大戦果
「中が見えねぇ……これなんとかなるか? ミリアム」
「まっかせなさい! さっき拾った発光キノコが5つもあれば……」
ミリアムは取り出した擂り鉢で発光キノコを次々と擂り潰していく。そして、それを使って地面に魔方陣を描く。時間にして5分が経過した。
「隣光!」
隣光とは、術者が光ったり光る球体を呼び出す魔法とは違い、術者の近くの壁がうっすらと発光する魔法である。
隣光の掛け声と共に、目の前の洞窟に青い輪郭が現れた。洞窟内の壁がうっすらと発光している様子で、竹林と同じくらいの薄暗さで中に入る事が出来そうだった。
「すごいな。魔法……!」
「しかし、これでミリアムのキノコ採りの成果の半分くらいはパァだな。俺もミリアムも消費があるからな……」
「あー! そうだー! でもいいよー。アタシ今日役に立ってないしー! 魔法は使うためにあるんだしね!」
「そうか、じぁあ急ごうか。日が暮れる」
ギド達はギドを先頭とした三角形の陣形で洞窟の中を進んでいく。40m程歩いたら左右の分かれ道があったので、左へと進んだ。
(これは…行き止まりか)
ギドは風の断絶を感じた。
「ねぇ、見えるー?」
行き止まりの手前に来てミリアムがギドの肩をつかむ。
「ん?」
前を見ると行き止まりの壁面には水面のような光が漂っている。
(もしかしてこれは……!)
「水包だな。これくらいならギド、やれるか?」
「ああ、やってみる」
水包の核は使い道が多く、年中いつでも売れるので、傷付けないように核の周りのかたい部分を狙う。
ギドは狙いを付けつつショートソードを一気に突き刺す。水包を壁に縫い付けながら、止めの一撃として右手で腰にある短剣を抜きスライムに突き刺す。2ヶ所に穴を開けられたスライムはその場でドロリと溶け落ちた。
そして、急いで水包を持ち上げ傷口から流れる粘液をさっきアルスから貰った竹筒で受ける。思わぬところで竹筒2つ満タンになるくらいのスライムゼリーを得た。スライムゼリーを受けきった後、短剣で核を取り出して布で包む。ギド達はここに来て多少の臨時収入を得た形となった。
「ショートソードで壁に縫い付けたのは飛び掛かりを防いで、酸の吹き出しの範囲外から攻撃するためだったんだねー! 凄い! 知的!」
「手際は見事だが、まだ青苔は見付かってない。分かれ道の反対側に行くぞ」
隊形を反転して、来た道を戻る。先程の分かれ道の先へと向かった。
「ここはあたりねー!」
洞窟はY字路になっており、右側の道は青苔の群生地になっていた。ミリアムに水包を警戒してもらいつつ、3人で青苔を採取した。次の採取の事も考えて8割程剥ぎ取った時点で帰ろうと言う話になった。
再び隊形を反転させて来た道を戻る。Y字路の中心点に来た時、今度はギドが異変に気付いた。
「何かおかしい……」
「臭うな」
「血と豚の臭い……まさか!」
ギド達は洞窟の入り口に大きな輪郭のある影を確認した。まさか……と息を飲む。ゆっくりと近づいてくるその影は1m80cm程の身長で、横幅も1mはある。
まさしく豚鬼だった。何か武器も持っているようだ。
恐怖と混乱にまみれながらもギド達は戦闘準備に入る。
(まずい、何も用意していない……)
ギドは混乱しつつも出来る事をしようと指示を出す。
「近くに来たらショートソードで少しだけ食い止める! 後退しながら遠距離攻撃で弱らせるぞ!」
その言葉に反応したのか、豚鬼は残り15mそこそこの所からこちらを目指して走り出した。
豚鬼に襲われると言う事は、人間で例えると硬い肉壁に覆われた横綱力士が武装して襲ってくる様なものであり、勝ち目は魔法の力を用いてもかなり薄いものだった。少なくとも駆け出しの冒険者3人に倒せるようなものではなかった。
「遠距離攻撃任せて! 火矢!」
「まずは足を狙う!」
前衛に立つギドの背後から豚鬼に向けて矢と炎の矢が飛んで行く!
