異変の予兆
ギド達は竹の籠と背嚢を器用に背負って薬草ヶ丘へ向かった。余計な荷物は置いて行けば多少は楽になる。各自が手持ちの小袋や空の水筒、竹の筒等の採集道具を持っており、準備は万全。夕食は別パーティのお姉様方に任せるので、食いっぱぐれる心配もない。
お姉様方の切り開いた麒麟蔓の道を抜ける。これもかなりのショートカットになっている。
ギドのパーティは2回目の薬草ヶ丘に辿り着いた。
ギド「じゃあ各々が適当に知っている草を摘んで行こう。ある程度素材が集まったら帰還しよう」
ミリアム「了解!間違って毒草摘んでも私が触媒にするから捨てないでね!宜しく!」
ラミザリア「昨日に引き続き、木の側にはに虫が居ますね…」
アルス「まぁ、今日は危険は避けよう。昨日みたいなのはごめんだ」
ミリアム「あんまり良いのはないね…」
アルス「あって火炎草だな。ミリアムに必要そうなのは。火炎草とは名前ばかりで燃えるわけではないんだよな」
ミリアム「そうなんだよー、食べたら燃えるほど痛くなって麻痺するから火炎草。これ食べて火が吹けたら大分楽なんだけどな…」
アルス「一応摘んでおくぞ」
ギド「この花良い匂いだな」
ラミザリア「それは茉莉花です。多分香水にも使えるかな、ジャスミンティーの素にもなりますね」
ミリアム「おおおお!魅了の材料にもなるし、香水にしても香油にしてもすんごく良いんだよコレ!茉莉花ってアメリアにも生えてたんだ!」
アルス「そう言えばミリアムはシーカヤックの出身だったっけ?」
ミリアム「そうだよー!敗戦国じゃあなかなか冒険者になれないからねー。出てきちゃったよ」
ギド「その割には筋肉が少ないと言うか武闘派じゃないねぇ」
ミリアム「国民みんなが武闘派ではないんだよー。まぁ、ここでぶっちゃけるのもなんだけど、私は元々油絞り士だったの。牛に石臼を回させて、菜種とかから油を絞るの。実際は出来た油の回収と販売だから力なんてつかないんだよね」
アルス「じゃあ茉莉花中心に集めるぞー、いいのか?」
ミリアム「よっしゃあ、集めるか!」
ラミザリア「あー、皆さん!ここ、穴空いてます!」
薬草ヶ丘は自然の精霊が勝手に管理する薬草畑のようなものなのだが、その影響もあり、精霊の力と同じような効果を持つ魔素が多く集まる。それが、キラービーやストレイアント等のモンスターを生む。更に、畑を耕すミミズが巨大化する事がある。ミミズが何に変わるかはその時の何らかの因子が係わるが、普段変化するローパー以外に洞窟ミミズという変化をする事がある。
そして、洞窟ミミズは冒険者にとっては当たりモンスターと言えるモンスターとなる。それはその習性によるものなのだが、洞窟ミミズは洞窟を掘って地下ダンジョンを作る習性がある。そこに地中の光る物や行き倒れの人や獣の骨や装備品を蓄えるのだ。言わば皆が知る宝箱のある地下洞窟を作り上げる存在なのだ。地下深くなればなるほど良い物があると言われているが、それを狙う冒険者を狙う魔物や、隠れ蓑としている盗賊や、その盗賊のしかけた罠など、かなりの危険が潜んでいる。
しかし、そこまで地下ダンジョンが育つには相当な数の洞窟ミミズと、洞窟ミミズを作る魔素、行き倒れの獣や人の遺骸が必要となるため、薬草ヶ丘程度に出来る迷宮はせいぜい10m程度の通路の集合体にしかならない。それでも、その辺の誰かの落とし物や、動物の素材、地下にある宝石や鉱石などが落ちている可能性があり、入ってみる価値はあるのだ。しかし、その多くはストレイアントの住みかになっている事も多い。
ギド達はほぼ同じ強さのキラービーに怪我を負わされるレベルなので、入るかどうかは迷うレベルなのだ。
ギド「トーチストーンを竹の杖の先にくっ付けて照らしてみようか」
ミリアム「ほい」
アルス「中は…穴だけかよ!」
ラミザリア「つまりはただの落とし穴と言う事でしょうか?」
ミリアム「そうだねぇ、特に深くもなく…3mくらいかな…ぁあ!?」
ギド「何かあったか?」
ミリアム「トーチストーンが落ちたあああああ!」
アルス「無いみたいだな」
ミリアム「ごめんラミザリアちゃん…!」
ラミザリア「また作れば良いですよ」
アルス「ミリアムが落ちなくてよかったと思えば良いさ」
