激戦!ストレイドギー工務店その1
ヴァーテブラル「グブブブブブブ…。私の用は済みましたが…。この山の主には悪い事をしてしまいましたね。これでは酒どころか…と言う状態ですな。酒の精霊さんには修復の手伝いを回すようにしましょう…。いや、折角なのであなた方頼まれてくれますか?」
ミリアム「やります!と言いたいけど…ギドはどうかな?」
ギド「私達に出来る事なら…」
ヴァーテブラル「では、人足夫として雇います。全員で2週間程度…と葡萄の苗代として2,000,000G出しましょう。精霊石も100個程つけますので…それで酒の精霊さんと相談して復興してください。おっとその前にお客様ですよ…もし生き残れましたら、と言う前提でお仕事をお引き受けください」
テイムテイム「あれね…」
ミリアム「毒腐竜とマイルジョッカー!」
全長7メートルの巨大な成竜の形に成型された怪物、毒腐竜とその背中に乗ったマイルジョッカーがこちらへ向かってくる。
アルス「毒腐竜…あの巨体であの速度…!」
毒腐竜はフラックレイディの居た辺りに止まり、マイルジョッカーがその傍らに降りる。
ヴァーテブラル「グブブブブブブ…。すいません。貴女の主は私が殺しました。貴女は自由ですが…それでも彼女の意思を継いで生きて行きますか?」
マイルジョッカー「無論だ。お前が手を出さないなら…それなりに私もこの世界ではやれるみたいだからな」
ヴァーテブラル「グブブブブブブ!そうですとも!見たところ人間としてはこのアメリアで10本の指に入る力があると見ました!貴女の若さなら立派に世界を崩壊させる事が出来るでしょう!」
ミリアム「マイルジョッカーさんは止めないんだ」
ヴァーテブラル「私がするのはフラックレイディの殺害および情報収集のみです。任務における被害者には多少の弁済はしますので、むしろマイルジョッカーさんには弁済をする位ですよ」
ミリアム「もー訳わかんない!文明を破壊するフラックレイディは退治してそのお供で同じ目的のマイルジョッカー…さんには何かあげるの!?」
ヴァーテブラル「フラックレイディ…は特別なのです。それ以外はバランスの範囲内です。マイルジョッカーさんであれば世界の良い危機となって、その危機を打破するためにより人々は進化していくのです。まぁ、マイルジョッカーさんだったら滅亡しかねないですけど…。グブブブブブブ!」
マイルジョッカー「と言う訳だ、手始めにお前達を血祭りに上げる。お前達の断末魔は俺からフラックレイディへの鎮魂歌だ」
ヴァーテブラル「まぁ、昨日切り札を使ってしまいましたからね…。もしかしたら戦えるかもしれません」
マイルジョッカー「行け、毒腐竜」
ラミアエキドナ「毒腐竜は任せます!私達2人はマイルジョッカーを抑えます!」
ギド「了解!散!」
ミリアム「爆裂!」
ミリアムが出発前に選択した呪文は爆裂2つ。いざとなればフラックレイディとマイルジョッカーを爆殺しようとの判断だったのだが、ベノムが使われている事に違和感を持っての炎属性魔法2つの選択肢だった。
ミリアムの放った爆裂は毒腐竜の足元で炸裂し、毒腐竜の右足に裂傷を与える。
ォオオオオオオ!!!!!!
ミリアム「うそー!アンデッドには弱点なはずだけど被害これだけー?」
ギド「集中打撃だ!機動力を削ぐぞ!」
アルス「放つ!」
ミリアムの爆裂により右足に裂傷を負った毒腐竜はその衝撃により前足を上げてプラプラと揺らし、痛がるような仕種を見せる。
そこにアルスの強化された鉛の矢が突き刺さる。元々は魔法使い対策としての鉛の矢ではあるが、そのシャフトが鉄で出来ている所もあり重量的に相当な威力増となった。更に、裂傷の中に命中したため、鉛が変形し抜けなくなると言う追加効果も発生していた。
ラミザリア「向風の巻物!&喉笛の杖の風圧強化!」
毒腐竜の前足が上に上がっているタイミングでの向風の巻物を受けて毒腐竜はバランスを崩す。巻物の効果としては風速30mの弱い台風時の風程度だが、喉笛の杖を上手く使いこなしているラミザリアによる風圧の集中と加圧により、浮いた巨体に対してバランスを崩すに値する風速50mの風を引き起こした。
ギド「でかしたラミザリア!」
瞬間的にギドが飛び出して低い姿勢から毒腐竜の右後ろ足の足首に斬りかかる。足首を骨まで斬り付け、そのまま斜め上まで斬り上げる。太腿の辺りで切り返して横に薙ぐ。戦闘においてギドの逆Z斬りが始めて成功した瞬間であった。
追風を腹に受けて後ろ足の二足立ち状態になっている毒腐竜は大地に体重を預ける両足のうち片足を斬り刻まれて、そのまま背後に倒れ込む。
ドォオオオン!!!!!!
