勇者と英雄
…ああ、私はまた間違ったのか
『君』ではない人を選んでしまった…
例えそれが運命とされても
神に逆らっても『君』を選ぶべきだった
神に逆らえないこの身ではまた選ぶ人を間違える
だから、次の世には『君』を選ぶしか余地がないように自分にまじないをかけよう、『君』以外を選ばないように
私は誰も…『君』以外に触れられたら拒絶するように
神にも…逆らおう
だから…泣かないで
ごめんなさい
君を選べなくて
最後の言葉は…
届かない
「ユーリ、起きろ」
「…ん、エドか…って、今、何時だ」
「…また、悪夢でもみたのか?」
「…ああ…『いつもの』悪夢だよ」
私の護衛兼英雄の幼馴染みエド
『あの悪夢』を、『人生の終わりの夢』を見たときは必ず寝坊する私を見かねて起こしに来てくれる便利…いや、できた幼馴染みだ
そして『選べなかった』夢の相手でもある
私は幼い頃に神殿で勇者となることを神によって決められた
それだけの知識や武術訓練、魔物討伐等こなしてきて勇者として崇められてる
一方エドは私に匹敵する強さで人々からは英雄と崇められてる
私のパーティーは賢者である妹と神殿騎士の四人だ
でもって、つい昨日魔王を討伐したばかりなのだ
神に頼まれた仕事は済ませたとばかりに私はパーティー解散宣言をして英雄と妹の邪魔はしないと決めた
私の中にある前世の記憶がなければまた騎士であるアレクを選んだだろう神がいや、神殿が決めた通りに
でも何故か私は勇者にさせられた時に神から記憶をもらってしまった。神から今までの前世の記憶を全て、最初からだ
『選べなかった』エドに聞きたいが答えてくれるか、覚えているかは別
それに…今世で妹のオフィーリア…フィーとの仲の方がいい気がする忘れてもいいから私が引くしかないよね…
「…って、フィーは!?いつもなら二人で来るでしょうが」
「フィーならアレクと買い物に出掛けた。着替えたら下に食事に来い、もう昼になる。流石にこれ以上寝かせていたら俺がフィーに怒られる」
「昼!?何で起こしてくれなかったの」
「…ユーリいつもは自発的に起きるじゃないか、寝顔なんて見られないのにフィーですら部屋に入った途端目を開けるのに俺が入ってもわからないくらいぐっすり寝ていたから…寝顔を堪能させてもらっていたんだよ。『昔』みたいに」
はい!?
何て言いました!?
「ユーリは気づいてないのはわかっていたけど結構ショック…俺、分かりやすくアピールしてたぞ?ユーリが好きだって」
……へ?
茫然自失な私に幼馴染みは続ける
「ユーリは勇者だからそれに並ぶには英雄くらいかなって思って必死にユーリに着いていこうと力つけたり、ユーリは覚えてないけど『ずいぶん昔』に必ずユーリと一緒になると決めていたんだ色々と邪魔がはいってこんなに遅れたけど」
まて、頭の整理が追い付かない
ひとつひとつ確認しよう
私が記憶もちなのは初めての事
エドに記憶があるのは神様からのお達しで諦めた…エドが
生まれ変わるたびに私は死ぬ直前に記憶を思いだしサヨナラもアイシテルも別の人に捧げていた
でも、今回は少しばかり違う
両方が記憶をもってる
最低でも私が
エドも持っていると思って間違いない
でも、なぜ今回に限って私にまで記憶があるのか…
私が考え込んでる間に爆弾発言は続く
「あ、フィーの邪魔したら怒るから。フィーはアレクに傾いてるのについでにアレクも」
「…はい?」
「鈍いにも程がある。フィーは彼が好きなんだよ」
そんなことあるのだろうか
神は私との約束を守ることはなかった
『エドと伴侶になりたい』
死ぬまで共に居たかった
でも、私の本当の願いを知ってるはずの神は私の記憶を全て封じてエドと結婚する事は無かった
ずっと…死ぬまでそばにいてほしかった
分かってるいつ神が見ていないところで魔王が復活しないとも限らないから
…私は神殿から勇者を拝命してた
本来はこれから神殿に報告に行かなきゃならない
神殿騎士のアレクに任せてとんず…っと諸国漫遊の旅に出ようとして解散宣言だしたんだけどなあ…