ギド「重そうだしな」
ミリアム「なにも言えないー」
ギド「まぁ、ハズレか。でも覚えておこう。もしかしたらまた来た時には何か有るかもしれん」
ラミザリア「蜂の木とあの大きな木の間ですね」
ミリアム「とりあえず今日は茉莉花中心に集めましょー」
見付けたダンジョンはほっておけば育つ可能性がある。拾った宝くじが外れだったと言う気持ちではあるが、まだチャンスはあるのだ。
結局その採集ではみんなの籠と背嚢を1杯にするに2時間かかった。こちらから手を出さなかったのもあるが、魔物には襲われなかった。
ギド「結構時間かかったが、成果は上々だな」
アルス「腰がいたいぜ…」
ミリアム「なんか久しぶりに収穫したなー」
ラミザリア「ミリアムはとっても採集が早いですよね」
ミリアム「えへん」
アルス「帰るぞー」
ミリアム&ラミザリア「はーい」
一行が帰途につくと、町の方向から3人組の人影が薬草ヶ丘に向かってくるのが見えた。
アルス「冒険者かな?」
ギド「一般人の可能性もあるが、同業者の可能性もあるな。ここ数日酒場に行く機会があったが、この街の冒険者なんて常時20人位しか居なさそうだから…。ここに来るのは多分初級者だろう、そうでなければ一般人が花を摘みに来た可能性もある」
ミリアム「ほー、私達と同業者で年が近い人達が居たら友達になれたら良いねぇ」
ギド「明日酒場に行ったら居るかもな、もしそうなら話しかけてみよう」
ギド達は来た道と同じ道を通って拠点へと帰って来た。
◇ ◇ ◇
本日の収穫は
◇茉莉花×150個
◇赤唐辛子×80個
◇向日葵の種×700個
◇ツルムラサキ×10束
◇月桃の葉っぱ×10枚
◇蓬×10束
◇火炎草×10束
◇オオバコ×10束
ラミザリア「このツルムラサキってこないだ食べたものですね」
ギド「そう、これで傷薬と軟膏を作るんだ。皆の分も作るよ」
アルス「あれ、結構効いてる気がするぞ、もう傷が痛まないし、かさぶたも明日には取れそうだ」
ミリアム「私の魔法効果も多少は効果あるんですがね!」
アルス「おお、すまんな。しかし、魔法ときずぐすりの二重効果なら大怪我しても多少は安心できる環境が作れるな」
ギド「あと、この向日葵の種は何かに使うのか?ミリアム」
ミリアム「ああ、これね!うん。食べる以外に向日葵の油を作ろうかと思ってさ、私油屋さんやってたって言ったでしょ?油ならいくらあっても困らないし、向日葵の油なら綺麗な油だから干した茉莉花を漬けて香油も作れるよ!」
ラミザリア「火炎草は今回取って良かったですか?」
ミリアム「助かるよぉー、薬草ヶ丘はどうせ何回も行く事になるだろうからね。食材も触媒もあるだけ使えるから便利だしね!ちなみに水浄化は触媒に季節の花と星の水を使うんだよ」
ラミザリア「星の水ですか、ここでなら量産できそうですね」
ギド「星の水?」
ミリアム「それはね、この竹の水筒があるでしょ、これに竹籤の檻を付けて、夜になったら星の光を水に閉じ込めるの」
ギド「閉じ込められるの!?」
ミリアム「うーんと、これはあくまで魔術的な儀式であって本当に光を閉じ込めている訳ではないとは思うんだけど…。とりあえず小魔法では案外よく使う触媒かなぁ」
アルス「じゃあ気が向いたら水筒沢山作っておくわ…」
ミリアム「助かるよー!」
ギド「唐辛子は何に使うんだ?」
アルス「あ、何か食材のスパイスにと思って、あと触媒に使えるんじゃない?何となく」
ミリアム「使えまーす!火炎草とか合わせたらばヒートボディってのが使えます。これは皆の体を暖めて筋肉の働きを増強させる魔法です!これからの季節は寒くて身体が動きにくくなるから、沢山用意しておけば朝も起きやすいし、夜中トイレに行く時も使えるよ!」
ギド「さすがにそれは無駄撃ちだな…トイレは…そう言えばトイレも拠点近くに作った方が良いな。防犯上衛生上の問題があるから、洞窟正面近くの場所がいいかな」
ラミザリア「食えと言えばポチ達は排泄物も栄養にしちゃいますが…」
ギド「気分は良くないけどね」
アルス「でも、考えても良いかもしれん。それがポチ達の養分になるなら…トイレ専用ポチを作っても…」
ミリアム「うーん、」
ラミザリア「わかりました。今度余った部品で作れそうなら作ってみます」
