ストレイドギー工務店の日常
出来が悪く、書き直そうか迷っていますが、投稿しておきます。もしご意見あれば修正します。
ミリアムは普通の羽根ペンをインクに浸けながら長文の手紙に筆を走らせる。
「お父さんお母さん、お元気していますか?私は元気です。魔法使いとしてミナトの町に出てきた私ですが、訳あって今は土木工事の現場監督と葡萄畑の指導員をしております。でも心配しないで下さい。
勿論魔法使いとしての修行も毎日欠かせてはいません。毎日8時間働いた後は、4時間かけてその日の夕飯、明日の朝御飯を獲るべく狩りに勤しんでいます。その際に魔法の触媒を集める事によって、魔法使いとしての職業感を得ています。
そして、寝る前は筋肉トレーニングをさせら…しています。くどいようですが私は魔法使いとして、成長していけたらと考えています。また手紙書きます」
ラミザリアも羽根ペンを取る。
「おばあちゃん、お元気ですか?急に家を出てしまってごめんなさい。お父さんとお母さん、生きていると言う証拠を見つけました。そしてその手がかりを追うために半年以内には首都へ向かう予定です。今は訳あって工事現場の作業員として補修工事をしております。毎日太陽の下で働いているので、林檎を素手で潰せるようになりました。あと、沢山の友達が出来ました。恋も…したかもしれません。近く戻るかもしれません。会えるのを楽しみにしています」
あの戦いから2週間。ストレイドギー工務店は順調に工事を進めていた。初めの1週間はラミアエキドナとテイムテイムとゴロツキ・ゴロツキパーティーの頑張りもあって、大八車5台で、ミナトの町とテーブルマウンテンを30往復する事が出来た。運んだ資材はコンクリート5トン、葡萄の木20本、葡萄の苗木40本、その他の植物類(裏山より)、コンクリートを流し込む木の型一式、竹の足場、休憩所兼倉庫の竹の掘っ立て小屋。竹製の工事道具。等々…。
その際に、フラックレイディに吹き飛ばされたテーブルマウンテンに住んでいたハーピィやら何やらの素材の残骸や、バッカスの洞窟にストックされている酒なんかを運び出した。
酒の精霊は奥の隠し部屋に数十トンと言うかなりの酒と古酒を隠し持っていたが、今回の件で「俺が死んだらこの酒もお蔵入りになる」と言って、酒を放出した。暫くはテーブルマウンテンの山を利用した酒作りは難しいが、時間を掛ければ何とか直るそうだ。来年の9月には直すらしい。山の内部の構造は工務店では弄れないので、精霊さんにお願いした。
この時点でヴァーテブラルから受けた2,000,000Gは500,000G程になっていた。しかし、買い物と設計、資材の運搬、人件費の支払いは無事に済んでいた。これ以降の支出はほぼ無い。
それどころか資材の運搬の帰りに持って帰る酒で雑収入が増えるため、ぶっちゃけ、ヴァーテブラルから貰った現金は減っていない。むしろ増えた。しかし、このお金はヴァーテブラル発注の公共工事とは別会計の収入となるので、ストレイドギー工務店で着服した。ヴァーテブラル発注金の残り500,000Gは別に特別会計を作って塩漬けとした。
ゴロツキパーティーは土木工事に詳しい者が居り、コンクリートの使用法や工事現場の知識をこれでもかと教えてくれた。足場や工具は裏山の竹林でラミアエキドナが作った竹製の物を使った。
そして2週間目はテーブルマウンテンの崩れた箇所と、特に危険な場所にコンクリートを流し込み、綺麗なちゃぶ台型を再構成するように努めた。コンクリート5トンはあっという間に無くなった。結局はこれ以上崩れないように補強した程度となったが、土台としては上々なものとなった。
テーブルマウンテン上部の森に関しては、中心に葡萄の木、苗木、種と円周状に植えて行き、その周囲には50m程の間隔を開けてその他の植物、特に林檎と花を植えた。ワインだけでなく林檎からシードル、蜂蜜からミードと言う酒を作るんじゃないかとの期待を込めての事だった。
