煌めく謎と預言者の遺言その1
ギャアギャア…
ギド達が薬草ヶ丘に着くと、空にカラスが飛んでいた。いや、カラスの魔物化したものかもしれない。明らかに異様な声で鳴いており、山に七つの子を作るタイプのカラスではなかった。
化け物カラスは薬草ヶ丘に普段見ない魔物なため、警戒するべきか…。
ギド達はとある木の下で作戦会議を行う。
「あのカラス、ちょっと鳴き声が怖いな……」
「もうちょっと近付いてくれれば矢も射てるが……」
「とりあえず、働刺蜂に集中しましょー!もしあのからカラスが来たら私が火矢×3を撃ってみる。ダメなら最悪ベノムで対処するよ」
「今回は杖で殴るのは自衛のみにしますー」
「俺は、今回囲まれても弓を手放さずに矢を射って倒そうと思う。もし取り付かれたらミリアムに応援を頼む」
「緊張するー。でもわかった!」
「じゃあ……やるか。あの木の巣を狙えるか?アルス」
「やってみる」
ギドの指し示す先には前回と同じサイズの蜂の巣があり、30m程離れていた。アルスの放った矢は山なりに飛んで行き、巣にまとわりついているキラービーに刺さった。
「よし、少し前に出る!」
ギドはアルスの5m程前に出て、盗賊の短剣を緩く逆手に持ち、半身で構える。意識を足の爪先と短剣の切っ先に集中させる。
ヒュオッ!ガッ!
アルスは数秒おきに矢を放ち、キラービーがギドに最接近するまでに4匹程落とした。決意染みた集中から来たのだろうか、コンマ数秒の差ではあるが、明らかに前回より射る速度が上がっている。心なしか矢を射つ度に風の音が聞こえる。
巣から一直線に飛んできたキラービーはギドの間合いの直前に来て横にスライドし、回り込むように斜め後ろから毒針の攻撃を仕掛ける。
ギドは正面のキラービーに気を配りつつ、首と目線を傾けて斜め後ろのキラービーの間合いを確認する。
―――一閃。
斜め後ろのキラービーに向けての、振り返っての斬撃が無表情な顔の首の辺りを斬り飛ばす。即座に正面に体勢を整えると、前方の2匹が、斜め後ろのキラービーを攻撃した隙を突くべく同時に向かって来ていた。それに対して再び一閃。2体同時に羽根と頭を斬り裂いた。
列を組んで向かってくるキラービーの先頭が矢に射ぬかれて、落ちる。落ちたキラービーは暫く羽根を羽ばたかせて居るが、既に戦闘能力は奪われており、虫の息になっている。
ギドは最低限の動きで、キラービーの動きを察知し、迂闊に飛び込んでくる個体から確実に仕留めて行く。
結果から言うと、ラミザリアとミリアムの出番はなかった。
◇ ◇ ◇
ギド「ああああああ!」
ギド「スゲー集中しないと超怖ェ!」
アルス「しかしまぁ、いけるもんだな」
ミリアム「凄い!集中って、私も神経使うけど…それだけでかなり強くなるね!攻撃を受けないって…、つまりは怪我しないんだね!」
ラミザリア「これまでは焦って無我夢中といった感じで戦ってましたが、なんか集中すると…変わりますね」
ギド「これが出来たらあとは…集中を切らさないように戦うだけだな」
アルス「とりあえず素材を集めるか…」
ギド「そうだな」
アルス「おう」
無傷で獲た報酬としては破格のものであった。今回の討伐は23匹のキラービーの討伐で、前回より部位の欠損が少ないため多くの素材を得る事ができた。蜂蜜は容器に入れて歩くならまだしも蜂の尻ごと持ってきているので、効率はあまり良くない。しかし、蜂の尻はポチ達のおやつになるため、さほどのロスとは言えなかった。
◇ ◇ ◇
手に入れたもの
◇虫の羽根×34
◇毒針×23
◇昆虫の顎×39
◇蜂蜜50cc×45
ギド「あ、そうだ。確かあの木とこの木の間にダンジョンのなり損ないがあったよな。見てみるか?」
アルス「まぁ、見ておくか…。一昨日落としたトーチストーンがあったら良いな」
ラミザリア「これ…じゃないですか?穴って?」
ミリアム「埋められてるね」
ラミザリア「ちょっと掘ってみますか?」
アルス「…どうだろうか」
ギド「嫌な予感しかしないな」
上空のカラスがゴァゴアと不吉な声を上げる。
ミリアム「…掘ろう」
ミリアムは掘り返そうとして、土に竹の杖をつけると、柔らかい土を貫通して、堅いものに当たった。
ラミザリア「私が手で掘ります。…はい、これは人骨ですね」
僅か数cmの所にある何者かの頭蓋骨。それを見つけて尚掘り進む。
ミリアム「その人は…幽霊はこの辺に居る?」
ラミザリア「おかしいです。この人骨、霊も魂もその痕跡も全くないんです。こんなの…は、はじめてです。生き物であった痕跡も全く感じられないなんて…人形…いや、確かに人の骨ですし…。でも死後1年くらい経過してます。本当に何なのかわかりません。母以上のネクロマンサーか、死神…いや、こんな事が出来る存在は心当たりは全くありません」
アルス「ラミザリア、どいてろ。あとは俺達が掘る」
アルスとギドは柔らかくなった土を掘り起こして、人骨を全て掘り出す。膝を折り曲げて体育座りのように死んでいた骨ではあったが、丁寧に掘り起こした。
そして、彼の手には一昨日落とした筈のトーチストーンが明るいまま握られていた。
ミリアム「これ…あの時落としたトーチストーンだよね…?」
