ネオ裏山改造計画その1
男性チーム視点
「あんな部屋見せられちゃあこっちもある程度はまともな拠点にしないとな」
アルスが腕を振り回す。
「そうだなぁ、まさか室内に竈があるなんて…あれ、煙突も掘ってあるのかな?」
「姉ならやりかねん…が、あるなら何処に繋がってるんだろうな」
「とりあえず、トーチストーンは欲しいな。ラミザリアが作れるのは1日1個だけかな?」
「みたいだな。倒れられても困るし、頼むにしてもそれくらいにしておこうぜ」
「正面入口の外に椅子と机を作ってオープンカフェみたいにしたらカッコいいんじゃないか?」
「台所を外に作った方が排煙とか排水が楽だからな…それは良いかもしれん」
「とりあえずその後はそこに屋根を作って、家にしてしまうってのはどうだ?」
「竹は建材として家に向いてない気がするが…まぁ洞窟の入口を塞ぐ位のものなら良いんじゃないかな?」
「じゃあ台所兼食堂にして、洞窟の中に寝台を作ろうか」
「よし、動こう。まず必要なものは椅子と机と竈…と昼御飯だな。まず優先順位の高い昼御飯からいこう。小鳥を3羽狩れたら帰って来て竹細工するから、それまでに竈を洞窟の脇に作っておいてくれ」
「了解。えーと、石を積んで竈の形を作って……泥か粘土かなんかで固めて焼けば良いんだったか」
「そんなもんだ」
「ありがとう。じゃあまず石拾ってくるわ」
「解散」
「うぃ」
◇ ◇ ◇
アルスは洞窟の上に登って小鳥を探す。すぐに目にはいるほど鳥が多い。ここは良い山だななんて思いつつ、近付き射る。アルスにとって食事のために小鳥を射る行為はあまり経験がないものだったが、ここ数日の流れの中で、ゆっくりと習熟度を上げていった。解体もラミザリアを見ているうちに覚えてしまっていた。
竹林の向こうでギドがなんか叫んでいるので適当に「ウィー!」と叫ぶ。
30分も経たないうちに狩りを終えたアルスは、糸鋸で竹を伐採しつつ、椅子と机を作り始める。椅子の脚は細い竹を使い、座部は太い竹を裂いて編んだものを使う。おしりが突き抜けないように底部には縦横の補強材をいれる。
どんな竹も、竹は縦にしか裂けない。その愚直な習性はクラフトするにおいて相当な魅力であった。竹と麒麟蔓があれば、大体のものは作れる。机だって、作れない訳じゃない。平らな机はかなり手間がかかるが、食事に使って大丈夫なくらいの凸凹であれば、すぐに作れる。
椅子に座る人の笑顔を想像して作ると…胸が締め付けられる。
ん…?
アルスは、拠点から焦げ臭いにおいと黒煙が上がっているのに気付いた。
◇ ◇ ◇
ギドサイド
ギド「そう言えばテイムテイムさんが石を捨てたとか言ってたな…」
ギドは拠点の裏口から出て、狭い範囲を見渡すと、捨てられたような石を幾つか見つけた。その方向に向かって麒麟蔓を刈り進んでいくと…。
ギド「あった」
そこには大量の石があり、麒麟蔓を押し潰していた。ギドはそれを両手で持ち運ぶ。
薄暗い洞窟を通り抜けて反対側の正面玄関までたどり着くと、ゴスンと大きな音をたてて石は着地した。
これはあと10往復くらいか…いや、もっとかな…。
狼狽していると、つぶらな瞳でこっちを見ているポチ達と目が合う。
ギド「えーと、ポチ達手伝ってくれるか?」
ポチ達は尻尾を振っている。
ギド「じゃあ、ポチDさん、私についてきて、あそこにある石を持ってきてくれ」
ポチはよたよたとついてくる。ペンギンみたいな歩き方だ。
ポチに持っていく石はあれだと指し示す。すると石を持ち上げてよたよたと歩く…。これ、使えるんじゃないだろうか?
ギド「石の運搬は任せて薪と土を拾ってくるか」
◇ ◇
薪が集まる頃には5往復はしてくれたようだ。まぁ、お手伝い程度ではあるがかなり便利だ。私も手伝って石運びをする。2人…?いや、1人と1匹でやれば5往復程度で何とか当面使う石は何とかなった。
ギド「じゃあ私は泥を探してくる」
ポチはうなずいている。コイツ絶対知能あるって…。
泥ねぇ…。こんなので良いのかな。適当に地面の土に竹の水筒の水をかける。ぬかるんでいると言う事はこれで良いのか?確か木灰を入れるとか言ってたな…。
あった、こないだの焚き火の跡。これを混ぜてみるか。この粘土で…何となくいけそうな気がしてきた。
竈まで歩く。
竈の薪を入れる穴を確保しつつ円筒状に積んだ石の隙間に小石を詰める。その隙間に更に即席粘土を詰めて壁を作る。童心に帰った気がしてたのしい。下50cm位出来たところで粘土が切れた。とりあえず、中で焚き火をしてみよう。
ギド「アルスー!火打ち石借りるぞー!」
アルス「ゥィー!」
遠くからアルスの声が聞こえる。声を確認した後、アルスの背嚢をあさぐって火打ち石を取る。背嚢の中が整頓されている、なかなか几帳面な奴だ。火打ち石を使って火を起こすのはテクニックが居るのだが…!
