戦慄!爆炎の勇者との邂逅
「おい!町長!」
謎の声と共に何者かが部屋に入ってくる。町の人ならば3回3回のリズミカルなノックで入ってくるのだが、ノックすらない。
町長「お、おう!白煙の勇者殿!」
不審者の闖入に町長が答える。
爆炎の勇者「点々が足りない。点々が」
町長「剥ぐ縁の勇者殿!」
爆炎の勇者「ふざけてるけど町長、今夜中にはこの世と縁を剥がされるぞ。つまり死んでまうぞ」
町長「…知っとるよ」
爆炎の勇者「へ?知ってるの⁉情報早いな!」
ギド「町長…こちらは?」
町長「ああ、こちらは昨日召喚したばかりの爆炎の勇者だ」
爆炎の勇者「どうも、もしかして冒険者ですか?」
ギド「はい、中級冒険者クランのストレイドギー団長のギドと言います。よろしくお願いします」
アルス「同じく副団長のアルスだ。勇者様に会えて光栄です」
ミリアム「えっと…ヒラのミリアムって言います。魔法使いしてます」
ラミザリア「同じくヒラのラミザリアと申します。ネクロマンサーしておりましゅ」
爆炎の勇者「お前ネクロマンサーか!死告鳥買わないか?死にたてホヤホヤ!」
ミリアム「あー、死告鳥って…あの山にいたー?あれは違うんだっけラミザリアちゃん」
ラミザリア「現物を見てみたらわかるかもしれません…もしかして解体屋ですか?」
爆炎の勇者「ああ、もしよかったら見てくれ」
ラミザリア「じゃあ行ってきます!」
ラミザリアは小走りで部屋を出ていった。
爆炎の勇者「所で町長、告死鳥が漆黒の翼が何だとか今夜町長と一緒に町が滅びるって言ってたぞ。大丈夫かこの町?数年に1度しか魔物による死者が出ないくらい平和じゃなかったのか? 」
町長「ああ、そうか。まさかの今夜に迎えが来るのか…。知っていたよ。こうなる事は…。町の人にはすまん事をした」
爆炎の勇者「ん?何やら色々知ってるみたいだが、説明してくれるか町長?」
町長「それは…分かりました。話しますぞ…長くなるがのぅ…」
◇ ◇ ◇ ◇
爆炎の勇者「…成る程。長い話を要約すれば、町長は初めての召喚に失敗してルシフエルなる魔王を呼び出してしまつて、そこで町の西側にある魔王城の主をぶっ殺してくれたら魂をやるって約束したんだな?」
町長「まさに!身も蓋もないが…まぁ概ね当たっておる」
爆炎の勇者「それで、その魔王城の主を討伐&町長の死期の引き金がフォルネスの宝珠の使い手漆黒の勇者が現れる事だったんだな?」
町長「まぁ、そうだのぅ。まさか町まで無くなるとは…」
爆炎の勇者「じゃあ簡単だ。町長はここで死んで残りの住人は全員避難だ。それが最善なんだろ?」
ギド「実は爆炎の勇者様が来るまで…その話を町長としていたのですが、住人だけでなく町長も救えるのではないかな…と言う話まで進んでおりました」
爆炎の勇者「ん?町長死なずに済むの?」
ギド「はい、たまたまうちのパーティーメンバーが大天使の羽根の数段上の謎の羽根と言う超S級アイテムを持ってまして…。それで魂っぽい物を作りまして…町長の身体に入れておいて、敵さんにそれをもって行って貰えれば…と言う作戦です」
アルス「どうやら契約は町長の死と、町長の魂を貰う…だったらしいので、町長の(所有する偽の)魂を貰って貰ったならば、自尊心の高い魔王はまた奪いに来るなんて滑稽な事はしないんじゃないかなと思いまして…。あとは町長が余生を送る身体さえあればと言うところまで来てました」
爆炎の勇者「身体?身体。はぁ、身体…?」
ドォオオン!