まさかフィーと惹かれあってるとは…
…ん?あれ?なんかおかしい
神は私に魔王を『封じ込めろと』いつもなら言った
でも、神殿が言った…いや宣った…じゃなくて拝命したのは『封印』ではなく『魔王の抹殺』
…神は魔王を見棄てたのだ
なんでこの事に今まで気づかなかった私…
頭を抱えてうずくまる私にあきれた声でエドは声をかけてきた
「…ユーリ、魔王が神に見棄てられたのに今気づいた?」
「…」
「…んでもって、記憶も…ってところかな」
「…」
記憶は勇者として神に会った時に返してもらったものだけど…
アホの子だ…神殿からの情報はアレクに全部任せてたから疑問に思わなかった…
魔国だって生きるためには必要なものがあるから何代も魔王封印が壊れると私が何度も封印し直した
でも…そうだね、今回の魔王は分かっていたのかもしれない神に見離されたことに…そして疲れたのだろうか…魔王で居ることに
何度も同じ事の繰り返し…
記憶は持ち続けると自分を見失ってしまわないだろうか
「…エドは最初の勇者を知ってる?」
「…それは、どう答えればいいんだろうな…知ってると言うよりも…覚えてるってのが正解かな」
「…そう」
「神は俺と勇者…つまりお前の二人を輪廻の輪に入れてしまいたかったんだ
いわゆる心残りを作りたかったのさ…最初の魔王の封印は全滅一歩手前だって聞いてる
俺は…今みたいに力がないから置いていかれた。
…先に死ぬのは必ず勇者。
幼馴染みとして俺は記憶をもって転生し続けた。その先に有るのは俺以外に笑みを浮かべて幸せそうな勇者…ユーリの姿」
「でも、今回は違った。魔王にしても…私にしても」
何度も繰り返し転生し続けた私とエド
記憶なんてものはなかった筈なのに思い出してみれば、何故か忘れられなかった
その心を想いを神は知っていた
知っていて私たちを魔王封印のために心を残すために一緒にはさせなかった…
「ユーリ、魔王ってあんなくたびれた奴だったのか?俺は昔と比べて、終わりたいって疲れてるようにしかみえなかったぞ」
「…最初に会ったときはあんな疲れきった顔はしてなかったよ…覇気が凄くて…なんとか封印したのを覚えてる…」
そうだ…何代か前から魔王封印に魔術師だったり神官だったりと一緒に行っていたよなエドも
「…ユーリ、取り合えず聞きたいことたくさんあるんだ
お前の記憶にしても俺に対しての気持ちも…昼食いながら話そう。今生では俺たちはもうお役御免みたいだし」
「…は?」
「アレクとフィーがこれからを担うみたいだぜ?今度は魔族と争わない道を」
「…アレクが?フィーが?」
不思議だ今度は魔王が魔王でなくなって私は勇者廃業
「諸国漫遊するかな〜」
神殿にはアレクとフィーが行けば良い
取り合えずエドを追い出して服を着替える
すると、ふわりと光る人物が現れた
…神だ
『勇者、もう会うことはないだろう…時代は次へと受け継がれていく…お前たちには済まなかった…今生でこれまでの記憶を渡したのは償い
ユーリ、今まで魔王を封印し続けてくれたこと礼を言う…やっと、魔の神と関係を修復できた…魔王もようやく逝ける』
「魔王は…どうなるの」
『…そうさな、魔の神次第だが魔族と争わずにやっていけるのだからどこかで穏やかに生まれると願う…ああ、勇者にとっては恋人より密接だったかも知れないな…
何、魔の神と話し合ってどうするか決める。心配せずとも良い』
「…私たちは…?」
暗に私とエドのことだけど
強張っていた私の頭に触れ撫でていく
『好きにするが良い。
私は約束は二度と違えない。幸せになるがいい…私の勇者』
「…じゃあ、さよならなんだね、ありがとう神様
彼と巡り会わせてくれて最後はきちんと約束守ってくれて」
神に会ったら罵詈雑言吐き出して…なんて思っていたけど意外と最初の魔王の頃からの付き合いだからか会えなくなると思うと少し寂しい
スウッと消えた神に笑顔でさよなら出来たことは、よかった気がする
さあ、ご飯だ!