精霊石を使った豊穣の魔法を受けた葡萄の種や苗木は毎日筍の如く成長し続けて、1週間で何とか見られる林のようになった。豊穣の魔法はミリアム監督直々に行った。精霊石とは精霊の力が結晶化したものであり、自然系の魔法と相性の良い万能触媒のようなものだ。
トレーニングに関しては、ラミザリアのイマジネーショントレーニングを採用し、怪我人でも無理なく怪我の無い箇所を重点的に鍛える事が出来た。
ミリアムとラミザリアは怪我が治れば、それに加えて裏山での狩りと収穫に追われた。山で生活すると言う事はそれだけで鍛えられるのだが、ラミアエキドナとテイムテイム指導の元、とある技を修得し、ある程度の獲物を自分で獲れるようになった。とある技とはラミザリアの喉笛の杖とミリアムのマナグル投石器のコンボである。
ミリアムがマナグルにて衝撃力を強化した石を布(毒腐竜に破られたローブ)で包んで、振り回し射出する。その際にラミザリアの喉笛の杖にて命中率を補い、また自身らを風上を維持して狩りの成功率を高めるのだ。それでも命中率は50%いかない程度だが、当たれば鹿を行動不能にするだけの威力はあった。コボルトなら一撃で仕留められるだろう。ミリアムはMPの関係でマナグルは日に5~6発は使えるようになった。
ラミザリアは喉笛の杖を使っての独自の技を開発していた。そもそも喉笛の杖とは北部地域に住むモンスター風狼の喉仏に風の魔術回路を埋め込み、風の力を宿したオパールを併せて、術者のMPを省エネで風に変換するための魔導具であり、本来の使い方としては風狼の遠吠えに似た音波を出して混乱させる事を目的として作られていた。
しかし、魔導具店店員の話を聞かないラミアエキドナと、MPオバケのテイムテイムの曲解により、つむじ風や風圧制御等の風を操る杖と言う誤解が生まれてラミザリアへと渡ったのだ。
話はそれた。ラミザリアの独自の技…それは死霊の呼び声。さ迷う霊の中でも悪質な連中をチョイスして、喉笛の杖を使って怨み言を音波として具現化する。共鳴効果を使い、複数の死霊の呼び声を敵にだけ聞こえるように調整して放つという…本来の効果に近いものとなった。
重ねて死霊の耳福マッサージなる技も開発されたが、テストに協力してもらったミリアムに気持ち悪いと却下され、時々ポチが被害を被る程度のお蔵入りとなった。ミリアム曰く、とあるパーティーメンバーに愛を囁かれ、耳を舐められている感覚らしい。
死霊の耳福マッサージは最終的にラミザリアスペシャルと統合して死霊の盆踊りになるとかならないとか。
単体でも十分に攻撃魔法になりうるものなのだが、残念ながらテストメンバー1人目の反応にてボツと判断され、陽の目を見ることはなかった。ラミザリアは耳福マッサージを回復魔法とミリアムに伝えていたのだ。
男性陣のトレーニングは1週間目まではイマジネーショントレーニングのみで、1週間目から2週間目まではイマジネーショントレーニングに加えて特別トレーニングを行った。ギドはゆっくりと逆Z斬りの型の反復練習を行い、アルスは利き手の反対側の手を上手く使う訓練を行った。地味に体力低下を防ぎ、以前と同じ筋力と感覚を維持したまま退院する事が出来た。
ああ、大きく変わった所としては、ラミザリアの発明により夜間のトイレ事情が劇的に改善された。その名もエチケット君。狩りで捕った白ウサギの皮に、山狩りの際にたまたま見付けて狩ったコボルトの胃腸を内蔵し、アクセントとして人間の唇に近い肉塊をつけて、バッカスの洞窟右ルートを通って得た大量のスライムの核を中心として作られた。
見た目はほぼウサギである。
仕組みと使い方としては、性器を唇に挿入し、用を足すだけ。女性用は性器に押し付ける事によって漏れを防ぐ事ができる。大の方は別途の口があり、使用後は舌で洗浄までしてくれる。舌は別途水を飲ませると綺麗になる仕組みだ。
個人個人専用のエチケット君が居り、主が拠点内に居る時はひたすら赤い目にて監視している。