町長家のドアが蹴破られた。そこには人よりも幾ばくか大きい鳥の魔物が何者かに背負われて立っていた。
……ラミザリアと死告鳥だった。
ギド「どうしたラミザリア?それは…」
ラミザリア「町長さんあったよ!今日からこの身体使いましょ!」
ミリアム「これ…これ!?」
ギド「は…?」
アルス「へ…?おっぱい!」
町長「ほう、お碗型ですか」
ラミザリア「どうかな!?」
爆炎の勇者「いやいやいや、ハゲの町長がGカップのハーピィだぞ!?」
町長「良いのぅ、新しくやり直してみるかのぅ」
ラミザリア「決まり!家に帰って色々やって来るね!」
ラミザリアは鬼気として死告鳥を担いで走り去っていった。
町長「♪」
爆炎の勇者「」
ギド「……」
アルス「♥」
ミリアム「」ボヘー
「…………」
ギド「あの……出来たらまた来ますので、私達はこれで……」
町長「ほっほっほ、いつでもおいで」
ミリアム「宜しく!爆炎の勇者様!私も勇……いやなんでもないです」
爆炎の勇者「また会おう冒険者達」
ギド達は町長の家を出て、行く人々にラミザリアの家を訪ねて向かう。
アルス「勇者とは名乗らないのか?ミリアム」
ミリアム「まぁ、髪がよく伸びるとか言えないかなって」
ギド「しかし、さすがに勇者様だな。物怖じしない不遜な態度の奥には相当な自信が眠ってるんだろう。死告鳥だったか、あんなに強そうな魔物を一撃で首をはねたっぽいからな……」
ミリアム「昨日見た薄ら笑いの漆黒の勇者も大概だったよね。やっぱり勇者って怖い……」
ギド「報告は「驚異有り然れど憂慮無し」程度のものでいいかな。しかし、魔王に爵位悪魔か、私達も対悪魔クランにでもなるか?」
ミリアム「まだ、分からないんじゃないかなー。多分今の私達なら下等悪魔でも歯が立たないと思うよ」
アルス「兎も角、コツコツと依頼をこなしていこう。明日の夕飯の事はその後でいい」
ミリアム「まず睡眠だね!そして朝ごはんはバターを塗ったパンがいい!」
ギド「話がずれたが、まずはマスターへの報告か。困ったな。報告の手紙を送ろうにも町の人は避難やら引っ越しやらで忙しいだろうに、郵便送れるほど余裕はないだろうな」
ギド達は回らない頭で考える振りをしつつ、フラフラと町をさ迷う。
アルス「あれ、ラミザリアの家っぽくないか?」
ギド「いや、流石にあれはないだろう。……ないよな?」
ミリアム「あ、勇者博物館だって。よかったね、違ってた」
勇者博物館と呼ばれる施設は両手剣を持った学生服の男のモチーフが前面に展開される赤地に金の装飾が施された大変悪趣味な建物であったが、町の一大産業として勇者の歴史を紹介する立派なハコモノだった。従業員は28名。入場料400Gで、日平均200人の入場がある。主な収入は『勇者の伝説』と言う勇者の国の物語集の販売と、勇者の国の食べ物を扱った勇者食堂の売り上げとなる。勇者食堂は月に1度の精霊祭で屋台を出しており、その収入は100,000Gにものぼる。年間にすると20,000,000Gもの金額を稼ぎ出しており、その豊潤な資金は町長の勇者召喚資金に当てられている。
余談だが、勇者の召喚は相当なMPを保有する魔術師と500,000G~1,000,000G相当の大量の精霊石を使用して行われるため、ハジメの町は異世界での実に8割の召喚を担っていたのだ。
ギド「こんな状況でなければゆっくり観ていきたいが……」
ミリアム「入場料400Gかー、1日100人来たら40,000Gになるね!」
アルス「あれ、ラミザリアの家っぽくないか?」
ギド「あれは……有りうるかな?確かグリントさんとスカーレットさんは上級冒険者だから多少デカい建物でも……」
ミリアム「あ、快楽図書館だって、違ったね」
アルス「快楽図書館……?」
ギド「アルス君、有事でなければ寄ったんだがねぇ……」
アルス「そうだな」
ミリアム「小説多目の図書館って書いてあるね。入場料半日200Gだって」
快楽図書館とは、町で2番目に大きな建物で、古今東西の小説と詩を集めた娯楽中心の図書館であった。32人の司書・書生により小説のガリ板印刷も行われており、1,000G~販売している。また、小説家になろうコンテストと言う大会も毎年開催しており、第1回小説家になろうコンテスト金賞作品は町長の「もしもこの世界に勇者を召喚して世界を救ったら」はベストセラーとなった。この時の収入が町長初めての召喚に結び付いたのは有名な話である。
しかし、話の裏としては町長と付き人しか知らない0番目魔王ルシフエルの召喚があった。
ミリアム「あ!あれじゃない?ラミザリアちゃんの家」
アルス「普通だな」
ギド「普通じゃ不味いのか?アルス」
アルス「いや、あの、そうじゃないんだが……」
ミリアム「ラミザリアちゃーん!」
ミリアムが昭和後期の小学生の様に家の前で声をあげると、中からラミザリアの声が「入ってきてー!」と返ってきた。ギド達はノックをしつつ中に入っていく。
ミリアム「お邪魔します!」
ラミザリア「どうぞどうぞ!」
アルス「お邪魔しまーす」
ギド「邪魔します」
ラミザリア「どうぞー、お茶淹れるね!」
アルス「普通の家だね」
ラミザリア「今日壊れちゃうかもしれないですけどね」
アルス「あっ」
ラミザリア「いや、別に気にはしてないよ!確かに愛着はあるけど……お婆ちゃんが無事なら何でもないよ。お父さんとお母さんも何とかなるだろうし……」
「…………」
ギド「取り敢えず、作戦会議といこう。これからについてだ」
アルス「そうだな、本当なら一刻も早く眠りたいが、眠ってる場合じゃなさそうだ」
ラミザリア「お茶をどうぞ」
ギド「ありがとう」
アルス「ありがとう」
ミリアム「ありがとう」
ラミザリア「私は、町長さんの身体と偽の魂を夜までに作りたいと思います。みんなはどうしますか?」
ギド「取り敢えずはそれが優先かな」
アルス「手伝える事があったら手伝うかな」
ミリアム「あるかなぁ、荷物運びとか?」
コンコンコン!コンコンコン!
ラミザリア「開いてまーす」
ミリアム「誰かな?」
林檎の精霊よりも不審な女性がそこに立っていた。
爆炎の勇者編の会話と同じ文ですので、多少爆炎の勇者寄りの会話になっています。
あと、四千ちょい文字と普段より少し短めです。