ちょっとした段差で死ぬ事で有名なあのゲームの死亡時のエフェクトのように両足を宙に投げ出して倒れる。
ミリアム「爆裂!」
再び地面から立ち上る爆発に毒腐竜は背骨を捩らせて痛がる。全体的に硬い毒腐竜の背中には多少の裂傷は見られるが、被害はある程度と言った状態となっていた。
毒腐竜が暴れてバランスを取り戻し、立ち上がるまでにギドはもう一太刀臀部に切れ込みを入れ、アルスも後ろ足の傷口に矢を射る事に成功した。
右足と右後ろ足に怪我があるとはいえ、7mの巨体は一度構えると相当な威圧感となる。
毒腐竜は瞬時にパーティーの右側に回り込み、ミリアムとラミザリアを巻き込むように左足を使って薙いでくる。
ラミザリアは風圧にて防御を試みるも、風圧程度で減速するほど竜は弱くはない。更にミリアムも咄嗟に竹の杖を地面に向かって鋭角に伏せてつっかえ棒のように爪撃に対抗したが、竹の杖は瞬時に折れ飛んでミリアムとラミザリアは3m程弾き飛ばされた。爪による被害はハイドレザーコートが代わりに犠牲となり、手脚の切断や内臓がはみ出すと言った怪我はなかった。軽微とは言え防御行動の効果もあったかもしれない。
ギド「この…!」
ギドから見て毒腐竜は脇腹を見せている格好となり、ギドは怒りに任せて毒腐竜の右脇腹に逆Z斬りを発動する。
ゴァアアア!!!!!!
身体を斬り刻まれてそれなりに効果はあるのだろう。毒腐竜は身体を向き直しギドに正面を向けて低く構える。獣が飛びかかってくるあのポーズだ。
誰もが「この攻撃を受けたらマズイ」と思った。
背後から毒腐竜の正面に向けて竹の矢が放たれる。毒腐竜は飛び掛かりをキャンセルして低い姿勢のまま、左足のジャブで矢を払う。実際に竹の矢は竹のシャフトに石の鏃なので毒腐竜は顔面に受けたとしても表面が少し傷付く程度なのだが、先程までの鉛の矢の威力に反応して弾く行動を取ってしまった。そこが勝敗の分かれ目になったようだ。
ミリアム「ビーストバイト!」
ラミザリア「つむじ風!」
ギドの背後から牽制の魔法攻撃が放たれる。
ビーストバイトは威力こそコボルトの噛みつき程度の威力だが、ラミザリアのつむじ風と相まって普通の攻撃魔法程の威力となっていた。
毒腐竜は顔への攻撃を嫌がり、裂傷の残る右足での防御を選択した。結果として右足には多少のダメージを残し風は消えた。
そこにギドが突っ込み、低い姿勢の毒腐竜の顔目掛けて斬りかかる。
一閃。毒腐竜の頭と背骨の間、首の部分を上から切り裂く。瞬時に毒腐竜は飛び退き、ギドに向かって猫パンチを繰り出す。腰の入っていない腕だけの力ではあるが、成人男性30人分の体積をもつ毒腐竜の攻撃はオークのミドルメイス攻撃に匹敵する。
しかし、ギドは魔法防御効果のあるハードレザーアーマーと防御の指輪の効果によって僅かながらではあるが防御力が増している状態であり、ダメージはあるが倒される程ではなかった。ハイドレザーコートの内側に仕舞ってある右肘でこれをガード。多少の裂傷はあるものの耐えられない程の傷ではなかった。
次の攻撃はアルスの鉛の矢であった。鉛の矢は再び毒腐竜の右足にガードされる事となったが、再び裂傷の傷に刺さった。攻撃手段をほぼ失ったアルスはせめてギドの盾となるべく、鉄の短剣を抜いて駆け寄ってきた。
そこに再びの毒腐竜の猫パンチ、今回は毒腐竜も体勢に余裕があり、尚且つ無傷の左足から繰り出される攻撃にギドは堪えきれずに1m程後ろに弾き飛ばされる。爪によるダメージは盗賊の短剣で受けたため少なかったが、衝撃と、受け流し損ねた爪撃による三条の爪痕がハードレザーアーマーにくっきりと残っていた。膠で固めて補修した部分を綺麗に踏襲して刻まれた傷に若干の運命を感じつつ再び前へと駆け出す。背後からは再び魔法の気配がある。
ミリアム「ファングボルト×全部ー!」
ラミザリア「つむじ風!」
ファングボルトは獣の牙のように湾曲して的に向かっていくタイプの衝撃波であり、味方の援護と言う点では優秀な軌道であった。と言っても1つ1つはコボルトの牙程度のダメージではあるが、ラミザリアの援護つむじ風と合わせて束ねる事によって、牽制程度の威力を出す事が出来ている。