貯まった糞尿を動力として生きては居るが、残りカスは肥料として排出するので、いつかは家庭菜園なんかも作られそうだ。肥料の保存場所は竹林の中に作られた。エチケット君が肥料を排出する際にはポチが護衛につく。
エチケット君の欠点としては、使用している状況が見た目として非常に扇情的な所であろうか。夜中、アルスがエチケット君を使用中にラミザリアが起き始めて、隣でエチケット君を使用された際には、アルスのエチケット君が地面を離れ、唇を損傷するハプニングもあった。翌日から男女を分けるべく、洞窟外の小屋の建築が急がれた。
結局、地下のラミアエキドナ側の拠点が女子部屋、ギド側の拠点が男子部屋となった。
ABCDEFGHI…と兄弟姉妹が沢山出来たシリーズとなる。何故か共同生活を始めたゴロツキパーティーにも配られた。ただの洞窟ではあるが、大分賑やかとなった。
余談ではあるが、何故かテイムテイムのエチケット君がしばしば行方不明となった。その後は必ずゴロツキのエチケット君が壊れるので、その修理をラミザリアが頼まれる事となった。損傷回数があまりに多いため、目的外使用を疑われたゴロツキは、多少の拷問の後に全てを白状した。
結果として加害者は居るが、被害者は損傷したエチケット君以外居らず、特に断罪される事なく案件は収束し、ゴロツキのエチケット君が強化されるのみの結末となった。
強化内容は退院したギド考案で行われた。弾力のあるスライムの内蔵をウサギの外皮の下に内蔵し、強度を上げた後に唇の固さを強化した。その際にスライムの粘液分泌器官は多少稼働させるようにしておいた。
ギドとアルスも特別版への変更を申し出たが、ラミアエキドナの狂乱により断念せざるを得なかった。ギドは私だけでもと食い下がったが、アルスの道連れとして使用を許可されなかった。それどころかラミザリアの記憶操作に関する魔法技術を使ってギドの記憶を消そうとさえした。結果として偶然にもピンポイントな記憶操作に成功したのだが、その影にはヴァーテブラルが居た事を誰も知らない。
ヴァーテブラル「こんな技術がこんな時代に広がってしまったら人口減少で[試練]に支障が出てしまいますからね…。それにギド君の脳味噌が壊れてしまっても大変なので…。グブブブブブブ…面白い…!」
◇ ◇ ◇ ◇
さて、この2週間のギドはと言うと…、決裁と指示の仕事に追われて療養所のベッドの上にて奔走していた。その甲斐あって、結果だけ言えば荒稼ぎしていた。
荒稼ぎ…その仕組みについて簡単に言えば、ヴァーテブラルの依頼はテーブルマウンテンのある程度の修復であり、施工期間は2週間程。そして求められているのは完全修復ではない。よってその2週間に雇った第3パーティーゴロツキ達と第2パーティーラミアエキドナ達の目的外労働、つまり、荷物搬入の帰りに町へ持って帰る酒の精霊の酒樽を売り捌きまくったのだ。金額にして3,000,000G。そして支払う給料はヴァーテブラル持ち。儲からない訳がないのだ。更にどさくさに紛れて大八車5台をストレイドギー工務店の備品として横領していた。
そして、ギドのクランより半ば独立部門として立っているストレイドギー工務店は今後もラミアエキドナとテイムテイムの第2パーティー管理の下でゴロツキ達第3パーティーを使って仕事をするらしい。主な仕事は酒の精霊の隠していた酒の運搬と販売。貯まったお金でテーブルマウンテンの修復を行う予定も有るようだ。また、依頼があれば町の方で仕事をする事もあるかもしれない。
葡萄の苗木を扱うために港駐留の貿易商人達と交流し、植木屋と交流し、ゴロツキ経由で大工とも交流し、コンクリートを扱うので建材屋とも交流し、色々と町の人達からも信頼を得られたようで暫くはこの仕事を続けたいとラミアエキドナからあった。テイムテイムもまんざらではないらしい。
そんな中、第1パーティーは当初の目標を達成すべく工事終了後の翌日、9月末日の昼に方針会議をする事を決めた。