ギド「お、おう」
ミリアム「じゃあ少し休憩しよっか、近頃毎日動いてるから少し疲れたよー」
ギド「そうだな、少し休憩にしよう」
アルス「そう言えば沢山キノコが生えてるとか言う場所があるんだよな?」
ミリアム「そうだ!あるよ!これからまだ時間があるからもう一回だけ取りに行こうか!」
ラミザリア「休憩が終わったら行きましょうか」
ミリアム「あと5分したらね!」
ギド「ついでにポチCとDも連れていくと良いよ。背中に私達の籠を背負わせてさ」
ミリアム「ポチをぉ~?」
ラミザリア「燃費が…良い訳ではありませんが、多分往復歩くくらいなろ…何とか、あ、オバケキノコを餌にすれば良いのか。はい、大丈夫です」
アルス「じゃあ俺達は作りかけの椅子と笊を作っておくよ、笊は作れるだけ作っておくよ」
ギド「私は椅子の脚用の細い竹とか、太い竹を伐採しておくよ。笊を編む用の細かい竹も裂いて作っておく」
ミリアム「じゃあポチ達のお散歩行ってきまーす!」
アルス「いってらっしゃい!」
ギド「いってらっしゃい、確かにお散歩っぽいな(笑)」
◇ ◇ ◇
ミリアム「ねぇ、ポチ達は燃費悪いって本当?どれだけ食べたらどれだけ動けるの?」
ラミザリア「モンスターは体内にそれなりの魔素が内蔵されているので、結構…多分コボルト1体30kgくらいを分けて食べたとしたら、6日は動けます。1日3回の10分間の散歩と1日3回の戦闘があったと仮定して…くらいです。人間の倍は燃費悪いですね。魔素のない肉ならその半分くらいしか持ちません」
ミリアム「じゃあ、こうやって連れ出して歩くのって結構大変何だね」
ラミザリア「そうですねー、餓えちゃいますと極端に動かなくなりますから、何か来た時に困るんですよね」
ミリアム「道はこっちだったよね?」
ラミザリア「はい、そこの茂みを抜けた処です…が、こんなに踏み分けましたっけ?」
椎茸畑に来ると感じる違和感。もしかして誰か来たのだろうか?
ミリアム「早めにとって帰ろうか!」
ポチ達
ラミザリア「オバケ椎茸ちゃんが居ませんね…。何処かに行ったのでしょうか?」
ミリアム「一応歩いてたし、見付かったからどっかに行ったんじゃないかな」
ラミザリア「そうだと良いのですが…」
ポチ (ハッハッ)
ミリアム「あっという間に籠が一杯になるね!ぼこぼこ取れるってのは気持ちが良いね」
ラミザリア「ポチ、一応前後を警戒していて頂戴」
ポチ (ワカッタヨー)
ポチ達は周囲を嘗め回すように警戒を始める。
ラミザリア「一杯になったらすぐ帰りましょう。多分、今の状態はあまりよくないです」
ミリアム「うん、何となくわかるよー」
ラミザリアとミリアムは4人分の籠が8割に達するか達しないかのあたりで拠点へと向かい始めた。ポチには警戒をさせつつ、なるべく草むらから遠い道の中心を歩く。いざと言う時のために両手で竹の杖を握りしめての帰り道だった。そして、結果何者かが出現する事なく拠点へと辿り着いた。
ミリアム「ギド~!アルス~!」
ギド「おかえりー」
アルス「おかえりさん」
ラミザリア「オバケ椎茸ちゃんが居なくなってたので、念のため早めに帰って来ました」
ギド「…ああ、そういう事か。オバケ椎茸を食べた奴が近くに居る可能性を考えての事だな」
ラミザリア「はい、もしかしたらオーク…並の何かがいても困りますし…とりあえず、次からは4人で行動した方が良いかも知れませんね」
ギド「わかった、そうしよう」
アルス「あの2人はもう帰ってきてたぞ、多分夕飯作ってる。…今日の食卓はびっくりするぞ」
ミリアム「なになにー?」
アルス「そう言えば、椎茸は幾らか渡しておいたからな」
ミリアム「とりあえず、今取ってきた椎茸も切って干しておこうか。ラミザリアちゃん」
ラミザリア「そうしましょうか、ポチ達ありがとう」
拠点の上、山の方から姿を表したラミアエキドナから夕飯の呼び出しが入った時点で作業を中断してラミアエキドナの拠点へと入っていった。
夕食前の作業結果
椎茸×100個
発火キノコ×4
笊×8個分の切り椎茸
竹の笊×8
竹の椅子×2
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