ラミザリア「まだ少し灯るいですね…3日程は光ってると言ってましたから、3日前に私達がここで落としたトーチストーンで間違いないと思います」
ミリアム「これ…何で握りしめていたかラミザリアちゃんはわかる?」
ラミザリア「わかりません…」
ミリアム「もしかしたら…ラミザリアちゃん、このトーチストーンをもう一度発動してもらっていいかな?」
アルス「おい、ミリアム。どういう事だ?」
ミリアム「多分なんだけど…もし、私がこの骨の主ならって考えたの。まず、こんな異常な状態になっているって事は、少なくとも一般人じゃなくて、それなりに凄い人の可能性が高いよね?そして、そんな人が自分が死んじゃうような状態になってたとすると…。そこで何かしないって選択肢はないんじゃないかな。多分なんだけど…その石に遺言が入っている可能性が…無いかな?」
アルス「なるほど…、普段頭が回らないミリアムが何を言うかと思えば…確かにそうかもしれん」
ラミザリア「やってみます…ぁ」
ラミザリアはトーチストーンを再び強く輝かせると、座り込んだ。
ミリアム「遺言…だよね?これ」
ギド「ああ、でかしたぞミリアム、ラミザリア」
トーチストーンに照らされた地面に文字が映し出される。
「私は神の預言者ウルムド、これを見た者に遺言を託す。私は恐らく、絶対に破壊不能な預言者の骨を除いて、その全てを完全に消滅させられるだろう。私に託された預言は、第一の試練がこの地にて今より凡そ200年後に行われると言う事、その予兆として西の城に住む魔王が倒れると言う事の2つだが、これを世の人が知りうるか否かで今後の未来が変わってくる。この遺言を聞く者達よ、もし可能であれば勇者と呼ばれる、傷を持つ者にその預言を伝え…」
ミリアム「途中までだね」
ラミザリア「そうですね」
アルス「大変な事になったな」
ギド「200年後に私達は誰も生きてはいないが、この預言は…いや、今はやめておこう。恐らく、今皆でこの話を広めたら…この預言者と同じ結末を迎えるかもしれない」
ミリアム「じゃあ…どうするの?」
ギド「まず、ここで起きた事は一生この4人の秘密とする。誰にも話しちゃいけない。恐らくこれは…グレーターグリントへの復讐を企む悪魔とか魔王とか…関係なしに、相当な秘密何だと思う。
ラミザリアが酒場のマスターが記憶操作されているかもしれない事に対して大魔法クラスと言ったが、大魔法は大掛かりな儀式や触媒が必要な筈なんだ。だから、そうポンポン使って良いモノじゃない。それを気軽に使える存在がこれをやったと言う事だ。
それからラミザリアはこの骨の殺害方法は死神でも不可能と言った。神の存在ですら不可能と言うならば恐らく、魔王そのものの可能性もある。但し、これは何となくだが…。それ以上の何かがあると私は感じる」
ラミザリア「その案に賛成です。」
ミリアム「賛成…」
アルス「賛成だ」
◇ ◇ ◇
預言者の骨は何に使えるかわからないので、ギドやアルスは反対したが、ミリアムとラミザリアの強い希望で持ち帰る事にした。その理由はここで話す事はなかった。
◇ ◇ ◇
ミリアム「ごめん、後でみんなに話したい事がある。私の旅立ちの理由…」
アルス「いや、それはいいよ、今はそんな事聞いてる場合じゃないだろ」
ギド「ミリアム、帰りながらそれ話せるか?多分、とても重要な事なんだろ?」
ミリアム「うん…多分なんだけど、何の理由もないけれど、この人…私に『魔術大全』をくれた人に似てる気がするんだ。私の旅立ちの理由は『魔術大全』が勿体無いからってみんなには言っていたけど…。実はそれだけじゃないんだ」
ギド「と言うと?」
ミリアム「私に『魔術大全』をくれた人も予言者って言ってたんだ。「預言者」と「予言者」がどう違うのかわからないけど、その予言者は私にこう言ったの」
ミリアム「あなたは生きてさえいれば200年後に名前が残るくらい素敵な人になるって、そしてこの『魔術大全』をくれたの」
ミリアム「だから…これも偶然に思えなくって…でも…すごく怖いの。生きてさえいればって…死んじゃうかもしれないんでしょ?200年後に何があるんだろう…」
ギド「大丈夫だ、ミリアムは私が守る。いや、私達が守る。だから安心して良い。私達は仲間だからな」
ミリアム「そ…そうだね、私らしくないね、でも、もう少しだけこうしていて良いかな?」
ミリアムはギドに抱き締められている。これは恋やら何やらの抱き締めるではなく、友情の抱き締めるが近い、しかし、そのまま全てが友情かと言われると微妙なものではあった。
ミリアム「ふぅ、落ち着いた!ありがと!みんな」
アルス「さっきは変な事言ってすまんな、俺も余裕がなかった。」
ミリアム「いいの!仕方ない!これからも宜しくね!」
アルス「宜しく頼む。頼りにしてるぞ!」
一行は裏山にある拠点へと歩く。歩けども歩けども、カラスの魔物は数が減らず、むしろ増えていった。これも何かの予兆かと思ったが、誰もそれを口出さなかった。
謎が深まりました。
当初謎なんて入れる予定はなかったのですが、不思議とキャラクター達に指示されて謎が出来てしまいました。