火打ち石の激しい火花を使って火縄を燃やす。その火縄からくしゃくしゃにした枯れ葉に延焼させて、そこから更に枯れた小枝に燃え移らせる。小枝を竈の底に置き、枯れ葉を手のひら1杯分やさしく放り込む。その上に小枝を交えて薪を並べて行く…炎が上がる。焚き火の成功は底の方で燃えた炎が消えるまでに薪に着火するかどうかが決め手となる。…うまくいったようだ。念のため枯れ葉を両手で掴み入れ、その上から更に薪を並べる。竈をはみ出す火柱が1分ほど上がるが、徐々に収まり竈並の高さに落ち着く…。さぁ、土は乾いてくれるのだろうか?
石を運び終わったポチに火の番をさせて、再び粘土作成に取り掛かる。木灰は今まさに生産されているものを混ぜてみよう。土に水を垂らして捏ねていく、それに灰を混ぜて硬くして行く…うん。これは行けそうだ。燃え盛る竈の隙間に小石を嵌め、その上に粘土で蓋をするようにして隙間を埋めて行く。多少熱いがまぁ、出来なくはない。木の棒と粘土を使いつつ緩やかに裾が広がる円柱と言うか、緩やかな円錐形の頂上がない形と言うか、富士山タイプの竈が出来た。あとは乾かすだけだが…中の炎だけでなく、火のついた薪を外に並べて一気に乾かす。もはや火柱は2mに到達し、竹林が火事になるのではと心配するレベルだった。
幸いにと言うか、だからこそやっている訳だが、洞窟入口…つまり竈のある位置の竹は伐採済みで周囲3mは範囲が空いているのだ。しかし…炎の揺らぎと飛び散る火花を考えるとかなり危ない状態ではあった。
◇ ◇ ◇
アルス「おい、やりすぎじゃないか?これ」
小走りでやって来たアルスが半笑いしながら言い放つ。確かにこれはやり過ぎかもしれん。
何となく炎には人を惹き付ける何かがある気がする。2人は火が弱まるまで10分ほど火柱を魅入っていた。
アルス「大分乾いた感じはするが、ヒビが凄いな」
ギド「まぁ、使えれば良いかなぁ…とりあえず火が消えたらヒビの隙間にも粘土を詰めてそこの箇所だけ火のついた小枝でも乗せてみるさ」
竈は成功したかもしれない。高さ80cmで、縁はギドの鍋が置けるサイズにしてある。20cmの薪が2~3本中に立て掛けてあれば十分に湯が沸かせた。しかし…4人パーティならば、ちゃんとした鍋は買った方がいい。頭の中の買い物リストに鍋を追加した。
◇ ◇ ◇
女性陣チーム視点
ミリアム「ポチー!可愛いねぇ」
ラミザリア「くぷぷ、可愛いでしょう?」
ミリアム「見た目はあれだけど、結構かわいい奴だねぇー。なんかコボルトらしさがあんまり残ってない所が良いね!」
ラミザリア「くぷぷ…、拠点防衛用に追加のポチEFを作るのが楽しみです」
ミリアム「そうだね、賑やかになると楽しいよねー」
ラミザリア「スライムの核が1個しかないので、スライムの核も必要ですね」
ミリアム「あと、近頃大分発音いいよね」
ラミザリア「頑張りました」
ミリアム「その調子!」
ラミザリア「あと、色々な人に聞いたのですが…その草食べられるみたいですよ」
ミリアム「これ?じゃあ取っておこうかな」
ラミザリア「あとあの辺にキノコの群生地があるみたいです。色々な人に聞きました」
ミリアム「色々な人とお話しできるんだねー」
ラミザリア「と言っても件の狩人さん何ですけれども…。去年ミナトの町で亡くなったみたいですね。魔物の発生はそれで起きたみたいですね」
ミリアム「はへー、ネクロマンサーって凄いのねー」
ラミザリア「まだ、コボルトとか小動物の魔物化したやつがウロウロしてるみたいですね。こないだの奴で警戒されてるのかこの辺には来てないみたいですが…。いつかは退治したいですね」
ミリアム「そうだねー。襲ってくるなら退治しないとねー」
ラミザリア「山を管理してくれてありがとうって言ってますよ。これがそのお礼だそうです」
ラミザリアの案内でガサガサと茂みを掻き分けて進む。
ミリアム「すごい!椎茸畑だ!お化け椎茸…ん?」
ラミザリア「あ…」
目の前に広がる30m程の広場に椎の木が規則的に積まれており、その表面をびっしり椎茸が覆っていた。そしてその横にうごめく複数の巨大な椎茸…動くお化けキノコだ。椎茸も育ちすぎると魔素の影響を受けることがあるのだろう。
ラミザリア「見た感じ強くないですし、杖でボコボコにしてみようか?」
ミリアム「うーん、どうしよう」
お化けキノコと言ってもポリバケツくらいなので、革の靴を履いている私達なら蹴っ飛ばしても竹の杖でつついても倒せそうな物ではある。
ラミザリア「とりあえずつついてみましょう」
つんつーんつんつんつんつーん!