その後、涙のあとを見つけられエドに散々心配されて
アレクにフィーと神殿への報告を押し付け…いや、頼んで
私は青い空の下機嫌良く歩いていた
隣にはようやく捕まえた…捕まった?
愛しい人の笑顔があって
喜びはひとしおだ
「機嫌が良いな、ユーリ」
「エドもな」
「ようやく一緒になれるんだこんな嬉しいことはないさ」
「勇者廃業して諸国漫遊出来るなんて夢みたいだから。まあ、隣にはエドが居るから余計だけどさ」
「それは…どんな意味でだ?」
「宿屋で言ったとおりだけど?プロポーズまで女に言わせるのか?エドはヘタレだったのか」
「…本気で俺のものになってくれるのか?離せなくなるぞ」
「望むところ」
「嫉妬深いし」
「私も嫉妬深いみたいだけど」
フィーと談笑してるところを良く見てムカムカしてたし
「俺で良いのか…?」
いざとなったら不安になるところ…昔のままだと言ったら怒るだろうか…私だけのヒミツだけど
「エドが良いエドじゃないと嫌だ」
「諸国漫遊には俺も含まれてるよな?神殿には行かないんだろ」
「行かないよ。奉り上げられるのは嫌だし神殿の奴等の思い通りになんてなってやるものか」
それでなくとも勇者と英雄なんだ普通に歩いても目立つ
神よ何故エドを美形にした
女性の視線がいたい
「神は顔が良い方が好きなのか…」
「そりゃ、自分の加護をつけるのなら顔を良くした方が良いと思う」
「ユーリを見る男の視線がうるさい」
なるほど、私もそれなりに整ってはいると感じていたがエド程ではないと思っていたのが間違いだったか。
「この分じゃ町中で動けなくなるか…」
「いや、まさかフィーじゃあるまいし」
王都の神殿にはフィーとアレクが居るから私たちは自由に動ける
諸国漫遊なんて止めるのはきっとまだ先だろうな
一年は諸国巡って
それから考えれば良い
多分王都の外れにある屋敷に住み着くだろうが
あそこなら人は来ない
スローライフってのも実践したいし
いつか…エドの子供も欲しい
そんな私の理想はいつか現実になるだろう
私とエドはもう離れることはないのだから
さて、余談になるわけだが
私とエドの二人は只のレベルの高い冒険者として諸国漫遊な生活を続けていたわけだが
ギルドの魔物退治の仕事もなくなり便利屋になりつつある頃
貯めていたお金で王都郊外に小さな家を買い…夫婦として神殿で小さな式をあげのんびりと暮らしている
「…あれはいまだに恥ずかしい」
「…慣れたら困る」
「言えてるな」
だが、夫婦としての夜の営みが恥ずかしくてならない
エドは意地悪だし…
「じゃあ、畑行ってくる」
「…行ってら」
いつもなら一緒に行くのだが
今日は特別なのだ
ちょうど一週間前、夢に魔王が現れてお腹に吸い込まれていった
まさかと思い翌日エドに内緒で医者に見てもらったら間違いなく子供がいるって言われた
安定期に入ってないので無理は厳禁
エドには帰ってきたら話す
この魂は魔王で間違いない
魔の神と人の神は粋な計らいをする
まあ、魔国に生まれるとまた魔王に仕立てられそうだからってのもあるだろうが
そっとお腹を撫でる
「…因縁…だな。
でも…大切な命だ私とエドの子供になるんだぞ?悲しいときには泣いて嬉しいときには笑って…当たり前の事を当たり前に出来るそんな子に育ってくれたら嬉しいな」
のんびりとしてはいられない
エドを驚かせる準備をしなくては
私の幸せはきっとこれからも続くのだろう
死ぬまでエドと一緒に年を取り今度は間違えないエドと結ばれ幸せを噛み締めて大往生してやる
あの世でも、エドと一緒に居るのだ
神に呆れられるくらいべったりとしてやる