ギドとアルスの特効の前にファングボルト=つむじ風が毒腐竜にヒットする。こちらは細かい傷が沢山付いている右足で受ける。
アルスは毒腐竜の寸前で飛び上がり、指輪の効果によって強化された弩の手甲から目を狙った矢を放つ。矢はその厚い瞼に阻まれたが、一瞬の視界を奪う事には成功した。アルスはそのまま上から強襲し、ギドの付けた背骨と首の付け根の傷に鉄の短剣を抉り込む。毒腐竜は思わず肩を跳ね上げてアルスを宙に吹き飛ばす。空中に投げ出されたアルスに向かって無傷の左足による爪撃がヒットする。バレーボールのサーブのような格好でアルスはミリアムとラミザリアの居る所まで弾き飛ばされていった。偶然にも急所を外れては居るが肩口から脇腹まで、二の腕・肘から腕にかけてを切り裂かれており、恐らくハイドレザーコートとソフトレザーアーマーの斬属性に対する多少の耐性、それからたまたまかち合った鉄の手甲がなければ、死んでいた事だろう。そのまま受け身を取る事なく地面に激突し、身体中の空気を吐き出して倒れる。
ラミザリア「ァルス!」
悲鳴ともつかない叫び声を上げてラミザリアがアルスに近付く。ラミザリアも傷口より血をボタボタと垂らしており、誰の目にも重傷と判る状態であった。ミリアムもアルスに駆け寄って自動回復+4をかける。ラミザリアは支給されている傷薬と軟膏でアルスの胴体の怪我を塞いでいる。ミリアムは少し遅れてアルスの利き腕の怪我を同じく傷薬と軟膏を使って塞いで行く。ラミザリアはアルスの分の傷薬と軟膏も使ってアルスの脇腹の傷を塞いで行く…何とか出血は収まっては居るが、止まってはいない。
ギドはそのアルスが撃ち飛ばされる瞬間の毒腐竜の隙を見逃さなかった。毒腐竜が肩を跳ねあげた瞬間、がら空きになった首の下目掛けて横薙ぎの斬撃―クリティカル狙いでのその一撃は毒腐竜の首奥深くまで入った。決まった!!―――――筈だった。
しかし、そもそも毒腐竜はマイルジョッカーの作成したアンデッドモンスターであり、首を斬っても頸動脈が有るわけでもなく、ダメージこそあれ、直死に至る傷ではなかった。
ギドは振り上げた毒腐竜の顎に弾かれて右に半歩ほどよろめく、その隙をついての毒腐竜の噛み付き!ギドの胴体のハードレザーアーマーに牙が食い込み、抵抗するギドの胴体は貫かれた牙によって大出血していた。
ギド「くそぉおおお!」
ギドは最後の力を振り絞り閃光玉を毒腐竜の目の前で炸裂させた。
その瞬間毒腐竜はギドから牙を抜いて背後に飛び退いた。ギド達は魔法も、道具も使い果たした。そして、残されたダメージソースであるギドの継戦能力を失った。
ギドはその場で立ち上がって盗賊の短剣を構えるも、振り抜く力は残されていなかった。
万事休す。パーティーは全滅を覚悟してもう一方のパーティーの方を見るが…あちらも同様に満身創痍と言った状態となっていた。
マイルジョッカー「よく頑張ったな。お前達。毒腐竜、行くぞ。時間だ」
ギド「時間…?」
ギドが周囲を見渡すと馬に乗った集団がこちらに向かって駆けてくる。あれは…
ミリアム「マスター!」
テイムテイム「ゴロツキさぁん!」
テーブルマウンテンの崩壊とその轟音に気付いた町の人が冒険者の酒場のマスターに斥候を頼んだのだ。斥候のメンバーはマスターとゴロツキとゴロツキのパーティー4人。
恐らく背後に控えている町の衛兵による本隊の到着を嫌って、マイルジョッカーは撤退したのだろう。
マイルジョッカー「また会うかもしれんな。次はフラックレイディ並の力を付けてから動く事にする。楽しみに待っていろ」
マイルジョッカーはそう告げて町の反対方向に走り去っていった…。毒腐竜は怪我の影響がないのかと言ったスピードを出して彼方に消えていった。
ギド「助かった…か?」
馬から降りたマスターが駆け寄るとギドはそのまま意識を手放した。
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