火矢は豚鬼の右手に持っている武器で掻き消されたが、暗闇で見えにくい矢は豚鬼の太股に刺さった。しかし、出血している様子はない。恐らく、分厚い脂肪で止まってダメージを受けてないのだろう。
アルスは後退しつつ第2の矢を放つ!
「ここまで近付けば……ッ!」
アルスの第2の矢は再び豚鬼の太股に刺さった。しかし、まだ流血する事はなかった。
「次はもっと引き付けてから撃つよ!」
アルスは弓を引き絞って再びオークの太股を狙う。
「くぉおお! 来る!!」
ギドは前衛に立っているので豚鬼に追い付かれたら真っ先に攻撃を受ける。ギドは豚鬼の振りかぶった武器の攻撃をショートソードで受けようとしたが、寸前のところで避ける判断をした。避けると、ギドが居た所が轟音と共に陥没する。
「あっぶねぇ……!」
豚鬼の手にしていた武器は鋼鉄のミドルメイスだった。これを受けたらショートソードごと挽き肉にされてしまう所であった。
(しかし、好機!)
攻撃後の硬直で体勢を回復させている豚鬼に向かって、ギドがショートソードを薙ぎ払う。剣先は矢が2本垂れ下がっているオークの右足にめり込んだが、技術的な問題で肉を斬る迄はいかず、打撃程度の効果しか得られなかった。剣の達人ならば、ここで剣を引く事によって膝から下を切り落とす事が出来た筈だが、ここはギドの習熟度不足であった。
そして、予想外の事が起きる。攻撃を受けた訳ではないが、武器を全力で振ったギドの脇腹に激痛が走る。
「この鎧……! 硬いッ!」
本来、硬革鎧は身体に慣れるまで1日から1週間ほどかかる。新しい鎧を買ったならば、暫くは着たままで過ごし、柔らかくなるまで馴染ませる事もある。
父の着古しでも、革が硬い部分があったんだろう。そこに全力でショートソードを敵に叩き付けたものだから肋骨の辺りを痛めてしまったようだ。
「クソッ!」
「諦めるな! 次が来るぞッ!」
ギドを鼓舞するように背後から鋭い矢が飛び、豚鬼の膝に刺さる。
「グォアアア!」
豚鬼の2撃目は、膝への攻撃が効いているのか片膝をついてからの横薙ぎの攻撃だった。
(これなら受けられるかもしれない……!)
ガキィン!
「しまった……!」
豚鬼の横薙ぎの攻撃を受けたショートソードは根元から「へ」の字の様に折れ曲がり、ギドを壁に叩き付けた。
甘かったのだ。ギドでは、片膝突いてからのテレフォンジャブですら受けきる事が出来なかったのだ。
「うわぁあああっ!」
殺される。目の前の豚鬼は片膝をついているとはいえ、自分の身長より高い。その頭の高さまでミドルメイスが振り上げられていた。
「諦めないで! 火矢!」
「諦めるな! 援護する! 4本目ッ!」
2人が同時に放った攻撃は、豚鬼の振り上げたミドルメイス目掛けて飛んで行った、豚鬼は炎と矢を嫌い、メイスを振って弾いた。
「今だギド!」
「どうにでもなれぇええええ!」
豚鬼はすぐさまミドルメイスを構え直して、降り下ろした!
――それは一瞬の事だった。ギドは右の腰から抜いた短剣で豚鬼斬り掛かる……。
これまで固い硬革鎧に阻害されていた剣技が、腰の短剣を振るに関しては最適な柔らかさへと手応えを変え、身体への抵抗が薄くなっていた。いや、むしろ身体がその動きに誘導されて速度を上げているかのような感覚すらあった。
結果、チェンジアップの後の速球を受けたバッターのように豚鬼のメイスは空を切り、短剣は敵の首筋、鎧の隙間にスッパリと吸い込まれていった。
クリティカル――。
そう確信した時、自重を支えきれなくなった豚鬼が倒れた。その衝撃で敵の首が落ち、転がってきた。首からは、鮮血が溢れるように吹き出し、もう身体には意識が無かった。
豚鬼
・臭い
・相撲さん位強い
魔法
・火矢
当たると痛い。火傷する。
・隣光
側の壁がほんのり光る。