだけだった。
それでも十分凄いらしいが、ゲーム的に分析したとしたら剣士の習熟度が4割、魔術士の習熟度が2割ほどだろうか?
レベルも30くらいしか無さそうである。
「私は初めて心から師匠と呼べる人を見つけました!」
「勝手に見つけるなよ」
俺は城の前でブリュンヒルトとそんなやり取りをしていた。
「ボス、中もだいぶ出来たわよ?」
と、そこへディグニティが来て、体をクネらせながらそう言った。
「お、良し。中を見て回ろう」
俺がそう言って城へ向かうと、護衛達に混じってブリュンヒルトも付いてきた。
「なんで来るんだよ、でっかいお姉さん」
「師匠についていかなくては」
「マスターは許可してない」
「今はそうでも、いずれは…」
「まあ、大して脅威でも無いし、好きにさせたらどうだ?」
「ぐ…っ!」
ブリュンヒルトは護衛のラグレイト、サニー、ローレルとそんな会話をしながら俺達についてきていた。
中々タフな性格をしている。
城の中は俺から見たら完成しているとしか思えなかった。
家具も全ての部屋にあるし、もう既にメイド部隊の内の5人が掃除などもしている。
「な、なんて見事な城なの…色んな城を見てきたけど、こんな立派な城は…」
各部屋を見学していると、ブリュンヒルトがようやく城の感想をくれた。
「他の城も見たことがあるのか?」
俺がそう聞くと、ブリュンヒルトは頷いて口を開いた。
「はい。五大国はインメンスタット帝国を除く4国の王城と、一部貴族の城を見たことがあります」
「へぇ。エルフの国もか」
俺は興味が出てブリュンヒルトにそう聞いた。
すると、ブリュンヒルトはそれも肯定する。
「エルフの王城は美しく雄大です。石の床や壁、クリスタルのシャンデリアなど、見事なお城です。ただ、エルフは金属類はあまり好みません。なので、このように金や銀をふんだんに使った城は見た事がありません」
「内装は控え目にしてあるけどな。大理石と漆喰も使ってるし。ミスリルとオリハルコンは外壁メインだ」
「え? ミスリル?」
俺が城の説明をしていると、ブリュンヒルトがキョトンとした顔で俺を見た。
そして、無言で自分の剣を抜くと、窓から顔を出して壁と剣を見比べた。
「み、ミスリルぅっ!?」
衝撃の事実に気が付いたブリュンヒルトが変な声をあげてこちらを振り返った。
「み、ミスリルですか!? これ、全部!?」
「なんだ、今頃気が付いたのか? いつも見てるだろうから気付いてると思ってたが」
「そ、そんな…まさかミスリルを壁に使うなんて…」
俺の声が聞こえているのか、いないのか。ブリュンヒルトは愕然とした面持ちでそう呟いた。
「ミスリルにそれだけ驚くのにオリハルコンには反応無しか」
俺が不思議に思ってそう口にすると、ブリュンヒルトは眉根を寄せて俺を見た。
「オリハルコン…オリハルコンとは、オリハルコン鉱を用いた金属ということですか? あの鉱石は加工出来ない為、オブジェとして飾られているとか…貴重な代物なので、一部王族が部屋に置いていたりするらしいのですが…」
「…オブジェ?」
まさか、オリハルコンは材料としてしか存在していないのか?
魔術刻印が失われた技術と聞いたが、オリハルコンの場合は加工技術が失われたわけじゃないのか。
まさか元から加工技術が無いとは。
いや、いまだに発見されてないだけで遺跡やダンジョンの奥地には眠っているのだろうか。
ん? ダンジョン?
「そういえば、ブリュンヒルト。ダンジョンを知っているか?」
俺が尋ねると、ブリュンヒルトは顔を上げた。
「ダンジョンですか。一応、私がダンジョンを突破したパーティの1人ですが…」
「突破した? 何人で?」
「ご、5人です」
俺が聞くとブリュンヒルトは申し訳なさそうに眉尻を下げてそう言った。
5人…5人か。
このブリュンヒルトが最弱だったとして、それでもブリュンヒルトもSランク冒険者ならばそこまで大きな差は無いだろう。
かなりバランスの良いパーティならば、初級者向けダンジョンはクリア出来るか。
初級者向けダンジョンは地下迷宮タイプならば20から30階層だ。
敵も罠もそこまで厳しいものは無い。
それが中級者向けになると40から60階層とかなり深くなる。
「ダンジョンはどんなものを走破した?」
「地下10階層です」
うん、チュートリアルかボーナスダンジョンだね。
俺は腕を組んで唸ると、俺の態度に萎縮するブリュンヒルトを見た。
「ダンジョンはあまり発見出来てないのか? ブリュンヒルトと同等くらいの冒険者が5人いれば30階層くらいまでのダンジョンを走破出来るだろうに」
「さ、30階層!?」
俺が口にした台詞に、ブリュンヒルトは大袈裟な態度で驚いてみせた。
「む、無理です! 現在確認されているダンジョンで地下10階層より深い階層は未確認ですし、唯一最深部らしき階層に辿り着いたのも私達が突破したダンジョンが唯一ですから」
「ん? じゃあお前が唯一ダンジョンの最深部に辿り着いた冒険者パーティの1人か?」
俺が確認の為にそう聞くとブリュンヒルトは大きな体を縮こまらせてしまった。
「は、はい、そうです。その功績でSランク冒険者になったので…」
え、チュートリアルダンジョンをクリアするとSランクになるの?
俺はあまりの認識の違いに眩暈を感じ、片手で額を押さえた。
よし、城下町の計画を多少煮詰めたら冒険者とダンジョンの情報を集めよう。
俺は密かにそう決意し、ヴァル・ヴァルハラ城内の見学会を再開した。