ミリアム「胞子とか出すわけでもないし、動きも遅いし、大丈夫そうね」
ラミザリア「これは…平気そうね。蹴ってみます」
ラミザリアはお化けキノコを蹴って転がす。ほっておいて大丈夫そうなのを確認して放置する事にした。
ポチは護衛の役目がなくなってしゅんとしている。まだ実践は未経験なのだ。
背嚢と竹の籠が1杯になったので、一旦帰る事にした。2人の籠を一杯にしてもまだ九割以上残っている状態なので、ギド達も連れて沢山収穫しても良いかも知れない。
2人はお喋りしながら、スキップでもしそうなくらいな機嫌で拠点へと向かった。
ポチは背後からマイペースに拠点へと向かった。
ポチ(荷物運びくらいなら出来そうだなぁ)
◇ ◇ ◇ ◇
一同集合する。
ミリアム「す…すごい煙!」
ラミザリア「火事ですか!?」
ギド「やぁ、竈を作ってたんだ。今は火だるまだけど火が消えたらきっとすてきな竈になっている…はず…筈」
ミリアム「おー、凄いねー」
アルス「うおっ、何だその大量の椎茸は!」
ミリアム「へへー、椎茸畑見付けたんだ!」
ラミザリア「こないだ亡くなった狩人さんの椎茸畑を見つけたんです。使って良いみたいなので持ってきちゃいました」
ギド「物知りだね!」
アルス「物知りだ!物知り!」
ラミザリア「くぷぷ」
ミリアム「まだまだ沢山あるからみんなで取りに行こうよ!全員が籠と背嚢持って2往復しても取りきれない量があるよ!」
ギド「よし、売ろう!町の朝市で店だしてさ!あそこなら…籠1杯で800G位にはなるんじゃないか?」
アルス「確かに…これは売れるほどあるな」
ラミザリア「椎茸はどんどん生えてくるので、どんどん摘んで干しておきましょうか。保存食にもなりますからね。保存用の大きな瓶も後で買ってきましょう」
ギド「じゃあこれ、ミリアムとラミザリアで切ってもらっていいか?」
アルス「俺とギドで干すための笊を作っておくわ」
ギド「もう冒険者と言うか仲間同士でサバイバルしているような感じだな」
アルス「まぁ、駆け出しの冒険者なんてそんなもんじゃないか?俺達は恵まれている方だと思うぞ」
ギド「私もそう思うわ」
ミリアム「じゃあこのテーブルと椅子借りるね」
ラミザリア「凄い!椅子と机ができてる」
アルス「今更かよ!もっと褒めて!」
ミリアム「いよっ!アメリア1!お姉さんより上手だよ!」
ギド「それはないな」
アルス「ないない」
こうしてギド達は即席で笊を作り、その上で切り揃えた椎茸を干す事にした。これから来る冬に備えて、大量に保存しておける椎茸と言う保存食は需要が高いのだ。
笊を作ってその上に切った椎茸を乗せる。料理を行う。各自話し合いながら役割分担して各々の作業をこなして行く…。
◇昼食
◇小鳥と椎茸汁(塩胡椒)
◇ハコベのお浸し(塩)
◇煎った銀杏
それから、お昼御飯中の話し合いにて、明日は依頼ついでに朝市へ行き、生の椎茸を販売して現金収入を得る事が決まった。
ポチ達は衛生上の問題でお手伝いは出来ませんでした。
午前中の成果
男性チーム
◇青竹の椅子×2
◇青竹の机
◇キッチン用の竈
◇笊 (60×60cm)×6個
女性チーム
◇笊 6個分の切り椎茸
◇椎茸×100個くらい
◇魔術キノコ×9個
◇発火キノコ×10個
◇閃光キノコ×2個
午後は薬草ヶ丘で採集です。




